2013年6月24日掲載

2013年5月号(通巻290号)

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コラム〜ICT雑感〜

Big Dataを収益に変えるには

Data is the new oil

「原油」を精製した「石油」が経済的な価値をもたらしたのと同様に、これからは「データ」を適切に分析して得られた「知見」が大きな価値をもたらす。しかし、データ分析を戦略、戦術に生かすのは企業として当然のこと。それでは顧客管理、販売管理等の従来の企業システムとBig Dataは何が違うのだろうか? 

前者は、主に“企業内”で起きた“過去”のことを、“誰にでも見えるようにする手段”。データは「生産時点」「販売(契約)時点」「契約解除時点」などの“点”の情報だ。後者は、主に“企業内外”で“今起きつつある”ことを分析し、“次に起こることの将来予測をする手段”。顧客が購入に至る背景や購入後実際に使用する時点での情報など、従来は入手困難だった“線”の情報である。かように両者には本質的な違いがある。

ICタグ、監視カメラの映像、各種センサーでの顧客の動線把握(IoT、M2M)、リアルな購買行動に影響を与えるネット情報の反映(O2O)、店内で無料Wi−Fiスポットを提供することによる顧客情報(CRM)収集等、情報の取得・生成の環境が整ってきたこともBig Dataの追い風だ。さらに、蓄積、処理・分析フェーズにおいてもディスク価格の下落、クラウドの普及、分析ツールの普及等、著しい技術の進歩とコストダウンが実現している。このような環境の変化を受け、従来の前者の世界では、主に大企業のPOSデータ活用等に限られていたが、後者の世界では、大企業のみならず、中堅中小企業もBig Dataを活用する時代になってきた。これからは、Big Dataをビジネスにうまく取り組んでいけるかが競争優位を決める。特に、従来活用してこなかった(捨ててきた)データの活用にビジネスチャンスがある。

企業がBig Dataを活用するには?

情報取得・生成、蓄積、処理・分析の各フェーズで著しい進歩があり、ビッグデータ分析をビジネスとして取り組む環境が整ってきた。しかし、技術の導入だけでは企業価値は見出せない。自らの問題意識に基づいた仮説設定に基づき、行うべき意思決定を特定し、そのためのツール、ヒト、データ、プロセスを決定し、その中にBig Dataを組み込んでPDCAのサイクルを回していくことが肝要だ。

曖昧模糊としたBig Dataの大海の中からビジネス上意味のある洞察を引き出し、意思決定者にわかりやすく伝えたり、データを駆使して新たなサービスを創りだす「データサイエンティスト」の存在が重要になる。

もちろん、風通しのいい企業文化も重要だ。部門別のサイロ化が著しく、それぞれの部門がそれぞれのデータを所有していて、共有がままならず、データによる効能が得られないケースは多い。組織全体にBig Dataをいきわたらせる技術プラットフォームやツールを導入し、社員がBig Dataを利用し、意思決定を行う仕組みづくりが必要になる。

企業がBig Dataを活用するには、組織とヒトが肝要だ。いつの時代にも変わらない、普遍的な事実だ。

Big Dataのバリューにおける光と影

企業価値、Big Dataのバリューは、「適切なヒトに、適切なモノを、適切なタイミングと適切な価格で、心地よさとともに提示すること」であり、その追求が、競争の源泉となり、イノベーションの創造を促進する。

しかし、このバリューは個人のプライバシーとの引き換えで得られる世界だ。グーグル米国本社の検索機能が個人のプライバシーを侵害したとして、東京地裁が表示差し止めと30万円の損害補償を命じる判決を下した。原告者が自分の名前を投入すると、オートコンプリート機能により、犯罪を感じさせる言葉がでて、失職を余儀なくされたという被害に対するものだ。原告側は、当初日本法人を訴えようとしたが、サーバーが米国にあるので米国本社を相手にせざるを得なかったという。4月25日の日本経済新聞社説では、「(略)望ましいのはグーグルが事業者としての責任を自覚し、自ら救済策を打ち出すことだろう。日本政府もグーグルに対してそうした呼びかけをしてほしい」と論じている。プライバシー侵害の問題だけでなく、グローバルな世界での競争環境の議論も加わり、問題は複雑だ。

Big Dataが追い風となり、これまで以上に、個人データが、インターネットの覇者を有する米国に集約され、“検索”の対象となることが危惧される。加えて、健康管理、安全サポートといったBig Dataを駆使した魅力的なサービスが、日常の生活にすっかりと組み込まれ、知らず知らずのうちに個人の私事・私生活に深く関わる膨大な個人情報が収集、管理されるかもしれない。だが、デジタルネイティブ世代は個人情報をオープンにするのと引き換えに、より快適な生活を求めイノベーションを起こす可能性もある。

Big Data で利便性が増すほど、“ヒト”の関わりも増大する

これからは、Big Dataをビジネスにうまく取り組んでいけるか否かが競争優位を決める。企業はBig Dataのバリューを追求して、顧客である“ヒト”を囲い込もうとするだろう。そして、“ヒト”は、Big Dataが全てお膳立てしてくれる便利で快適な暮らしに満足するのだろう。しかし、そうなればなるほど、“ヒト”の判断が重要になる。

サービスを提供する観点では、まずは意志決定者である“ヒト”の存在が重要だ。なぜなら、Big Dataを活用したサービスの創造は、曖昧模糊としたBig Dataの大海に、試行錯誤してバリューという航路を見出していくようなものだからだ。大海で遭難しない為にも、意思決定者である“ヒト”は、獏としてでもいいから何をしたいのかの判断を示さなければならない。その思いが出発点となって、はじめてデータサイエンティストなる“ヒト”の出番となり、航路が浮かび上がってくる。

サービスを享受する観点では、“ヒト”は、Big Dataにおけるデータ生成、発生源の主人公だ。そして、そのデータの代償として、Big Dataのバリューを享受している。しかし、バリューに対する価値観、それに伴う“ヒト”の代償の仕方の思いも千差万別であり、必要とあれば、はっきりとした自己主張が必要だ。サービス提供者の“ヒト”もサービスを享受する“ヒト”も、これらのことをしっかりと認識する必要がある。

Big Data は一見、ネットに特化した世界のようにありながら、実は多くの立場の“ヒト”がからむ世界だ。Big Data is the new oil. Big Dataを収益に変えるには、あらゆる“ヒト”の立場に立って考えるという原点に立ちかえって、原油の鉱脈を掘り当てる必要があろう。

マーケティング・ソリューション研究グループ部長 松田 淳

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