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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<インターネット・パソ通・コンピュータ>

「インターネットマーケティングは顧客不在?」
三石玲子氏の講演会(JMF主催、8/21)
「ECの現状と課題」に出席して

(96.09)

  1. エレクトロニック・コマース議論の矛盾点
  2. オリンピック精神の時期はもう過ぎた
  3. インターネットは万能なマーケティングツールか?
  4. 顧客によるホームページの選別を

1.エレクトロニック・コマース議論の矛盾点
 インターネット時代の効果的なマーケティングはどのようなものか、という疑問に対する明確な回答を提示するのは難しい。しかし、インターネットを利用したマヌケな例はいくらでもあげられる。「インターネットで儲けるコツ」(日本能率協会マネジメントセンタ)という本は、顧客不在のインターネットのビジネスサイトを厳しく批判している。
 著者の三石玲子さんの講演会「ECの現状と課題」に出かけてみた。インターネットビジネスへの関心が高い昨今、三石さんは技術論に偏向したエレクトロニック・コマースを舌鋒鋭く『プロの売り手の不在』と断ぜられた。
 三石さんは、日本におけるエレクトロニック・コマースの矛盾点として以下の点をあげている。
  • コマースだけがバーチャルになれるわけではない
  • 生活感がおそろしく希薄である
  • センスがない
  • 実験とビジネスを分離すべき
  • 総括と予測能力が欠如している
  • 今のインターネットは日本的システムの弱点の露呈の場
 すなわち、『インターネットが普及しても、リアルなビジネスでダメなものはバーチャルなものでもダメなのだ。それなのに、日本のインターネットのビジネスサイトを見ると生活感があまりに希薄である。買い物をしようという気にまるでならない。インターネットはセンスの世界であり、目利きの勝負である。日本企業は実験を行っているが、実験からビジネスへの移行のシナリオが欠如している。
 また日本企業は総括ということを行わない。数年ごとに担当者が変わる人事異動システムの中では、責任はいつの間にやらうやむやになってしまいがちである。そうこうしているうちに、欧米企業はオンライン・ショッピングをビジネスとして軌道に乗せている。このようにインターネットは日本的システムの弱点が露呈している。』としている。

 ショッピングモールに対しても批判が続く。『不動産屋的発想で作られた仮想都市のような企業連合は無意味である。何の脈絡もなく企業が集められたショッピングモールは単なる原っぱ』と手厳しい。
『インターネットにはリンクという発想があり、バーチャルな空間を縦横無尽に行き来できる。したがって、仮想都市のような形式をとることは不動産屋的発想から脱却できていない証拠であり、リンクという発想からほど遠い』というわけである。
 また『日本企業の情報発信戦略の欠如がホームページづくりにあらわれている』としている。 日本企業のホームページは

  • 情報のてんこもり
  • 顧客を正面からとらえていない
  • 情報の優先順位がつけられていない
  • 社内事情の露呈
  • ウェブマスターが不在もしくは無力
  • 既存広報システムが足を引っ張っている
という点が特徴となっている。
 こうしてみると、インターネットは従来の日本的な経営と摩擦を起こすことは想像に難くない。三石さんは『インターネットは日本的システムにあわない』と断言しておられる。しかし、果たしてそうだろうか。

2.オリンピック精神の時期はもう過ぎた
 電子メディアによるコミュニケーションがまだ珍しかった頃は、まずは参加することが重要であった。電子メールに慣れ、ホームページを作って、情報発信の練習をすればよかったのである。しかし、インターネットの商用利用が開始されてから三年たつ現在、インターネットで儲けようとするならば顧客を魅了するホームページを作り、満足のいくショッピングが出来るような仕掛けをつくることが求められるのである。
 三石さんの批判を念頭におきつつ、筆者自身が日本企業のホームページをいくつか見てみると、失笑したくなるモノが多い。インターネットでの誉め言葉である"cool"なものからはほど遠い。某銀行のホームページはまずはトップ自ら写真及びご本人の履歴書入りで「ご挨拶」され、経営方針をご説明していただいていると、読んでいて思わず恐縮してしまう。続いて「当行の概要」ときた。どうみても、顧客向けというよりは社員の研修のために作られたページとしか思えない。
 また某百貨店のサイトを訪れてみると、創業者の精神を説明している。老舗で買い物をするためには客側も十分にその古きよき伝統を理解した上で、敷居をまたがねばならぬらしい。ご高説をありがたく拝読することなく、気まぐれな消費者は別のサイトを訪れる。
 さらに別の百貨店を訪れてみると、お中元の宣伝をいまなお続けていた。この原稿は夏の終わりに書いている。筆者は時空を越えた情報にアクセスしてしまったのである。
 これらのホームページに共通していえることは、アクセスしてくる顧客予備軍がどのような人なのか、ということをまるで意識していない、ということであろう。実験的に店を出しているとはいうものの、どのような商品をどなたにお買いあげいただきたいのか、ということはおそらく意識されていないのであろう。さらに、バーチャルなショッピングならではの商品・価格等の差別化はまったくされていない。
 ホームページは情報発信者と消費者のインタフェースである。リアルワールドにおける店の陳列棚にも匹敵する重要性を有している。消費者が訪問して「これは」と思うようなレイアウトなり商品ラインナップがなければ消費者はそっぽをむくことは明らかである。ましてやインターネットでショップを訪問する一般消費者は電話代とインターネットへの接続料を支払ったうえでショップを訪問しているのである。アクセスしてくるインターネットユーザーの投資を上回る便益をバーチャルショップが提供できなかった場合、リピーターを作るどころの話ではなく、ショップに対する印象はリアルワールドでのショッピングよりも悪くなる。ユーザーの時間とインターネットに対する投資が無駄に終わるからである。
 単にホームページを作ればよい、という実験的精神はオンライン・ショッピングの場において逆効果をもたらす場合さえある。ホームページによってはJAVAや3Dを駆使した、技術的に高度なものも見受けられる。しかし、財布を握っている消費者はモノを買うことに興味があるのであって、その企業が実験をしているのか否かは関係がない。三石さんは『技術だけではモノは売れない』と述べられたが、まさにその通りである。オリンピック精神はそろそろ卒業してほしいものである

