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InfoCom World Trend Report
2014年9月30日掲載

2014年8月号(No.305)

※この記事は、会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

時計の製造販売を手がけるTimexがGPSと3G通信機能を搭載したスマートウォッチ「IronMan One GPS+」を発表した。これまでのスマートウォッチはメールの着信情報などを閲覧することが可能であったが、これは主にスマートフォンとの接続が前提とされた機能であった。今回発された「IronMan One GPS+」は時計自体に3G通信機能が搭載されているため、利用する際にスマートフォンとの接続を必ずしも必要としない。具体的にどのような機能を利用可能なデバイスなのか、以下で紹介する。

IronMan One GPS+に搭載された機能や利用目的

「IronMan One GPS+」(以下、IronMan)はこれまで発表されてきた「Pebble」や今後発表が予想されているAndroid Wearが搭載された「Moto 360」といったようなスマートウォッチとは利用目的がやや異なる。一言でいえば、IronManはスポーツ、ランニングに特化したスマートウォッチであるといえる。IronManに装備されたGPSを活用して、速度、距離、ペースなどを計測することが可能となっている(図1)。

GPSを搭載して、このような運動量を計測する時計はIronManがはじめてではなく、現在一般的に販売されている。これに似た機能を有するものとして代表的なものは、Garminの「Forerunner 910XT」(図2)やSuuntoの「Ambit2」(図3)が挙げられるだろう。

しかし、GarminやSuuntoの時計は通信機能を有しておらず、手元で速度、距離、ペースを計測し、運動中に参照することは可能であるものの、データをクラウドにアップするにはスマートフォンかPCが必要となる。その一方で、IronManは3G通信機能を搭載しており、スマートフォンやPCの利用を必ず必要としない。

また、通信機能を有していることにより、IronMan単体で電子メールを受け取ることが可能となっている(図4)。

【図1】ランニングの速度、距離、ペースを計測することが可能

【図1】ランニングの速度、距離、ペースを計測することが可能

【図2】Garmin Forerunner 910XT

【図2】Garmin Forerunner 910XT

【図3】Suunto Ambit2

【図3】Suunto Ambit2

【図4】Ironman単体で電子メールを受け取ることが可能

【図4】Ironman単体で電子メールを受け取ることが可能

また、GPSと通信機能を組み合わせることによって、IronMan利用者の現在位置が確認するトラッキング機能の利用が可能だ。例えば、マラソン大会で友人や知人が出場する際に沿道で応援することがあると思うが、いつその場所に到着するのかというのは事前には予想しづらい。IronManを利用して、自分の位置情報を公開しておけば、応援をしてくれる人たちがスマートフォンを通じて、ランナーの位置を確認することができ、そのような利用が想定されているようだ。

また、それ以外にも前述のGarminやSuuntoと異なる点はGPSと通信機能を組み合わせた例としては、緊急時のメッセージ送信だ。例えば、ランニング中に怪我をしてしまった場合、怪我をしてしまったことをIronManに内蔵されている定形メッセージから選択し、アドレスが登録してある友人や知人に緊急メッセージを送信することが可能である(図5)。また、送信されるメッージには位置情報を示すリンクが記載されており、緊急メッセージを受け取った受信者はどこで怪我をして動けないでいるのか、ということも確認することができる。

【図5】SOSメッセージを選択して、送信することが可能

【図5】SOSメッセージを選択して、送信することが可能

上記で説明してきた機能の中のほとんどは、スマートフォンとアプリを組み合わせる事によって実現できるものであろう。しかし、ランニングのようなアクティビティを行う際には、なるべく身軽なほうがよいということは容易に想像することができる。また、利用する際にスマートフォンと接続する手間も省けるというメリットも大きいだろう。

これは、インターネットに接続する際にSIMが搭載されたタブレット端末を利用するか、それともWi-Fiのみに対応したタブレット端末をWi-Fiルータを用いて接続するかということに似ている。通信機能が内蔵された端末であれば、すぐにインターネットに接続することが可能だが、Wi-Fiルータを経由しての接続の場合はワンアクション動作が多くなる。このワンアクションをどう考えるかによって、IronManの評価は分かれることになるだろう。

その他の機能としては、4GBのストレージやBluetoothを搭載しているので、Bluetoothヘッドフォンを通じて運動中に音楽を聴くことも可能となっている。また、取得したデータは「Strava」や「RunKeeper」といったフィットネスデータを管理する専門のサイトに直接アップロードすることが可能である(図6)。

IronManはすべてTimexが自社で開発したものではなく、QualcommのチップセットやプラットフォームとしてはBrewが利用されているという。バッテリーの持続時間については、速度などを計測した際には8時間程度利用が可能となっており(待ち受け状態では3日程度)、日々のトレーニングや一般的なマラソンの大会を考慮すれば十分に使用に耐える時間であろう。 IromManの価格は399.95ドルとなっている。3Gネットワークの提供はAT&Tが行うとしており、上記した価格には1年間の利用料も含まれている(2年目以降の3Gネットワークの利用料金については、本原稿執筆時点では明らかでない)。

【図6】IronManから各種サイトへアップロード可能

【図6】IronManから各種サイトへアップロード可能

まとめ

本稿では、Timexの3G通信機能が搭載されたスマートウォッチIronManを紹介してきた。上記したように、スポーツに特化したスマートウォッチであり、3G通信機能が搭載されたという点においては注目が集まるものの、スマートフォンとGPS搭載型スポーツウォッチとの連携によって実現できる機能も多いというのが印象である。

ウェアラブルデバイスの機能を考える際にスマートフォンとの連携はほぼ必須であったが、上記したように接続の手間を考えると、IronManのようにウェアラブルデバイスから直接データ通信が可能になるウェアラブルデバイスは今後増加することが予想される。この時にキャリアにとって課題となるのは、通信機能を提供する際の料金水準や契約方法の仕方であろう。IronManは1年目の通信の利用料金が本体の価格に含まれるという形を採用している。1年目は端末の価格に通信料金が含まれているので、ユーザにとってはあまり通信料金を意識しないで利用することになる。

しかし、2年目以降も引き続き通信機能を望む利用者はそこで初めて通信料金を意識することになる。その際に高い料金設定や契約の手続きが面倒になると、継続的な利用者を獲得することは困難になるのではないか。Kindleはコンテンツ料金の中に通信料金を含めることにより通信料金の回収を行なっているが、IronManに限らず、直接通信機能を活用するようなウェアラブルデバイスへの料金設定は何らかの工夫が必要とされるだろう。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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