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2001年4月掲載

欧州の第3世代携帯電話導入が
大幅遅れの見通し

■ボーダフォンがネット戦略を発表

 世界最大の携帯電話会社のボーダフォンが3月7日に、2.5世代無線パケット・システムのGPRSを今年の6月までに英国、フランスを含む欧州11カ国に広げ、携帯電話によるインターネット接続を開始すると発表した。GPRSは最大144kbpsの伝送速度を持ち、電子メールやデータ検索、音楽やゲームの配信などが可能になる。ボーダフォンは提携先の仏ビベンディ・ユニバーサルとの合弁会社「ビザビー」が開発したポータルを基盤に、ネット接続サービス「Jスカイ」の実績を持つ出資先のJ−フォン・グループのノウハウを役立てようという計画である。

 これは、NTTドコモが今秋以降、海外でのインターネット接続サービス「iモード」を開始するのに対抗しようというものだ。ドコモはまずボーダフォンの本拠地の欧州で、提携先のKPNモバイル(オランダ)とテレコム・イタリアと組んで、9月に「iモード」を開始するのに続き、2002年には出資先のAT&Tワイヤレスと共同で米国でも開始し、「iモード」の世界展開を本格化させようとしている。

 欧州ではGSMに準拠するネット接続規格として「WAP」が確立しており、対応機種の2000年末までの出荷台数は約4000万台(業界推定)に達しているが、そのうち実際にネット接続機能を利用しているのは多く見積もっても欧州全体で200〜300万人に過ぎないという(注1)。WAPの不人気の一因は、データ量で課金できるパケット通信を採用しなかったことにある、といわれている。144kbpsの速度のパケット通信ができるGPRS(注2)の導入で、WAPの機能をフルに発揮させる条件を整え、巻き返しを図ろうというものだ。同業他社がGPRSによるインターネット・サービスの開始時期明らかにしない中で、ボーダフォンは先陣を切ることになった。

(注1)日経産業新聞 (2001.3.16)

(注2)・ボーダフォンのサービス開始時に使われる端末(モトローラT260)のダウンリンクの最大速度は36kbps(ボーダフォンのニュース・リリース 2001.2.28)
   ・最近、ノキアとシーメンスがGPRS端末を2001年第4四半期に発売すると発表した。

 ボーダフォンは3月7日の発表の中で、第3世代携帯電話(3G)サービスを、大部分の自社市場で2002年に開始するよう計画していることを明らかにした。また同社は、GPRSインフラの整備を着実に進める一方、コストが高い3Gは導入当初は都市地域に集中して構築し、人口密度の高くない地域では引き続きGPRSが利用されるだろうが、当社はそのことで3Gの展開を抑制することはない、と説明した。同社社長のジェント氏は、「GPRSは3Gへの移行を円滑にし、移動通信会社とその顧客がパケットの世界に進出するにあたって、3Gへの重要な基本的要素(building block)となる。」と語った。

 ボーダフォンはまた、GPRS端末は当初考えていたよりも安く、サービス開始直後は150ユーロ、今年末には100ユーロ程度に下がり、モデルも30程度まで増える、端末で重要なのはGPRSとUMTS規格の両方で利用できる デュアル端末であり、また端末を変えることなくアプリケーションの変更ができるJava内蔵端末の導入は、モバイル・インターネットに大飛躍をもたらす、と強調した。さらに同社は、サービスの内容は当初想定より充実しそうだ、GPRSの事業機会は4〜5年間で、その期間は(3Gサービス)の良い学習期間になるだろう、という見通しを明らかにしている。

 現在、ボーダフォンの全世界における移動通信顧客は約1億7,300万人である。同社はそのすべての市場において、一貫したブランド・ネームを構築するための改善計画を策定している。同時に、グローバル・インターネット・プラットフォームを介してシームレスなサービスの提供を計画している。同社のジェント社長によれば、目標はすべての顧客にグローバル・ブランドを提供することで、2002年までにすべての国において、単一のボーダフォン・ブランドを確立し、2004年までに最も価値の高いグローバル・ブランドを創造する、としている。

 しかし2004年においても、音声は依然として移動通信の最重要のアプリケーションであり、過去の記録が示しているように、データの利用増加は音声通話の回数増加をもたらす。2004年におけるボーダフォンの全収入に占める音声のウエイトを75〜80%と予測している。

2004年におけるデータ収入の予測(20〜25%)内訳
・メッセージング 8〜13%
・モバイル・コマース 2〜3%
・情報および娯楽サービス 5〜10%
・ビシネス・サービス 8〜13%
・デバイス間通信 2〜3%

 ボーダフォンとビベンディ・ユニバーサルの合弁会社「ビザビー」のモバイル・ポータルによるコンテントの制作は、顧客に価値を配信するというボーダフォンの戦略において重要な役割を果たし、トラフィックの増加に寄与するだろ。ボーダフォンは、デバイス(端末)、サービス、コンテント配信プラットフォームからCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、料金計算の統合およびパーソナル・サービスまでのすべてのバリュー・チェーンを扱っていく、と同社の幹部は強調している(注3)。

