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2011年9月8日掲載 |
久しぶりにWeb2.0という言葉を目にした。 「Web2.0」は2005年、ティム・オライリーが提唱した概念で、情報通信業界ではもはや死語にすらなっている。そのような中、国際政治学者らが2010年8月に論文として取り上げているのに興味が惹かれた。著者らはWeb2.0の動向をどのように考えていて、それらを国際関係学研究の中でどのように活用していくのかについて論じている。 国際関係や国際政治の中での具体的なWeb2.0を活用した事例について分析された論文ではない。例えば中東でのSNSをトリガーにした革命やアメリカの大統領選挙に向けて候補者らがFacebookやTwitterなどのSNSが活用されたことについては論じていない。そのような内容を期待して読んだ読者は肩透かしを食らうかもしれない。また情報通信業界の人が読んだら、物足りなさを感じてしまう部分もあるだろう。 国際政治学者である筆者らは、国際関係学・国際政治学の研究において、Web2.0の代表的なインターネットサービスであるブログ、Facebook、Twitter、Youtube、Wikipedia活用の重要性を論じている。今後、これらの活用が新たな国際関係学・国際政治学の研究、教育に多いに活用されるべきだと主張している。 研究者にはブログを執筆することを推奨している。ブログに研究成果、分析などを執筆して世間に情報発信することのよって、批判、意見、フィードバックをもらうことが重要であると述べている。そして内容が充実しているブログはそれ自体を本として出版することに繋がる可能性もあると示唆している。この辺りに”Publish or perish”が浸透しているアメリカの研究者たちの世界を垣間見られる。 続いてSNSの活用について触れている。FacebookのようなSNSで多くの研究者と交流を深めることを推奨している。SNSで問題提起をしたり、質問をする方が直接個人にメールをするよりも多くの人から回答をもらえることが多いと論じている。またリアルタイムに起こっている事象については、SNSではすぐにコメントやフィードバックが期待できるだろうと述べている。国際関係学・国際政治学の研究者も心理学研究者や社会学研究者が実施しているように、一般的なリサーチクエスチョンにこのようなSNSを積極的に活用すべきだと提案している。またブログやSNSなどで情報発信することによって「象牙の塔の大学」に閉じ篭っていないで、もっと一般市民と接触すべきだと述べている。 続いて、国際関係学・国際政治学の授業、教育におけるWeb2.0の活用について考察している。 論文タイトルが「Internationa Relations 2.0: The implications of New Media for an Old Profession」とあるように“Old Profession”への警鐘であろうか。年老いた教授たちはWeb2.0のような技術進化に対して抵抗を抱くのかもしれない。 一方、現実の国際社会においてはSNSやTwitterといったWeb2.0の概念に基づくサービスや技術が世界の動きに大きな影響を与えている。中東での革命もFacebookに代表されるSNSがトリガーになったと言われている。また、オバマ大統領も2012年の大統領選挙に向けてFacebook、Twitterを活用していくことを2011年6月29日に発表した。 もはやリアルな国際関係、国際政治において、それらが新たなメディアの一部として大きな役割を果たしている。研究者もそれらの動きは無視することはできないのは言うまでもない。もはや象牙の塔の「Old Profession」でいることはできなくなっている。国際政治学者や政治家の中にも既にSNS、Twitter、ブログを活用している人も多くいる。 今後、国際関係学・国際政治学の研究において、ますますWeb2.0に代表されるブログやSNSなどによる情報発信は研究者、教育者の両方の立場から重要になってくることだろう。 なお、本論文の著者であるDr. Charli Carpenter, (University of Massachusetts Amherst)とProfessor Daniel W.Drezner(The Fletcher School, Tufts University)は2名ともに、ブログやSNS、Twitterを活用して情報発信に頻繁に行っている。 リアルな国際社会はWeb2.0のサービスや技術によって、ここ数年で大きく変化している。 国際関係学・国際政治学の研究においてもWeb2.0を多いに活用して頂きたい。 本情報は2011年8月27日現在のものである。 |
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