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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<インターネット・パソ通・コンピュータ>

「インターネットビジネスの虚像と実像」

(96.10)

  1. 経済モデル欠如のサイバースペース
  2. 消えはじめるホームページ
  3. ゴールドラッシュ論の本質とインターネットビジネスの実態
  4. ショッピング・広告は今後も収入源となりうるか

1.経済モデル欠如のサイバースペース

 インターネットでWWWに初めて触れた時、多くの人がその無限の可能性について予感を感じた。今日多くの知識人が、その予感を感じつつインターネットの多大な影響力を次のように表現している。
 第三の波の到来、真の民主主義の実現、国境の消滅、既存のヒエラルキーの崩壊、流通機構の解体、生命体的進化、経営システムの崩壊、経済秩序の解体、ワールドコミュニティーの形成。これらのインターネット革命論をよく読めば、理論的には多くは間違ってはいない。だが、これらすべてはあくまでもインターネットビジネスが成功して、ひろく一般大衆までインターネットが普及することを前提にしている。

 大学関係者、研究者、ジャーナリストなどの知的労働者にとって、ドキュメントの空間的問題の解決を実現したWWWは甚だ刺激的だった。NASAなどの政府機関、大学、ビジネスなどの情報共有化手段、あるいは個人、グループによるワールドワイドな情報発信手段として、インターネットが存在し続けていくことは言うまでもない。しかし、これは社会を構成する現象の一部であり、現実の社会(リアリティ)自体を構成するものではない。
 情報提供者と受け手の関係において、広告であれ、ショッピングであれ、ボードリヤールが言う社会の最もプリミティブな関係である「交換」が成立しなければ、サイバーコミュニティは、社会的関係という意味付けを持ったバーチャルな社会へ進化するための推進力を失ってしまう。
 つまり、インターネットは極く限られた人々の情報伝達手段(つまり通信が実現する空間的距離の克服)の次元を超えられず、生活者、一般大衆を含めたメディアの変革とマルチメディアの出現とはなり得ない。しかし本当にこの経済モデルは機能するのだろうか。

   インターネットが一部の人間の所有物のままでは、新たな秩序の再構築も民主主義の再編も起こりえない。しかも、以下に述べるように、社会の底辺をなす経済モデルあるいはビジネスモデルが、このサイバースペース上で現実には機能していないため、早くも米国ではインターネットの行き詰まりが始まりつつある。

2.消えはじめるホームページ
 インターネットが今日のような広がりを見せたのは、言うまでもなく研究目的から商用化になってからであった。しかし、米国で最も代表的なオンライン雑誌であったウェッブ・レビューの休刊、マーケットプレースMCI、ISNに代表されるショッピングモールの停滞、閉店、広告を収入源としていたウォールストリートジャーナルの有料化など、いずれもコンテンツプロバイダーの苦戦が伝えられている。

   日本でも情報提供者の大きな成功は実現していない。あたかもインターネット上でのビジネスが一攫千金のサクセスストーリーを生み出すかのように語られていたにもかかわらず、インターネットでの成功者はヤフー、ネットスケープなど世界でもごく僅かな企業にすぎない。

3.ゴールドラッシュ論の本質とインターネットビジネスの実態
 インターネットをゴールドラッシュに例えたのは、ほかならぬビル・ゲイツである。ビイル・ゲイツのこの指摘は、実に的を得たものだった。
 良く知られているように、19世紀のゴールドラッシュでは、金を堀当てて儲けた人はごく一握りの人々で、その道具屋や弁当屋、ジーンズのリーバイスが最も成功した人々であった。

 1995年の米国インターネット市場での売上額がまさにこの点を示している。
 インターネット市場の最大のプレイヤーはオンラインサービス事業者を含めたアクセスプロバイダーで、全体のパイの6割を占めている。次はソフトウェアベンダーで、WWWサーバーの売上で約2割の市場を占め、関連サービスが1割である。これらのインターネット関連企業が市場の全体の9割以上を占めているのに対し、情報提供者はショッピングの売上と広告を合わせてわずか数%にしか過ぎない。しかも日本のケースでは、アクセスプロバイダーのうち黒字を上げているのはわずか2割である。
 つまり、インターネットで稼いでいるのはマスコミを利用してブームを煽りたてているインターネットの道具屋であり、情報提供者ではない。しかも黒字を上げているのは、2割のアクセスプロバイダーとネットスケープやサンなどのわずかなプレイヤーである。