(注3)Total Telecom, Vodafone Sees 20%〜25% of Revenue from Data by 2004
(http://www.totaltele.com, 2001.3.8)

■次世代携帯電話サービスの導入延期の動き

 欧州において、次世代携帯電話(3G−UMTS)サービスの開始時期を遅らせる動きが始まっている。数少ない楽観派と見られているボーダフォンは、3Gを欧州の主要都市で2002年に開始すると発表したが、2002年のいつから開始するのかについては固く口を閉ざしている。同社を除く欧州の携帯電話各社も、2002年上半期としていた3Gのサービス開始時期を、1年程度遅らせる検討に入っている。

 先送りの第1の理由は技術に関するものだ。3Gの欧州標準であるUMTS規格は1999年に確定する予定だった。しかし、実際にこの規格がリリースされたのは2000年3月で、引き続く4〜6月期で180、7〜12月期で200の大きな仕様の改訂が行われた。規格が安定するまでには長い時間がかかるのだという。端末と既存網とのインターオペラビリティが特に問題なようだ。すでにクアルコムやアルカテルは、UMTS規格の端末を含む機器供給に遅れが出る可能性を警告していた(注4)。メリルリンチのアナリストの結論は、2004年までは十分な端末を含む機器の供給は難しい(注5)、というものだった。

(注4)Qualcom warns of delay in 3G roll−out timetable(Financial Times, Feb 23, 2001)

(注5)欧州の3G端末はGPRSとUMTSのデュアル・モードが不可欠で、開発が難しいという側面もある。

 J−フォンが3Gサービスの開始を7ヶ月(当初予定から約1年)遅らせて2002年7月とすると発表した。J−フォンは2000年12月版仕様(当初は2000年6月版に準拠の予定)に変更することにより、サービス開始時期を遅らせてもパートナーのボーダフォンとの国際ローミング(3Gの売り物の一つ)を可能にすることに踏み切った(注6)。

(注6)「問題は9月バージョンと12月バージョン間で互換性がないこと」(通信機器メーカー幹部)。今年5月の次世代(携帯電話)を目指しながらも、12月バージョンへの明確な対応を決めていないNTTドコモとJ−フォンの姿勢の違いが浮き彫りになった。(日刊工業新聞 2001.3.14)

 第2は2.5世代といわれるGPRSとの関係。欧州の主要携帯電話会社は今年GPRSを導入する。3Gと比べてスピードは多少遅くても、インターネットに常時接続が可能であり、コストも安い。これで3Gでなければ対応できない需要は何かを、2〜3年かけてテストできる。ボーダフォンのように、地方のモバイル・インターネット需要は当分GPRSで対応するという選択があるのかもしれない。いずれにしても、GPRSと3Gには適当な間隔を置いた方がよいという判断である(注7)。

(注7)「欧州のGSM網にGPRSをオーバーレイするコストは、加入者当たり9ドル(出所:Who Needs 3G Anyway、Business Week/3.26、2001 この記事には、「3Gの最大の競争相手は2.5Gである」、「よりシンプルで、遥かに低コストの2.5G(GPRS)が勝利するかもしれない」と書かれている。また、欧州における2005年の需要を、3Gが3,000万に対し、2.5Gを1億2,000万と予測している。)

 第3は資金である。3Gの高額な免許料の支払(EU加盟11ヶ国の合計1,300億ユーロ)の他にほぼ同額のネットワーク構築投資が必要で、各社とも資金調達と財務体質の悪化(格付けの引き下げ)に苦慮している。そのうえ、免許料を回収するのに平均9〜12年を要する見込みで、免許期間の15〜20年では利益を上げられる期間が短く、採算が不安視されている。

 第4はコンテンツと料金である。音楽、ビデオ、ゲームなどの配信が3Gの有望なコンテンツだとしても、伝送料金が高ければ利用は限られる。一方、利用を増やすため料金を安くすれば採算がとれない。3Gの技術にこのトレードオフを解決する能力があるのか、と疑問視する向きもある。

 巨額の免許料を一刻も早く回収したいという意欲の強かった昨年の夏とは一転して、2001年に入ってからは、これ以上株価を下げないためにも「着実な次世代システムへの移行」を目指す雰囲気に変わっているという。最大の技術的問題であるUMTS規格の端末も、メーカー各社は本格的に供給する時期を2004〜5年と見定めているようだ。 主要事業者の動きとしては、ドイツ・テレコムが今年1月末に、3Gのサービス開始時期を2003年とする可能性を発表している。フランス・テレコムはUMTS規格のフランスでのサービスを2002年下半期にいくつかの大都市で開始するとしているが、端末の供給が鍵を握るとしている。アジアでは、前述したJ−フォンの延期の他、韓国最大の移動通信事業者のSKテレコムがサービス開始延期の意向(早くても2003年)を示し、コリア・テレコムがこれに同調している。現在時点で上記以外の携帯電話会社で延期の意向を表明しているところはないが、各社がサービス開始時期とその後の本格展開を先送りする方向で動いているのは間違いない。

