2013年3月25日掲載

2013年2月号(通巻287号)

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InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

巻頭”論”

モバイル通信ネットワークにふさわしい料金〜データシェアプランの導入

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モバイル・トラフィックの増大が続いています。スマートフォンやタブレットを中心とするモバイル端末はビデオプログラムの主要な視聴端末となっており、ビデオ・ストリーミングがトラフィックを押し上げて、5年間で25倍(2011年基準)にトラフィック総量が増大すると予想される状況です。現在、LTEのネットワーク整備が日米をはじめ先進各国で進められていますが、このままでは2015年にはネットワークの伝送容量が不足するようになるとの予想もあり、さらに高速なネットワークへの更新が必要とされています。

2013年10月に米国シカゴで開催された「4G World 2013」では、ノキア・シーメンス、アルカテル・ルーセント、エリクソン、クアルコムなどのベンダー各社からは、LTE/WiMAXの伝送容量を現在の1,000倍に拡大する必要があるとの提起がなされ、そのためのビジョンが示されました。結局のところ、ベンダーサイドは、無線周波数の確保とスモールセルやフェムトセルの整備・増設と伝送効率の向上の組み合わせによって1,000倍への容量拡大を図ろうとしています。本当の意味で次世代となる4G、即ちLTE-Advancedへのモバイル通信事業者の投資実行は想定よりも早くなる(2013年後半?)と思われます。通信機器やチップベンダーの開発競争も顕著になっています。

こうしたトラフィック増大に応ずるためモバイル通信事業者は、ネットワーク設備の整備・更新投資を急いでいる一方で、LTEサービス導入を契機として新しいデータ料金体系を取り入れるようになっています。従来の定額制料金に加えて、段階的な従量制や通信速度による区分、さらに最近では、複数の端末やユーザー間でデータ利用上限を共有できるデータシェアプランの導入が始まっています。既に、米国のベライゾンやAT&T、フランスのオレンジ、韓国のKTやLG U+など世界各国で数多く導入されています。

この流れは、単純に市場競争対応とか囲い込み方策、増収施策と狭く捉えることも可能ですが、少し見方を変えてみると、(1)収益管理をユーザー管理からアカウント管理に変える、(2)固定電話以来の料金体系原理である「基本料」をなくす、(3)1端末・1回線・1SIMのつながりを断ち利用者の自由度を増す、といった特色があることが分かります。米国のベライゾンとAT&Tのデータシェアプランはほぼ同様で、10台の端末間で最大20GBのデータ利用上限を共有でき、また、音声通話+SMSの無制限利用を含むものとなっています。接続する端末の種別により差をつけて、スマートフォン(40ドル)、フィーチャーフォン(30ドル)、USBモデム(20ドル)、タブレット端末(10ドル)などの月額利用料が設定されています(注)。

(注)いずれも、ベライゾンの場合の料金。

このデータシェアプランも上限を超えた場合には、やはり従量料金となるので、データ利用量の制約要因はありますが、端末や回線毎に利用量の上限を設けるのでなく、むしろトラフィックを生み出す端末(デバイス)の接続単位に月額料金を設定するという、ネットワーク利用の効率化(過大な設備投資負担の回避)と受益者負担、サービス・イノベーションとの整合を図った画期的な料金体系・構造と言えるものです。端末(デバイス)によって生み出されるトラフィック量は端末によって大きな違いがある一方、Wi-Fi経由となるオフロードかどうかによってもモバイルネットワークへのトラフィック負荷はまったく異なります。こうした外部環境に応じて、接続する端末の月額利用料を設定することで、トラフィック全体の需給の調整、端末(デバイス)やサービスの開発にモバイル通信事業者が関与できる途が生まれます。

その一方で、このデータシェアプランには、「基本料」、即ち基本使用料がなく、電話サービス開始以来、当然のように受け止められていた、いつもで発着信できるコネクティビィの対価の考え方はなくなっています。そもそも、アクセス回線に限ってみれば、固定回線と違ってモバイル回線にはユーザーの専用部分はなく、サービスエリアのどこででもアクセスができます。従って、すべてのアクセス回線をアクセス可能な全端末で共用しているといえることから、必ずしも、専用をベースとした「基本料」の考え方となじむものではありません。ただし、モバイル通信においても当初の音声サービスが中心であった時代には、固定電話とのアナロジーや比較感から、基本使用料は当然のものと受け入れられてきました。しかし、今日のようにユーザーの利用実態がデータ通信中心となり、かつ、複数のモバイル端末を使い分けるユーザーが増えている状況下では、ネットワーク作り自体が音声とデータとを統合した形態に移行してきており、さらに、VoLTEのように、回線交換網を前提としないサービスが予見される状況となっています。こうなると、いつでも発着信できるコネクティビティのためのコストは専用設備も限りなく小さなものとなりますので、料金体系・構造は本来のコスト構造により見合った形の、端末(デバイス)接続に応ずる方がより合理的と言えるでしょう。まさに、世界各国で始まっているデータシェアプランは、新しいモバイルネットワークとユーザーの利用実態にふさわしい料金体系・構造であり、サービス提供者と利用者(受益者)のあり方と考えます。

モバイル・トラフィックの増大は冒頭に述べたように、今後より一層激しくなっていくことでしょうが、モバイル通信事業者は、無線周波数の確保、スモールセル・フェムトセルの整備・増設、伝送効率の向上の3点に向けて取り組む必要があります。同時に、最重要なユーザー関係である料金においても、マルチデバイス、アカウント管理、オールIP化の流れに沿ったイノベーションが求められています。それがまた、逆に、ネットワーク整備のあり方にも影響を与えます。固定通信から離れ、音声通話とSMSから離れて、データ通信中心のユーザーの利用スタイルに合致した料金戦略が求められます。これもまた総合サービス企業への道筋と言えるでしょう。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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