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InfoCom World Trend Report
2014年7月24日掲載

2014年6月号(No.303)

※この記事は、会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

前回は現在進行中の欧州における通信規制の見直しへ向けて、通信業界がどのような要求を出しているかを見てきた。今回は欧州委員会がそれに対してどのような規制案を作成しているのかを考えたい。業界の訴えは規制案にどのように反映されているのだろうか。欧州委と業界の間には取引といえるものが成立するのだろうか。

通信の単一市場構築〜背景

EUは現在、通信セクターにおける単一市場の形成へ向けて具体的な制度改革案の審議を進めている。EUの単一市場は、人、モノ、資本、サービスの自由移動を実現させ、米国市場に匹敵する大規模な統一経済圏を欧州に作ろうという目的をもっている。「単一市場の形成へ向けた規制案(仮称)」(COM (2013) 627)は2013年9月に欧州委員会が採択し、立法へ向けて現在、欧州議会および閣僚理事会で審議中である。通信の単一市場実現は債務危機対策の一環として、EU全体にとっても重要な位置づけを与えられており、2011年、2012年の単一市場議定書の中でも、経済のデジタル化への対応策が急務とされている。例えば、デジタル単一市場と情報インフラの整備、電子商取引やオンラインサービスの拡充、電子公共調達の実施などは優先項目とされている。単一市場のための規制改革については、その担当委員には実現にプレッシャーがかかっている可能性がある。案はすでに制度が成立している他のセクターの単一市場を参考にしつつ作成された。欧州委は2014年4月の法案通過を希望していたが、5月の欧州議会選挙で審議は中断している。規制案はその野心的内容からして当初からかなりの変更修正が予想されていたうえ、議会、閣僚理事会からのサポートも芳しくない。今秋までのクルース委員の在任中における成立は極めて難しくなった。

なぜこのようなぎりぎりのタイミングの提案となったか。今回の規制案は大型であるにもかかわらず、事前の一般向けコンサルテーションを実施することもなく発表された。欧州委員会自身は、既に欧州委員会内部の関係総局や業界などと非公式の場では十分に議論を重ねてきたと述べている。

今回の法案を作成したICT総局の代表、クルース委員は2013年3月の欧州理事会(国家元首の集まりでEUの政策指針を決定する)会合において、デジタル単一市場を2015年までに十分に機能させるための方策を、2013年10月までに打ち出す意向をEUトップに伝えたとされている。法案発表はその6カ月後であった。 クルース委員は何もしていなかったわけではなく、それ以前からもブロードバンド投資について通信業界大手とは対話を重ねてきた。EUのブロードバンド普及目標の達成状況が芳しくないからだ。例えば、30Mbpsブロードバンドカバレッジは2020年に100%達成を目指しているが、2012年時点のカバレッジは54%に過ぎない。深まる不況で事業者の投資意欲が停滞する中、欧州委員会の業界への呼びかけは懇願にも近いものであったかもしれない。新規制案はそのような背景の中で策定された。「単一市場」と「高速ブロードバンド投資」はEU全体からクルース委員自身へ与えられた責務である。新規制案はこの二重の目標を統一的に達成するように設計されていると考えられる。この状況下で通信業界側の交渉力は相対的に高まったのだろうか。

【図1】単一市場へ向けた規制案の主要な項目

【図1】単一市場へ向けた規制案の主要な項目

(出典:規制案文書をもとに情総研作成)

単一市場規制案の構造
〜クロスボーダーブロードバンド提供の環境

今回の規制案は、「規則」ステータスの法案が1本のみとなっているが、現行指令類の修正を含み、内容が多岐にわたっている。説明のため、敢えて全体像を整理すると図1のようになる。図1は筆者の理解に基づいて作成しており公式なものではない。