(注)参考 :Financial Times, SURVEY−CREATIVE BUSINESS:
Third generation mobile phones,Mar 13, 2001

■NTTドコモの慎重な3G戦略

 NTTドコモは、世界の携帯電話会社の先頭を切ってこの5月に3G(W−CDMA)のサービスを開始する予定である。世界中の同業者がその展開を固唾を飲んで見守っている状況だ。そのドコモが「3Gは当面ビジネス利用が主体で、今後数年間は一般利用者(consumers)によって広く利用されることはないだろう。」という見通しを明らかにしている。

 ドコモの立川社長が英国のフィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに答えたもので、「欧州の携帯電話事業者は3Gサービスの戦略を考え直すべきだ。3Gのサービス開始直後はビジネス・ユーザー向けサービスとなるだろう。だから、マス・マーケットにはならない。」と語っている。ドコモは3Gを、企業のコンピュータ・ネットワークと移動電話機をリンクするシステムとしてマーケティングすることから始めようとしている。「3Gは単純に通話を接続すればよいというのではない。我々はシステムを売り、運用し、保守する。3Gは新しいビジネス・モデルである。」(注8)

(注8) NTT DoCoMo warns of slow take−up for 3G(Financial Times, Mar 13,2001)

 同紙によれば、ドコモは3G導入当初は、ビジネス・ユーザーが生産性を高めるためにこの高度モバイル・データ・システムを採用するだろう、と確信している。だから、3Gの立ち上がりは、約2年間で2000万の一般利用顧客を集めて世界で最も成功したモバイル・インターネット・サービスであるドコモの「iモード」よりは、ずっと遅い立ち上がりになるだろうと見ている。ドコモは2001年度の3Gの需要を、サービス提供地域が東名阪の3大都市に限られた場合、15万と予測し、2004年3月における利用顧客数を600万人と想定するなど、慎重な姿勢をとっている。また、予想される3Gのゆっくりした展開は、コストを削減してマス・ユーザーが負担可能な(affordable)料金とするために十分な時間を与えてくれるだろう、と説明している。

 ドコモのこの慎重な態度の背後には、同社が「iモード」で余りにも素晴らしい成功を収めたからだとする見方がある。「iモードは、当初は音声通信時代からデータ通信時代へ移行期を埋めるものとして生み出されたが、今やモバイル・インターネットとしては唯一採算のとれる標準的「規格」となった。そのため、ドコモはiモードに影響を与えかねない次世代携帯電話に関し、積極的とも消極的ともいえない対応を見せている。ドコモは3Gに巨額の投資を必用としていることを十分承知している上、同社の3G端末サプライヤー11社のうちで(サービス開始の)5月に提供できるのは松下通工とNECだけと見られていることから、3Gに関して消費者や株主に失望感を与えないよう、慎重な構え方が得策だとの判断がある模様だ。」(注9)

(注9) インフォコム・クイック・アップデート(情報通信総合研究所 2001.3.14)

(参考)スプリントPCSが3G戦略を発表
 米国第4位の携帯電話会社のスプリントPCSは、去る3月21日ラスベガスで開催された全米移動通信産業連盟(CITA)の2001年大会で、「3Gエボリューション戦略」を発表し、米国最初の第3世代携帯電話をcdma2000によって実現する計画を明らかにした。この戦略は4段階の展開から構成されている。なお、周波数は取得済みのものを活用する。

第1段階 cdma2000 1xを導入し2001年中にサービスを開始、全国展開は2002年
音声トラフィックの容量倍増、データ伝送速度を144kbpsまで高速化
第2段階 2003年早期:データ伝送速度を307kbpsまで高速化
第3段階 2004年早期:cdma2000 1xEV−Data Only 導入
データ伝送速度(最大)2.4Mbps
第4段階 cdma2000 1xEV−Data and Voice 導入
伝送速度(最大)5Mbps
 スプリントのトップは「我々の競争相手は、既存のネットワークをW−CDMA技術に改造することに伴うコスト、タイミングおよび技術に関するトラブルに直面している。しかし、当社が選択したcdma2000による3Gへの移行は、当社の基地局の大部分で簡単なチャンネル・カードの入れ替えによってネットワークの高度化が可能になる。競争相手のW−CDMA陣営に比べ、より早くまたより安く、顧客の要望に応えることができる。」と強調した。スプリントPCSの所要投資額は、2002年までのcdma2000 1xの全国展開で7〜8億ドル、第4段階までの完全な3G移行に要する総投資額は約20億ドルと説明している。

(注)

寄稿 相談役 本間 雅雄
編集室宛>nl@icr.co.jp
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