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2002年4月掲載

米国での高度通信サービスの振興
−次世代産業の中核として国を挙げての努力−

 わが国でもここへきて小中学校でのパソコン授業が始まり、ADSLが対数目盛で急増し、高速、広帯域インターネットなどの広帯域サービスに対する関心がたかまっている。しかし米国では既に、まだインターネット自体もあまり注目を集めない頃の1996年電気通信法の制定過程で、早くも高度な通信サービスの普及が必要だとの強いコンセンサスが形成された。同法には「FCCおよび各州の電気通信規制当局は、『高度電気通信機能』(advanced telecommunications capability)がタイムリーに、かつ、廉価で、全米国市民(とりわけ小中学校とその教室)に普及するよう助長しなければならない」と明記され、さらに具体的にFCCにはその普及の進展状況を定期的に調査し、もし普及が妥当には進んでいないと認定した場合には、インフラ投資の障壁の除去や競争の促進等の緊急措置をとる責務まで課している。(同法第706条)

 今回は、米国での高度通信サービスの現状と議会、政府や各方面の最近の施策等の推進努力を見てみよう。

■米国の高度サービスの定義と普及状況

(1) 『高度/高速通信』の定義

・「高度通信」の定義
1996年電気通信法第706条は、『高度電気通信機能』(advanced telecommunications capability)の定義を、『限定されない多様なテクノロジーを用いて、高速で、かつ、交換処理される(switched)、広帯域の電気通信機能であって、利用者をして高品質の音声、データ、図形、ビデオの電気通信を発信および着信できるようにするもの。伝送メディアやテクノロジーの如何を問わない。』と定めている。
・FCCの「高度通信」「高速通信」の定義
FCCは、同法の規定に従い、毎年、高度通信の普及状況をとりまとめており、今年2月に第三回目の報告書を公表した。
FCCは、1996年電気通信法の「高度通信機能」を、『「のぼり」(顧客から事業者へ)および「くだり」(事業者から顧客へ)の伝送速度がともに200kbpsを超えるサービスおよび設備』としたうえ、さらにまた、FCCは、「高速通信(high-speed)」というより広い機能を設け、これを、『すくなくとも一方向だけでも200kbpsを超えるもの』に適用している。

(2) 普及状況

 2002年3月の報告書でFCCは、2001年6月30日現在で「高速サービス」の利用者数は960万となっており、これは1999年末に比し250%もの急激な増加で、順調に普及しつつあるとしている。ケーブルテレビジョンの普及が進んでいる米国の国情を反映し、そのうち、同軸ケーブル利用の「高速サービス」は520万加入に達し過半を占めている。また、投資は最近減速の傾向にあるなかで高度通信用のインフラへの投資は依然根強いと結論している。

利用者数

  • 2001年6月30日現在で、「高速サービス」の加入者数は(「高度サービス」をも含め)960万。2001年上半期中に36%増加、1999年末に比し250%もの増加
  • このうち780万程度が住宅または小企業顧客で、2001年上半期に520万から51%増加
  • この780万の加入者のうち430万は「高度サービス」利用者で、2001年上半期に54%増加
  • 2001年6月30日現在で590万の「高度サービス」顧客、2001年上半期に38%増加
  • 米国の世帯の7.0%が「高速サービス」に加入しており、2001年上半期に4.7%増加

テクノロジー別

  • DSLは270万加入で2001年上半期に36%の増加
  • 同軸ケーブル利用の「高速サービス」は45%も急増、520万加入に到達
    衛星または固定無線方式の「高速サービス」は2001年上半期に73%も増加し、20万に接近
  • ・ 590万の「高度サービス」加入者のうち、330万はケーブル利用のサービスで、2001年上半期に52%増加。DSL利用は100万で、48%の増加。
  • 270万の高速DSL回線のうち93%は既存の地域電話事業者の加入者で、さらにその86%はベル系地域電話会社の顧客、7%は既存地域事業者以外の事業者の顧客

■FCCの高度サービスに対する規制方針と普及増進アクション
 −徹底した規制の差控えと自主育成のスタンス−

 FCCは従来から、インターネットやデータ通信等の新しいサービスについては、その立上げの期間は規制を最小限度に差し控え、市場の自由な成長、展開を助長することをその基本方針としてきた。

(1) FCC、新規則制定開始

 今年に入り、FCCは高度通信に関し、相次いで次の2件の新規則の制定作業に着手した。

  1. 電話線依存の広帯域インターネット・アクセス・サービス」の規制上の区分の明定とそれをめぐる規制関係の整理を目的とする手続(2002/2/14)
  2. 「ケーブル・モデム・サービス」の規制区分とこのサービスの妥当な規制の取扱の検討のための手続(2002/3/14)

