2014年5月26日掲載

2014年4月号(通巻301号)

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コラム〜ICT雑感〜

おもてなしの基盤づくり
〜外国人旅行者の受入拡大に向けたICTの活用

観光庁が2014年3月26日に発表した「訪日外国人消費動向調査」によると、2013年の1年間に日本を訪れた外国人の旅行消費額は1兆4,167億円と推計され、前年(1兆846億円)と比べ31%増となり過去最高を記録したという。

世界観光機関(UNWTO)の統計では、2012年の世界全体の海外旅行者は前年比4%増加し、史上初めて10億人を突破した。UNWTOは、この勢いは更に加速して2020年の海外旅行者は16億人に達するものと見込んでおり、国際観光ビジネスは今後の大きな伸びが期待できる成長分野となっている。

日本では、外貨収入の獲得と地域活性化による雇用創出の可能性を秘めている外国人旅行者の拡大を、成熟期に入った日本経済が人口減少下で新たな成長を遂げていくための重要な戦略の一つと位置付け、2003年に「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を開始し、2008年には観光立国推進戦略会議で「2020年までに外国人旅行者受入数2,000万人」を目標に掲げて各種取り組みを展開してきている。しかしながら、2013年の外国人旅行者の受入数は、円安へのシフト、東南アジア諸国でのビザ発行の緩和、格安航空会社の新規就航等も相俟って、前年比24%増の1,036万4千人と初めて1,000万人を突破したものの、世界各国と比較すると、日本は2012年実績で33位(837万人)にとどまっており、1位はフランスで8,302万人、アジアでは中国の5,773万人を筆頭に、マレーシア2,503万人、香港2,377万人、タイ2,235万人などが上位を占め、韓国も1,114万人と日本を上回る受入数となっている。

外国人旅行者の受入数が多い国々の状況を見てみると、フランスは、国内旅行を含む観光産業がGDPの約7%を占め、全産業のトップとなっている。2009年には外国人旅行者の更なる拡大に向けて、国家レベルの観光担当機関である「フランス観光開発機構」が発足し、広告宣伝とマーケティング、観光地としてのフランスをアピールする啓発活動、ホテルの格付、観光業者の登録管理、流通網への働きかけなどの役割を担い、見本市、ワークショップ、プロモーション・セミナーのほか、毎年2,000以上の海外観光業者を迎えての研修旅行や、年間2,000名以上の海外報道関係者を取材に招待するプレス・ツアーなどを実施している。また、同機構が運営するポータルサイトは17言語に対応し、世界各国・地域でのマーケティングに基づいて各々の国・地域毎に最適化された観光情報を提供しており、ワインや史跡などテーマ別の旅をわかりやすい形で提示しているほか、サイト上で旅行プランの設計からホテル予約までを一元的に行える仕組みを構築している。更にFacebookやTwitterといったSNSと連動させ、海外の消費者との双方向のコミュニケーションにも力を入れている。

マレーシア、シンガポール、韓国では、医療サービスの受診・受療を目的に他国を訪れ、併せて観光を行う「医療観光」に力が入れられている。韓国は、医療観光を国策事業の1つと位置づけ、2020年に医療観光者を50万人にすることを目指しており、2009年に医療サービスの受診・受療を目的とする外国人のために新たに医療専用ビザを導入し、ICTとバイオ技術の導入による先進医療サービスとクレジットカード1枚で予約から治療までを可能にするワンストップサービスを武器に、2012年には前年比27%増の15.5万人の医療観光者を受け入れている。このうちICTを活用した取組事例として  は、2012年にテグ広域市のケミョン大学病院が、医療観光でカザフスタンから同病院を訪問して手術を受けた患者の術後ケアを行うため、カザフスタンにユビキタスヘルスケアセンターを設立し、手術を担当したケミョン大学病院の医師が同センターから伝送されてくる医療データを見ながらテレビ電話でカザフスタンの患者と会話して術後の健康状態をチェックする国際遠隔診療などがある。

一方、日本の取り組みについては、現在、観光庁所管の日本政府観光局(JNTO)がフランス観光開発機構と同様の役割を担っているが、フランス観光開発機構が世界32カ国に37の海外事務所を設置し、また世界中に約150人の国際アドバイザーを擁して各国・地域の実情に基づくキメ細かいアドバイスを観光政策に反映させているのに対し、JNTOの海外事務所は半分以下の13都市にとどまっている状況にある。

今後、日本が外国人旅行者の受入数を増加させていくためには、訪日に向けたプロモーションや旅行プランの設計・予約のサポート、滞在中における旅行者のニーズに応じた情報提供や観光名所・主要都市等での通信環境の整備など、ICTを活用して新規旅行者やリピーターの獲得につなげていくことが必要である。

訪日に向けたプロモーションとしては、JNTOが12言語に対応したポータルサイトを運営しており、そのコンテンツの質と量はフランス観光開発機構のポータルサイトと遜色のないレベルで、年間ページビュー数は約1億7,000万(2010年度、Facebookを含む)とフランスの5,000万余り(2012年)を大きく上回っている。また4言語に対応している宿泊検索・予約サイト「Japan Hotels & Ryokan Search」を運営しているが、ポータルサイトから独立しているなど使い勝手の面で改善の余地がある。

滞在中の情報提供や通信環境については、スマートフォンの急速な普及に対応して、AR(拡張現実)アプリによる観光情報の発信など自治体や民間事業者からの情報提供が行われているほか、旅行中の感想等を手軽に情報発信できるよう無料のWi−Fi環境の整備が全国各地で始められている。こうした取り組みの中には自治体や企業からの一方通行の情報発信となっている場合もあるため、今後はSNSによるリアルタイムで双方向の情報のやりとりや、デジタルサイネージ・動画での視覚的にわかりやすい情報提供などを充実させていくとともに、旅行者の行動や訪問先の評価等をデータベース化して旅行商品の開発・改善に活かす仕組みの構築も求められる。

東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、2020年には多くの外国人が日本を訪れることになる。オリンピック・パラリンピックの開催は、前述の「2020年までに外国人旅行者受入数2,000万人」の達成に向けた強力な追い風となるが、開催後もリピーターと新規旅行者の維持・拡大を図っていくためには、オリンピック・パラリンピックの開催で来日した外国人旅行者に、日本の魅力をしっかり伝え、滞在中の快適さを体感してもらう必要がある。そうした意味では、外国人旅行者の受入環境整備の期限が2020年であることが改めて示されたとも言えるわけで、オリンピック・パラリンピックの招致に際して日本が誇る「おもてなし」をアピールしたことも踏まえれば、ICTを活用した外国人旅行者の受入環境整備を「おもてなし」の基盤づくりと捉え、官民が一体となってその取り組みを加速させていかなければならない。

企画総務グループ/情報サービスビジネスグループ部長 山内 功

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