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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<移動通信>

「ポケットベルにおける新しい動き
−FLEX−TD方式」

(96.08)
 自動車・携帯電話の急激な伸びに隠れて、あまり目立たないポケットベルであるが、ここ数カ月の間に、NTTドコモグループ及びテレメッセージグループの間で、相次いでFLEX−TD方式の商用化という新しい動きが起こっている。
 FLEX−TD方式とは、米国モトローラ社が開発した高速ページング用プロトコルであるFLEX方式の派生版である。従来のページャーのメッセージ伝送速度は1,200b/sであるが、これを高速化することによって、(a)より多くの加入者を収容できる(b)より多くの情報量を送信できる、といったメリットが生まれてくる。FLEX方式は95年から実用化され、現在は米国をはじめ、アジア諸国、中南米諸国で導入あるいは導入予定となっている。このFLEX方式に、NTTドコモの技術であるタイム・ダイバーシティ(一種のエラー補正機能)を組み合わせたのがFLEX−TD方式である。

 NTTドコモは96年3月、「ネクスト」のサービス名でFLEX−TD方式のポケットベル6種類を市場に投入した。従来のポケットベルと異なる点は、以下の6つである。
  1. ポケットベル本体は従来機種とはデザインを変えている。
  2. 機能的には、従来機種を若干グレードアップした程度で、本質的には変わらない。 例えば、「センティーネクストB11」というタイプのポケットベルは48文字のメッセージを一画面で見られるという点が画期的であるが、これは分割送信されたメッセージをディスプレイ上で連結させて表示するということであり、1回に送信できる文字数はさほど変わりがない。
  3. 導入したのは、数字カナ表示ができるタイプのみであり、数字表示オンリーの機種には導入していない。
  4. 月額使用料を従来機種よりも安くしている。 例えば首都圏広域エリアの場合、従来機種では2,200円であるのに対し、ネクストでは2,100円となっている。
  5. 月額使用料を「基本額+加算額」の2本建てとしている。 従来機種では、ポケットベルを何回呼び出してもその使用料は定額であった。一方、ネクストでは、200回の呼出までは一定額だが、これを超えると50回ごとに200または300円が加算されるという仕組みになっている。
  6. 「るすベル」「メッセージ再送サービス」「パスワードサービス」といったネットワークサービスをオプションとして提供している。 「るすベル」とは、音声ガイダンスまたはユーザー自身の声でかけ手に応答し、メッセージを録音するサービス(月額使用料300円)。「メッセージ再送サービス」とは、ユーザーがネットワークセンターに電話すれば、メッセージの再送がかけられるサービス(月額使用料250円)。「パスワードサービス」とは、ポケットベル番号に4ケタの暗証番号を付け加えなければ呼び出せないサービス(月額使用料100円)。

 現在のポケットベル・ユーザーの主力はティーンエージャーであり、彼ら・彼女らの昼休み時間、放課後及び深夜といった時間帯はトラヒックが極度に集中し、ポケットベルがかかりにくくなっている。このような背景から、日本のポケットベル事業者がFLEX−TD方式を導入する第一の目的は、上記メリットの(b)よりは(a)にある。上記特徴の1.のように、1回で送信できる情報量に従来とさほど差をつけなかったのはその表れであり、3.のように数字表示タイプには導入しなかったのは、数字カナ表示へのメッセージ送信の方が数字表示よりもメッセージ投入に時間がかかり、回線をより長く保留するからである。
 5.のように一部加算額の制度を導入したのは、従来の料金定額制では、増大したトラヒックに対応してコストを回収できないからである。ポケットベルでは日本で初めての従量制の導入であり、一部ユーザーから「一方的に呼び出されただけなのに、どうして私がその分の料金を負担しなければいけないのか」「請求の明細に○○円が加算されているがこんなには呼び出されていない」等の不満が寄せられることが予想されたため、1.及び4.のように従来機種からの差別化を行い、6.のように受信しそこねたメッセージの担保、悪意呼の受信防止を図ったものである。
 ネクストの売上げは好調であり、加入数は6月末で6万人に達している。

 NTTドコモは、7月にネクストの新機種「インフォネクストD11」「インフォネクストD12」の発売を開始した。この2機種は、従来のネクストのように電話からプッシュ信号でメッセージを送信するのではなく、パソコンでメッセージを作成して送信するといった点が特徴である。最大50文字までの受信が可能で、本体に付いている外部端子を通じてパソコン等に受信結果を取り込める。上記メリットの(b)に応じたサービスである。この2機種のターゲットはビジネス市場であり、NTTドコモではティーンエージャーとはバッティングしない時間帯での電波資源の有効利用が図れるものと期待している。

 一方の東京テレメッセージは、8月から「FX-TD」の商品名でFLEX−TD方式を市場に投入した。数字カナ表示にのみ投入した点はNTTドコモと同じであるが、月額使用料は定額制のままである点、エリア的には従来機種とは異なったものにしている点(従来機種は県域と広域の2種類であるが、FX-TDでは面積的にはこの中間のエリア設定となっている;料金的には従来の広域タイプと同じ2,200円)がNTTドコモとは違ったスタンスを取っている。

 米国では、FLEX方式の派生版であるReFLEX方式による双方向ページングが、95年からスカイテル社によってサービス開始されている。また、同じくFLEX方式の派生版であるInFLEXion方式による音声ページングが96年中に商用化される予定である。一方、欧州ではFLEXに対抗する方式として、高速ページング方式「ERMES」が開発されている。すでにフランス、ハンガリー、サウジアラビアで商用化されているが、現状ではどちらかといえば上記メリット(b)よりは(a)を達成するためとの意味が強い。ERMESは携帯電話におけるGSMのページング版を志向するものであり、欧州のキャリア間ではいくつかローミング協定が締結されている。

(移動・パーソナル通信研究部:正垣 学)

(入稿:1996.08)

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