2013年12月25日掲載

2013年11月号(通巻296号)

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テクノロジー関連(ワイヤレス)

リアルタイムで速度を切り替えるMVNOサービス

近年、国内でも大手MNO(移動体通信事業者)のほかに、自社では無線設備を持たず、MNOの回線を利用してサービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)が増えている。2009年から2012年の3年間で、MVNOの回線数と売上は4倍強に拡大している(254万件→1,037万件、825億円→3,570億円(MM総研調べ))。

このようなMVNO事情の中、日本のインターネット・サービスプロバイダー(ISP)であるドリーム・トレイン・インターネット(以下DTI)は、通常の通信速度を低速に制限し、特定のアプリ実行中にのみ速度制限を解除して高速通信を行うサービスを月額490円で2013年10月25日から提供開始した(高速通信時は263円/100MBの従量料金がプリペイドで課金される)。

本稿ではこのサービスの解説、および大手MNOとの料金プランやビジネス戦略の差異を考察する。

サービスの概要

従来サービスからの進化

DTIは今回のサービス開始前の2013年8月1日、NTTドコモのLTE/3G回線を利用した通信サービス「ServersMan SIM LTE 100」を開始した。このとき、DTIの親会社のフリービットがNTTドコモとレイヤ2接続を開始したことにより、LTEの通信速度切替が可能となった。但し、通信速度はコントロールアプリから手動で切り替える形で、切り替えた通信速度は全アプリに適用されていた(図1(a))。DTIは今回、通信速度をアプリ毎に通常/高速に設定して自動で切り替える機能(図1(b))を追加し、この機能を「SiLK Sense」と呼んでいる。

【図1】DTIの通信速度切替機能

【図1】DTIの通信速度切替機能

(出典:DTIプレスリリース http://info.dream.jp/information/20131025_7371.html)

コア技術

本サービスのコアとなる技術は、DTIがフリービットと共同開発した、利用する通信速度や帯域をユーザー側でコントロールする技術「Semantic Switch」。基本的な考え方は、ユーザーが設定した様々な条件設定に従い柔軟な通信速度切替を実現し、通常はMNO側が複数の料金プランを提供しているのとは逆に、ユーザー側で最適かつリアルタイムに設定する、というものだ(図2)。

【図2】一般的なキャリアの料金プランとDTIの「Semantic Switch」との比較

【図2】一般的なキャリアの料金プランとDTIの「Semantic Switch」との比較

(出典:フリービット プレスリリース http://www.freebit.com/press/pr2013/20131025.html)

具体的な設定とコントロールは、端末にインストールしたコントロールアプリ「ServersMan SIM Unlimited」で行う(図3)。今回実装された「SiLK Sense」機能によって、高速モードで動作するアプリを指定し、バックグラウンドで自動的に通信速度を切り替える使い方が追加された。従来どおり、手動で通信速度を切り替える使い方も可能だ。

【図3】コントロールアプリ「ServersMan SIM Unlimited」の設定と動作

【図3】コントロールアプリ「ServersMan SIM Unlimited」の設定と動作

左(a)「SiLK Sense」による通信速度の自動切替  右(b)通信速度の手動切替

(出典:Google play)

ユーザーが決める料金プラン

前ページで触れたフリービットのプレスリリースでは、前述の「条件設定」は、利用するアプリ、1日当たりのトラフィック量上限、場所と時間など、さまざまな種類の条件を想定しており、Aさん・Bさん・Cさんというユーザーに当てはめている(図4)。但し、これらすべてが実際にリリースされたわけではなく、今回は利用するアプリに応じた通信速度切替、つまり図4(a)の「Aさんのプラン」のみ。(b)(c)についてはプレスリリースでは具体的な言及がなく、今後サービスに盛り込まれるかどうかは未確定だ。(b)(c)が実現されるかどうかはともかく、フリービットが強調しているのは、ユーザー自身が自分にとって最適なプランを組み立てることができ、子会社のDTIを通じてカスタマイズ性の高いシステムを提供する、という点だ。

【図4】DTIのサービスで想定している「条件設定」

(a)利用するアプリに応じた速度切替(今回リリース)

(a)利用するアプリに応じた速度切替

(b)1日当たりのトラフィック量上限設定

(b)1日当たりのトラフィック量上限設定

(c)利用場所、時間帯も含めた細かい設定

(c)利用場所、時間帯も含めた細かい設定

(出典:フリービット プレスリリースを基に作成http://www.freebit.com/press/pr2013/20131025.html)

