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2002年3月掲載

破綻相次ぐ米国の長距離通信事業者
グローバル・クロッシング破綻の衝撃波、業界再編成の引金か

 年が明けて、米国で長距離通信事業者、国際通信事業者の破綻が相次いでいる。

 ITバブル目当てで参入した新興の中小事業者ならともかく、日本にも上陸している大手のグローバル・クロッシング(Global Crossing)も米国破産法第11条(会社更正法)の適用を申請し、大きな波乱を巻き起こしている。米国第2位の長距離通信事業者MCIを買収し傘下におさめたワールドコムや、ベル系地域電話会社のひとつだったUSウエストを買収した新興大手長距離通信事業者のクウエストまでが行詰りを懸念されはじめている。

 グローバル・クロッシングの再建には、アジアの2社が資金提供すると申出ているとのことだが、同社は米国海軍も大口顧客となっているため国防の観点から外国資本による建直しには米国政府や議会から反対が出る可能性が高く、楽観を許さない。負債額は先ごろ破綻した米国エネルギー大手のエンロン(Enron)に次ぐ大きな額で、連鎖倒産などその影響は今後大きな衝撃波を広げるものと見られている。また、ベル系地域電話会社大手のVerizonやSBC、メーカーのCiscoも大口債権者となっているため、買収をも含めた業界の大再編につながると見る向きも多い。

■エンロンの波紋と長距離通信業界の慣行も一役

 エンロンが破綻して大きな問題になっているが、この破綻が実は通信業界にも大きな波紋をもたらしている。通信業界、ことに国際通信事業では、事業者間や顧客との間で設備容量の15-25年もの長期リース取引がこれまで盛んに行われ、エンロンもこの通信部門でのリースに相当かかわっていた。ITバブルのさなか、先を見越して事業者が競争で大陸間光ケーブル等のインフラ設備投資を行ってきたが、バブルがはじけ、膨大な過剰容量が明るみに出て、賃貸料金が急落し、リース需要も急減した。それだけでなく、財務の急速な悪化に悩む事業者が、エンロンと同様、見かけの決算の取り繕いのために長期リース契約額の相当な部分を先食いで単年度や四半期の売上高に計上しているのではないかとの疑いが浮上し、SEC(証券取引委員会)やFCCが急遽実情調査に乗出す事態となってきた。
 この結果、長距離通信事業者の株価はさらに一段と急落し、その影響は海を渡って英国の大手国際事業者C&W(ケーブル・アンド・ワイヤレス)にまで及びはじめている。

 最大手のAT&Tも既にこの欄で何回もお伝えしてきたように、会社分割などの大リストラを余儀なくされ、とりわけその長距離通信部門は苦境である。長距離通信事業者で今のところこの荒波から残ったのは第3位のスプリントぐらいであろう。同社は、長距離通信事業者として名が知られているものの、実はかつて非ベル系のいわゆる「独立系地域電話会社」だった大手のUnitedグループと長距離通信事業者の旧スプリントが合併したもので、全米第5位の大手市内事業者でもある。

