2013年6月24日掲載

2013年5月号(通巻290号)

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政策関連

世界のスマートフォンを支える日本の部品メーカー

2012年に全世界で約7億台のスマートフォンが出荷された。日本の携帯電話メーカーは最近では不調が報じられている。その一方で、好調なのがスマートフォンの部品を支えている部品メーカーである。世界中で出荷されているスマートフォンを支えているのは日本の部品メーカーが供給した電子部品である。日本の部品メーカーが供給する電子部品なしに、世界のスマートフォン市場は成り立たない。本稿では日本の部品メーカーの動向と業績について追っていきたい。

日本部品メーカーのスマートフォンへの最近の取組み

2013年5月4日の日本経済新聞朝刊の1面に、「スマホ部品 国内勢増産」という見出しの記事が出ていた。日本の携帯電話メーカーは不調だが、部品メーカーにとっては明るいニュースである。国内の電子部品メーカーがスマートフォン向け部品を相次ぎ増産すると報じられている。

スマートフォンの部品といっても、様々である。タッチパネル、液晶パネル、高性能プロセッサ、大容量DRAM、フラッシュメモリ、無線LANモジュール、GPSモジュール、加速度センサー、電子コンパス、ジャイロセンサーなど多種多様である。エレクトロニクス関連の調査会社ナビアンは2008年12月、「iPhone3G」など5機種のスマートフォンを分解し、内部の部品構成などをまとめたレポートを発表した。それによるとこれら5機種における部品/モジュールの平均搭載数は779個だった。最も多かったのは「iPhone3G」の953個だった。同社は2006年にもフィーチャーフォンを分解して部品搭載数を調査していたが、その際には平均541.8個だったことからもフィーチャーフォンと比較するとスマートフォンがどれだけ多くの電子部品で構成されているかが窺える。また、同調査から既に4年以上が経ち、スマートフォンの高機能化も進み、それに伴い部品の数も多くなっていることが想定される。

2013年春に発売された韓国サムスン電子製スマホの販売が好調なのに加え、米アップルが秋にも新製品を投入する予定もあり、日本の部品メーカーは増産しており、その成果は業績にも反映されている企業が多い。最近の日本の主要部品メーカーの動向を簡単に見ていきたい。

京セラ
京セラは2013年2月14日、スマートフォンなどに使われる半導体の樹脂基板事業に本格参入すると発表した。約150億円を投じて京都府綾部市に新工場を建設し、2014年夏に稼働させる。生産するのはFCCSP(フリップチップ・チップスケールパッケージ)基板と呼ぶ樹脂部品。ICチップを載せてプリント基板と電気接続する役割を果たす。スマートフォンやタブレット端末の普及は今後も進むと判断、薄型化や高機能化が進むスマートフォン半導体基板を戦略事業の1つに育てる予定である。
TDK
TDKは2013年2月、スマートフォンやタブレット端末に向ける複合電源管理モジュールを発売した。独自の部品内蔵基板「SESUB(セサブ)」を用いて、降圧型コンバータ回路や2次電池用充電回路、液晶バックライト用電源回路など、スマートフォンやタブレット端末に搭載される主要部品の電源管理機能を1パッケージに収めた。TDKによると部品内蔵基板を用いた電源モジュールは従来、TDKの製品を含めて量産品は単一電源対応にとどまってきた。同製品はスイッチング回路に加えて16ビット・マイコンで構成するコントローラ回路をSESUBに内蔵することにより、業界で初めて多電源への対応を可能にした。2012年12月に月産50万個/月で量産を開始した。
村田製作所
村田製作所はスマホに組み込まれる主要電子部品の一つで、特定周波数の信号を取り出すSAWフィルターの生産能力を引き上げる。2013年3月までに前年同期比で2割増やしたばかりだが、2013年9月までにさらに2割増強する。コイル専業の東光は電源回路に使う小型品の生産能力を今年度中に月産4億個と前年度に比べ2倍以上に増やす。なおソニーもCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーの供給を拡大する。