これらはいずれもインターネットに関するものである。

 米国では、1934年通信法により「電気通信サービス」と「ケーブル(CATV)サービス」は厳しく規制され、事業者は料金、設備投資、合併等の資本関係、等で厳しい制約を課されている。こうした枠組のもとでは事業者は収益面で制約を受けることとなり、新規投資の意欲がそがれ、サービス普及の障壁となるというのがFCCの基本認識である。

 しかし一方で、インターネット・サービスも多様化し、「インターネット電話」など従来の「電話サービス」と類似のサービスも登場し始めた。既存の電話事業者等からは「FCCは従来からインターネットを規制の枠外に野放しにしているが、われわれは厳しい料金等の規制に服しているのに、ライバルのインターネット電話事業者は軽い規制では、競争上公平を欠く」といった苦情が出ていた。電話線やケーブルを用いたインターネット・サービス等の新しい広帯域サービスが、規制の観点で果たして「電気通信サービス」とか「ケーブル・サービス」に属するのかどうかが論争の的となり、FCCも認定を迫られていた。FCCはこの際、こうした問題を正面から取り上げることとしたものである。

 もっともFCCは、この着手にあたっても、一応暫定的結論として、「電話線依存の広帯域インターネット・アクセス・サービス」の規制区分を「電気通信サービス」ではなく、同じく電気通信設備を経由するeメール等と同様な「情報サービス」であると解釈するとしている。また、「ケーブル依存の広帯域インターネット・アクセス・サービス(ケーブル・モデム・サービス)」についても、「電気通信サービス」でも「ケーブル・サービス」でもなく、「情報サービス」であると暫定的に認定している。これら二つのサービスを具体的にはどのように規制していくのかは、これから各方面からコメントを募り、正式の規則として制定されることとなるが、規制の軽い「情報サービス」とすることで規制を簡素なものとし、競争の促進を図る意向をほのめかしているわけである。

(2) FCCの狙い

 FCCは、現在ではインターネット・アクセス・サービス等の事業者は規制の先行きが見えないため、収支計画も立てにくく積極的な投資を差控えているものと見ており、これらの結論が出されれば、米国の広帯域インフラ整備のための投資の大幅促進に資するものと考えており、次の政策目標を明示している。

  • すべての米国民がインターネットへの広帯域アクセスをどこででも利用できるよう促進
  • 広帯域サービスのためのさまざまなプラットフォーム(電話、ケーブル、地上無線、衛星等)間の競争を促進
  • 広帯域サービスが規制面ではもっとも軽い環境に置かれ、投資とテクノロジー・イノベーションが促進されるよう配意
  • さまざまなプラットフォームを通して一貫した規制枠組みを形成

(3) 「ケーブル・モデム・サービス」で全国一律の規制と政策の推進

 ケーブル(CATV)事業の免許(フランチャイズ)権は郡/市町村等の地方政府にあり、免許料や課税の確保等のため地方政府はケーブルを利用したインターネット・サービス等の新サービスについても規制/課税権限を主張する例がこれまでに多々あり、数年前にオレゴン州のポートランド市が「ケーブル事業者はその設備をインターネット事業者等に開放、利用させる義務(電話事業者に課されたオープン・アクセスの義務に類するもの)がある」との条例を定めた。こうした規制のもとでは、インフラ投資意欲が殺がれ新しい広帯域サービスの展開に支障が出るばかりでなく、各地域ごとに相反する様々な規制がバラバラに出現するおそれがあり、FCCは「全米で一貫した方針の策定を行えなくなる」として懸念していた。

 FCCは、このほど、「ケーブル・モデム・サービス」については、州をまたがる「州際」サービスであるとし、州や郡/市町村等の地方政府の管轄ではなく、連邦政府機関であるFCCが排他的管轄権をもつとし、地方政府ごとのバラバラでつぎはぎの規制を排除し、全国統一的な規制に服すとした。インターネット・サービスは、通常、市内のアクセス・ポイントを利用するため、市内ないし州内通信であり、州以下の管轄に属し、州際通信を管轄するFCCの権限外であるとする意見もあるが、FCCは「インターネット通信自体が、通常、集約されて別の州に置かれるホスト・コンピュータに接続される」として、「州際通信である」とした。

 今後のケーブル・モデム・サービスに関する規則制定手続で、FCCは次のような問題を検討していくとしている。

  1. 最近開始されたFCCの「有線広帯域規則制定手続」との関連において、有線広帯域サービスとケーブル・モデム・サービスとの間で異なった結論に到達しなければならない法的または政策的な理由が果たしてあるのかどうか
  2. FCCのケーブル・モデム・サービスの規制管轄権の限度に関し、例えば、この管轄権の行使に際し憲法上の限界(訳注:連邦政府と州以下の地方政府の権限の範囲、すなわち、連邦制度と州制度の管轄問題)が存在するのかどうか
  3. 市場の進展や推移に照らし、(訳注;ケーブル・モデム事業者に対し)複数のISP(インターネット接続事業者)によるアクセスを義務づけることが、この時点で、必要があるのか、また、妥当であるか
  4. ケーブル・モデム・サービスの規制の面で、州および地方の(訳注:ケーブル事業)免許権をもつ当局が果たすべき役割

