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サービス関連(通信・オペレーション)
MWC2013で語られた、OTTから通信事業者へのラブコール2013年2月最終週にバルセロナで開催された「Mobile World Congress 2013(以下、MWC2013)」は、モバイル通信業界で世界最大級のイベントである。国内でも多くのニュースが報じられたが、その多くはいわゆる「第3のOS」の座を争う新規参入のスマホ向けOSに関するものだ。たしかに、Firefox OSは多くの通信事業者の支持を得て、近いうちに各国で市場投入される模様であり、Ubuntu、Sailfish、Tizenなども注目を集めたが、現地の講演やパネルディスカッションで語られた内容は多岐にわたる。 本稿ではMWC2013にてOTTプレイヤー(以下、OTT)と通信事業者との関係についてどのように語られたのかを紹介し、今後の方向性について考えてみたい。昨年のMWC2012では、仏オレンジがOTTとの関係を「Frenemy」と語ったが、1年を経過してどのように変わってきたかを見ていただきたい。 ドイツ・テレコムが語る「コーオペレーションでイノベーションを」ドイツ・テレコムのオーバーマンCEOは講演の中で、通信事業者は「より多く」の投資が求められる一方、料金競争、着信接続料金やローミング料金の値下げ規制、周波数オークションによる落札など、その原資は「より少ない」中で、という厳しい状況にあると説明。また技術革新やコミュニケーションのパターンの変化、M2Mなど、通信事業自体も大きく変わってきたと述べた。 こうした中、ドイツ・テレコムが目指す姿は「テルコ・プラス」。スマートなネットワーク、イノベーティブなサービス、オープンなカルチャーの3つを柱とし、とくにオープンなカルチャーが重要だとした。OTTプレイヤーとの関係は「COOPETE(協調し競争する)」になるとし、さらに多くのパートナーとさらなるイノベーションを目指す、と語った。
Viberが語る「コーオペレーション」メッセンジャー・アプリ大手ViberのマルコCEOは、講演の中でイノベーションという軸から通信事業者が抱える課題を指摘、その上でOTTと通信事業者のあるべき関係について語った。 「なぜ、Viberがメッセンジャーアプリとしてこれだけ消費者に使われているのか。無料だから? そうではない。たとえば、モナコの住人はリッチで年齢層も高い。SMSも無料だが、一日のViberメッセージ利用者数はモナコ人口の9割近い」「それは、エクスペリエンスだ」 Viberのこの見解は、VodafoneのコラオCEOのコメント「OTTが利用されるのは無料だからだ。ユーザーエクスペリエンスが優れているわけではない」と対照的である。 「顧客はイノベーションを欲している」と語る同CEOは、ことイノベーションに関して言えば、通信事業者は不利な立場だとした。Viberの競合サービスである、通信事業者発のメッセンジャーサービス「Joyn」の開発期間の長さを取り上げ、「(通信事業者の)コミッティーがデザインした馬を、ラクダと呼ぶ」と皮肉をこめて語った。 そして、Joynは通信事業者間の相互動作性を担保しているのと比較し、なぜOTTが相互動作(インターオペラビリティ)を目指さないのか?と問いかけた。これについて、「イノベーション」と「インターオペラビリティ」の両立は難しいと指摘、インターオペラビリティの担保がイノベーションを妨げた例として、SMSを例に出して説明した。 そして同氏は、OTTがイノベーティブなサービスを、通信事業者はデータ通信サービスを担うのが「クリアパス」だとした。さらに、ドイツ・テレコムの資料を(おそらく無断で)引用し(会場からは笑いの声)、そこで語られた「コーオペレーションでイノベーションを」という方針に賛同した。 発表後のパネルディスカッションでは、OTTと通信事業者の手の組み方について具体案も示した。たとえば、通信網の機能を活用してViber通話の高品質版が提供できれば、それにお金を支払う顧客もいるだろうし、その収益を通信事業者とシェアできる、また通信事業者も運用コストが安いOTTの設備を活用すればよい、と語った。 Dropboxが語る「パートナーシップ」オンライン・ストレージ大手のDropboxのヒューストンCEOは、講演においてPC向けのオンライン・ストレージから始まったが、スマートフォン、タブレットの広がりが市場を拡大させており、オンラインストレージサービスが人々の生活に欠かせないものになると指摘し、それを洗濯機に例えた。 そして、モバイル通信事業者や端末メーカーとの提携の機会について触れ、通信事業者に対してはこれまでにないチャンスが到来しているとした。例えばとしてファミリー向けプランを挙げ、「我々は料金請求だけでなく、もっと広いやり方でファミリーをまとめることができる」と語った。 端末メーカーとの提携では、サムスンとの提携の実例を挙げ、サムスンが自社サービスとの競合を懸念したが、結局はサムスン端末からDropboxへアクセスできることが消費者にとって大きな魅力になるとの判断が働いたという事例を紹介、特定のプラットフォームにロックインするのではなく、競合他社をサポートするようなパートナーシップが重要だとした。 Juniper Networksが語る「通信ネットワークの価値」ネットワーク機器大手Juniper NetworksのジョンソンCEOは、クラウド時代の通信事業者の姿について語った。そこでの議論は2つあるとし、1つは「通信事業者はダムパイプ問題をダムクラウドに置き換えているだけだ」というもの。もう1つは「通信事業者はクラウドサービスでマネタイズするのに優位なポジションにある」というものである。 同氏は「通信ネットワークは、クラウド体験の基礎となるもの。通信ネットワークがなければ、クラウドもない」との見方を引用し、モバイル・インターネットとクラウドに、セキュリティが付加されることに価値がある、と語った。 そしてクラウドのバリューチェーンにおいて、通信ネットワークがすでに差別化要因になっている、とした。クラウド時代において通信ネットワークの価値の高さをアピールする内容であったが、市場の成熟に伴い、今後5年で勝ち負けがはっきりしてくるとの見方を示した。 ここで紹介した講演にあるように、今回のMWC2013においては、サービスのイノベーションを先導するOTTが通信事業者を蚊帳の外として扱う姿ではなく、むしろ通信事業者だからこそ提供しうるネットワークの付加価値へのラブコールが数多く見られた。 とはいえ、実はOTTも通信事業者も、ほとんど同じようなことを言っているように聞こえるのは、あまりにバズワードが多いからかもしれない。現地の雰囲気を伝えるには、たとえばこのような言い方ができるかもしれない。
◇◆◇ OTTはこれまで、自社サービスの成長に邁進してきたはずだ。その目標の先にはApple、Google、Facebookなどがあったと思われるが、これまで、彼らが通信事業者について語る姿はそれほど多く見られなかった。しかし、ここへきて多くのOTTが通信事業者との提携を語り、動き始めた。これをApple、Googleなどへの対抗軸形成のための協調、と理解することは可能だ。実際、事業領域や規模の大小を問わず、Apple、Googleが主導権を握るエコシステムに縛られている現状を打破したい、という各プレイヤーの思いがMWC2013会場に充満していたように感じられた。 しかし一方で、OTTも多くのサービス領域で乱立気味だ。必ずしも多くのOTTが共存できるとも限らないことから、OTTが生き残りのための手段として通信事業者との提携に向かっていると考えることもできる。競合するOTT同士の合従連衡があまり多く見られないのは、市場の奪い合い以上に、市場自体が成長している局面だからであろう。 「第3のOS」にせよ、OTTと通信事業者のパートナーシップにせよ、1年前にその萌芽はあったものの、実際に1年でここまで進むとは、というのがMWC2013へ参加した印象である。 岸田 重行 |
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