2012年9月には、積層セラミックコンデンサー(MLCC)で世界首位の村田製作所は、長さ0.25ミリ、幅と高さが0.125ミリと、8年ぶりに業界最小を更新するMLCCを開発した。MLCCは電気を蓄える機能などからスマホ1台に400〜500個使われるため機器小型化への効果が大きく、今後は実装技術などを検証して2014年3月までのサンプル出荷、2015年の量産開始を目指している。

ローム
ロームは2012年9月、スマートフォン向けなどに発光ダイオード(LED)回路などの電源スイッチ向けに世界最小のトランジスタパッケージを開発した。外部に張り出していた電極端子をチップ底面に配置するなど設計と加工法を工夫し、長さ0.8ミリ、幅0.6ミリ、高さ0.36ミリと従来より実装面積を約7割縮小した。スマホ1台に20〜30個必要になる。構造が複雑で小型化が難しい半導体部品で世界最小となる。世界最小の電子部品としてスマートフォンの高機能化、薄型化に対応した内蔵部品の開発競争が激しくなる中、同社は極小化技術で優位確保を狙う。
エルピーダメモリ
エルピーダメモリは2013年4月から台湾にある子会社のレックスチップ(瑞晶電子)でスマホ向けのモバイル用DRAMの生産を始めた。生産能力は300ミリウエハーで月産1万枚。2013年6月からは同35,000枚に増やす。同社は広島県東広島市の工場でモバイル用DRAMを生産してきた。受注をさばききれないために海外生産を決めた。パソコン向けDRAMの設備をモバイル用に転換して増産を急ぐ。
旭化成エレクトロニクス
旭化成エレクトロニクスは2012年7月、スマートフォンやタブレット端末をはじめとする携帯機器に組み込み、方位磁石と同様の役割を果たす電子部品である「電子コンパス」の新製品を投入したと発表した。従来品よりも小型・薄型化したことに加えて、磁気の測定範囲を広げたことで、スマホをはじめとする携帯機器の小型・薄型化など、携帯機器の設計自由度を増すことにつながるのが特長だ。旭化成はフロッピーディスク市場の縮小を受け2003年から携帯端末向け電子コンパスの量産を始め、その高精度を買われ、2008年にはAndroid OSのスマートフォンで実質的な世界標準部品に採用され、2008〜2009年の販売個数はそれぞれ前年比9倍、2010年も3倍に増え、生産は月数千万個の規模で、電子コンパスを同社のエレクトロニクス事業の重要な柱となった。
タツタ電線
タツタ電線はスマートフォン端末のフレキシブルプリント基板に張る「電磁波シールドフィルム」で世界シェア8割強を押さえている。部品の大半はパソコンに搭載されているものの軽薄短小版である。端末の薄型とともに、端末内にみっちり詰め込むため、部品が干渉し合わないよう電磁波対策が欠かせない。タツタ電線のフィルムは部品の大きさや形状を選ばず、基板に貼るだけでよい。電線で培った銅と樹脂の配合技術を発展させて開発した。2011年4月に京都府福知山市の工場で新設備を稼働させるなど、増産対応に追われている。
上村工業
上村工業はスマートフォンの多層基板の最終表面処理めっき薬で世界シェアの7〜8割を担っている。金めっきを施して回路の銅めっきの酸化を防ぎ、はんだの接着性を高める。iPhone向けで8割、BlackBerryにはほぼ100%供給している。韓国サムスンや台湾HTC、フィンランドのノキアにも大量に販売しており、同社のスマートフォン向けめっき薬の売上高営業利益率は約3割を占めている。
ディスコ
半導体チップ切断装置などを製造するディスコは半導体チップの切断や研磨をする「後工程」で使う装置や、シリコンウエハーを切断する「ブレード」など消耗品の製造・販売を手がけている。半導体チップの切断装置「ダイサー」や研磨装置「グラインダー」の出荷は、スマートフォンの半導体メモリーや電子部品の需要を追い風にアジア市場などで好調な売れ行きを見せている。

