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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<海外>

「米国の通信・放送産業構造を大きく変革する
「1996年電気通信法」が成立」

(96.05)

  1. 新電気通信法成立までの道のり
  2. 従来の米国の通信法制(連邦、州)
  3. 新通信法が導入されるに至った背景
  4. 新通信法の主要点


1.新電気通信法成立までの道のり
 米国における従来の連邦通信法(「1934年通信法」)は大恐慌の最中の1934年に制定されたものであり、激変する電気通信業界の動きに対応しきれなくなっていること、あるいは、今までの通信規制の枠組みが、連邦通信法に加えて1982年修正同意審決(MFJ)やFCC、裁判所の下す各種の裁定・判決など、多元的で複雑な構造となっていたため、通信業界が抱える問題を一挙に解決する包括的な新通信法を制定しようとする動きが数年前から米国連邦議会で活発化してきた。

 通信法改正の動きは1995年になって共和党主導で再び活発化し、まず上院、下院で別々の類似した法案が提出され、賛成多数をもって本会議で可決された。これを受けて、両院の法案を一本化する両院協議会が設立され、1995年10月中旬からすり合わせ作業を開始した。その過程において、両院協議会で同年12月20日にはいったん合意案が成立したものの、ドール院内総務をはじめとする共和党の有力議員が、民主党に譲歩し過ぎであるとして再度の修正を求めるなどしたため、予想以上に法案統一作業に手間取ったが、ようやく1996年の2月1日になり、一本化された法案が賛成圧倒的多数(上院:91対5、下院:414対16)で上下院を追加した。そして、クリントン大統領が2月8日に法案に署名を行ったことにより、実に62年ぶりに連邦通信法を全面的に改正する「1996年電気通信法」が正式に成立したのである。

2.従来の米国の通信法制(連邦、州)
 今回の新通信法の内容ならびにその意味するところを理解するためには、米国において通信・放送規制を定めてきた従来の法制の把握が必要である。以下に、それらの主要な法律の名称と概要を説明しておきたい。

(1)1934年連邦通信法
  • 公衆通信事業者、無線通信事業者免許の付与、線路敷設の認可、外資規制等
  • FCCに広範な規制権限を付与

(2)1982年修正同意審決(MFJ)
  • 1984年に行われたAT&Tの分割条件を規定した、司法省とAT&Tの和解に基づく審決。
  • 分割後に誕生した7つのベル電話会社の事業分野を規制。
(1)長距離(LATA間、州際、国際)通信市場への進出禁止。
(2)機器開発・製造の禁止。
(3)情報サービスの禁止(ただし、1991年に完全解禁された)

(3)1984年ケーブル通信政策法
            (1934年通信法VI編に編入)
  • ケーブルTV規制を連邦レベルで統一化した法律。
(1)フランチャイズ免許制の導入。
(2)料金規制の撤廃。(1992年に料金規制は復活)
(3)地域電話会社に対し、電話営業エリア内でケーブルTV事業を兼業することを禁止。 (クロスオーナーシップ規制)

(4)1992年ケーブルTV消費者保護・競争法
1984年ケーブル通信政策法で撤廃された料金規制を復活させた法律。

(5)州通信法
  • 州内に終始する通信に対する規則を定め、州委員会に規制の実行を命令。
  • LATA内の通信については、ほとんどの州で1990年初頭までは地域電話会社の独占を保証してきたが、 まずLATA内市外通信、続いて市内通信に競争導入を行う州が続出し、 現在では約半数の州が市内通信市場にまで競争を認めている。

3.新通信法が導入されるに至った背景
 今までに説明してきた法律や審決が、新通信法成立までの米国の通信規制の枠組みを形成してきたわけであるが、技術進歩に伴う競争の増大などにより、多くの点で各法律に内包された矛盾・問題点が指摘されるようになってきた。すなわち、米国の通信・放送産業界は、地域通信、長距離通信、インターネット・アクセス、ケーブルTV、無線通信(セルラー・ページング、PCS)、直接衛星放送などのフルレンジのサービスを、1つのプロバイダーがエンド−エンドで提供するという、水平・垂直統合の方向に向かっており、その流れを人為的に制限する従来の事業分野規制は、もはや維持することが難しい状況になっているのである。このような認識に立った上で、以下に解説する「1996年電気通信法」が、「Free-for-All」という理念のもと、いかにしてすべての者に自由な市場参入機会を与えようとしているのかを理解していただきたい。

4.新通信法の主要点(参入規制の規制緩和を定めた条項)
(1)地域ベル電話会社による新規サービスへの参入

1.LATA間通信サービス
a)営業区域外発信サービス−直ちに無条件に参入できる。
b)営業区域内発信サービス−
  自社営業区域内の市内通信市場が競争に開放されていれば
  参入できる。自社市内通信市場の開放度は、
  「14項目のチェックリスト」に照らして、FCCが
  司法省、州委員会と協議の上で判定する。
  3年間は分離子会社による提供が義務づけられる。

2.通信機器製造
営業区域内におけるLATA間サービスが認められた場合、通信機器の製造を行うことができる。 ただし、3年間は分離子会社によること。機器の研究・開発は直ちに認められる。

(2)州内通信市場の開放

 州・地方の法律は、いかなる事業者が州内において電気通信サービスを提供することも禁じてはならない。 (注:長距離通信事業者等による地域通信サービス市場への参入を認めなければならない、という意味である)

(3)地域電話会社によるケーブルTVの提供(2つのオプションがある)

  • 1934年通信法のクロスオーナーシップ規制を廃止し、地域電話会社が自社電話営業区域内で、 フランチャイズを取得してケーブルTVを提供することを認める。
  • 地域電話会社が自社網を利用してケーブル番組を伝送する、「オープンビデオ・システム」を認める。 オープンビデオ・システム事業者は、ビデオ番組事業者を差別してはならず、チャンネル容量を超える 需要が発生した場合、容量の三分の一を超えて自社番組の伝送を行ってはならない。
  • 地域電話会社とケーブルTV事業者は、それぞれの株式の10%までしか所有を認められない。

(4)ケーブルTV事業者による通信サービス

ケーブルTVフランチャイズ権の付与当局は、ケーブルTV事業者による電気通信サービスの提供を禁止、 制限してはならない。

(5)電力/ガス会社の電気通信事業への参入

本業以外の事業への進出を制限してきた「1935年公共サービス持株会社法」を改正し、 電力/ガス会社が電気通信事業に参入することを認める。ただし、分離子会社要件を課すものとする。
(海外調査第一部 神野 新)

(入稿:1996.04)

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−1996年電気通信法成立の背景とその内容ならびにそのインパクト−」
をご覧ください。
この書籍のお問い合わせは弊社出版部まで(03-3470-7517)

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