 以下、グローバル・クロッシングの破綻の背景とその余波を見るとともに、いったい何がこうした長距離通信事業者の行詰りの背景になっているのか、掘り下げてみよう。

■破綻/行詰りのリスト

 まず、この1-2か月の国際/長距離通信事業者で破綻した企業やその危険が懸念されている企業を拾ってみよう。

1. Global Crossing  会社更正法の適用を申請(2002年1月28日)
日本でも丸紅と提携するなど、世界中の27か国の200をこえる主要都市で5年間にもわたり150億ドルもの巨費を投じて高速グローバル・ネットワークを作る意欲的な事業展開。米国と欧州で巨大企業むけにフル・レンジのデータ/音声サービスを提供するほか、アジアでも子会社のAsia Global Crossingを通してサービスを提供。そのネットワークを活用する十分な顧客を見出せず、更生手続を申請。
2. Globalstar  会社更正法の適用を申請(2002年2月14日)
衛星携帯電話のGlobalstar LPはすでに昨年11月に会社更生法の適用申請の可能性を示唆していたが、ついに申請。高い事業運営コスト、衛星通信のため通常の携帯電話より重く嵩張る送受器、高い料金などでつまずく。34億ドルの負債額。
3. Network Plus  会社更正法の適用を申請 (2002年2月5日)
77,000の企業顧客に市内、長距離通信の提供を行っている同社は、会社更正法の適用を申請。700名程度の従業員のレイオフを発表。
4. Williams Communications Group 債務不履行
高速通信ネットワーク事業者。第4四半期は予測より少ない損失を計上したものの、銀行側は、収益が融資約定の定める数値に達せず、それに違反するためデフォールトと認識。同社側はデフォールトではないとしており、破産法による保護申請は行わないとしているが、2月25日までに再建計画を銀行に提示すると約束。
5. Level 3、破産法による保護申請は行わないと表明
高速通信ネットワーク事業者のLevel 3 Communications社は、売上高が伸び悩んでおり、銀行融資契約の定める「売上高目標」には満たない可能性はあるものの、破産法による保護申請は行わないと表明。しかし、業界やアナリストは懸念。

■グローバル・クロッシングの破綻とその余波

 グローバル・クロッシングとその系列企業の一部は、ニューヨーク南部破産裁判所とバーミューダの最高裁判所に、米国破産法第11条の申立てを行った。2002年8月末までの期限で裁判所による再建計画の確認が行われる。

(1)エンロンの半分にもあたる大きな負債額
 幾多の高額の買収や建設工事で急速に成長してきた同社は、昨年遅く3,200人の削減や40億ドルの設備投資を12.5億ドルに削減し、黄信号を出していた。米国、欧州、アジアの27か国を結ぶ10万マイルもの光フアィバを張り巡らす事業に乗出して以来、同社は一度たりとも利益を計上していない。同社は資産224億ドル、負債は124億ドルと、Enronの半分にも達する規模である。電話事業者およびインターネット事業者や大企業顧客に設備容量を直接販売しようとして、この5年間で70億ドルの損失を出した。

(2)アジアの2社が主導権か
 グローバル・クロッシングの発表によれば、Huchison Whampoa とSingapore Technologies Telemediaの両社が7億5,000万ドルの現金を投じ、大株主として再建に参画する意図を書面で提示した。両社は既にグローバル・クロッシングとその系列企業と取引関係があり、Asia Global CrossingはHuchison Whampoaとともに50%ずつHuchison Global Crossingを所有している。この企業は香港で固定電話とインターネット、データ・サービスを提供している。Asia Global CrossingとSingapore Technologies Telemediaの子会社は、シンガポールでバックホール・ネットワークを所有運営するStarHub Crossingをそれぞれ50%ずつ保有している。Singapore Technologies はNTTとも事業提携している。独自に活動しているAsia Global Crossingは、Huchison とSingapore Technologiesに事業運営権が移ろう。
もっとも、グローバル・クロッシングの顧客に米国海軍等があることも、外国企業による買収を難しくする要因となろうと見られている。

(3)業界再編成の引き金か
 グローバル・クロッシングの再建手続は、昨年破綻の続いた360 Networks, Winstar Communications, PSINet, Exodus Communicationsの4社の負債金額より大きいうえ、SBC, Verizon, Cisco Systems等も大口債権者となっているので、電気通信業界の再編成の発端となろうとするアナリストが多い。

(4)業界の取引慣行(IRU)にもメス
 破綻したグローバル・クロッシングに対する米国連邦政府の調査は、エンロンや他の多くの企業が採用している金融会計取引に波及した。
 証券取引委員会(SEC)がベル系地域電話会社のひとつであるQwestに命じた資料要求では、同社がグローバル・クロッシングとの間で行っていた取引のうち、お互いのサービスが不能な地域、分野をお互いの光フアィバ・ネットワークを相互に利用してギャップを埋める権利も含まれている。
 こうした長期契約は、インターネット・ブームのさなか、Qwest, グローバル・クロッシング等の新興事業者を中心に、将来のデータ・トラヒックへの大きな需要を見越し、ひろく売買が行われた。エンロンはエネルギー企業であったが、こうした通信分野の金融取引にも進出していた。こうした「I.R.U.(Indefeasible rights of Use)のスワップ」といわれる取引は、とりわけ両社のように大洋や大陸間のネットワークを利用する事業者の間では、ひろく行われてきた。契約期間は通常15-25年間の期間で、設備容量を財務諸表上のキャッシュ・フローへの影響なしで買取るものである。キャッシュの受取りはないが、販売額は売上高の増として計上できる。これらの契約が売上高を過大に見せる偽装取引かどうかにSECは関心を持っているようである。