規制案は汎欧州サービス(European service)の提供環境を整備するための、一群の条項を含んでいる。これらは、(1)EU単一認可制度、(2)ブロードバンド提供のためのインプットを域内で共通化― という2段階で、クロスボーダーのブロードバンドサービスを提供しようとする事業者を制度的物理的に支援する仕組みになっている。以上に付随して、国際ローミング料金の廃止が提案されている。このルールは、2013年に定められていた国際ローミング規制を修正し、2016年までに域内のローミング料金を廃止しようとするものである。こちらは汎欧州サービス提供のための環境整備というよりは、特定の汎欧州小売サービスの特定料金における提供義務付けというものに近い。汎欧州サービスに直結するこれら提案のほかに、規制案には従来からの懸案事項であった周波数供給の拡大に関わるルール案、同じく懸案のネット中立性に関わるルール案、消費書保護に関わるルール案が含まれている。全体として、国境をまたがる汎欧州高速ブロードバンドネットワークが張り巡らされ、標準化された品質のサービスが得られ、国際通話の概念はなくなり、欧州市民は域内どの場所にいても自国内で通信するのと変わりない料金で携帯端末が利用できる― という未来図が描かれていると思えばよい。活躍するのは「EU事業者」という国境を問わず活動する大規模事業者である。次に、上記ルールの内容とその背景、および期待される効果について考える。

EU単一認可制度 (Single EU Authorisation)

「単一認可」はどのようなものか。いわゆるEUの「単一市場」は、商品や、資本や雇用などの生産インプットが加盟国内どこでも(商品ならば無関税で)自由に流通するという国境のない状態実現を目指している。もし加盟国の通信事業者は母国でこのEU単一認可を取得すれば、EU域内の国境は消滅し、どの国ででも自由にサービスができるようになる。疑似的に単一市場が生み出されると考えてよい。進出先で事業者は規制当局に地元の事業者と同等に扱ってもらえる。今回の提案で欧州委員会は「EU認可」(EU authorisationを仮にこのように称する)という枠の認可を設け、この認可を取得すれば、母国での手続き1回で28カ国どの国でも事業を行えるよう提案している。規制案作成当初、クルース委員はこのような認可を「EUパスポート」と呼んでいたといわれる。欧州委員会はこうした単一認可制度を整えることで、汎欧州市場における高速ブロードバンド提供に適した環境が設けられると考えている。

単一認可(EU authorisation)のメリット

このような認可制度のメリットは何か。欧州委員会案では、単一認可制度を導入すれば、事業者が他国に進出するたびに事業を開始するために当局から求められている事務手続きが不要になる点を強調する。EU認可の停止/取消権限があるのは発行元である母国当局のみである。この認可を持つEU事業者は進出先国の規制に従わなければならないが、そこで問題行動を起こした場合の究極的な取り締まり権限は母国当局がもつ。

EUの金融セクターでは、単一免許が既に存在しており、「単一免許制度」、「母国監督主義」と呼ばれている。「EU認可」と呼ばれはするものの、認可の付与あるいは停止を巡って欧州委員会の関与はなく、認可自体にブリュッセルを仰いだ中央集権的な性質があるわけではない。単一免許制度を採用する金融業界においては、大手事業者の母国の規制慣習が進出先欧州各地で併存する一方(1国内に複数の異なる規制当局が規制権限を発揮)、個別国レベルでは国内の事業者数や活動状況を把握できなくなるといった現象が起きることが知られている。ただし、この免許の導入以降、事業者にとって他国への進出が容易になったことは事実で、複数国へ進出する事業者数が大幅に増大したとされ、EU域外から進出してくる日本企業も恩恵にあずかった。現在提案されている通信のEU認可の具体的内容が、どの程度金融セクターの免許と共通するかどうかは明確ではない。ただ、EU母国で獲得したEU免許を持つ少数の事業者が汎欧州で活躍し、それを究極的に取り締まるのは少数の母国規制当局になるという。

単一認可の限界

しかし単一認可は、汎欧州事業にとっての最大の問題の1つである各国間における規制ルールの不統一を改善あるいは緩和する効果をもっていない。 すでにEUの現行の認可制度、すなわちEU認証指令(Authorisation Directive)は、個別国内の事業者について通信事業者の登録の条件を大幅に緩和して参入を容易化している(日本の届出程度の手続きと考えられる)。確かにEU単一認可を設けて不要な手続きを廃止することにより、多数国で事業をする事業者の手続きコストは減る傾向はあるだろう。しかし、英国議会報告書(European Scrutiny Committee 2013/10/24)によると、制度上、事業認可的要素が一切ない英国とデンマークのようなEU加盟国もあり、このような場合はEU認可方式という新たな制度を設けることによって事業者の負担はむしろ大幅に増大する可能性も指摘されている。