「iPhone5」の内部にある電子部品を見てみる

アップルの「iPhone5」に搭載されている電子部品とその供給先メーカーについて2012年11月の日経エレクトロニクスに紹介されていたので、それを元に次項に記載し、纏めてみたい。日本製の電子部品が多数搭載されていることがわかる。

(表1)「iPhone5」に搭載されている電子部品と供給メーカー

(表1)「iPhone5」に搭載されている電子部品と供給メーカー

(出典:日経エレクトロニクス 2012年11月を元に筆者作成)

電子部品の景況感も改善

日本経済新聞社が電子部品や関連の製造装置メーカーなど主要30社を対象に「電子部品景況調査」を実施した。2013年4〜6月の景況について、45%の企業が1〜3月に対して「良くなる」と回答した(1〜3月は20%)。「悪くなる」は6.7%と1割を下回った。「変わらない」という回答が48.3%。スマートフォン向け部品の需要回復を予測する声が多く、円高是正に伴って受注環境が改善するとの期待も広がっている。スマートフォン向け部品は季節要因が大きいテレビ向け部品とは違うサイクルの需要である。

(表2)電子部品景況調査と回答した電子部品や関連の製造装置メーカー30社

(表2)電子部品景況調査と回答した電子部品や関連の製造装置メーカー30社

(表2)電子部品景況調査と回答した電子部品や関連の製造装置メーカー30社

(出典:日本経済新聞 2013年5月4日朝刊(7面)記事を元に筆者作成)

アップルとサムスン頼みの供給先

電子部品メーカー各社が増産に乗り出すのはスマートフォンで世界シェアの約5割を握るアップルとサムスンの新製品投入が相次いでいるためである。サムスンは2013年4月に「GALAXY S4」を発売した。同社ではかつて基幹部品は内製が多かったが、スマートフォンの急成長で自社だけでは賄いきれず外部調達を増やしている。また、アップルは次期iPhoneを秋までに投入するとみられているため、今後も部品メーカーにとっては追い風となるだろう。 

電子部品メーカー各社が増産に乗り出すのはスマートフォンで世界シェアの約5割を握るアップルとサムスンの新製品投入が相次いでいるためである。サムスンは2013年4月に米調査会社IDCによるとスマホの世界市場規模は2012年に前年比で約2億3,000万台増え、7億2,200万台となった。2013年は約2億台増加する見通しで、伸び率は若干低下するが、各社のスマートフォンはさらなる薄型化、高機能化を目指しており、高精密な部品に強い日本メーカーへの引き合いは強まると考えられる。

(表3)2012年第4四半期の世界スマートフォン・メーカー・トップ5(出荷台数ベース)

(表3)2012年第4四半期の世界スマートフォン・メーカー・トップ5(出荷台数ベース)

(IDC発表資料を元に作成)

(表4)2012年第4四半期
日本国内携帯電話出荷台数メーカー別シェア
合計1,133万台

(表4)2012年第4四半期 日本国内携帯電話出荷台数メーカー別シェア 合計1,133万台

(出典:IDC)

(表5)2012年第4四半期
日本国内スマートフォン出荷台数メーカー別シェア
合計883万台

(表5)2012年第4四半期<br>日本国内スマートフォン出荷台数メーカー別シェア<br>合計883万台

(出典:IDC)

今後も伸びるスマートフォン、タブレット市場

米IDCは2013年1月24日、2012年の1年間における携帯電話の世界出荷台数は17億3,590万台で前年比1.2%増であったと発表した。このうちスマートフォンは7億1,260万台で、スマートフォンの出荷台数は前年から44.1%増えた。

米IDCは2013年3月4日、2013年における世界のスマートフォン出荷台数は9億1,860万台で、携帯電話の全出荷台数に占める割合が50.1%と、初めて半数を超える見通しであることを発表した。また、2017年には15億1,610万台と、携帯電話全体の3分の2を超えると予測している。

