2014年4月21日掲載

2014年3月号(通巻300号)

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メッセンジャーアプリをめぐる最近の動向:楽天のViber買収、FacebookのWhatsApp買収、LINEの新サービス導入

2014年2月14日、日本を代表するインターネットショッピングサイト楽天がメッセンジャーアプリViberを9億ドルで買収することを発表した。2月19日には世界最大のソーシャルネットワークFacebookが世界最大のメッセンジャーアプリWhatsAppを190億ドルで買収することを発表した。また2月26日にはLINEが一般の電話とも通話ができるといった新サービス導入を発表した。2014年2月はメッセンジャーアプリをめぐって様々な動きが見られた。メッセンジャーアプリはこれからどういう方向に向かっていくのだろうか、各企業の狙いを考察する。

楽天のViber買収:「楽天経済圏」への足掛かりとしてのメッセンジャーアプリ

日本を代表するインターネットショッピングモールを運営する楽天は2014年2月14日、メッセンジャーアプリ「Viber」を提供しているキプロスに本拠地を置くViber Media Ltd.の発行済全株式の取得及び新株発行の引受を行い、総額9億米ドルで取得することを発表した。

Viberはイスラエル人のタルモン・マルコ氏とイゴール・マガジニック氏が設立し、2010年12月からサービスを提供開始した。Android、iOSが搭載されたスマートフォン以外にもWindows Phoneやブラックベリー、シンビアンなどにも対応している。日本ではメッセンジャーアプリは「LINE」が有名だが、Viberは全世界で約3億人の登録ユーザー(月間アクティブユーザーは1億500万人)が存在し、現在でも1日当たりのユニークユーザーが55万人増えている。世界的に見ても「WhatsApp」や「WeChat」と並ぶ有名なメッセンジャーアプリである。世界各国に利用者が存在し、現在その内訳は以下の通りである。

(表1)Viber利用者の地理的分布

(表1)Viber利用者の地理的分布

(出典:楽天発表資料を元に作成)

コミュニケーションの入り口をおさえた楽天

2013年末時点で、楽天グループ会員は日本の楽天会員が約9,000万、海外でのEC事業における会員が約6,000万、電子書籍事業のKoboが約1,800万、動画サイトVikiの月間利用者数が約2,800万で合計すると約2億に上る。これに今回のViber利用者約3億が追加され、全世界での楽天グループ利用者が5億に達する。楽天の三木谷浩史代表取締役会長兼社長は、新たな楽天のグローバル戦略の一環としてViberの買収を位置付け「楽天経済圏の拡大に寄与する」と語った。

Viberは全世界で3億ユーザーが利用しており、その使い勝手は日々のメッセージのやり取りである。つまり、利用している人にとっては毎日目にするコミュニケーションのプラットフォームなのである。現在では欧米のような先進国だけでなく新興国においても従来のショートメッセージ(SMS)によるコミュニケーションから、メッセンジャーアプリへとコミュニケーションのツールが移行しつつある。特にViberは新興国で人気が高いノキアの従来型携帯電話(S40対応のフィーチャーフォン)でもサービスを提供していることから、その裾野は広い。

このチャネルをおさえるということは、世界中の消費者とのコミュニケーションの入り口をおさえたことになる。現在は通話とテキストというメッセージのやり取りが主流であるViberだが、このコミュニケーションプラットフォームを通じて、従来のメッセージサービス以外にもゲームやコンテンツなどの販売を行っていくこともできるだろう。

メッセージのやり取りだけでは儲からないことは楽天も承知しているだろう。楽天としては全世界3億ユーザーのコミュニケーションの入り口をおさえることによって、将来そこを経由して様々なコンテンツ配信やEC事業の拡大に繋げていきたいところだろう。特にメッセンジャーアプリが大人気の新興国市場への足掛かりとしてViberへの期待は大きい。

競争が激しいメッセンジャーアプリ市場とViberのアクティブユーザー数

一方で、どのメッセンジャーアプリも基本的に無料でダウンロードできるため、ユーザーも1人で複数のメッセンジャーアプリを使い分けていることが考えられる。Viberがなくとも他に代わりのメッセンジャーアプリがたくさん存在しているのである。