それよりも重要な問題は、権限の混乱に関わるリスクである。EU事業者、EU認可といったシステムを導入することによって、各国規制当局の権限を根本的に変える必要がでてくる。例えば、英国のオフコムの責務は英国消費者の便益を守ることにある。しかし、EU認可制度の下では、各国同局は自国事業者の他国における活動にも責任を負うことになるので、管轄権限をめぐる問題が生じる。英国議会報告書は、汎欧州サービス提供の前に立ちはだかる不合理な障壁の除去という欧州委提案の目的には賛同するものの、EU認可制度の導入を認めると、事業者の監督、取締などの本来の業務に遅滞が生じ、消費者や、EU認可をもたない競争事業者へ悪影響がおよぶ恐れがある;届出手続きを変えたとしてもそれによる状況改善は微々たるもので、英国にとってはむしろデメリットが際立つという見通しが強い;こうした懸念が解消されない限り英国は単一認可を支持することはできない― と意見している。以上のような議論は、新たな認可ジャンルを設けることで生じる混乱に対して、各国当局が共通に抱いている不安をよく表しているといえよう。

単一認可の役割

単一認可は汎欧州事業者に何を保証するのだろうか。今回の規制案で提案されているEU認可は、認可の性質と身分証明書の性質の両方を兼ね備えている。例えば、単一認可制度は図に示すとおり汎欧州サービスの環境整備を目的としたパッケージの不可分な一部とする見方ができる。この見方に立てば、欧州委員会は単一事業者の汎欧州市場における活動を保証するための義務を負うべきだということになる。したがって、汎欧州事業者にとって障害となるブロードバンドインプット(およびSMP規制)の各国間不統一を取り締まるための委員会権限強化は、必須項目としてパッケージに入らなければならない。

他方、単一認可はそこまでの権利関係を保証せず、どちらかというと身分証明書程度にしかならないという見方もできる。提案されているような欧州委員会の権限強化が最終的に立法化されなければ、そうした状況になるだろう。しかし欧州委員会の権限強化が伴わない場合は、汎欧州サービス環境のためのパッケージ全体が意味をなさなくなってしまう。単なる身分証では、法律を作ってまで導入する根拠が消えてしまうのである。

すなわち、単一認可が意味を成すのは、欧州委員会と大手通信事業者の間における一種の契約関係がこの認可制度で表現されている― という見方に立った場合だ。

それは欧州委は、大手事業者が大規模かつできれば複数国でブロードバンド建設投資することと引き換えに、汎欧州の円滑な事業展開を保証するという取引に他ならない。この取引の本質は、EU認可ではなく欧州委員会の権限強化である。現時点、EU認可という認可ジャンルを設けるメリットは測りがたく、その導入を業界すら評価していないのである。

ブロードバンド・インプットの共通化
〜周波数割当

次に提案されているのは、EU認可事業者が汎欧州サービスを現実に展開する局面でこれを支援する体制である。EU認可事業者は国をまたいでブロードバンドネットワークを構築する。欧州委員会案は、固定、モバイルそれぞれにおいて、域内でのインプット調達円滑化のため、一種の標準化を図ろうとしている。欧州委員会はその標準化を保証するために、このようなブロードバンド・インプットの共通化を妨げる制度上の問題があった場合には、欧州委員会は拒否権を行使する用意があるとする。上で述べたような一種の契約関係の見方に立てば、EU認可事業者の円滑な事業環境のためには、欧州委員会自らが介入し、EU認可事業者の活動する複数国間でも規制が整合的に運用されることを保証する義務が欧州委にはあることになる。EU認可事業者はどの国に進出しても、共通の規制環境で活動できて、かつローカルな事業者とは同等の待遇を受ける権利を保証されるところがポイントである。 

モバイルブロードバンドの究極的なインプットは周波数であるが、モバイル周波数に関しては、各国で割当の時期や割り当て条件が異なるため、複数国における展開がスムーズに運ばないという業界からの不満が強かった(本誌2014年3月号「EU規制見直しでモバイル業界が求めるもの」参照)
規制案ではこれを汲んで、

に関する共通化を達成させる枠組みを提案しており、その実現のため欧州委員会による拒否権発め欧州委員会による拒否権発動もオプションとして入れようとしているのである。周波数割り当て制度の各国間不統一を解消すれば、事業者の長期投資計画やスムーズなクロスボーダー展開が促される。

