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トレンド情報 -トピックス[1996年]
<インターネット・パソ通・コンピュータ>

「日本でも始まるオンライン・バンキング
〜もう一つの電子決済」

(96.11)

  1. 日本でもはじまるインターネット・バンキング
  2. 電子決済のもうひとつの流れ--オンライン・バンキング
  3. IBM、北米の15銀行と消費者向けオンライン・バンキングネットワ−クを構築へ
  4. 米国におけるオンライン・バンキングと日本におけるオンライン・バンキング

1.日本でもはじまるインターネット・バンキング

住友銀行が来年の1月から、インターネットを利用したオンライン・バンキングを開始する。顧客は、WWW上で、自分の口座からあらかじめ指定しておいた口座に振り込みができようになる。サービスを利用するには、事前に登録を行いIDを取得するほか、振り込み先も指定し、IDを取得しておく必要がある。WWW上では、振り込み先、振り込み金額を指定する。同行は、すでに95年12月からパソコンを端末にし、公衆網と専用ソフトを利用したダイヤル・アップ型の「オンライン・バンキング」を開始していたが、インターネットを利用したオンライン・バンキングは、日本では初めてである。これに対し、すで米国では昨年にインターネット上でのみ営業する銀行なども現れているなど、銀行業界、ソフトウエア業界共に、オンライン・バンキングの実施に積極的に取り組んでいる。

2.電子決済のもうひとつの流れ--オンライン・バンキング
一般の個人を対象にした「電子決済」が、インターネットを利用したエレクトロニック・コマース普及の一つのキーワードとなっている。日本でいう個人向け電子決済はほとんどの場合、クレジットカードのインターネット上決済や電子マネー(ICカード型、ネットワーク型)を指している。これが騒がれる背景は、お客がインターネット上の店舗で商品の購入を決めても、せっかくの注文や支払いがインターネット上で簡単にできないのでは、オンライン・ショッピングの特徴である手軽さを生かすことができない。ひいては実際の売上げにつながらないのではないかという懸念である。また、電子マネーなどは、既存のシステムに依存しない全く新しい概念やしくみでもあり、一層注目が集まっている。

これに対し、オンライン・バンキングとは、既存の銀行業務の延長で、一般の個人を対象とした電子的資金振り替えサービスである。債権債務の決済を、現金や小切手を利用しないで、パソコンやスクリーン付き電話機などの端末から銀行のコンピュータに直接アクセスして処理を行うシステムで、既存の銀行システムに乗っ取った電子決済の方法だ。これは、もちろん、インターネット上での商品の売買に利用できる。また、この方法は、利用者の銀行から直接資金を送り、販売店は、振り込みを確認してから商品を発送できるため、利用者の与信状態を確認しなくても良いという利点がある。

米国では、電子決済が、エレクトロニック・コマースのキラー・アプリケーションになるのではないかという期待により、オンライン・バンキングに利用される個人向け会計ソフトが早くから注目を集めた。昨年の前半は巨人Microsoftによる個人向け会計ソフト「Quiken」で成長したIntuitの買収をめぐる一連の動きが話題となった(結局、司法省の動きを恐れMicrosoftが買収をあきらめた)。また、次々とパソコン通信大手がオンライン・バンキングをサービス・メニューにとりいれた。96年4月Microsoftは、Open Financial Connectinity(OFC)を発表、同社のソフト「マネー」を利用し、ダイヤル・アップまたは、インターネットで利用する銀行向けネットワークシステムを発表した。9月には、昨年からIntuitのバンキング・システムを取り入れていたパソコン通信最大手America Onlineが、VISAインターアクティブ、CheckFree、Online Resourceなどのバンキング・サービスも行えるバンキング・センターを設けた。そして更に、インターネットを利用したバンキングの段階へ入りつつある。

3.IBM、北米の15銀行と消費者向けオンライン・バンキングネットワ−クを構築へ
IBMは、北米の15銀行と消費者向け電子決済ネットワ−クを構築することを発表した。ネットワ−クの名前は「Integrion Financial Network」。インターネットとに接続された巨大なプライベート・ネットワークである。主な参加銀行はBank of America, First Chicago NBD, Mellon Bank, NationsBank, Royal Bank of Canada等の北米15行で、これらの顧客をあわせると6,000万世帯を越し、米国及びカナダの世帯数の60%に相当すると言う。提供するサービスは、支払い、送金、残高照会等のオンライン・バンキング及びエレクトロニック・コマ−スである。サービスは、BancOneとNations Bankが来年早々から開始する。その他の銀行も97年中には、サービスを開始する予定である。同ネットワークは、参加した15行とIBMが出資して設立した会社によって運営される。各々の会社は、数百万ドルずつ出資した。

「Integrion Financial Network」はオ−プンで共通なプラットフォ−ムを提供することを特徴とする。ネットワークのAPIを公開するため、だれでも自由に「Integrion Financial Network」や個々の銀行向けソフトウエアを開発・販売できる。これまで、Intuit Inc.はQuickenの仕様を公開していない。MicrosoftのOpen Financial Connectivity は仕様を公開している。また、現在、既存の個人用会計管理ソフトで人気の高いMicrosoftのMoney、Intuit Inc.のQuicken等や、NetscapeのNetscape NavigatorやMicrosoftのExplore等のブラウザ−も利用してインターネットからアクセスできる。またパソコン通信のAmerica OnlineやProdigy、CompuServe、さらにIBM Global Network、一般の電話でも利用できる。
銀行のWebサイトは、IBMにホストされるだけでなく、IBMのGlobal Networkにつながれている。決済の毎にIBMは手数料を得る。またここから専用線などを利用し、電気などの公共サービスのほか、クレジットカード事業者、小売店、航空会社のネットワ−クなどとつないで、商品の売買に伴う決済での利用も促して行きたい考えである。