Viberも3億人のユーザーを抱えていても、彼らのほとんどは無料でしか利用していない。またViberの1カ月の月間アクティブユーザーは1億500万人とのことである。つまり登録しているが、1カ月のうちに利用しているのは半分以下ということになる。Viberの利用には電話番号の登録が必要になる。しかしプリペイドが主流の新興国ではSIMカードを購入するたびに電話番号が頻繁に変更される。プリペイドのSIMカードを購入して、差し替えるたびに電話番号が変わり、そのたびにViberを登録している人もいるだろう。つまり1人が複数の電話番号で何回かViberを登録していることが、アクティブユーザーの少なさの要因であると考えられる。

さらに他にも乱立しているメッセンジャーアプリを利用しているため、Viberをダウンロードはしたものの、現在は利用していないというユーザーが多いのかもしれない。そのため、Viberを入手したからといって本当に最大3億のユーザを入手したとは単純にはいえないだろう。とはいえ、それでも1カ月に1億500万のアクティブユーザーは相当に大きいと考えられる。

世界中で新たなコミュニケーションプラットフォームとして確立されてきたメッセンジャーアプリは非常に競争の激しい市場である。広告が多かったり、使い勝手が悪いとユーザーはすぐに違うアプリに移ってしまう。楽天の配下になったViberは今後、どのようなサービスで差別化を行い、世界中のユーザーがどのように受け入れるのか注目である。

ECで稼いだお金で周辺事業への投資、そして最後はECへ

楽天は2014年2月14日に2013年12月期の連結決算(国際会計基準)は営業利益が902億円と前の期比80%増え、最高を更新したことを発表した。売上高は29%増の5,185億円で、「楽天市場」などの電子商取引(EC)の取扱高は2割増の約1兆7,000億円と最高となった。プロ野球チーム楽天ゴールデンイーグルスの日本一優勝セールなど大規模なセールの効果もあって、10〜12月期には新規購買者が前年同期比5割増えた。仮想商店街「楽天市場」を中心に、インターネット通販事業が拡大したこと、ネット金融事業も伸びたことで電子書籍や物流などの赤字を補った。「楽天市場」事業の営業利益は738億円と13%増加した。楽天の事業の中核はこれからもECであろう。但し、日本国内ではネット通販事業ではヤフーが店舗の出店料を無料化するなど攻勢をかけており、いつまでもこの状態が続くとは限らない。楽天としてはECを拡大するためにはECで稼いだお金に余裕があるときに投資することによって、ECで買い物をしてくれる顧客への間口を広げる必要がある。そのためにViberを9億ドルで買収したと考えると、今回のViber買収は楽天にとって「安い買い物」ではないだろうか。

WhatsAppを手に入れたFacebookが欲しい「広告以外の収入」

世界最大のソーシャルネットワークサービスFacebookは2014年2月19日、世界最大のメッセンジャーアプリ「WhatsApp」を最大190億ドル(約1兆9,000億円)で買収することを発表した。この金額の規模について国内外のメディアで様々な議論を呼んでいる。しかし「不要なものなら1円でもいらないが、どうしても欲しいものや必要なものなら、お金を出す」というのが「買い物の基本」である。今のFacebookは190億ドルを払ってでもWhatsAppを手に入れたいのだろう。

WhatsAppの利用者は全世界で4億5,000万人、そのうち70%がアクティブユーザーである。毎日100万人の新規ユーザー登録がある。メッセージ量は全世界の通信事業者が扱うショートメッセージ(SMS)に相当する。日本ではメッセンジャーアプリは「LINE」が有名で多くの人に利用されている。また前述のように最近は楽天が9億ドルで買収した「Viber」が注目を集めている。しかし、欧米ではメッセンジャーアプリといえば「WhatsApp」であるといったように圧倒的に利用者が多く、筆者も欧米の知人らとのコミュニケーションをとるために「WhatsApp」を利用している。