   インターネットユーザー数も誤解されがちである。その多くは電子メールユーザーであり、WWWのアクティブユーザーはその1/3〜1/4以下程度である。そう計算すると日本のWWWユーザーは、百数十万人程度にしか過ぎない。

4.ショッピング・広告は今後も収入源となりうるか
 インターネットホームページの収入源は主にショッピング、広告、電子新聞・雑誌などの月額料である。これらに対するユーザーニーズは市場調査では極めて高い結果になっている。よって、エレクトロニックコマース(EC)、電子通貨、電子決裁など、はなばなしいインターネット上の経済モデルが語られることが多い。しかし現実はそう単純ではない。

   電子ショッピングが先行している米国でも、ユーザーの利用回数を調べてみると、なんと年間で6回以下が90%を占めている。すなわち、これは電子ショッピングのリピーターが大変少ないことを意味している。仮に、リピーターであるとしても、電子通貨が得意とする少額商品を買っているのではなく、クレジットカードで十分な衣料、コンピュター周辺装置が中心になっている。
 また、米国の専門家も指摘しているが、通販ユーザーは便利さを買っているにもかかわらず、インターネットでは通販の10倍以上の手間と時間がかかってしまうという問題がある。
 航空チケット、CDなどの規格化した商品、あるいはカタログなどの他の媒体で商品の内容があらかじめわかっている通信販売、パソコン関連商品、専門化した商品など、米国で成功している例もあるが、成功している事業者は現在のところごくわずかである。
 これを裏付けるのが1995年のインターネット上でのショッピングの市場規模であるが、これは極めて小さい。米国のダイレクト・マーケティング市場は1兆925億ドルだが、インターネット上の売上はフォレスターリサーチ社によると3億5千万ドルであり、シェアは0.03%に過ぎない。しかもインターネット上のショッピングモールは閉店が増えてきている。
 今後は特定化した商品で売上を伸ばしていくことは考えられるが、電子ショッピング市場の成長は人々の期待している速度より、もっとゆっくりしたものになる。また、ネットワーク上での取引が進まない上に、情報のペイパービューへのニーズは低いため、電子通貨も机上のもので終わる可能性がある。

   インターネット広告は、かつて広告代理店が作成したマルチメディア広告やプロディジーのモデルを前提にしていた。つまりユーザーが広告をクリックすることで、深い情報を得て、最後には購買につながる点に価値を置いていた。さらに、事前にユーザーのデモグラフィック情報を登録すれば、広告の露出がユーザーの関心領域に従ったものとなり、従来のマス広告にないセグメント化された広告の価値が売り物であった。
 しかしホームページ上にバナー広告を出してわかったことは、ユーザーは、これは紙などの媒体でも同じだが、広告を見ていないという事実(通常1〜2%程度)が、アクセス数からはっきりと分かってしまうことである。
 通常ではわからない広告の認知率が、インターネットで分かってしまう仕組みは、ホームページが十分な広告主を集めえないという矛盾を露呈している。ウォールストリートジャーナル、パスファインダーなどが広告依存型から有料化に踏み切るのはこの理由からである。しかも有料化したページは、多くの場合アクセス数がどっと減り、広告価値は一層減少する。またディレクトリーサービスですら十分に利益を上げていない。
 1995年の米国におけるインターネット広告の収入は、ジュピターコミュニケーションズ社によれば7,000万ドル、フォレスターリサーチ社によれば3,700万ドルであると言われているが、米国の広告市場全体が600億ドルに対して、わずか0.1%〜0.06%に過ぎない。

   これらのインターネット上のビジネスが成立しえない構造的問題の一つとして、ユーザーのネットワーク環境が余りにも貧弱なことがあげられる。つまり今日パソコンの処理速度とネットワーク速度の格差が広すぎるためである。
 それを打開していく技術としては、圧縮技術、衛星、XDSL等が開発されているが、地上系のサービスはそのコストに対して十分に見合う一般ユーザーの高速化へのニーズが低い。これは過去に米国のVODの失敗で示されている。
 むしろ、インターネットの家庭への普及は、ディジタル衛星放送とメディアミックスした形で2000年以降まで待たなければならないだろう。そこでは、テレビの双方向性を補完するツールとして、消費者市場で利用される可能性があるのではないか。

(マーケティング調査部 吉澤 寛保)

(入稿:1996.09)

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