欧州委員会は特に、過大な周波数価格などを防止するという仕組みが盛り込まれている点をアピールしている。これまでも業界はオークション価格高騰の防止メカニズムを強く要求してきたが(前掲誌参照)、欧州委員会はこれに応え、周波数割当の承認プロセスの中に

を組み込んだことを訴えているのである。各国の周波数割当に関する決定案は、欧州委員会、他加盟国の承認を条件とし、審査の過程で必要な場合には、欧州委員会が決定取り下げを命じることが可能である。周波数価格暴騰が起きると予想されるオークション設計があれば、欧州委から修正や取下げの要請が出される可能性があるということになる。このように周波数割当の領域では欧州委員会の権限強化が決め手となる改革案が出されている。固定系では光アクセスというブロードバンドインプットの卸売商品に関しても同様に欧州委員会の拒否権が規制決定プロセスに組み込まれている。ただし、このように周波数割当の細部を巡って欧州委の介入があることを、各国当局・政府は歓迎していない。

ローミング規制

単一市場規制案にはローミング規制に関する条項も含まれている。ローミング規制自体は今回の単一市場のために新たに出てきたものではなく、これまでも継続的に行ってきた規制に上書きする形を取っている。 ローミングについてはすでに2007年からEU規制が存在し、現行の「第3次ローミング規則(2012)」では今後2022年までの料金引き下げスケジュールが確定している。欧州委員会案はこうした未実施のスケジュールも含め、料金引き下げを早期化しようという内容になっているが、それに伴う交換条件も添えられている。新規制案のポイントは、(1)2014年には音声着信ローミング料金を廃止する、(2)2016年までに発信ローミングの国内タリフ化が可能ならば(EU域内ならば国外でも携帯端末は国内と同じ料金で使える)、ローミングの卸を競合他社へ分離提供する義務を免除する―というものである。

現行の第3次ローミング規制によるシナリオでは、モバイル事業者は2014年の夏からローミングサービスを他のサービスから切り離して)提供することを義務付けられる。それに伴いモバイル事業者にはMVNOなど競合他社に対するローミングの卸提供義務が生じる。

しかし今回の提案では、2016年のローミング国内タリフ化という条件の下で大手同士の提携を認めるというオプションが加わった。すなわち事業者間協定を通じて「母国タリフ(ホームタリフ)」でローミングを提供できるならば、競合他社への分離提供はしなくてもよいのである。既に業界では、このようなサービスには提供実態があり、H3G、オレンジなどクロスボーダーで活動している事業者にとっては現在のビジネスを発展させるだけでよいので朗報である。ホームタリフ化はローミングの自前提供が可能な大手事業者にとって明らかに有利なオプションである。

現行のローミング規制のシナリオは、MVNOという中小プレーヤーの参加を通じた競争促進を目指していたのに対して、今回加わったシナリオでは大手同士の提携を奨励するというように、これまで取ってきた競争に対するアプローチが変わっている点が注目される。

合併規制の緩和

最後に、モバイル事業者の要求における核心ともいえる合併規制の緩和についてはどうだろう。欧州委員会の規制案は明確な答えを示していない。合併の許認可は本来ICT総局の管轄範囲ではないため、そもそも回答を期待することはできないというべきなのだが、実際にはクロスボーダー買収合併は汎欧州単一市場の発展を意味するだけあって欧州委員会も大いに期待している。また、単一市場規制案のなかには、「グローバル競争力」という言葉は何度も登場する。クルース委員自身、企業の大規模化に対して好意的で、「クロスボーダー市場に強力な事業者が数社(a few pan-European operators)という状態は、競争にとって必ずしも悪いことではないだろう(2012/6/11 The Reuters Technology and Media Summitにおけるスピーチ)」というように、大規模市場である中国、米国を例に挙げながら、これまで合併の効用については度々言及してきている。ただし、国内合併、国外合併の区別は明らかにはしない。
上に述べたように、ICT総局が提出した規制案はクロスボーダーのブロードバンドサービスを提供しようとする事業者を制度的物理的に支援する仕組みを提供しようとしている。単一市場という汎欧州規模の市場を創出が、業界の合併規制の緩和要望に対する回答になっており、この新しい市場における企業合併については、欧州委は前向きな姿勢で臨むと考えてよい。