モバイル広告は絶好調なFacebook

今回買収を行うFacebookの最近の業績を見ておこう。同社は2014年1月29日、2013年第4四半期(10〜12月)の決算を発表した。モバイル広告が好調で、売上高は前年同期比63%増の25億9,000万ドルで過去最高を記録した。純利益は前年同期の約8倍の5億2,300万ドルだった。収益の大半は広告である。広告による売上高は前年同期比76%増の23億4,000万ドルで、総売上高の91%を占めている。またモバイル広告が拡大しており、広告収入全体に占める割合が前期の49%から53%に拡大し半分を超えた。Facebookの日間アクティブユーザー数(DAU)は22%増の7億5,700万人、月間アクティブユーザー数(MAU)は16%増の12億2,800万人。そしてモバイルからのDAUは49%増の5億5,600万人、MAUは39%増の9億4,500万人。モバイルからだけアクセスするユーザーのMAUは89%増の2億9,600万人と大きく伸びている。

(表2)Facebookの売上高推移
売上高のほとんどが広告に依存していることがわかる。

(表2)Facebookの売上高推移 売上高のほとんどが広告に依存していることがわかる。

(出典:Facebook)

期待以上に伸びなかったFacebookメッセンジャー

Facebookには「Facebookメッセンジャー」という彼ら自身のサービスがある。これは2011年3月にメッセンジャーアプリ「Beluga」を買収して、それを元にして登場したものである。Facebookメッセンジャーは欧米を中心に利用者数規模も多いように思われるが、2013年11月にOn Device Researchが発表した調査によると、アメリカでもWhatsAppの方がFacebookメッセンジャーよりも多く利用されている。「Beluga」を買収してサービスを開始したにも関わらず、WhatsAppやLINE、Viberほどメジャーなアプリではない。そもそもFacebook自身がコミュニケーションのプラットフォームであるから、Facebookメッセンジャーとの使い分け、棲み分けがユーザーにとっても理解できないのだろう。

(表3)アメリカで週に1回はアクセスしているメッセンジャーアプリ

(表3)アメリカで週に1回はアクセスしているメッセンジャーアプリ

(出典:On Device Research調査)

Facebookが新興国市場を狙っているという誤解

新興国ではPCは保有していないがモバイルは利用している人が非常に多い。そのようなモバイルがコミュニケーションの中心となっている市場ではWhatsAppの存在感は非常に大きい。Jana Mobileの調査によると、新興国市場においてはWhatsAppがFacebookメッセンジャーよりも圧倒的に多く利用されていることがわかる。

たしかに、新興国市場は人口も多く成長の余地も大きい市場ではある。このような点からも、FacebookとしてはWhatsAppが強い新興国市場への足掛かりにしたいから買収を行ったという議論も見受けるが、FacebookがWhatsAppを買収したのは新興国市場の開拓が目的なのだろうか?

WhatsAppのビジネスモデルは、1年目は無料であるが、2年目から0.99ドル(年)が徴収されるビジネスモデルである。4億5,000万のユーザーがいたら、年間最大で約4億ドルの収入がある。しかし、2年目から0.99ドル(年)が利用に必要だからといって、本当に全員がちゃんと支払っているのかというと疑問である。特に新興国市場においてはプリペイドが主流で、クレジットカードを持っていないという若者が多い。また、先進国のようにキャリアの課金決済手段も整備されていないところも多い。それでもWhatsAppを利用している人がたくさんいる。彼らは本当に2年目以降に支払を行っているのだろうか。WhatsAppにとっての優良顧客の大半は欧米を中心とした先進国であろう。

(表4)新興国市場におけるメッセンジャーアプリの利用で、
どのアプリを利用しているか(単位:%)

(表4)新興国市場におけるメッセンジャーアプリの利用で、どのアプリを利用しているか(単位:%)

(出典:Jana Mobileを元に作成)

