2013年6月24日掲載

2013年5月号(通巻290号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

Wi-Fi/無線LANをインフラに取り込む道

昨年の本誌8月号巻頭“論”で、「Wi-Fi/無線LANは第3のブロードバンド・インフラ」と題して、Wi-Fiのインフラ化について述べたことがあります。その際に取り上げたのは、モバイルトラフィックの増大に対するオフロード方策、ブロードバンド・インフラのオーバーレイ化とHetNet、免許不要の自由な回線構築、OTTプレイヤーなど上位レイヤーサービス提供者の登場等、主として新しい動きが中心でした。そこで今回は、既存の通信インフラ事業にとって、Wi-Fiはどのような影響があるのか、固定通信サービスとモバイル通信サービスとでは反応がどう異なるのか、など現実的な課題について考えてみたいと思います。

まず、Wi-Fi基地局は現在までのところ、大半がモバイル通信会社によって設置されて、急増するモバイルトラフィック対策(いわゆるオフロード策)として活用されています。モバイル3社合計では約80万カ所に達していると見られ、その半数以上をソフトバンクが占めています。オフロード方策は、モバイル通信ネットワークへの過重負担を回避することを主目的に、一部エリアカバーの拡充のために行われていますので、いわばサービス品質の確保、顧客満足の向上、競合他社との顧客獲得競争、そしてモバイルネットワークの設備投資効率の向上を狙いとしています。従って、 Wi-Fiによるオフロード自体が収入源になるものではなく、新しいビジネスモデルをもたらしていません。モバイル通信会社によって設置されたWi-Fi基地局には、当該会社と回線契約した利用者しか原則接続できません。自社の過重トラフィックをオフロードさせる手段である以上、サービス上も自社回線利用者に限定するのは当然のことでもあります。でも、利用者からすると誠に不便なことです。“Wi-Fi使えます”とあっても使えるモバイル通信会社は限られ、Wi-Fi/無線LAN一般は使えないのが実情です。モバイル通信市場のインフラ間競争のひとつの現象面なので、現状やむを得ない姿です。

他方、NTT東西など固定通信会社や市町村・商店街などが設置しているWi-Fi基地局は、通信会社を選ばないキャリアフリーのものが多く利用者にとって利便性の高いものとなっています。しかし、この種のWi-Fiホットスポットは、数の面ではまだまだ少なく(全国で5〜10万カ所程度)、今後の普及が望まれるところです。私は、街中に街灯があって安心・安全な日常生活に役立つばかりでなく、街の活性化や繁栄に寄与しているように、街灯の光だけでなく目には見えませんが無線の電波が街中に張り巡らされることで、安心・安全で利便性のよい、満足度の高い街作りが促進できると考えています。これから、ますます小型軽量でバッテリーが長持ちするタブレット端末が一般化していくので、街中のWi-Fi接続によって、その街の住民はもとより、訪問者、来店者、観光客などへのやさしさや利便性が促進されることになります。これこそ、ICT時代の新しい街作りの取り組みとなることでしょう。産業の競争力だけでなく、新しい公共事業として、こうした街作りを日本各地で進めることを期待したいと思います。

こうした街中のWi-Fiと並んで重要なのは、家の中でのWi-Fiアクセスです。無線LANの国際業界団体であるWi-Fiアライアンスによると、Wi-Fiを導入済みの世帯割合は世界で25%、日本では68%に達しているとのことです(2013年4月15日開催、Wi-Fiアライアンス:メディアブリーフィング2013資料より)。また、同じく、1人が所有するネットワークデバイス数は  2011年に2.8台に達していて、2016年には6.5台に増加すると予測しています。つまり、Wi-Fiの接続ポイントは圧倒的に家(世帯)の中にあるし、Wi-Fi接続可能なネットワークデバイス数も、モバイル端末より相当に多いことが分かります。そうなるとWi-Fi/無線LANのネットワーク面の位置づけは、社会的な機能からは公共のWi-Fiホットスポットが、また、接続ポイント数からは家(世帯)の中でのWi-Fi利用が焦点になります。

これは、Wi-Fi基地局設置で先行しているモバイル通信事業者ではなく、むしろ、公共の場にホットスポットを構築してきた実績があり、かつ、家の中で光回線にWi-Fi接続を進めてきた固定通信事業者がWi-Fi/無線LANインフラでは主役になることを予想させます。もちろん、家でのWi-Fi接続だけでは、単なる有線ケーブルの代替に過ぎず、固定ブロードバンドサービスの利便性向上策としか見られず、新しい利益を生み出すことはないでしょう。しかし、1人当たりのネットワークデバイスが多様化し数が増加していくので、Wi-Fi接続時の何らかの登録、IDの付与など顧客管理や接続情報面で光回線接続とWi-Fi利用とを結びつけることができれば、屋外でのWi-Fiホットスポット利用を含めて重要なサービスプロバイダー戦略となり得ます。さらに、世界には、現在140万カ所のホットスポットが存在し、2015年までに600万に増加すると言われていますので、世界に向けた成長戦略としても大変に重要なインフラとなります。ホットスポットの自動検出/自動接続やローミングなどを行うPasspointでは、今年2月にNTTドコモと中国移動、KTの3社でWi-Fiの国際ローミングに合意したと発表されています。このように、Wi-Fi基地局設置において先行しているモバイル通信会社側からも、単なる自社回線のオフロードを越えた世界に向けた取り組みが進められていて、Wi-Fiのインフラへの取り込み競争は予断を許さない情況となっています。

しかし、やはりここはキャリアフリーの取り組みや公共のWi-Fiホットスポットとの連携に取り組んでいる固定通信事業者にアドバンテージがあるように思います。何と言っても、家の中でのWi-Fi接続の入口となれる強みがあるからです。特に光回線の利用を促してきた、光電話、光テレビに続いて、スマートフォンやタブレット端末が第3、第4のキラーアプリとなることでしょう。逆に言えば、Wi-Fi接続によってスマホやタブレットを光回線に繋がない限り、光回線の普及には限界が来ると思われます。問題は、この家の中から始まるWi-Fi接続は現在でもパソコンを始め多くのネットワークデバイスで可能なので、一体誰が、どうやって登録やID付与等を担えるのか、そのサービス主体や提供内容はどのようになるのか、サービスプロバイダー戦略とプラットフォーム戦略とを連携した取り組みが本格化していくことでしょう。Wi-Fi基地局を多数構築すれば物事は終了するのではなく、むしろ、これから新しいネットワーク間競争とプラットフォーム間競争が起こりそうです。固定通信事業者、モバイル通信事業者、サービスプロバイダー、さらにはOTTプレイヤーまで巻き込んだ競争が予想されます。現在のところ、明確なビジネスモデルやマネタイズの方法を見出している主体はありませんが、それぞれの主体間のパートナーシップの中からレベニューシェアや情報管理(流通)時の手数料収入、認証、課金等のサービス提供料金などさまざまな方法が生み出されていくことでしょう。 Wi-Fi/無線LANをインフラに取り込む道を探ることが急がれます。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

(執筆時の役職にて掲載しております)
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