2013年5月23日掲載

2013年4月号(通巻289号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

コラム〜ICT雑感〜

コモデティ化するスマホ

2年前このコラムにおいて「スマホを持ったガラケー人間」(2011年4月号)を書いたが、当時はスマホを持つ人が少なく、ガラケー人間は少しの優越感に浸って、その効用を説いたものであった。それから2年間ですっかり様相が変わり、今やガラケー(フィーチャーホン)を持つ人が少数派になってしまった。電車の中で片手で物凄いスピードでメールを打っていた若い女性は、今やカラフルなネイルの指を立てながら優雅に画面をスクロールする姿に変わってしまった。

2月末にシンガポール、バンコクに出張する機会があったが、スマホの普及は目覚ましく日本と同じようにいたるところでスマホを使う光景が見られた。これまでスマホは高級というイメージがあったが、アジアなど新興国において普及率が高まるにつれて、汎用品も出回り、庶民の手が届く値段になってきている。このようにスマホが一般化、コモデティ化(汎用品化)するにつれて、iPhoneでマーケットを席巻したアップルなどの端末メーカー、グーグル、フェイスブックに代表されるいわゆるOTT(オーバー・ザ・トップ)プレーヤー、通信キャリアにとって今後どのようなビジネス上の影響が出てくるのか考えてみたい。

モバイル・ワールド・コングレスでのスマホ

昨年のモバイル・ワールド・コングレス(以下、MWC)では中国のファーウェイ(華為)が会場に実物のスマホを張り付けた巨大なペガサスの像を立てて入場者の注目を集め、各端末メーカーがスマホを競い合って展示していた。しかし、今年もスマホは展示されているものの話題になるような目新しいものはなく、スマホがコモデティ化している印象を与えた。今回のカンファレンスの話題の中心はFirefoxなど新しいOSを提案した団体、事業者が通信キャリアと連携してアップルのiOSやグーグルのアンドロイドの対抗馬として名乗りを上げたことである。

陰りが見えるアップル

iPhoneの成功により、企業価値で世界一に昇りつめたアップルもiPhone5の躓きを契機に販売が失速し、株価が昨年9月から半年間で40%近く下落し、今年に入って世界一の座をエクソンに譲った。 iPhoneのビジネスモデルの成功は故スティーブ・ジョブスCEOが使い勝手を徹底的に追求したユーザビリティが利用者の圧倒的支持を得た結果、単一機種、大量販売が可能というモデルを作り上げた結果である。その結果は2012年度にはiPhoneで1億4,000万台を売り上げ、メーカーとしては40%を超える驚異的な利益率を達成した。このためiPhoneは通信キャリアに対して、圧倒的なアドバンテージを有し、通信キャリアがiPhoneを販売するにあたり販売台数、端末価格など様々な制約を課してきた。

しかし、スマホの急速な普及に伴い潮目の変化の兆しが現れ始めている。iPhoneの端末価格は500ドル前後と言われているが、通信キャリアはユーザーへの端末販売価格を安く抑え、仕入価格との差額を月々の通信料金収入で回収するという仕組みをとってきた。他方、スマホのコモデティ化により新  興市場では30ドルのスマホが求められるようになっており、将来のマーケット予測ではこの低価格帯のスマホが主流になると見られている。

従って、先進国市場で高価格で市場を席捲したiPhoneが将来の成長を取り込むため低価格帯の機種を出すかどうかに焦点が集まっているが、新興市場では低価格競争の渦に巻き込まれ、これまでの高利益率を実現してきたビジネスモデルが崩壊する惧れがある。また、先進国においてもプリペイド加入者が増えており、スマホのコモデティ化に拍車をかける状況になっている。

新しいOSの登場

スマホのコモデティ化の兆候と軌を一つにして登場したのが、今年のMWCでの新OSの登場であった。アップル、グーグルが独自のOS(基本ソフト)にスマホ向けにいわゆるネイティブアプリを乗せて垂直統合モデルを確立しているのに対して、今回の新OSはコンテンツの表示にウェブ表示言語の「HTML5」を使い、特定のOSに縛られないウェブアプリを実現しようとしている。HTML5はコンテンツ提供事業者にとって、プログラム作成が容易になり、コンテンツの水平展開が可能となるメリットがあると言われる。アップル、グーグルの垂直統合モデルの前にエコシステムからはじき出された通信キャリアがエコシステムでの復権を目指し、新OSの登場、連携の呼び掛けに拍手で答えたのが今回のMWCの特徴であった。

今後の行方は?

スマホ端末がコモデティ化するなかで、OS、アプリもそれに見合った簡易で機能限定の低コストなものが受け入れられ、アップル、グーグルの垂直統合の囲い込みモデルからオープンモデルに移行する可能性がある。通信キャリアは図(次頁)にあるようにフィーチャ―フォンで築きあげたエコシステムがアップルやグーグルに代表されるOTT主導のエコシステムの登場により崩され、ネットワークだけの提供というダムパイプに追いやられてしまった。昨年のMWCでは通信キャリアはいかにしてダムパイプを脱し、スマートパイプ化するかが大きな課題であった。今回、新OS事業者の登場でスマートパイプの実現、言い換えればエコシステムでの復権に光明を見出したと言える。果たして通信キャリアが新OS事業者との連携によりエコシステムでの復権がなるのか、あるいは今回のMWCには参加しなかったアップル、グーグルがこれらの動きにどう対応するのかが注目される。

【図】エコシステムでの復権を目指す通信キャリア

(出典:情総研作成)

グローバル研究グループ 常務取締役 真崎 秀介

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。