3.インターネットは万能なマーケティングツールか?
 これまで見てきたように、いくらインターネットが注目を集めていても、すぐ儲けにつながるわけではない。三石さんによれば、既存のチャネルとのフリクションはメーカーの抱える最大のマーケティング課題であるという。
 広告を例にしても、インターネットは既存の広告メディアに比して安価でインパクトがあるため、既存の広告マーケットの風雲児的存在ではあろう。しかし、インターネットのユーザーはまだ限られている。特に小売業の場合、重要なターゲット消費者である主婦のインターネット利用はまだ少ない。企業にとってのオンラインショッピングにおける収入規模がまだ小さいことや、家庭におけるオンラインショッピングに費やされる金額の少なさを考慮すれば、インターネットの広告が既存の広告メディアにとって脅威となるとは考えにくい。むしろ従来のメディアの補完的な位置づけにとどまるであろう。しかし、中小企業にとってはインターネットによる広告が安価であることの意義は大きい。その意味ではインターネット広告はマーケット全体の拡大に寄与するものと考えられよう。インターネットは万能なマーケティングツールではない。しかし、インターネットの特性である双方向性を活用すれば、強力なマーケティングツールとなりうるのである。アクセスしてきた人と電子メールによって対話し、ニーズを細かくとらえ、個別のコンサルティングが可能であるため、ビジネスチャンスが非常に大きいのである。

4.顧客によるホームページの選別を
 ブームにのってインターネットに飛びついた日本企業の多くが顧客不在、コンセプト不明のホームページを作り、将来はエレクトロニック・コマースの時代だ、と考えている姿は滑稽である。
 しかし、「インターネットが日本的システムに合わない」と断じてしまうのは早計であるように思う。確かに日本はインターネットが普及している米国とは環境が異なっている。米国のようにショッピングに行くのに自家用車で時間をかけて出かけるほど国土が広いわけではない。在宅勤務もそれほど普及しているわけでもない。ショッピングにおける重要な顧客層である女性の間でラップトップコンピュータが非常に普及しているわけでもない。電話料金やインターネットへのアクセス料金も米国に比して安いわけではない。しかし、日本では米国とは普及の道程が異なることはあっても、インターネットはそれなりに普及していくと見るべきであろう。実際に、学生等の若い世代はコンピュータに対するアレルギーは中高年層ほど見られない。また大学等で電子メールでのコミュニケーションに慣れてきている。インターネットに慣れている人間が社会で増えてくれば、「インターネットが日本的システムに合わない」とする理由はない。むしろ旧来のシステムを揺さぶり、時には摩擦を起こしつつ、普及していくものと思われる。ビジネスにおいても、企業の中でインターネットの特質を理解している人間が増えてくるにつれて、今まで見てきたような滑稽なページは減っていくものと思われる。
 ただし、インターネットを利用して顧客を引きつけようとするならば、「魅せるホームページ」を作り、魅力的な商品やサービスを提供していくことが必要なのは言うまでもない。顧客は誰か、マーケットは何を望んでいるかということを熟考することはリアルワールドでの商売であれ、バーチャルな世界であれ、マーケティングの基本である。インターネットの双方向性を理解した上で、アクセスしてきた人を魅了し、対話し、共感を呼ぶようなサービスを提供できないのなら、インターネットを商売に利用することはあきらめた方がよい。
 電話代とインターネットの接続料を払って企業のホームページを訪問する消費者は、厳しくビジネスサイトを評価していくことが望ましいであろう。インターネットでのビジネスを育てるのは企業のみならず、厳しい眼をもった消費者である。インターネットを利用したビジネスの世界でも健全な競争による企業の選別が行われるようになるためには、消費者によるホームページの選別がなされるようになることが望ましい。
(マーケティング調査部 住本 隆弘)

(入稿:1996.09)

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