これまで世界のスマートフォン市場をけん引してきたのは米国をはじめとする先進国市場。だが今後はまだ利用者数が比較的少なく、高い経済成長が見込まれる新興国市場が伸びていく。とりわけ今後5年間で中国、インド、ブラジルにおける出荷台数の比率が高まっていく。最も成長率が高いのはインド。2013年から2017年にかけての同国における出荷台数伸び率は459.7%となるという。ブラジルも129.4%という高い伸び率で成長していくとIDCは見ている。中国の同期間における伸び率は52.0%と比較的低いが、2017年の出荷台数は4億5,790万台となり、米国との差を広げるとしている。

(表6)スマートフォンの出荷台数と国別市場シェア

(表6)スマートフォンの出荷台数と国別市場シェア

(IDC発表資料を元に作成)

日本の部品メーカーの業績動向

続いて、日本の部品メーカーの業績動向について以下の代表的な8社について見ていきたい。スマートフォンの部品を製造しているあらゆるメーカーの業績が全て良いというわけではない。また現在はスマートフォン部品の需要が堅調である反面、パソコン部品の需要は伸び悩んでいるメーカーもある。

京セラ
京セラは2013年4月25日、2014年3月期の連結純利益(米国会計基準)が前期比44%増の960億円になるとの見通しを発表した。スマートフォンの部品や太陽光発電装置などの販売が伸びた。国内の太陽光発電システムやスマートフォン向け部品などの需要増で、営業利益を82%増の1,400億円、売上高を9.4%増の1兆4,000億円を見込んでいる。
TDK
TDKは2013年4月26日、2013年3月期の連結決算(米国会計基準)は最終損益が11億円の黒字(前の期は24億円の赤字)に転換したことを発表した。2次電池の伸びで営業利益は2桁増を確保し、前の期に計上した有価証券関連損益や為替差損が減少した。売上高は前の期比5%増の8,515億円。円安が約324億円の増収要因となり、売り上げの伸びの大半を占めた。ただしスマートフォン向けに伸びた2次電池以外は軒並み苦戦した。2014年3月期の純利益は前期比11倍の130億円を見込む。磁気ヘッドは苦戦が続くが、受動部品はスマートフォン向けの採用増で黒字化する見通し。
日本電産
日本電産は2013年4月23日、2014年3月期の連結純利益(米国会計基準)が500億円になるとの見通しを発表した。主力のパソコン向けハードディスク駆動装置(HDD)用モーターは伸び悩むが、スマートフォン用振動モーターなどが補い、精密小型モーター全体は増収を確保した。さらに生産拠点の再編を柱とする構造改革が奏功。M&Aや円高修正効果も加わり、前期の79億円(前の期比80%減)からV字回復する。
日東電工
日東電工が2013年4月30日に発表した決算では2013年3月期の連結経常利益は前の期比15.3%増の673億円に伸び、2014年3月期も前期比42.5%増の960億円に拡大を見込み、8期ぶりに過去最高益を更新する見通しとなった。2013年1〜3月期の連結経常利益は前年同期比42.8%増の126億円に拡大。透明導電性フィルムが情報機能材料部門の売上高の約3割を占め、スマートフォン、タブレット端末向けに伸張しており業績を牽引している。
村田製作所
村田製作所は2013年4月30日、2012年度(2012年4月〜2013年3月)の連結決算を発表した。売上高は前年度比16.5%増の6,810億円、営業利益は同30.4%増の586億円の増収増益となった。売上高は過去最高でスマートフォンやタブレット端末に向けてコンデンサや各種コンポーネント、通信モジュールなどが好調だった。営業利益は、円安効果による押し上げ効果で予想よりも上振れした。製品別の売上高は、コンデンサが前年度比9.8%増の2,287億円。AV機器向けや家電向けが不振だったものの、スマートフォン向けとタブレット端末向けが大きく伸びた。SAWフィルタや圧電センサ、発振子といった圧電製品は、同2.6%増の806億円。SAWフィルタは、外販が減ったものの、モジュール化の進展で売り上げが増加した。
アルプス電気
アルプス電気は2013年4月30日、2013年3月期(2012年4月〜2013年3月)の連結決算を発表した。売上高は前期比3.8%増の5,464億円、営業利益は同54.8%減の68億円だった。スマートフォン向けのカメラ・アクチュエータやスイッチは伸びたものの、その他の民生向けが低迷した。
ローム
ロームは2013年5月2日、業績修正を発表した。2013年3月期の連結経常利益を従来予想の3億円から117億円(前の期は72.8億円)に39倍上方修正し、一転して60.6%増益見通しとなった。2014年3月期連結業績は増収、経常増益を予想。営業、純損益は黒字転換を見込む。円安や株高を背景に国内景気の回復期待が高まるとともに、自動車関連や産業機器、スマートフォン、タブレットなどが引き続き好調に推移すると見込んでいる。
エルピーダメモリ
会社更生手続き中の半導体大手エルピーダメモリの2013年3月の単独営業損益が黒字に転換したことが2013年5月7日に明らかになった。価格が高いスマートフォン向けDRAMが堅調だったほか、円安による輸出環境の好転が追い風になった。2012年2月の会社更生法の適用申請後で、単月で初の営業黒字となった。2013年3月の営業損益は45億円の黒字(前年同月は97億円の赤字)だった。売上高は前年同月比で28%増の283億円だった。スマートフォンなどモバイル機器に搭載するDRAMの需要増で、広島県東広島市の工場はフル稼働が続いている。なお同社は会社更生手続きを経て、今上期中にも米半導体大手、マイクロン・テクノロジーの完全子会社になる見通し。