 こうしたスワップの市場は、事業者が実需以上に過大にネットワーク容量を作りすぎた事実が明白となったため、ネットワーク容量の価格は毎年大幅に値下がりし、顧客は長期間の契約を避けて25年間の契約どころか、毎月更新の契約にシフトさえしている。Enronが短期の通信事業の契約を盛んに取引していたこともあって、こうした市場の縮小で契約が減ったため、グローバル・クロッシングにとっては売上高の伸びの障害となり、破綻を早めた。

(5)QwestやWorldComにも懸念、テレコム関連株式が軒並み値下がり
 グローバル・クロッシングでの不適当な会計処理への疑念で、投資家が他の長距離通信事業者の会計処理にも疑念を抱いたため、電気通信株式のさらなる売却と株価値下がりの引金になっている。QwestやWorldComの両社についても、そのアグレッシブな会計慣行に対する懸念が浮かんできた。WorldComは長距離通信事業者MCI、Qwestはベル系地域電話会社US Westと、それぞれ大型買収行っているが、その際の評価が適正に行われたのかどうかという懸念がこれまでにもあり、そこへ今回のIRUスワップの問題が出てきたためもある。 Worldomの株価はこの1月から約50%も値下がりし、昨日も1.16ドル下がり、同社はじまって以来の最安値6.97ドルになった。

(6)WorldComの買収を検討していたSBC, Verizon、断念か
 ニューヨーク・タイムズによれば、長距離通信事業への進出のため別個にWorldComの買収を内々で検討していた模様の大手ベル系地域電話会社のSBCとVerizonは、グローバル・クロッシングの行詰りの波紋をうけて、手を引いたようである。
 つい先ごろまで模範的な新進通信事業者の寵児として市場でもてはやされてきたWorldComは、これまで同社の強みとされてきた「インターネット・バックボーン」事業中心の戦略が、今となっては逆に脆さの一因として挙げられている。携帯電話事業や市内事業などに多角化していなかったのが災いしている。WorldComもMCI(WorldComにより1998年に買収された)も双方ともに、これまで最大手のAT&Tのシェアを奪う形で成長してきた。これまでは長距離通信市場総体が伸びてきたが、ここへきてこれが縮み始めている。消費者長距離通信料金は急落した。しかも通話量の多い消費者が携帯電話やeメールに逃げ、有線ネットワークでの通話分数も減少している。企業むけ市場でも、これまではFortune誌500社などの大手企業だけが享有してきた特別な極安料金が中小企業まで利用できるようになってきている。
 WorldComが残った唯一の純粋な大規模長距離通信事業者であっただけに、こうした最近の傾向の影響をモロにうけてしまったと見る意見もある。いったん傾けばWorldComは緩衝地帯なしでモロにその波をかぶることとなる。

(7)Qwestも流動性でピンチ、S&Pが格付け引下げ
 ベル系地域電話会社のひとつだったUS Westを買収した新興通信事業者のQwestは、昨年の第4四半期に損失を計上したうえ、今年の業績見込みでも弱気であり、また、今週、短期債務(コマーシャル・ペーパ)の借換ができなかったため、銀行から40億ドルの融資を引き出した。同社は昨年末現在で、既に約250億ドルの負債を持っている。
S&Pは、Qwestは資金が枯渇し「流動性に懸念がある」として、同社の格付をBBB-plusからジャンク債のわずか2段階上で「投資不適格」にギリギリのBBBに引き下げた。

(8)米国での通信事業者の売上高をめぐる疑惑、欧州に飛び火
 米国の長距離通信事業者でのswapという事業慣行で売上高が実際よりも過大に計上されているのではないかとの懸念が欧州事業者にも飛び火し、Cable & WirelessとKPNQwestの株価を直撃している。

 グローバル・クロッシングやQwestはインターネット・バックボーンの敷設で時代を先取りした優良企業として、ウォールストリートでもてはやされてきた寵児だった。それがいまや存亡の危機にさらされている。近い将来、米国の通信業界の勢力図は大きく塗り替えられるのはまちがいなかろう。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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