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Global Perspective
2011年4月6日掲載

映画「ノルウェイの森」にみるコミュニケーション手段〜”公衆電話”、”手紙”

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 1987年に刊行され1,000万部以上売れたという村上春樹の小説「ノルウェイの森」の映画を見た。小説や映画についての論評は筆者の専門外なので、ここでは論じることはしない。当時のコミュニケーション手段についてみてみたい。

 「ノルウェイの森」の小説は以前から何度か読んでいた。今回、映画という映像化された中で、ふと気がついたことがあった。小説の時代設定は1968年から1970年代前半にかけての日本。当然ながら携帯電話もインターネットもない。
当時のコミュニケーションの手段は”公衆電話”、”黒電話”、そして”直筆の手紙”である。主人公ワタナベが暮らす寮でも、寮にあるのは"赤の公衆電話"を共有で利用していて、各人の部屋には電話は設置されていない。緑が電話をうけるシーンがあり、彼女の家は"黒電話"である。ラストシーンもワタナベが"赤の公衆電話"から緑に電話するシーンである。

 昨今では全く見かけなくなってしまった"赤の公衆電話"、家庭の"黒電話"に非常に新鮮さを感じた。筆者は"赤の公衆電話"を利用した記憶がない。物心ついた時はテレフォンカード式の公衆電話はあった。また「ノルウェイの森」の時代設定である1960年後半はまだ生まれていない。だから懐かしさを感じるのでなく、新鮮さを感じるのだ。

 公衆電話には"赤電話"と"ピンク電話"があったことを記憶している世代の方々も多いだろう。
"赤電話"とは、「委託公衆電話」のことでは、電電公社が駅、公共施設、商店などに設置し、施設の運営者に管理を委託している公衆電話である。
"ピンク電話"は「特殊簡易公衆電話」のことで、飲食店やアパートなどに店舗の運営者が設置する公衆電話である。

 1968年は全国の電話加入数が1,000万台を突破した時代だ。4年後の1972年には電話加入数が2,000万を突破するという固定電話が急速に浸透していった時代だ。

 当然ながら当時の電話には留守番電話機能もない。主人公ワタナベが電話をし続けても、相手が出ないとずっと鳴りっぱなし(呼び出し)のままだ。誰から電話がかかってきたかの通知もない。電話に出るまでわからない。また呼び出し音も非常にけたたましい。当たり前のことなのだが、携帯、固定電話の留守番電話サービス機能、着信通知機能、マナーモードに慣れている現代人にとっては不便性さえも感じざるを得ない。

 その後、公衆電話は携帯電話の普及に伴い激減していったのは周知の事実だ。1985年(電電公社民営化時)には全国に約90万代あった公衆電話も、2009年には全国で約28万台にまで減少している。2000年には携帯電話・PHSが固定電話の普及率を追い越した。

 また小説、映画の中でもコミュニケーションの手段として”直筆の手紙”が度々登場する。ストーリーの中でも手紙の果たす役割は非常に重要である。
 現代では、パソコン、ケータイでのメールが当たり前になってしまい、直筆で手紙を書くようなことがめっきり少なくなってしまった時代に生きる我々からすると、こちらもまた非常に新鮮さを感じた。”直筆の手紙”というコミュニケーション手段はどれだけ技術が進化して新たなツールが登場してもとても素敵なもののように思える。

 時代とともに技術は進歩し、コミュニケーションの手段も大きく変わってきている。改めて考えてみると、20年くらい前までは個人が携帯電話を持っていてメールでコミュニケーションをするということなんて想像もつかなかった。まして「ノルウェイの森」の舞台である1960年代後半から1970年代前半は、まだ携帯電話、インターネットはおろか、電話ですら電電公社独占の時代だ。これから20年先には、人々はいったいどのようなコミュニケーション手段を利用しているのだろうか。楽しみである。

 「ノルウェイの森」は世界36カ国語に翻訳されている。これからも読み継がれていく日本を代表する小説だろう。また映画も世界50ヵ国での配給が決定しているとの報道もある。今後もこの小説を読む方、映画を見る方には当時のコミュニケーションの手段に思いを馳せてもらいたい。そして海外の人には映像を通じて当時の日本の公衆電話を知ってもらえる良い機会ではないだろうか。

 余談だが今回の映画「ノルウェイの森」では、"赤電話"がひとつのシンボルであることから、ユニクロが同映画を記念して作成したTシャツにも"赤電話"のデザインが採用されている。

(参考サイト)NTT電信・電話の歴史年表

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