WhatsAppを手に入れたFacebookがやりたいこと

WhatsAppは買収後も、Facebookメッセンジャーとは独立したブランド、サービスとして存続するとのことである。これは上述の通りFacebookはBeluga買収後にFacebookメッセンジャーを導入したものの、想定以上に成長しなかったことから、今更あえて多くのリソースを投入してWhatsAppとサービス統合しようとは思わないだろう。WhatsAppのビジネスモデルは広告に依拠していない。ユーザーからの利用料金の徴収である。Facebookの収益の90%以上は広告収入である。Facebookとしてもいつまでも広告に依存した収益構造を続けていくよりも、事業の多角化を図り「広告以外の収入」の拡大を目指していく必要がある。現在のFacebookでの「広告以外の収入」の伸びは広告収入に比べると小さく、これから大きく成長するには何かしらのテコ入れが必要だった。

そのためモバイル広告の収入が順調なFacebookとしては、今のうちに「広告以外の収入」確保に向けてWhatsAppの買収に動いておくことが賢明と判断したはずだ。Googleも以前からWhatsAppの買収を検討していたと報じられている。他社に買われてしまう前にFacebookとしてはWhatsAppを手に入れておきたかった。そんなFacebookにとって最大190億ドルの買い物は、決して高いものではない。

サービス拡大で、コンテンツ収入依存からの脱却を目指すLINE

LINEは2014年2月26日、以下の3種類の新サービスを発表した。

  1. LINEアプリ上から国内外の固定電話・携帯電話に低料金で電話がかけられる「LINE電話」
  2. LINE公式アカウントの機能をAPIとして提供し、企業がカスタマイズして活用できる「LINE ビジネスコネクト」
  3. LINEユーザーが自分でスタンプを作成して販売できる「LINE Creators Market」

それぞれのサービスの概要をみていこう。

(1)低料金で一般の電話にかけられる「LINE電話」
LINEではLINEユーザー同士で無料通話ができたが、LINE電話では国内外の固定電話・携帯電話にもかけることができる。簡単な操作、クリアな音声、低料金のという3つの特徴を持つという。初期費用や月額基本料などは不要で、ケータイやスマホへは1分6.5円、固定電話への通話料が1分2円など、業界最低水準の料金が特徴。アプリ内決済もしくはLINEウェブストアで「コールクレジット」や「30日プラン」などを購入して利用する。サービス開始は、2014年3月を予定。まず日本、アメリカ、メキシコ、スペイン、タイ、フィリピンの6カ国でスタートする。複数の大手キャリアのプレミアム回線を利用し、通話量が多いことが見込まれる主要地間には専用回線を導入する、OSや端末機器ごとに最適化するなどの方法により、クリアで途切れにくい音声品質を実現したとしている。なお、LINEアプリ同士の通話はこれまで通り無料でできる。

(2)「LINE ビジネスコネクト」 「LINE ビジネスコネクト」はLINE公式アカウントの各種機能をカスタマイズして利用できるAPIの形で公開するサービス。ユーザーの同意を前提に、企業が自社のデータベースやシステムとLINEアカウントを連携させることで、従来のLINE公式アカウントのようにどのユーザーにも同じメッセージを配信するだけでなく、特定のユーザーの傾向を判断してそのユーザーに最適化されたメッセージを配信するといったことが可能になる。 例えば公式アカウントにピザのスタンプを送信するだけで宅配ピザを注文できる、位置情報を送信すればタクシーを手配できる、といったサービスが可能になる。なお、LINE側はインフラを提供するだけで、サービスを利用した顧客のデータを保持することはない。

(3)ユーザーが自作スタンプを販売できる「LINE Creators Market」 「LINE Creators Market」は、LINEユーザーなら誰でも自分で製作したスタンプを「LINE ウェブストア」上で販売できるマーケットのプラットフォーム。登録や申請は無料で、LINE側での審査をクリアすれば、40種類のスタンプを1セット100円で販売できる。売り上げの50%が製作した人の収入になる。審査受付や販売などのサービス開始は2014年4月以降を予定。

ゲームが60%のLINEの収益構造

ここでLINEの直近の業績を見ておこう。LINEは2014年2月6日、2013年通期および2013年第4四半期(10〜12月)の連結業績を発表した。2013年通期の連結売上は518億円、2013年第4四半期の連結売上は159億円(前四半期比16%増)となった。主力のLINE事業で海外ユーザー数が増加し、ゲーム課金コンテンツによる収入や広告収入などが伸びた。LINE事業における2013年通期の売上は343億円、第4四半期の売上は122億円(前四半期比20%増、前年同期比45%%増)。

