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Global Perspective
2011年1月7日掲載

フィンランド人の半分以上が飛行機の決済、チェックインに携帯電話を利用

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2010年12月16日、フィンランドのBookITはフィンランド人の50%がチケット購入、チェックインの際に携帯を利用していると発表した。

 フィンランド航空でのSMSチェックインサービスは、BookIT、Luottokunta(フィンランド)、マイクロソフトが開発したiSMS®(intelligent SMS) というサービスを用いて提供されている。
 SMS(ショートメッセージサービス)はケータイメールに慣れていて、かつ他キャリア間での送受信ができないので、日本人にはあまり馴染がないが、海外ではほとんどの端末でサポートしており、非常に一般的に使われている。

 iSMS®は、システムがセキュアなネットワーク内にあるため、個別の証明書やモバイルワレットは不要。決済はユーザが登録したクレジットカードを使って行うことができる。認証はクラウドサービスで行われ、各取引のために偽造が不可能な「指紋("fingerprint")」が生成される。 簡単に偽造できる通常のSMSとは異なり、認証は極めてセキュアである。決済取引はLuottokuntaのシステム内で行われるので、データ保護はLuottokunta側で実施される。

 手順としては、予約後に、フィンランド航空からSMSが送信される。それにユーザは特定の文字(フィンランド航空は「A」)を入力して送信する。その後フィンランド航空からコンファメーションのSMSが送信されてくる。それをもってユーザはゲートに行けばよい。チェックインカウンターや自動チェックイン機の前に並ぶ必要はない。フィンランド航空にとっても大きなコスト削減になっている。

 フィンランド航空のサイトによると、条件としては、フィンランドや限定された地域から出発するフライトであること、事前にFinnair Plusというフィンランド航空の会員登録をする必要があることがある。朝のフライトであれば前日の17時から19時の間にSMSが送信され、午後のフライトでは出発3時間前までにSMSが送信されてくる。
フィンランド航空では、数年以上前から本サービスを導入しており、すでに370万人以上のフィンランド人が利用しているとのこと。
日本に住んでいる日本人が利用する機会は残念ながら現時点では少ないだろう。

 技術的には、BookIT DDM(Dynamic Dialogue Matrix) iSMS®と呼ばれるプラットフォームを各キャリアのSMSC(SMS Center)とフィンランド航空のゲートウェイを仲介するシステムを構築することによって実現しているようだ。詳細はこちらを参照。

 iSMS®の特徴として、以下の3点が考えられる。

・利便性が高い
 ユーザはSMSさえ利用できる端末を持っていればよい。また空港のチェックインカウンターはフィンランドだけに限らずどこでも行列していて時間の無駄だ。このサービスであれば、そのままゲートに行ける。(但し荷物を預ける時は専用のカウンターに行く必要がある)
またセキュリティも確保されているので安心して利用できる。使い慣れたSMSで利用できるので、ユーザは、iSMS®の技術的な仕組みや複雑な操作方法を要求されない。

・キャリアフリーである
 ユーザはどこのキャリアを利用していても利用できる。キャリアに縛られないからこれだけ多くの利用者がいるのだろう。キャリア側も、送信者が負担するSMSの収入がある。但し、事前登録した電話番号にSMSが送信されてくるので1人で複数のSIMを持つ習慣があるユーザは注意が必要だが。

・デバイスフリーである
 iSMS®は、SMSをベースにしているので、SMSに対応した携帯電話端末であれば、どの端末でも利用できる。現在世界の携帯電話端末でSMSをサポートしていない端末は皆無に等しい。ましてNokiaの御膝元であるフィンランド人の利用する端末はほぼ100%、SMSは利用できるだろう。Nokiaの本社のあるフィンランドとはいえ全員がハイエンドなスマートフォンのような端末を保有している訳ではない。通常のミドルクラス端末を保有して電話とSMS程度しか利用しない人も相当数いる。

まとめ
 SMSのように誰でも日常的に利用しているシンプルなサービスでユーザの利便性を追求して差別化できるだろう。
 世界的にはLTEやWiMAX等モバイルブロードバンドが推進され、スマートフォンが急激に増加している。それはそれで非常に良いことであるが、今回の事例のように身近に誰でも使えるサービスを少し工夫(開発)するだけで、利便性が高く収益性に繋がるサービスを提供できるのではないかと考える。

フィンランドについて
最後にフィンランドおよび同国携帯、ICT事情について簡単に紹介する。
フィンランドは、人口約532万人。携帯電話加入者は、約850万人。普及率が160%を超える飽和市場である。
キャリアは、Elisa(シェア約40%)、TeliaSonera Finland(約37%)、DNA(約24%)でシェア争いをしている。
世界に先駆けて、LTEの導入にも積極的な国である。
1993年にフィンランド通産省が掲げた「国家産業戦略」ではITを中核とする産業クラスター戦略を明確にした。Nokia の携帯電話産業の成長は周知の事実だ。
教育水準も高く、ほぼ全員英語が話せる。フィンランド経済庁(Tekes)は科学技術等の研究開発へ投融資を積極的に行っており、日本にも支店がある。
最近では、AndoroidやiPhoneに押されて勢いのないNokiaに代わってフィンランドのICTの主役にあるのはロビオ・モバイルだ。同社が開発したゲーム「アングリー・バーズ」がiPhoneアプリケーションのランキングにて世界61カ国でベストセラーとなり有料版はこれまでに1,000万回以上ダウンロードされているとの報道があった。

 余談だが、SMSも1984年にフィンランド人のマッティ・マッコネン氏によってが、GSM携帯電話のサービスとして発案された。

【参考URL】
BookIT社:http://www.bookit.net/
Luottokunta社:http://www.luottokunta.fi/

【参考動画:iSMS® の利便性を報道するニュース】

【参考動画:iSMS®の利便性について語るフィンランド航空】

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