「Integrion Financial Network」は、Intuit Inc.、Microsoftなどにオンライン・バンキングで先行された感のある銀行とエレクトロニック・コマースの分野でやはりMicrosoftやNetscape に先行されたIBMが一緒になって、オンライン・バンキングでの主導権をとりもどそうとする動きである。参加する銀行群が抱える北米地域で60%の世帯を越えるという既存の顧客数と銀行とIBMの知名度を利用してどれだけの顧客を集めることができるかが注目されるところである。また、銀行側としては、コンソーシアムを組むことでどれだけ開発費を節約できるかが事業化の成否の分かれ目でもある。

IBMにとっては「Integrion Financial Network」は単純に同社のGlobal Networkを利用する際の手数料によるビジネスというよりも、エレクトロニック・コマースにおける総合的サービス戦略において「決済プロセス」におけるソリューションを提供したという点で重要である。「販売プロセス」では、IBMは、「Integrion Financial Network」に先立ちCommerce Pointという総称で、3種類の企業-個人間取り引き向け電子取り引きソフトを発表している。Windows NTで走るNet.Commerce、IBMのインターネット・モールの店舗向けWorld Avenue、 インターネット上でスタンドアロンで利用するWorld Commerceである。Commerce PointはIntegrion Financial Networkの基本的技術として利用されている。また、Commerce Pointの一部には、Commerce Point PaymentというSETを基本とする決済システムが利用されている。今回、エレクトロニック・コマースの販売のプロセスに加え、決済のプロセスでもソリュ−ションを提供することで出遅れたエレクトロニック・コマースにこのあたりで一気に盛り返そうという戦略なのである。この他、IBMは、エレクトロニック・コマースの分野で有望な商品とされる情報サービスを提供する際に不可欠なコンテント計量課金ソフトの分野で「InfoMarket」を投入している等、着々と足場を固めて来ていた。

4.米国におけるオンライン・バンキングと 日本におけるオンライン・バンキング
米国では、日本に先駆けオンライン・バンキングを積極的に導入し、順調に利用者数を伸ばしているように思われる。その理由を考えてみる。銀行の立場で言えば、サービスの電子化によるコストの削減が大きな魅力である。利用者の立場で言えば、パソコンの普及率の高さはもちろんとして、米国では、料金などの自動引き落としの習慣がないことが大きな理由となっている。

米国では、電話料金、ガス代、電力料金、クレジットカードの支払い、友人への借金まで様々な支払いは小切手を切り郵送することで行う。人々は、毎月、数種類の小切手を切り、郵送するという面倒な作業をしているのだ。米国では、一般に日本人よりも料金の支払いにルーズで、企業側は、料金の回収に苦慮している場合が多い。消費者としても、料金の支払い忘れで、信用に傷がつくことをおそれている。では、何故「銀行引き落としがないの?」と疑問に思われる方も多いかもしれない。米国では、「銀行にまかせておいては、間違っていたら大変だ」とほとんどの人は考えている。かくいう私も、米国で給与(これも小切手で手渡される)を自分の口座に振り込もうとして銀行窓口で手続きをしたところ、それをなくされてしまったという苦い目にあった経験がある。この点、オンライン・バンキングは、利用者が確認しながら最小限の手間で料金の支払いができる。この振り込みの記録などを個人用会計ソフトでその他の家計のデータと連動させることができれば、利用者にとってかなり使い勝手のよいサービスとなりそうだ。

また、米国では、電話による顧客サービスが充実しており、通常、銀行やクレジットカード会社でも、24時間体制で対応している。つまり、利用者側では、24時間いつでも自分の好きなときに、銀行のデータにアクセスしたいという欲求がある。オンライン・バンキングは、電話による顧客サービスをより充実させたものであり、利用者にとっては、そんなに新奇なものではない。

これに対し、日本では、自動銀行引き落としが普及しており、米国のように料金支払い作業に向けての需要が存在していない。また、24時間体制の顧客サービスや電話による顧客サービスが普及していないため、米国から見れば不便な状況に慣れてしまっているように思われる。24時間利用できるパソコンによるオンライン・パンキングの使い勝手の良さを認識するまでに、米国よりも時間がかかりそうである。したがって、日本のオンライン・バンキングはエレクトロニック・コマースによる代金決済の手段として発達する見込みが強い。電子マネーが少額決済の手段として利用される見込みであるが、オンライン・バンキングは比較的高額の決済として利用されていく可能性が強い。米国に比べて、クレジットカードの利用度が低く、自分の銀行口座の残高をいつも把握したい日本の消費者にとっては、クレジットカード決済よりも短い期間でインターネット上の決済手段として浸透する可能性もある。先に紹介した住友銀行では、日本総合研究所の「スマートアイランド」に決済手段のひとつとして、インターネット・パソコン・バンキングを導入することにしており、その動向が注目される。

(マーケティング調査部 西岡 洋子)

(入稿:1996.11)

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