同社では2013年より従来のグロス計上からネット計上に変更しており、今回の発表から過去の売上についてもネット計上で統一している(ネット計上はGoogleやAppleなどのアプリストアに支払う30%の決済手数料を除いた金額のうち、開発会社との契約に基づいてLINEが受け取る金額だけを売上として計上)。

ネット計上ベースのLINE事業における売上構成は、ゲーム課金が約6割、スタンプ課金が約2割、その他、公式アカウント・スポンサードスタンプ等になる。LINE GAME事業は、世界で総計51タイトルを展開。フィンランドやフランスなど欧州の開発会社と協力した新タイトルを提供している。プロモーションの強化により、台湾・タイでの利用および売上が増加した。

スタンプ事業は、メキシコでサッカー代表選手のスタンプを発行したり、インドで三大祭「ディーワーリー」の様子をスタンプにするなどローカライズに注力した。現在、「スタンプショップ」では350以上の有名キャラクターを起用したスタンプを展開している。

広告事業は、世界各国で公式アカウントおよびスポンサードスタンプを導入する企業が拡大しているほか、世界7カ国で展開するインセンティブサービス「LINEフリーコイン」も順調に伸びている。

(表5)LINEの事業推移

(表5)LINEの事業推移

(出典:LINE)

新たな収入源を求めるLINE:「LINE電話」は儲かるのか?

LINEの業績を見ての通り、収益の60%がゲームによる収入で、20%がスタンプである。LINEとしては新たな収益源を求める必要がある。そこで「LINE電話」による固定電話や携帯電話に電話をする際の接続料を徴収する新たなビジネスを提供してきた。但し、現在世界で3億7,000万のLINEユーザーがいて、彼らはLINEアプリを用いて無料で通話を行っている。そのような環境の中で固定電話や携帯電話に電話をかける需要がどのくらいあるのだろうか。また低価格料金による電話サービスは、「LINE電話」以外にも「楽天でんわ」、「Skypeアウト」、「050 Plus」など多くのサービスが既に存在しているため、非常に競争が激しい市場である。たしかに「LINE電話」は新たな収益源にはなるだろうが、LINEにとって大きな収入となってLINEの収益構造が変わることは少ないのではないだろうか。逆の見方をすると、「LINE電話」が登場したからといって、以前から通信事業者の音声通話は減少傾向にある既存の通信事業者に大きな影響を与えることもほとんどないだろう。

新たな収入源を求めるLINE:期待できる「LINE Creators Market」

今回LINEが発表した3つのサービスの中で一番の収益の柱として期待できるのは「LINE Creators Market」であろう。職業・年齢・プロ/アマチュアを問わず、LINEユーザーなら誰でも自分で作成したスタンプを「LINE ウェブストア」上で販売できるマーケットのプラットフォームで登録や申請は無料。LINE側での審査をクリアすれば、40種類のスタンプを1セット100円で販売でき、売り上げの50%が製作した人の収入になる。つまり、残りの50%はLINEの収入である。LINEとしてはプラットフォームを提供するだけで、個人が作成したスタンプ売上の50%を手数料として徴収できる。LINE側の元手もそれほどかからないうえに、手数料50%は相当に大きい。NTTドコモが提供しているiモードもプラットフォーム提供であるが、NTTドコモの取り分(課金代行手数料)はコンテンツプロバイダーの販売の9%である。これは「LINE電話」よりも魅力的なビジネスだろう。現在、LINEの収益におけるスタンプ事業は約20%程度だが、これによってどの程度増加するのか楽しみである。

ソフトバンクのLINE買収報道の完全否定

LINEが新サービスを発表する前日の2014年2月25日、ソフトバンクがLINEを買収するのではないかという報道が流れた。情報の発信源がアメリカのブルームバーグであったことや、最近の楽天やFacebookの動向から信ぴょう性が高いのではないかと憶測された。しかし翌日のLINEの新サービスの発表会でLINE側は買収報道を完全否定した。LINEとしては現在、ソフトバンクに買収されずとも自社で収益と事業を確立している。