スマートフォンの進化を支える部品メーカー

今後も世界のスマートフォンは以下の点で進化をしていく。

  1. LTE対応
  2. CPU性能やグラフィックス性能の向上
  3. ディスプレイの大型化
  4. 端末の薄型化
  5. 電池の長持ち、省電力化

スマートフォンの出荷増大が部品メーカーにとって追い風となるだけではなく、従来のフィーチャーフォンよりも高機能であるため、搭載する電子部品の種類や数が増え、より高性能な部品が使われる。これら端末の機能とデザインの向上に応じて部品メーカーもさらなる技術向上が求められてくる。

今後の脅威とリスク要因

(1)韓国、台湾メーカーの台頭
韓国や台湾の部品メーカーが実力をつけ、日本のお家芸ともいえる電子部品でも日本勢のシェアを奪う存在に育ってきた。技術力の習得と製品化、量産化は時間の問題である。日本の部品メーカーも楽観的になっていてはいけない。日本でも多くの産業がそのようにして、市場を取ってきた。常に技術革新と生産の効率化が求められている。

また既に韓国メーカーが強い分野に立ち向かう日本のメーカーもある。例えば、日立製作所と東芝、ソニーの中小型パネル事業を統合して2012年4月に設立されたジャパンディスプレイはスマートフォン向けの有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルを2012年11月に開発した。同分野では韓国のサムスンディスプレーが世界市場で9割のシェアを握っている。ジャパンディスプレイでは「色の再現性が高い」と強調する独自技術を採用することよる差別化でサムスンに挑む。

例えば、台湾には以下のような部品メーカーが既に開発、製造を行っている。また台湾には下記の部品メーカー以外にも、アセンブリを行う企業として、富士康(Foxconn)、英華達(Inventec Appliances)、華寶(CompalComm)などが存在し、既に多くのスマートフォン、タブレットを生産している。

(表7)主要な台湾の部品メーカー

(表7)主要な台湾の部品メーカー

(筆者作成)

