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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<海外>

「FCCが採択した新相互接続規則の枠組み」
(改訂版)

(96.09)


 FCCは8月1日に、96年通信法に基づき、地域通信市場を競争に開放するための相互接続に関する基本的枠組みを採択し、8月8日に公表した。長距離、地域、セルラ−、CATV等に分かれている電気通信市場の垣根を取り払い、相互参入を促進するための最初のステップとして関心を集めていた。特に、長距離事業者と地域事業者の利害が対立する州際アクセス・チャ−ジについて、100億ドル(長距離事業者の総支払い額は約300億ドル)の削減が折り込まれるのではないかとの憶測が流れ、両陣営とも史上最も激しいロビイング活動を展開した、と新聞は報じていた。

 米国においても、長距離電話料金の黒字で市内電話事業の赤字を補填する構造が長年続いており、1984年にAT&Tの分割を行った際、競争条件整備の一環として料金のリバランシングを実施したものの、不完全なまま今日に至っており、市内電話の赤字(主として住宅用電話の基本料、定額使用料)補填はアクセス・チャ−ジに頼ってきた。したがって、州際アクセス ・チャ−ジがコストから著しく乖離していることは、支払い側、受取側の双方が認めるところで、相互参入による競争を促進する上で避けて通れない課題と見られていた。しかし、今回制定されたFCC規則では、この問題は今秋予定されている州際アクセス・チャ−ジ(11月に規則制定提案が行われ、97年3月に最終規則を制定する予定)とユニバ−サル・サ−ビスの規則改正に関する論議に委ねられることになった。

  1. 連邦と州の関係
  2. 相互接続の義務
  3. ILECが提供を義務づけられるアンバンドリングされた網要素へのアクセス
  4. 相互接続、アンバンドリングされた網要素の提供方法および料金
  5. アンバンドルされた交換に対するアクセス・チャ−ジ
  6. 市内(LATA内) サ−ビスの再販売
  7. 市内通話の中継および着信料金の清算(相互補償)
  8. 商用移動無線サ−ビス(CMRS)

1.連邦と州の関係
 地域通信市場に競争を導入するため、相互接続ル−ルを制定することおよび接続料金をどう定めるかは、主として州の権限である。このことは96年通信法の第252条に明記されているが、この点についてFCCニュ−スは「96年通信法のもとで、既存の市内電話会社(ILEC)および新規参入者は、FCC規則にかかわりなく、任意に相互接続条件で合意できる。ただし、当事者が合意に達することができずいずれかが仲裁を求めた場合、FCCは仲裁に関する基本的な条件を規則によって明らかにした」ものであると述べて、州の権限との整合を図っている。
 しかし、相互接続は事業者の利害が鋭く対立する問題であるだけに、仲裁に関する基本的条件とは言え、FCCが定めた全国統一規則に基づいて、市内網の競争への開放が進展することになるものと思われる。
2.相互接続の義務
 ILECは相互接続を請求する全ての事業者に対して、技術的に可能なあらゆる地点でアクセスを提供する義務がある。また、ILECが自社またはその関係企業に提供する場合と品質において同等でなければならず、料金その他の提供条件においても差別してはならない。
3.ILECが提供を義務づけられる
       アンバンドリングされた網要素へのアクセス

FCCが定めた7つの網要素は以下の通りである。
  1. 網インタ−フェ−ス・デバイス
  2. 市内ル−プ(回線)
  3. 市内交換機およびタンデム交換機(ソフトウエアを含む)
  4. 局間伝送
  5. 信号および通話関連デ−タベ−ス
  6. オペレ−ション・サポ−ト・システム(OSS)および情報
  7. 交換手サ−ビスおよび番号案内
 7つの網要素に特に目新しいものはないが、「6.OSSおよび情報」の具体的内容如何によっては議論があるかもしれない。FCCが定めた7つの網要素は最小限のものであって、当事者間の合意や州の判断によって、網要素をさらに追加することも可能である。
4.相互接続、アンバンドリングされた
       網要素の提供方法および料金