ソフトバンクによるLINE買収の可能性は

一方、そのような報道が流れたソフトバンクとしては、可能ならばLINEを買収したかったのではないだろうか。ソフトバンクが現在注力しているのは、買収してグループ会社になった米国の通信事業者Sprintの立て直しである。さらにアメリカ4位の通信事業者T−モバイルUSAを買収してSprintと合併に向けて動こうとしている。しかし、このT−モバイル買収は当局からの承認が得られず、苦慮して  いるようだ。ソフトバンクはグループ会社であるガンホーなどが収益を支えている。しかし、インターネット関連の企業(特にコンテンツ系)は「一寸先は闇」の業界であり、来年も同じように収益に貢献しているかどうか不明である。LINEの収益の60%が現在はゲームではあるが、LINEには世界で3億7,000万のユーザーを抱えている。ソフトバンクモバイルやSprintといった通信事業者のように毎月料金が入ってくるわけではないが、コミュニケーションのプラットフォームとしてのポジションを築いている。それを利用することによって既存のソフトバンク、Sprintの通信事業との連携やサービス拡販など様々な展開を行うことができ、その可能性は非常に大きい。

このようにソフトバンクとしては現在収益を上げており、当面は収益やサービスの観点からソフトバンクに貢献してくれるであろうLINEをグループに取り込みたいという思いは強いのではないだろうか。

Googleも欲しかったWhatsApp

今回、Facebookに買収されたWhatsAppを巡っては、過去Googleも買収を計画していたという報道が多数ある。Googleは世界中のあらゆる情報を集めていくことを目標としている。そのような中でソーシャルメディアやメッセンジャーアプリで流通している情報は、個人の受発信する情報の価値としては非常に高い。特にGoogleはFacebookに対抗して2011年6月に「Google Plus」というソーシャルネットワークサービス(SNS)を開始した。しかし、日本だけでなく海外でもいまだにFacebookの後塵を拝しており、今後挽回できる見込みも少ないといわれている。そのような環境の中で、「Google Plus」の立て直しを行うよりも、すでに世界で4億以上のユーザーを抱えているWhatsAppを手中におさめたいと考えるのは当然の流れだったはずだ。メッセンジャーアプリはWhatsApp、LINE、Viber以外にも世界中にはKAKAOやWeChat、Tangoなど多数存在している。しかし、買収してまでも取り込みたい「価値のあるメッセンジャーアプリ」は限られている。

Googleが2014年1月30日に発表した2013年第4四半期(10〜12月期)決算は、売上高は前年同期比17%増の168億6,000万ドル、純利益が17%増の33億8,000万ドルで、売上高、純利益ともに過去最高を更新した。Googleとしてはお金に余裕があるときに、WhatsAppを入手したかったのではないだろうか。資金力があるGoogleに買われるよりも先にFacebookとしては自社に取り込んでおきたかったことを考えるとFacebookがWhatsApp買収に費やした最大190億ドルは決して「高い買い物」ではなかったはずだ。

これからも競争が激化するであろうメッセンジャーアプリ市場

メッセンジャーアプリが世界中でコミュニケーションのプラットフォームとしてその中心に存在している。そこを押さえることによって各社は今後、様々なサービス展開や自社の中核事業の強化を行うことができる。

メッセンジャーアプリは基本的に無料でダウンロードできるため、1人で複数のメッセンジャーアプリをダウンロードして目的や相手に応じて使い分けている。ほかにもTwitterやFacebookといったSNSでのコミュニケーションも存在している。つまり、LINEがなくなってもWhatsAppという代替があればいい、という移り気なユーザーが多い。LINEやWhatsAppしか利用しないというユーザーの方が少ないだろう。非常に競争が激しい市場である。そのような環境の中で、今後各社がどのような戦略を打ち出してくるのか、引き続き注目である。

(表6)メッセンジャーアプリをめぐる各社の動向

(表6)メッセンジャーアプリをめぐる各社の動向

(出典:著者作成)

執筆者 佐藤 仁

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