2014年4月7日掲載

2014年2月号(通巻299号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

MVNOの隆盛はモバイル通信市場の拡大となるか?

最近、MVNO(仮想移動体通信事業者)のSIM、即ち“格安SIM”を巡るメディアの報道が数多く見られるようになっています。例えば、格安航空会社(LCC)のデータ通信版といった表現やSIMカードを使ったLTE─月1,000円未満プランを競う、など特に月額通信料金の低価格競争がしばしば取り上げられています。現実に月額1,000円未満の通信料でLTE回線が利用できるMVNOのサービスは数多く存在します。格安SIMによる低価格競争が花盛りの様相を呈しています。

MVNOの契約者数は2013年9月末で1,257万、これを回線別にみると携帯回線とPHSが642万と約半数であり、WiMAXとAXGPが合計で615万となっていてMNO(モバイル通信事業者)であるMVNOが契約数の5割以上を占めているのが実態です(総務省公表資料)。WiMAXやAXGPでは提供しているMNOが特定していることから、MVNOとサービス提供MNOとの間はサブブランドや販売ルートなどで協調関係にあり新しい市場参入者とは必ずしも言い難い存在です。結局MVNOによるモバイル通信市場へのインパクトは携帯回線、多くはLTE回線を用いたMVNOによってもたらされることになります。携帯回線に占めるMVNO契約シェアは4%程度と思われますが、主要国のなかではイタリア、スウェーデン、オーストラリア並みで、10%を超えるドイツ、アメリカ、イギリスとはMVNOの普及率では差が生じています。

この理由は我が国のモバイル通信市場が規制面で、また市場慣行面で欧米各国とは異なっているところが大きいと考えられます。もちろん、この両者が結び付いてしまってMVNOによるサービスの多様化が進みにくい状況をもたらしているとも言えます。日本ではMNOに対しMVNOへの接続提供義務を課した上に、第二種指定電気通信設備規制としてNTTドコモに対して非対称な形で接続約款の届出や相互接続料金規制を課しています。一方、欧米主要国ではこうしたMNOとMVNOとの関係を規制する取扱いはなく、両者の関係はもっぱら市場においてビジネスベースで進んでいて、その結果ビジネスモデルの差別化が図られ競争が促進されてMVNOの普及が進んでいます。つまり、MVNOの普及を図る趣旨でMNOに相互接続義務を課し約款の届出義務や接続料金規制を行うと、両者の取引条件は関係者間で均等化しオープンとなるので、一見公平で透明性の高い競争が幅広く進展しそうですが、そもそもMNOの間で設備競争や価格・サービス競争が展開されている状況下では逆に契約諸条件の均等化・オープン化はサービスの多様化を妨げてしまいかねません。実際に現在起きていることは格安SIMによる通信料の低価格化競争が中心で、多様化はまだまだ十分とは言えません。これにはMNOサイドにも原因があることは否定できないでしょう。即ち、MNO間の競争激化の結果、ゼロ円端末とキャッシュバック路線が一般化してしまい、SIMフリー端末の普及やSIMロック解除の取り組みがどうしてもないがしろになってしまっています。MNO3社の間では“現在日本は、世界一スマホが安い国と言っても過言ではない。「iPhone5S」が実質負担金ゼロかつ現金の還元があるという国は他に見当たらない。”(読売新聞論点2013.12.25「端末ゼロ円の代償」北俊一氏)という極端な現象が生じていますが、これもMNP偏重のシェア獲得合戦に陥っている結果のことです。2007年の総務省「モバイルビジネス研究会」では販売推奨金と端末買い替えを巡る不公平感から、端末と回線の会計分離が示され電気通信事業会計規制が改正されて現在に至っていますが、今日の問題はMNPを利用した端末買い替えと従来のような販売推奨金を原資とした端末価格の値引きではなく月々の通信料の割引きを原資とした実質負担の軽減(ゼロ円化)なので、形式上単純な会計  分離では解決せず新たな制度上の工夫が求められます。

MVNOによる価格・サービスの多様化を促進し、MNOとMVNOの間の自由な取引条件の交渉・合意に基づく競争市場を整備するためには、一方でMVNOへの相互接続義務を見直して市場における自由で競争的なビジネスベースでの関係に向けて整理することが第一であると同時に、携帯端末と回線契約がセットで販売されている市場慣行をもっと自由な形に改める必要があると思います。そのためには端末のSIMフリー化、SIMロック解除手続きの制度化にMNO3社が積極的に取り組むことが求められます。現状のようにiPhoneの新製品が発売になる都度、万円単位のキャッシュバックがMNP利用ユーザーに支払われる現象は市場競争の結果とはいえ、やはり異常な状況ではないかと感じています。通信料金それ自体が約款の下で定められているということは誰でもその規定に従った条件でサービスの提供が受けられることを意味しており、その範囲で通信事業者とユーザーとの間の権利義務関係が定まっているので両者間の法的安定性が継続している利点がある訳です。それがMNP利用者がある特定の端末購入時に特別の便益を得るのであれば、それが広義に通信料に上乗せして含まれている規模に達するのであれば、通信サービスを約款で提供するという制度の趣旨に反することになりそうです。日本のMNOはソフトバンクによるイ・モバイル買収の結果、実質3社に減少し寡占状態が進むことが危惧されるようになっています。3社間の事業規模の均衡化は主として他社から顧客を奪い合う競争、即ち割引き・値引きやポイント付与・現金還元といった低価格競争をもたらすと想定されます。そこでは訴求に手間がかかるサービスの多様化競争は後に追いやられることでしょう。

現在のMVNOの隆盛はソフトバンクのプラチナバンド免許とイー・モバイル買収と時期を同じくして話題になっていますが、これも新たにMVNOをMNOへの競争者として見立てての競争促進効果を評価してのことだと推察します。残念ながら、今までのところMVNOが提供するサービスは価格面が中心であり、ようやくタブレット等の2台目需要や法人市場開拓といった取り組みが見られるようになってきました。多様化としてはプリペイド方式、中古端末の活用、アプリに対応できる通信速度の調整、アメリカに見られるデータシェアプランなど様々な分野が考えられますが、現在の法規制(接続約款義務とコストベースの接続料金規制)と月額通信料金の割引きによる端末実質負担ゼロ化という市場慣行の下ではユーザーの選択範囲は限られたものにしかならないでしょう。現在のところ、Web中心の販売チャンネルの利用と世界的に需要の高いメーカー販売のSIMフリー端末、回線解約後または2年の拘束期間経過後のSIMフリー端末などが選択の対象となっているようですが、本来はユーザー自身が自分にあった料金プランやサービス内容・端末種別を選べる方がよいのは当然のことです。

MVNOだけでなくMNO(モバイル通信事業者)を含めて、2台目、3台目の端末利用やいろいろなアプリを取り込んだ新しいサービスプランを提示して、モバイル通信市場全体の拡大を目指して原点に立ち戻った取り組みが事業者と規制当局に期待されるところです。周波数配分の議論とiPhone販売の取扱いがモバイル通信3社間で比較的落ち着いている今こそ過去の経緯に捕われることなく前向き(forwardlooking)な議論が必要な時です。

株式会社情報通信総合研究所
相談役 平田 正之

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