トレンド情報
-トピックス[1996年]
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米国インターネット・コンテンツビジネスの幻想 | |
(96.12) | |
1.インターネット広告は2000年には50億ドル市場 11月にラスベガスで開催されたコムデックスの基調講演で、ビル・ゲイツ氏は、これからのパソコンには膨大な情報量をやりとりできるパワーが必要となると話し、「マシンから一層多くのパワーを引き出しながらも、複雑さをかくしていきたい」と語ったそうだ。また、ネットスケープ社のCEOジム・バークスデール氏は、現在のインターネット・ブラウザーはURLを入力したりリンクをたどるなどして、自分から情報を集めなければならないが、新構想「Constellation」ではテレビのチャンネルを合わす感覚で使える、情報が向こうからやってくる「Browserpush」という技術を使うと発表したそうだ。 2社の動きをはじめ、これからも端末やソフトの機能は向上し続け、インターネットでできることはますます多彩になっていくだろう。今よりも豊かで快適なインターネットの利用環境が今後も作られていくことだろう。 米国の調査会社ジュピター・コミュニケーションズは、インターネット広告の市場規模について、既に1996年第1四半期で2,356万ドル、第2四半期で4,310万ドルに達しており、1996年通年の広告市場は3億1,200万ドル、2000年には今年の16倍に成長し50億ドルの市場になると予測している。2000年における広告以外のインターネット関連ビジネスの市場として、インターネット接続サービスが46億ドル、有料サイトが38億ドルに達すると予測している。一方、米国の金融リサーチ会社キリン・アンド・アソシエイツによると、世界における電子貨幣の流通量は2000年に90億ドル、2005年には300億ドルに達するという予測を発表している。
これらの将来予測は、現在インターネット関連ビジネスのうち市場規模が大きいのは、インターネット接続ソフトやインターネット接続サービスであるが、今後は、インターネット広告や有料サイトなどのコンテンツの市場規模が拡大していく。インターネット・ビジネスの中心はハードメーカーやソフトウェアベンダーからコンテンツプロバイダーへと移っていくと予想している訳である。 今年4月末から12日間、そして8月後半に10日間と2回に渡って、のべ20日間あまり米国に行き、インターネット関連ビジネスに取り組む企業19社で、各社2時間程度のブリーフィングを受ける機会があった。企業でのブリーフィングを通して感じたことをご報告したい。 |
2.金脈コンテンツビジネスの幻想 TCP/IPの生みの親で「インターネットの父」と呼ばれているヴィント・サーフ氏にMCIで話を聞いたところ、「インターネットはゴールドラッシュと同じ。金脈を掘る人が儲けるのではなく、周辺でジーンズやスコップを売った人が儲けるのだ」という話。MCIは金鉱を掘るのではなくスコップやお弁当を売っていきたいということだった。 インターネット関連のビジネスには、ハードベンダー、ソフトウェアベンダー、インターネット接続プロバイダー、ウェブでのコンテンツプロバイダー、広告代理店・ホームページ制作等の関連サービス事業者等があるが、「金脈」とは、やはりウェブでのコンテンツビジネスだろう。 学生が数人でスタートしたサイトが世界で最も有名なディレクトリーサービスYahoo!になったり、米国の一地方紙が作成したホームページが世界中で注目を浴びたり、インターネットのコンテンツビジネスには米国流サクセスストーリーが多い。 インターネットでの情報発信は小さな初期投資でスタートできるので、コンテンツビジネスへの参入は比較的容易である。個人でも小さな商店でも簡単に始めることができる。そのため、インターネット上には情報提供サービスやショップ等無数のコンテンツが存在する。無数のサイトのうちごくわずかの事例がサクセスストーリーとして脚光を浴び、コンテンツビジネスにも成功例があるように捉えられがちである。 しかし、現状はそう簡単ではない。検索サービスや情報提供サービス、ショッピングを実施しているコンテンツプロバイダー11社を訪れたが、ビジネスとして採算が取れていると答えたのはコンピュータ関連の雑誌出版社の運営するサイト1社のみであった。今年第1、第2四半期ともインターネット広告収入第1位(ジュピターコミュニケーションズ社の調査)と言われているInfoseekですら、現段階では赤字、1997年第4四半期の黒字転換を目指しているという話である。コンテンツビジネスで採算を取るのは、少なくとも現段階では、非常に難しい。 |
3.離陸始めた、ディレクトリーサービスと情報提供サービス ディレクトリーサービス、情報提供サービス、ショップ、ゲーム配信、音楽配信、就職情報提供、チケット予約等々多種多様なコンテンツのうち、ビジネスとして成立し始めていいるのは、ディレクトリーサービス、情報提供サービス、ショッピングの3種くらいであろう。
インターネットで情報提供サービスを行っている事業者を見ると、1)新聞・雑誌等の紙媒体で情報提供している企業、2)CATVやTV等放送事業を行っている企業、3)パソコン通信等オンライン情報提供サービスをしている企業、4)インターネットでの情報提供でスタートした企業等がある。インターネットのメディアの特性を考えると、デジタル化した文字情報、静止画情報の蓄積のある紙媒体からの参入組がもっともビジネスとしての効率がよいように思われる。インターネットは現段階ではテキストと静止画が主体のメディアだからである。