大手MNOとのサービス比較

DTIのサービスとの比較として、大手MNOのLTEパケット定額プランを簡単にまとめる。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社においては、(1)低料金・低上限プラン、(2)通常料金・高上限プラン、(3)2段階定額プランの3種類にまとめることができる(図5、表1)。

【図5】大手MNOとDTIのLTEパケット定額プラン

【図5】大手MNOとDTIのLTEパケット定額プラン

【表1】MNO大手3社でのLTEパケット定額プランの名称

【表1】MNO大手3社でのLTEパケット定額プランの名称

(出典:図5、表1とも、各社Webサイトの公開情報から筆者作成)

通常モード(100kbps限定)だけで利用するならばDTIが490円と圧倒的に安い。では、DTIの高速モードで大手MNOの定額料金の分まで利用すると仮定すると、利用できるデータ量はどれだけになるだろうか。表2に簡単な計算の結果を示す。

【表2】大手MNOの定額料金でDTIが利用できるデータ通信量

【表2】大手MNOの定額料金でDTIが利用できるデータ通信量

(出典)

高速モードで約1.69GB利用すると「(1)低料金・低上限」の定額分(4,935円)に追いつく。すなわち、月々のデータ利用量が1.69GBに満たないユーザーはDTIの方が得ということだ。データ利用量が少ないライトユーザーで通信料金をできるだけ抑えたい、または、月々のデータ利用量は2〜3GBになるが利用シーンのほとんどがメールやSNSというユーザーは、DTIの導入を検討する余地がありそうだ。

考察:MNOとMVNOとの関係

今回のDTIの事例を参考に、MNOとMVNOとの関係を考察してみる。

レイヤ2接続の意義:現在国内でサービスを展開しているMVNO事業者の多くは、参入が容易なレイヤ3接続、または端末以外すべてをMNOに頼る再販型だ。レイヤ2接続は、MVNO側の設備投資が増大する、技術的困難が多い等の理由から、実施できている事業者はDTI(フリービット)や日本通信を含め少数に留まっている。しかし、レイヤ2接続を実現すれば、独自認証、IPアドレス割当、セッション管理など、MVNO側の裁量でできることが格段に増える(通信速度のコントロールもその一つ)。他のMVNO事業者とのサービス差別化や、技術力のアピールに直結するわけで、その意義と効果は大きい。

信号のやりとりという観点では、レイヤ2接続はMNOにも利点がありそうだ。通信速度を変更する際は端末とネットワークとの間で制御信号がやりとりされるが、レイヤ2接続ではMVNO側の交換機でこの制御信号を終端・処理して、MNO側の交換機に負担をかけずに済ますことができる。2013年1月に発生したNTTドコモのネットワーク障害では、このような制御信号が多数のユーザーから短時間に集中して発生したためにドコモの交換機に過度の負担がかかったが、MVNOの端末が発生する制御信号がMVNO側で処理されるのなら、MNOは交換機ダウンのリスクを回避できる。

回線リセラーとしての側面:大雑把な見方をすれば、MVNOはMNOの回線リセラーに見える。DTIのように基本的に低速でサービス提供するMVNOは、MNOから見れば帯域を細切れにして再販するようなものだ。MNO自身がこのようなビジネスを行うのは様々な制約があるが、MVNOなら問題は少ない。結果として、MNOはMVNOを介して回線容量を増やすことになり、ユーザーが付けばMNOにもメリットになる。

サブブランド的役割:MVNOはビジネスにおいて「NTTドコモの回線でサービスしている」という調子でアピールしており、MNOのネットワークだけでなくブランド力も利用している。このことと上記の回線リセラー的視点を合わせると、MVNOはMNOの「陰のサブブランド」という見方もできる(実際は複数のMNOと契約しているMVNOが多く、必ずしも一対一のサブブランド的関係にあるわけではない)。

まとめ

日本でMVNOが市場に占める規模はまだまだ少ない。Webアンケートによると、MVNOサービスの認知度は26.2%、実際に利用しているのは3.1%に過ぎない(MM総研 2013年9月調べ)。

そのような中、DTIは、大手MNOが提供する既存の料金プランに満足できないユーザーをターゲットとし、大手MNOとは異なるアプローチでサービスを展開している。MVNOの意義はまさにこのようなサービス・ビジネス展開にあり、MVNOの評価を高めることにつながっている。

清尾 俊輔

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