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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<インターネット・パソ通・コンピュータ>

「NTT インターネット上での新しい電子マネー実験システムを試作」

(96.10)

インターネットが商用化されて以来、世界中で爆発的に普及する中、EC(エレクトロニックコマース:電子商取引)の実現に向けて、世界各国で様々な取り組みが進められている。その中でも特にECを進める上で極めて重要な電子決済については、各国が活発に各種の方式を競って実験中であるが、その方法としては、大きく分けて
  1. クレジットカードタイプ
  2. 財布の電子化(ICカード型)タイプ
  3. 貨幣の電子化(ネットワーク/ソフト型)タイプ
の3つのタイプがある。
今回(2)と(3)の両方の機能をもつ優れたNTTの新電子現金方式が発表(96年9月11日)されたので、ここに紹介する。

NTTでは、昨年12月、インターネットでの利用を想定した電子マネー実験システムを公表していた。この実験システムは、「実際の現金と同じように使える実用的な電子マネー」をコンセプトに研究を進めたもので、ネットワークを介したオンラインショッピング等に利用することを目的としたものであり、セキュリティ対策については、ICカードのような物理的な不正防止対策のみに頼ることなく、暗号技術によって効果的な不正使用対策を実現した。また、クレジットカード決済の電子化とは異なり、利用者の購買履歴を追跡不能とすることにより、利用者のプライバシーを保護する仕組みを採用している。
ただ、この実験システムには、以下のような課題が残されていた。

  1. 事後検出を中心とした二重使用防止対策であったため、二重使用後の利用者の追跡は可能であるが、二重使用そのものを防ぐ対策が十分でなかった。
  2. 利用者から預金を受け入れる銀行が電子マネーの発行機関を兼ねる仕組みとしていたため、複数の銀行が電子マネーを提供する場合、複数の発行機関が併存し、電子マネーの互換性が問題となるほか、銀行間での決済方法を検討する必要があった。
  3. 電子マネーの二重使用をチェックするために、過去に発行したすべての電子マネーの情報を発行機関のデータベースに蓄積する必要があった。このため、電子マネーの発行量が増えると、発行機関側で蓄積するデータが膨大となるという問題があった。
  4. 電子マネーを分割して使用する際や、利用者間の譲渡の場合に、処理上の制約があった。
NTTでは、上記のような課題の解決を目指して日本銀行金融研究所とNTT情報通信研究所と共同で研究を続け、このほど新たに改良を加えた電子マネー実験システムを試作した。
  1. 新方式の特徴
  2. 新方式の概要
  3. 今後の予定

1.新方式の特徴

(1)安全性の向上
二重使用チェック等の方式の簡素化や独自の高速なディジタル署名方式の採用により、処理能力の劣る汎用のICカードを使っても実用的な時間(短時間)で処理を行うことが可能となった。これにより、偽造や二重使用などの不正使用を防止する技術として、(ア)従来採用していた暗号技術による事後検出方式や、(イ)電子マネーの取引を行う都度ICカードのセキュリティ機構を用いてチェックを行う方式、(ウ)取引の都度オンラインで不正使用チェックを行う方式、を組み合わせてシステムを構築可能とし、様々な不正使用に対して何重にも対策を講じることが可能となっている。例えば、ICカードを利用すれば簡単には二重使用ができなくなり、仮に巨額の費用をかけてICカードを解析・偽造しても、暗号技術による不正検出システムにより事後的に捕捉できる、という仕組みになっている。これらのセキュリティ対策は、利用環境(利用金額など)に応じて柔軟に組み合わせを変えることが可能となっている。

(2)複数銀行による同一の電子マネー提供
電子マネー利用者の利便性を考慮して、複数の銀行が同一の電子マネーを効率的に取り扱い可能とする方式を考案した。一般の銀行(利用者が預金口座を持つ金融機関)とは別に、電子マネーを発行する専門の機関を設け、この発行機関を介して銀行間の資金決済を実施することにより、同一の電子マネーを複数の銀行で自由に取り扱うことが可能となった。利用者は、一般の銀行に預金口座を持ち、その預金を引き出して電子マネーを受け取る仕組みとなっている。発行機関は、電子マネーの発行及び銀行経由で還流してきた電子マネーの二重使用チェック等を一元的に行うことになっている。

(3)必要とされるコンピュータ資源の削減
利用者のプライバシーを保護しながら発行機関で蓄積するデータベース量を増大させない方式を考案した。二重使用のチェックを行うため、従来は発行した電子マネーの情報をすべてデータベースで蓄積しておく必要があった。新しく考案した方式では、還流してきた電子マネーは回収済みとしてデータベースから削除することができ、データベースで管理されていない電子マネーを二重使用されたものとみなす、とういう検出方式が可能になった。この結果、従来に比べ必要とされるコンピュータ資源が大幅に削減されることになった。

(4)電子マネーの分割、利用者間での譲渡
二重使用チェック等の方式の簡素化により、電子マネーを自由な単位に分割することや利用者間で譲渡することが、実用的な時間内に処理可能となった。

2.新方式の概要
新方式では、ネットワークを介して次の1〜6の処理を行っている。
参考:新電子マネー実験システム概要図(新規ウィンドウを開きます)

  1. 利用者登
    電子マネー利用者は自分の情報を登録機関に登録を行なう。登録機関では、登録書を作成し、利用者に送信する。

  2. 引き出し
    電子マネーの引き出し処理は(ア)金融機関から発行依頼書を取得、(イ)発行機関から電子マネーを取得、という2つのステップで行われる。
    金融機関が発行する発行依頼書は、金融機関の署名によって、利用者の口座から指定金額を減じたことを保証する。この発行依頼書の取得においては、ブラインド署名という署名技術を用いることにより利用者のプライバシーを保護している。
    発行機関は金融機関の発行依頼書に基づき電子マネーを発行し、データベースに発行した電子マネーの情報を登録する。利用者に渡される電子マネーは、発行機関の署名によって保証されている。

    注):ディジタル署名技術の1つで、署名者には署名対象のデータを秘密にしたまま、署名をつけてもらう技法をいう。

  3. 支払い(譲渡)
    電子マネーの支払いは電子マネーおよび支払い者の署名を受領者に渡すことにより実現されます。支払い手続きは、何回かの情報のやり取りによって完了する。支払われる電子マネーは、支払い者の署名によって保証される。

  4. 預け入れ
    電子マネーを預け入れる処理は、利用者または商店が電子マネーを金融機関に送信することにより実現される。金融機関は受け取った電子マネーに相当する額を利用者の口座に入金する。

  5. 還流
    電子マネーを還流する処理は、金融機関が受け取った電子マネーを、発行機関に送信することにより実現される。発行機関では、還流してきた電子マネーに対応する情報をデータベースから検索することにより、二重使用の有無チェックを行なう。

  6. 不正者追跡
    二重使用が検出された場合、発行機関は二重使用された電子マネーの情報から利用者署名を抽出し、登録機関に発信します。登録機関では利用者署名からその利用者を検索できる。

3.今後の予定
NTTでは、ICカードへの実装方式や少額取引時の処理コストの削減などの課題に向けて今後も電子マネーの研究開発を進めていくと同時に、システム構築方法や運用方法についてNTTグループの(株)情報通信総合研究所が運営するECN(エレクトロニック・コマース・ネットワーク:http://www.commerce.or.jp/)上などで実験をしながら実用化を進めていく予定である。
(産業ネットワーク研究部 浅埜 正吾)

(入稿:1996.09)

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