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InfoCom World Trend Report
2014年8月26日掲載

2014年7月号(No.304)

最近、情報通信政策やサービスに関連して、さまざまな方策が提起されています。特に審議会や研究会を含めて総務省発の論議が数多く見られますし、2014年3月期の決算発表時期には、NTTからの光アクセス「卸サービス」の発表やKDDIのCA(キャリアアグリゲーション)機能搭載のLTE-Advanced、また、NTTドコモのVoLTEなどの新機能の取り組みがみられて、今後にむけた大きな変化を感じました。新技術や新しい料金プランは当然市場の変化をもたらしますが、今回はその市場構造を形成している各種の仕組みの変化とその先の新しい課題設定について考えてみます。

具体的な項目としては(1)MVNOの活用・普及、(2)SIMフリー化(ロック解除)、(3)周波数の割当・利活用、(4)光アクセス「卸サービス」、(5)非対称規制の限界・撤廃、の5項目に整理しておきます。これらの制度や施策は、政策当局の姿勢と通信会社の取り組みとが影響し合って今日に至っているものですが、利用者利便の向上面からより一層推進すべきものと考えます。

まず、MVNOの活用・普及は既に“格安スマホ”などとのマスコミ報道にみられるとおり、携帯通信サービスの価格低下をもたらすとともに、2台目需要など利用者に多様な選択肢を提供しています。ここで課題となるのは、一般ユーザー向けにMVNOが利用している回線のほとんどがNTTドコモに片寄ってしまっていることです。この点、MVNOとの料金を含む接続の条件などを統一的な明確なルールの下で運用して、競争環境を整える必要があります。そのためにも従来から指摘されてきた通信事業者間の相互接続料金の格差是正を政策的に進めることが第一ステップです。携帯通信事業者が実質的に3社グループになっていて、かつ、市場シェアの差が相当に縮小している現状を踏まえると、相互接続料金、特にデータ通信分野に大きな格差が継続していることは市場関係者の目からは奇異に感じられます。早急な明確なルール化とその検証が求められます。

2番目は、SIMフリー化(ロック解除)についてです。この問題は既に総務省当局の政策として方向性は打ち出されているものの事業者によって改善がみられず、それが故に行き過ぎたキャッシュバックをもたらす結果を招いたのではないかとみられます。利用者の立場からは、キャッシュバックのようなMNP利用者への過度な優遇ではなく、自由な機種の選択や取替、中古品の利活用などはメリットが大きいので、SIMフリー化及び短期間経過後のSIMロック解除が望まれます。これは世界のモバイル通信市場の潮流でもあります。

3番目の周波数の割当・利活用に関しては大別して、(1)現行の比較審査方式の下での企業グループによる統合的な周波数の利用の問題と、(2)そもそも周波数の割当を非差別的で透明な方式で行うべき、即ち、オークション方式を導入すべしという議論の2点に分けられます。前者の(1)に関しては、LTE-Advancedの1つの方法である周波数を統合利用して高速化を図るCA(キャリアアグリゲーション)に関連して、周波数免許を受けた単独の法人格を越えた企業グループ内で共同利用することを総務省が認める方向であると報道されています。こうなると、周波数の新規割当時の審査においても企業グループ間の公平性・妥当性の検証と評価が採用されるべきでしょう。割当後に周波数免許会社における経営権の移動を周波数免許と独立して自由に認めるのであれば企業グループの取扱いをあらかじめ定めておくことは当然のことです。さらに、(2)のオークション方式については、以前民主党政権時にその方向が打ち出されたことがあり、その後周波数の移転費用の負担に関して多少の手直しが行われましたが、本格的なオークション方式の導入検討は今日まで進展していません。私はオークション方式には価格高騰や条件の複雑化などいろいろな問題点があると考えますが、やはり原点に返って非差別で透明な割当を実現する方法として、これを導入した方がよいと思っています。その際に配慮すべきことは、オークションへの参加資格を明確化して公表することと割当後に課すべき各種の条件を事前に示すことで、電波当局と通信政策当局との制度的な整合を図ることが必要です。そこに欧州で見受けられた財政収入最優先のオークションを回避する途があると考えます。

第4項目のNTT東西による光アクセス「卸サービス」はNTTの決算発表時に公表されたもので、価格や条件など詳細についてはサービスの提供主体になるNTT東西会社からは発表がまだありませんので論評するにはもう少し内容を確かめる必要がありますが、光回線のサービスのより一層の普及を進めるため、光電話、光TVに続く新しいキードライバーとなりそうです。光回線のような新しいサービスでは、普及の当初は約款による全国一律型の提供が望ましいですが、結局一定の水準に達すると個別の相対型のサービスが生み出されないとさらなる普及拡大は図られません。卸サービスをキードライバーにする構想力はさすがにNTTならではの奥行きのある方策であり、市場参加者を増やして市場規模を拡大するものと期待されます。

最後に、上述の各種の施策や制度変更がもたらすものは、これまで約30年の長きに渉り継続した新規参入促進、公正競争重視による非対称規制が作り出してきた市場構造の大きな変化ではないかと思っています。1985年に始まった通信市場の自由化・競争化と電電公社の株式会社化は数々の非対称規制をNTTグループに課しながら今日に至っていますが、既に30年近くが経過して多くの制度疲労を生じています。特にグローバルなOTTプレイヤーの活動が活発化し、内外での影響力が拡大している昨今では、例えばNTTドコモのサービス提携時に相対の取引や個別の専属的なサービス提供が実質的に制約されるなど、利用者利便の向上やグローバルな競争面で問題が顕在化しています。30年という大きな時代の変化に取り残されたまま、この種の事前規制が継続すると逆説的にみればある種の差別的な規制となって市場競争下のイノベーションに対してマイナスに働きかねません。

前述の(1)から(5)に取り上げた項目は各方面から種々の意見があるにせよ、解決に向けた取り組みの方向性が既に示されたものが多く課題解決も遠くないと想定されます。しかし、ここで留意しておくべきことは、情報通信サービス市場をどのように拡大していくのか、普及率という成熟化が進む情報通信サービス市場をさらに拡大していくためには、いかに二次市場を作り出し育成していくのか、新たな課題の設定が必要ではないかということです。例えば、自動車産業や住宅産業ではしっかりした中古販売市場やリフォーム/リファービッシュ市場があってこそ、新車や新築住宅市場の質や厚みが担保されています。また航空業界ではLCC参入による競争と並行して各種の土産品の販売が伸びて市場全体の拡大が図られています。情報通信サービス市場のさらなる拡大もこうした二次的な市場が成立・拡大してこそもたらされます。デバイス・端末類の中古市場(既存製品の回転市場というべき)やサービスのニーズに見合った利用価値向上機能(CDN;Cotent Delivery Network)のように一次市場に加わることで市場拡大が図られるサービスは今後、数多く生み出されてくるでしょう。私達は、これまで所与の目標の下、現実の問題を解決することに注意を払い過ぎているように思われてなりません。特に情報通信の政策論議となるとどうしても当事者間の利害が対立して、その調整が中心課題となってきました。今は当面の課題解決だけでなく、むしろ将来を見据えた課題設定こそ大切な時です。こうした課題設定の下、利用者や消費者側に立脚した2020年代の政策や事業者・市場関係者の取り組みが進むことを願っています。

現在提起されている既存事業者を対象とした各種の規制の見直しや撤廃という課題の解決だけでなく、2020年代の情報通信サービス市場を拡大する方策という新しい課題設定が今こそ必要となっているように思います。その中でこそ、市場構造の大変動から技術とサービス両面のイノベーションが進展していくものと確信しています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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