数多くのコンピュータ関連雑誌を出版するZiff-Davis Publishing社の運営するZDnetは、1994年9月に開始されたコンピュータ関連情報を提供するサイトである。パソコン通信のアメリカ・オンラインやコンピュサーブでも同様な情報提供を行っており、雑誌→パソコン通信→インターネットと情報を発信するメディアを拡張している。 |
4.どこまで伸びる?インターネット広告 今回ヒアリングしたコンテンツプロバイダー11社のうち、9社が検索サービスあるいは情報提供サービスを行っていた。9社中8社は収入構造の中心が広告収入で、収入の7割〜10割を占めている。これら8社においては、広告収入の拡大がビジネス成功の鍵であり、いかに広告主の満足度を上げるかに多大なエネルギーが注がれている。
広告主の満足度を上げるためのポイントは、主に3つある。まず第1は、広告ページのアクセス数を増やすためのコンテンツ充実である。各サイトの内容によってコンテンツを充実する方法は様々であるが、ディレクトリーサービスを提供するインフォシークでは、検索エンジンだけでなく、電子メールアドレスや電話番号の検索サービスや株式情報、企業情報、ロイターとの提携による世界のニュース提供、米国のストリートマップまで提供している。テレビの視聴率にも相当するアクセス数を増大させるために、あの手この手を使ってコンテンツの充実を図っている。
インターネット広告の掲載料金は、広告の表示回数(ページビュー)を基準に設定されるのが一般的で、表示1,000回当たりの料金はおよそ$20〜$70/CPMとなっている。そのうち広告をクリックして広告主のホームページに飛んでいく割合をクリック率と呼ぶが、バナー広告のクリック率は1〜3%程度である。ということは、バナー広告を1回表示すると2〜7セントかかり、クリック1回当たりは$1〜$7程度ということになる。この価格を高いと考えるか、安いと考えるか、インターネット広告の効果に対する評価が明らかになるのは、これからである。 確かに、現在はインターネット広告は始まったばかりで急激に広告主数も広告費も増えているが、この伸びがいつまで続くのか疑わしい。なぜなら、現在のインターネット広告は各社のホームページへのリンクボタンとして機能しているわけだが、そのために各広告サイトに広告費を支払い続けてまで、アクセス数を増やす必要のあるホームページをどれほどの企業が作成しているのかという問題がある。あるいは、リンクボタンとしてではなくいわゆる雑誌広告やテレビのスポットCMの役割を期待するのであれば、ユーザー数が少なく属性が偏っているため広告主となる企業の業種が限られてしまうのではないかという疑問があるからである。 |
5.有料サービスの模索始まる いうまでもなく各社とも広告収入のみに依存するのでなく、利用者課金による収入を模索している。しかし、インターネットは非営利で運営されてきた歴史が長いため無料で情報提供されるのが当然という価値観が浸透していること、手軽で安心して利用できる決済手段が確立していないこと、インターネット利用料を支払ったうえに情報の料金を支払うことへの抵抗感が払拭できないこと等の理由によって、現段階ではごく限られたサービスしか有料化されていない。また、利用者課金をするとアクセス数が激減するため、広告収入と利用者課金との併用には工夫が必要であるという問題もある。 利用者課金を実現するために克服すべき課題は多いが、将来は、利用料収入の比率を増やしたいと考える事業者が上記の8社中7社に上る。もし利用料が取れれば、雑誌・新聞型のメディアということになるわけだが、今後どのような収益構造でコンテンツビジネスが展開されるのだろうか。 |
6.コンテンツビジネスの発展段階 インターネットのコンテンツの発展段階を考えると、1995年は、アクセス数を増やすためにコンテンツそのものを充実させることだけで精いっぱいで、収入源の見つからなかった時期、現在は広告収入という収入源が見つかり、広告収入を得るための努力を各社が競っている段階といえる。しかし、広告収入だけでコンテンツビジネスが成功するとは考えにくいため、他の収入源として利用者課金のシステムの模索が始まっている。利用者課金の方法が見つかれば、有料サービスで各社が競う段階に入っていくことになるであろう。 コンテンツビジネスの今後の収益構造の変化を予測するのは難しいが、私は、今後は広告収入と利用料収入以外の収入源の追求が進むと考えている。
例えば、インターネットのホワイトページ・サービスを行うベンチャーでは、ダイヤラー等の付加機能の付いたブラウザを開発し他サイトに提供することを検討しており、CD-ROMや書籍等の販売収入を考えているサイトもある。チケットの販売手数料やソフトウェアなどの情報掲載料等の収入を模索しているサイトもある。また、ハード・ソフトのベンダーがショールームとして検索エンジンを提供してる例もいくつかある。 |
(通信事業研究部 野原 佐和子) e-mail:nohara-s@icr.co.jp (入稿:1996.12) |
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