(2)円安頼み
012年12月に安倍政権が誕生してからアベノミクス効果で円安が続いていることも現在の日本の部品メーカーにとっては大きな追い風である。例えば、積層セラミックコンデンサー最大手の村田製作所の場合、対ドルで1円円安に振れると、年間営業利益を30億円押し上げると言われている。同社の2013年3月期の前提為替レートは1ドル約80円で計算している。円安が続けば2014年3月期は約600億円の増益につながる見込みである。円安だけは自社の努力だけではどうしようにもならない要因であるため、円高に頼った経営は危険である。

(3アップルとサムスンの2強依存
アップルでは2012年9月に発売した「iPhone5」の販売が伸び悩み、部品調達先に2013年1月からの大幅減産を通告したことが、2013年1月半ばに明らかになったことが報じられた。主要部品の約4割は日本製とされ、液晶パネル、電子部品などを納入している日本の部品メーカーに激震が走った。いわゆるアップルのクシャミで日本企業が風邪を引く「アップル・ショック」である。

現在スマートフォン市場はアップル、サムスンの2強であり、アップルはスマートフォンの世界市場で真っ向勝負する韓国サムスン電子からも部品供給を受けているが、特許紛争もあって同社とは距離を置かざるを得なくなっており、これは日本の部品メーカーにとってはアップルへ納品する良い機会であろう。このような納品先メーカーの関係といった要因も日本の部品メーカーは上手に活用すべきだろう。

アップルやサムスンが市場シェアを多く占める現在、彼らのスマートフォンの販売動向が部品メーカーの経営を左右する傾向が強まっているため、各社はアップルとサムスンへの過度の依存を避け、第3の供給先を確保することが今後の課題になってくる。もちろんこれは携帯電話メーカーに依拠するところも多いのだが、上位2社のみが供給先という状態はリスクが高い。

日本の部品メーカーの歴史は長く、産業の栄枯盛衰を見てきた<

日本の部品メーカーの歴史は古い。昨日今日に登場してきた企業ではない。戦時中の1944年に設立された村田製作所や1959年に設立された京セラはセラミックスを使った製品から事業を始めた。TDKは日本で発明された磁性素材「フェライト」を事業化するために戦前の1935年に設立された。1954年に東洋電具製作所として設立されたロームは抵抗器から半導体に業務を拡大してきた。1918年に電気絶縁材料の国産化を目標として設立された日東電工は絶縁材料から工業用テープ、光学フィルムへと領域を拡大してきた。1973年に設立された日本電産はモーター技術を軸に、積極的な企業買収で規模を拡大している。1948年に片岡電気株式会社として設立されたアルプス電気は、ラジオ用スイッチから始めて現在では電子機器や自動車のスイッチまで幅広く開発している。創業から100年を超える企業もあり、様々な買収や事業転換、合併などを繰り返して現在に至っている。

(表8)日本の主要電子部品メーカーの沿革

(表8)日本の主要電子部品メーカーの沿革

(筆者作成)

まとめ

このように日本の部品メーカーの歴史は古く、戦前にまで遡る。その間、日本の部品メーカーはラジオに始まりテレビ、パソコン、携帯電話など多くの製品の栄枯盛衰とともに歩んできた。それら製品の発展とともに新技術を生み出してきた。部品メーカーが生み出した新技術があったからこそ、ラジオ、テレビ、パソコン、携帯電話も進化、発展することができたと言っても過言ではない。

日本ブランドの携帯電話メーカーは残念ながら国内外で伸び悩んでおり苦戦している。一方で現在も世界中で出荷されるスマートフォンの内部では日本製の電子部品が大活躍している。

部品メーカーにとって現在はスマートフォンが主戦場であり稼ぎ頭であるが、いつまでもスマートフォンに依存していることはできないだろう。

既に多くの部品メーカーがエネルギー分野など新たな分野を開拓している。今後はエネルギーを効率的に使うためのスマートホーム、スマートメーター、スマートグッドといった「スマート××」製品でも重要な役割を担うことは間違いないだろう。

佐藤 仁

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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