2013年1月23日掲載

2013年12月号(通巻297号)

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コラム〜ICT雑感〜

インフラ老朽化危機にICTを活用するにあたり必要な「気構え」

2012年12月の中央自動車道笹子トンネル崩落事故から1年がたった。事故直前の7月迄、山梨に単身赴任をしていた為、自宅との往復でこのトンネルをよく通過していた。事故のニュースを聞いた時、背筋が凍った。

笹子トンネルが完成した1975年は、60年代から80年代にかけての高度成長期に位置する。この時期には、道路、橋、トンネルおよび上下水道などの社会インフラが一斉に整備された。特に、60年代当初には、1964年の東京オリンピックに向け、首都高速道路が集中的に整備された。インフラは50年を過ぎると痛みが顕在化してくるという。2010年から30年代は、50年を経た高齢の社会インフラへの集中的な対応に追われることになろう。インフラ老朽化の危機は確実に迫ってきているのだ。約半世紀ぶりの2020年に開催される東京オリンピック。象徴的な節目として、この危機にどう対応していくか注目されている。

大量のインフラの補修、更改に莫大な費用がかかることはいうまでもない。将来は財政難により新設もままならなくなる。新設至上から予防保全へのシフトは自明の流れだ。この財政難に対しては、公共施設の建設、保守運営等を民間事業者にゆだねるPFI活用等が議論されているが、ICTの活用も切り札として期待されている。ICT活用というと、「センサー、モニタリング、ビッグデータ解析で予防保全へ反映!」とすぐ連想するが、当然のことながら容易なことではない。各分野で研究開発、実用化の検討が進められている最中だ。センサーを例にとってみよう。社会インフラは膨大ゆえ、安価で一定の精度が保たれるセンサーが要求される。耐用性、蓄電の期間、サイクルも重要だ。電池の交換サイクルが、人間による点検のサイクルより短いのであれば、人間による点検の方が効果的ということになってしまう。現場ニーズをしっかりと把握した開発が重要なのは言うまでもない。一方で、活用サイドは、どこならばセンサーの活用が効果的になるのか、効果的なポイント、人が入りにくい場所、長時間連続して観察したい場所等をしっかりと考えることが重要だ。モニタリングも然りだ。

ところで、ICT活用の時代に、「人間の目視尊重」というと怪訝な顔をする人がいるかもしれない。確かに、ハンマーで「コンコン」と叩いて劣化を判断するなど、なんと時代錯誤か、と思う人もいるだろう。しかし、専門の先生のお話によれば、点検が難しい疲労に対して、最も優れた検査方法はプロによる目視であるとのことだ。壊れていないものを破壊して内部を点検する、あるいは壊れ方もわからないのに非破壊検査をするというのは、コスト面から現実的ではない、とのことだ。もちろん、それを解決するための研究開発、ICT化が進められていると思うが、そのためのベンチマークとして、敬意をもって、「人間の目視」というノウハウを継承していく事は重要と考える。人間による点検とセンサーの点検のベストミックスで現実的な対応をしていくことが重要なのだろう。

ICT活用にあたって重要なことは、やはり人間の判断だ。予防保全のためにモニタリングすれば、データの異常を検知することが多々あろう。それが、誤差なのか、場合によっては、通行止め等にしなくてはならないのか、判断を迫られよう。大事なのは、ICT活用でデータを入手し、分析した場合のシナリオだ。一旦、通行止めの判断をしたら、社会的に大きな影響をもたらす。一方で、再開するならば、なぜ、再開できるのかをしっかりと説明できなくてはならない。ICTは所詮道具で、どう活用するかのシナリオを人間がしっかり策定しておかなければ、宝の持ち腐れどころか、とんでもないミスリードをすることにもなる。社会に大きな影響を及ぼすインフラ老朽化危機にICTを活用するには、それなりの「気構え」が求められる。

マーケティング&ソリューション研究グループ 部長 松田 淳

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