事実、合併認可の当局である欧州委員会の競争総局は、従来からクロスボーダー合併については肯定的なコメントを発していた。しかし、同時に各国内の市場の中で事業者数が減ることについての厳しい姿勢は緩めない。アルムニア委員は「業界は次世代網への投資のために合併が必要と訴えているが、個別加盟国の内部で事業者が巨大化すれば、国内の市場支配力が増すだけだ(2014/3/7 南アフリカIBA会合におけるスピーチ)」というように、ブロードバンド投資を人質に取るような業界の要求をけん制しているのである。競争総局は国内市場の事業者減少による競争低下を嫌っており、合併の代わりにネットワーク共用など設備面での統合を奨めるなどしているといわれている。企業合併はネットワーク共用の究極形態と考えることができるが、企業合併では経営主体が2社から1社に減ってしまう。コスト削減が目的ならば、設備の統合だけで競争状態を保ってほしいというのが欧州委員会の意図であろう。競争総局は合併規制の緩和を求める欧州大手事業者に対して、汎欧州規模のネットワーク共用を提案し、一蹴されたという報道もある(2012年1月8日Financial Times, 同年1月9日 Reuter)。

欧州委員会が合併ルールを変更することは極めて考えにくい。現在も各国で持ち上がっている合併案件について、企業は、従来通りに周波数返上などの厳しい条件を呑まされることになるだろう。通信業界は欧州委員会がクロスボーダー合併に寛容であることを知っている。ゆえに前回記事(本誌2014年3月号「EU規制見直しでモバイル業界が求めるもの」)で紹介したETNOからの合併条件の緩和要望で、業界が訴えかけていたのは、実質、国内合併条件の緩和であるということになる。しかしこの要望を欧州委員会が聞き入れることなかった。

欧州委員会からモバイル業界への回答
未回答でも市場は動く

単一市場規制案を巡る欧州委員会とモバイル業界やり取りは、結局何をもたらすのだろう。欧州委員会の単一市場規制案は、汎欧州市場を舞台としたブロードバンド網建設という将来図を描いている。その登場人物は大手のクロスボーダー事業者が数社と見ている。こうすることで、域外から来る強力なグローバルプレーヤーにも伍して戦うことができるようになる(かもしれない)。委員会が示した規制案は、その意味で大手事業者に好意的な内容が盛り込まれている。(1)欧州委員会の権限強化に裏打ちされたクロスボーダー事業者活動の環境整備、(2)周波数割当の共通化と価格暴騰抑止、(3)ローミングサービスの競争他社への提供義務が回避できるオプション― などである。

しかし、モバイル事業者が望んでいた国内合併の緩和について欧州委員会は応じなかった。業界要望に対する欧州委員会の回答は、クロスボーダー市場への進出号令―というように、規制案に見えるのは両者の食い違いである。とはいえ、各国で進行中の国内合併の動きも止められない。現在の経済状況では、従来どおりの事業者数を維持することが難しい市場も存在するだろう。今後各国市場では、当局の厳しい要求を受け入れつつ、整理統合が進まざるを得ないのではないか。あるいは、すでに相当程度進んでいるネットワーク共用が一層進行することも考えられる。これまで、オーストリア(2012年12月欧州委認可)、アイルランド(2014年5月欧州委認可)ではモバイル事業者数が4社から3社へと減少した。欧州1の大国ドイツでもテレフォニカによるEプルス買収計画が審査中で、仮にこれが認可されれば3社体制となるが、その認可条件が今後の欧州全体の市場構造に大きな影響を与えることになるだろう。

単一市場規制が立法化されるのはいつになるか現時点では極めて不透明である。それをよそに、欧州の各国市場では整理統合が進みつつある。1カ国4社体制が標準だった従来のモバイル市場が将来3社体制に変わっていくことも考えられる。それは3Gオークションで多数の参入事業者を迎えて以来という市場構造の転換点になるかもしれない。

【参考】モバイル市場における主要合併
( 2010年以降欧州委員会審査対象となったもの)

【参考】モバイル市場における主要合併( 2010年以降欧州委員会審査対象となったもの)

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