 市内電話会社(LEC)はその構内において、相互接続およびアンバンドリングされた要素へのアクセスに必要な設備の物理的コロケ−ションの提供を義務づけられる。技術的理由またはスペ−ス上の制限がら物理的コロケ−ションが提供できない場合は、論理的コロケ−ション(virtual colocation)(注)が認められる。(注)LECの構外ではあるが、極力近いところで相互接続を行うこと。  96年通信法はコストにもとずく差別のない相互接続料金を設定することを義務づけており、合理的な利潤を含めることができる。今回のFCC規則では、州は仲裁料金を設定することを求められており、その手法としては「個々の網要素の提供に要するLECの全要素長期増分コスト(Total Element Long-Run Incremental Cost:TELRIC) に将来の(forward-looking) 結合コストおよび共通コストの合理的割合を加えた額に基づくべきである。とりわけ、州は妥当なリスクで調整された資本コストと減価償却率を決定しなければならない」と定めている。これは完全配賦コストの適用を否定したもので注目される。
 さらにFCCは、州が相互接続上の紛争の仲裁について、法で定める期間内に上記の算定方法を適用できない場合、暫定的に採用される代替的な料金の上限と範囲を定めている。例えば、市内交換については0.2-0.4 セント/ 分に次に述べるアクセス・チャ−ジを加えた額、タンデム交換については0.15セント/ 分としている。
5.アンバンドルされた交換に対するアクセス・チャ−ジ
 今回のFCC規則は、ILECが長距離通信事業者に直接またはサ−ビスの再販を通じて交換アクセス・サ−ビスを提供する場合、従来から支払われているアクセス・チャ−ジは当面変更しない、としている。アンバンドリングされた網要素の料金にはアクセス・チャ−ジは含まれておらず、また現行のアクセス・チャ−ジはその一定割合がユニバ−サル・サ−ビスの提供のための費用に充てられていることから、今後予定されているアクセス・チャ−ジとユニバ−サル・サ−ビスの改革手続きが終了するまでの間、アンバンドルされた交換アクセスについてもアクセス・チャ−ジによる回収を継続することにした。期限は最長で97年6月30日迄としている。
 上記の措置によって地域電話会社はアクセス・チャ−ジ収入を当面大きく失うことはなくなり、「安堵のため息をもって迎えられた新電気通信規則」と評され、ベル電話会社の株価は低迷から息を吹き返したと見られている(The New York Times 96.8.2) 。
6.市内(LATA内) サ−ビスの再販売
96年通信法は市内競争促進のため、ILECが加入者に提供(小売)しているあらゆるサ−ビスを、電気通信事業者に卸売価格で提供(再販売)することを義務づけている。また、96年通信法は卸売料金の設定基準として、州に対しILECによって回避されるか、または回避できるコスト(costs will be avoided or that are avoidable、具体的にはマ−ケティング、料金請求および回収などの費用) を明らかにし、事業者向け卸売料金を算定することを求めている。
 今回のFCC規則では、この基準によって州が卸売料金の算定を行わない場合に、暫定的に適用する割引率を、小売料金の17−25%と定めている。
 AT&Tは、ベル電話会社が長距離市場に参入する前に、市内リセ−ルを活用して全ての州で地域市場に参入すべく申請を提出しており、9月から5つの州で試行を計画している。(Business Week 96.7.8)
7.市内通話の中継および着信料金の清算(相互補償)
 96年通信法は、事業者間の市内通話の中継および着信についての清算料金はコストに基づくことを義務づけている。FCCの結論は、州が仲裁を行う場合は、地域電話会社の将来コストに基づく対称的な料金を定めるべきだ、というものである。この場合、上記4.のTELRICの手法を適用してよい。この手法を使わない場合FCCは、端局への着信については0.2-0.4 セント/ 分、タンデム交換機への着信については0.15セント/ 分に端局までの中継料金を加えた額を上限とする、としている。
8.商用移動無線サ−ビス(CMRS)
 本規則でFCCは、CMRS事業者は電気通信事業者であり、従って、事業者間の通話の相互補償(reciprocial compensation) 条項(96通信法251条(b)(5))の適用を受ける、と規定している。また、LEC発信の通話をCMRS事業者に着信させる場合、LECが課金をしてはならない、としている。
 現在、LEC着信の通話にセルラ−事業者は平均3セント/分の相互接続料を支払っているが、セルラ−着信の通話にはLECは支払いをしていない。今回のFCC規則が適用されると、セルラ−事業者の相互接続料は10億ドル程度の削減が見込まれ、料金値下げが実現するのではないか、と期待されている(The Wall Street Journal 96.8.2)。

今回のFCC規則は、市内市場に参入する事業者とベル電話会社の要求の中間をとっている、と言われている。例えばFCCは、アクセス・チャ−ジには手をつけないようにというベル電話会社の要請に従った。しかし、長距離事業者は、LECが提供するアンバンドルされた網要素に適用される料金設定原則には満足しており、市内卸売り料金の割引率が17−25%に定められたことも評価している。セルラ−などの無線事業者もLECに支払う相互接続料を大幅に削減することができるし、小規模電話会社やCATV会社がLECと接続して事業の展開ができるように配慮している。州政府は、FCCが定める手法に則ることを前提に、独自の料金規則を制定することができる。多方面に目配りを利かせていると言えるだろう。しかし、ハントFCC委員長の言うように、電気通信改革はこの規則の制定の段階では、未だ「始めの終わり」でしかない。

 米国の電気通信改革は、最大の難問である州際アクセス・チャ−ジとユニバ−サル・サ−ビスの問題を解決しなければ完結しない。この段階では、誰もが満足する解決はあり得ない。「FCCの新規則は、長期的には利用者の利益になるが、短期的には(市内)電話料金の値上げをもたらすだろう。」(The Wall Street Journal 96.8.2)と言う。
 いずれにしてもFCCの新規則は96年新通信法を施行するための最初のアクションに過ぎず、相互接続のパタ−ンや料金などは、事業者間の直接交渉、州政府による仲裁、その後のFCCによる個々のケ−スについての裁定、裁判所への訴訟提起と判決などを通じて確立していくことになるだろう。

(本間 雅雄)

(入稿:1996.08)

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