 州および地方の観点については、今回の規則制定では以下の三項の重要な暫定結論(訳注:今後コメント等を募り、論議して最終結論とするが、とりあえずFCCとしての仮の結論)を提示している。

  1. 現行の法令は、地方のケーブル事業免許当局に対し、ケーブル・モデム・サービスに関して別個の免許権限を付与する根拠を与えてはいるものではない
  2. ケーブル・モデム・サービスの提供は、ケーブル事業者がもつ「公道等へのアクセス権」に支障を与えるものであってはならない
  3. ポートランド事件に関する連邦控訴裁判所の判断(ケーブル・モデム・サービスを「情報サービス」と「電気通信サービス」の双方の区分に該当するとした)との関連で、全米一貫性の維持のため、FCCは「規制を差控える権限」(forbearance authority)を行使しなければならない。

■米国議会の最近のうごき
 −米国下院、ベル系地域電話会社に有利な法案を可決−

 下院はこのほど、インターネット/データ通信に関してはベル系地域電話会社に課されている厳重な長距離通信進出条件(市内市場のライバル事業者への完全な解放等)を緩和、DSLの光フアィバ部分へのライバル事業者のアクセスの拒否権も認める法案を圧倒的多数で可決した。

 1984年のAT&T分割以降、ベル系地域電話会社は長距離通信(LATA間通信:「市内通信」、および、全米を約500のエリアに区分したLATA内の「近距離市外通信」以外のLATAをまたがる通信」)事業への進出を禁止されていたが、1996年電気通信法により、自己の市内市場をライバル市内事業者に十分に開放したと州当局が認定し、さらに、司法省独禁局の意見も参考にFCCが認可した場合にかぎり、待望の長距離通信事業に進出が許されることとなった。しかし、この条件が14項目ものチェックリストの充足など、きわめて厳しいものであるため、過去5年間にまだわずか9州で認められたに過ぎない。

 一方、競争の出てきやすい大都市はともかく、地方や僻地では、新規のサービス事業者もなかなか現れにくく、高度通信等の普及のためにはベル系地域電話会社の力に期待するよりないが、インターネット通信は「市内通信」ではなく「LATA間長距離通信」と認定されているため、お手上げとなっている。

 ベル系地域電話会社のロビー活動もさることながら、議会でもとくに地方出身議員から「データ通信や高度通信については、ベル系地域電話会社が自由に参入できるようにすべきだ」との意見もたかまって、ここ1-2年、いくつかの「緩和法案」が提出されてきていた。このほど2月末に下院本会議を通過したのは有力議員であるTauzin, Dingell両議員の法案である。インターネット・アクセス等の音声以外のデータ通信については、1996年電気通信法の厳しい条件なしでベル系地域電話会社の進出を認めることがその主な内容で、これにより地方や僻地のみならず大都市でも高度通信の普及が大いに促進されるといわれている。

 もっとも、上院では担当の商務委員会の委員長自身がこうした動きは市内サービスでの競争の促進の妨げになるとの理由で強い反対を明言しており、しばらくは法律としての成立は期待できないといわれている。

■今後の見通し

 以上、米国のFCCや議会での高度通信普及促進をめぐる動きを見てきたが、わが国よりも相当早い時期から、明確なビジョンをたて、議会やFCC等が高度通信を近未来の経済成長や雇用拡大の要として重要視し、助成や規制の枠組の整備に努めてきたことが分かろう。

 もっとも、最近の通信不況やITバフルの崩壊で、多くの野心的な新興事業者が次々に挫折、行詰っているばかりでなく、つい最近までインターネット・バックボーン・ネットワークの建設でその先見性を讃えられていたグローバル・クロッシングも会社更生手続を申請し、その余波でQwestやMCI-WorldComまでが行詰りの危機をささやかれる事態となっている。従来からの長距離通信事業者大手のスプリントも青息吐息で、AT&Tも大金で買収したTCIのケーブル網を利用する高度通信企業への変身脱皮に失敗した。元気なのは既存地域事業者とりわけベル系地域電話会社のADSL程度であろう。

 しかし、インターネット等の高度/高速通信が次世代の本命である事実はゆるぎない。一時的に踊り場で低迷しているにせよ、米国の官民あげてのベクトルを合わせた高度通信の推進にあまり水をあけられないよう、わが国も早急に具体的な施策に国を挙げて取り組まねばならないのではないだろうか。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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