2013年2月22日掲載

2013年1月号(通巻286号)

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巻頭”論”

新しい公共〜イノベーション、新産業の創出

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2012年12月16日は再度の政権交代選択の日となりました。衆議院総選挙の結果、自民党が勝利し再び公明党との連立、安倍政権が誕生しました。

自民党の選挙公約とも言うべき、Jーファイル2012総合政策集では、“国土強靭化計画”が取り上げられて、選挙中から盛んに公共事業の推進が、金融緩和政策と並んで論議されてきました。いわく、10年で200兆円の計画、復興だけでなく、経済成長と安全保障に関わる重要政策と位置付けられて、来年度予算編成にあたって目玉の1つとなっていることは御承知のとおりです。民主党前政権下、“コンクリートから人へ”というスローガンのもと土木建設的な公共事業が削減されてきましたが、今回再び、コンクリート化が進むことになるのでしょうか。ここは、単なるコンクリート化ではなく、ICT政策の強化・高度化を含めた新しい公共事業として国土強靭化を捉えるべきだと考えます。

コンクリートの公共事業は、情報や電力などの他の重要インフラと連携・協調してこそ、強靭になることを忘れてはいけません。このことは、昨年12月の中央高速道路笹子トンネルで起きた天井板崩壊事故で重大な教訓となったはずです。人手による定期的な点検は何より大切ですが、残念ながら、人手では施設の現状データが間欠的であり、時系列的・定量的な把握と診断が極めて困難です。その結果、経年劣化とともに点検回数や対象項目を増やさざるを得ず、点検コストは年とともに急増していくことになります。最も重要なことは、経年変化のデータを集め、他の関連データと合わせて定量化し、変化を予測(シミュレーション)できるようにしておくことです。これこそ、ICTの出番、センサーネットワークの活用によって公共建造物の維持・管理が効率的に低コストで行えるようになります。

このためには、道路、橋、トンネル、港湾、堤防などの建造物だけではなく、並行して情報インフラと電力インフラの整備が絶対に必要ですし、情報処理を行うクラウド型のデータセンターやそれらを繋ぐブロードバンドネットワークの強靭さも求められます。さらに、最も重要なポイントは、国土のすみずみまで行き渡る無線ネットワークインフラを公共事業の一環として整備しておく必要があると言うことです。これまで、無線ネットワークは携帯通信事業として、主として人を対象に、人の行動範囲をベースに通信トラフィック量に基づく経済性に拠ってエリアカバーを拡充してきましたが、今後はさらに、モノの情報を流通させるM2Mの役割をも担うことになります。新しい公共事業として、イノベーションと同時に各種の政策支援措置が必要な時でもあります。

ところで、こうして集められたモノの情報のうち、国の安全保障や個人の利害と抵触しない情報の取り扱いについて、近年“オープンデータ”の取り組みが進められるようになっています。行政や公共サービスに関する情報を一定の型式でデジタルデータとして公開して「オープンデータ基盤」を構築することによって、“新しい公共”を創出し、新産業を作り出そうという動きが見られます。いわば、利用者参加型の取り組みであり、これによってコスト削減とイノベーションの両方を実現していこうとする新しい試みです。国家強靭化というと、どうしても防災、安全保障に偏りがちな見方であり、再びコンクリート化の道筋かと思われる印象なので、併せて、こうした「オープンデータ基盤」を国全体として整備してこそ、新しい公共となり、新産業創出に繋がっていくことになると考えます。

例えば、行政データのオープン化が行政サービスの拡充に直結するのと同様に、公共・公益サービスのオープンデータ化が進めば、ビッグデータの情報処理やデータサイエンスの進歩と相俟って新しい付加価値を生み出すことになります。スマートメーターが生み出すデータは、個人の電力使用のあり方を変えると同時に、地域や社会全体の電力需給を転換する契機となりますが、そのデータをオープンにすることで、太陽光発電や蓄電池の開発、電気機器やIT機器、さらには電気を必要とする通信機器やガス・水道等の住宅設備まで影響を与えることになります。こうした公益的なデータをオープンにしてこそ、利用者参加型のビジネスモデルの開拓が可能となるのです。通信事業においても、ネットワーク産業の典型として、ネットワークに係る公益的データをオープンにして、イノベーションの契機とする努力が求められています。広く開発可能となるAPIの公開をはじめ、オープンデータ基盤の取り組みが必要です。通信トラフィックの急増における、上位レイヤ事業者などによるいわゆる“タダ乗り”論にしても、ネットワークに関するデータをオープンにして、社会全体として無駄を省く取り組みが協調して進められてこそ新しいビジネスモデルが根付くことになります。

国土強靭化計画という新しい公共事業を、旧来の“コンクリート化”の姿と捉えてはいけません。実は高度なICT政策なのです。なかでも、センサーネットワーク、M2M、最近の用語ではIoT(Internet of Things)の取り組みがポイントでしょう。ICT利活用の推進が言われて久しいところですが、一方で、データ様式やAPIの共通化などを通じた、オープンデータ流通環境の整備が進まず、新サービスや新産業の創出にはなかなか結び付きませんでした。総務省では、これを「情報流通連携基盤事業」として、行政から個別の産業分野まで含めたクラウド・データベース構築を提唱し進められているところです。

公共構造物や公益事業においても、センサーネットワークやIoTに取り組んで、施設やそれ自体の維持・管理・保全に努めることが強靭な国土を作り出すことに繋がりますが、同時に、各種のデータを誰でもプログラムが簡単にできる形でオープンにする=オープンデータ基盤を整備することが、行政コストを削減し、公共サービスを向上させるだけでなく、新産業の創出に発展していくことでしょう。これこそが、新しい公共のあり方ではないでしょうか。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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