依然立ち直れない海外テレコム事業者
〜8月のうごき〜
米国の超大手長距離通信事業者のWorldComの破綻で大きく揺れている米国のテレコム業界は、さすがに8月の休暇シーズンに入りニュースも減って、一見平静さを取り戻したようにもみえる。しかし、テレコム台風はまだ収まっていない。
■8月の主要ニュース
まず、8月の主なニュースを拾ってみよう。
- FCC委員長、今後の電波政策の骨子を表明
- FCC委員長、電気通信業界の景気回復のための六つの重要措置を提案、三分野での立法措置を要請
- FCC、WorldComの顧客に平静な対応を呼びかけ
- FCC委員長、事業者からの報告の削減等の規制緩和方針を見直し
- AT&Tの携帯電話部門業績反映株式発行の主幹事で不正の疑い:NY州検察当局が調査へ
- AT&T、AOLとケーブルテレビジョン関係で取引
- CingularとVoice-Stream、合併交渉か
- SEC、電気通信事業者間でのスワップ取引を違法と判定
- Qwest、第二四半期大幅赤字
- 独テレコム、前半期で38億ドルもの巨額赤字。新CEO、国内専心へ方針転換
- KPN、第二四半期に巨額赤字
■破綻事業者の対応策に追われるFCCは業界快復施策も提起
FCCは、WorldComの破綻をうけてその対応策に忙殺されている。とにかく同社の事業停止による計り知れない混乱の防止のために、顧客である消費者等に冷静な対応を求めるとともに、国防総省をはじめとする連邦政府各省庁が同社との取引を停止して存続を脅かすことのないよう働きかけている。
また、テレコム業界の景気回復のための六つの重要措置を提案するとともに、議会に三分野での立法措置を要請した。
提案された「六つの重要措置」は次のとおり。
- サービスの継続
今後の破産等から生ずるリスク等に対し、なんとしてもサービスの停止を防ぎサービスを継続し、わが国の電気通信ネットワークの一体性を維持。
- 企業詐欺不正の根絶
- 財務の健全化:財務諸表のクリーニング
電気通信企業のバランスシートのクリーンアップで財務会計の安定性を再建
- 細心の注意を払ったリストラ
業界の安定化のためにはある程度の注意深いリストラが不可欠。余剰容量で揺れている業界の現状からして、消費者のための質のよいサービスの長期的な確保が必要であり、業界の各企業の生き残りと健全化は細心の注意を払った業界の集約(industry consolidation: 企業統合/合併等)の成否にかかっている。競争の機会を阻害することなく、安定性をも達成する必要。
- 新サービスからの新収入
売上高を増大のためには新サービスの開拓が不可欠。例えば「広帯域サービス」。とくにlast mile (加入者回線)部分での広帯域化に重点を置く必要。
- 経済面/規制面での改革
連邦と州レベルでの政策当事者が通信サービスの基底となるメカニズムと競争の増進のための配慮の行き届いた改革の必要性。
さらに議会に対し次の三点を要請している。
- 1934年通信法第214条の「通信中断に対するFCCによる制限介入権能」の拡充明確化
現行の同条では(電気通信サービスではない)インターネット・バックボーンのような重要なサービスが(破産等に伴う)業者によるサービス中断から防護されていない可能性もあるので、インターネット・サービスも中断をさせないよう明確化。
- 違反に対する罰金の増額
単発的な違反の罰金を現行の12万ドルから100万ドルに、また、継続的な違反の罰金を現行120万ドルから1,000万ドルに引き上げ。
- 広帯域サービスの振興
委員長は広帯域サービスこそ電気通信業界の長期的な快復の鍵。議会が1996年電気通信法の枠組を正しく再検討し、広帯域にふさわしい枠組を作るよう求めている。とくに住宅用の広帯域サービスこそ、業界の悩む余剰容量の解消に果たす役割が大きい。
このようにFCCは、業界の快復のためには「細心の注意を払った」という形容詞つきながら、電気通信事業者の合併・統合も必要との認識を示し、従来のかたくなな競争一辺倒の政策からの弾力的な転換をも示唆している点が注目されよう。また、問題の根底にある過剰容量の解消のための切り札が、消費者による広帯域サービスの利用増進にあると指摘しているのも注目に値しよう。
■新たな合弁・提携も実は通信バブルの後始末
AT&TとAOL
8月のうごき.のうち 「 AT&T、AOLとケーブルテレビジョン関係で取引」と 「CingularとVoice-Stream、合併交渉か」は、新たな前向きの事業提携のように見えるが、実は両者いずれもがバブルの後始末の消極的な取引である。
前者は、AT&Tが永年の頭痛の種だったTime Warner関係の持分を整理し、Time Warner Entertainmentにもっている27.7%の持分を、AOLが21億ドルの現金とAOL Time Warnerの株式で買い戻すもので、資金枯渇に悩むAT&T側は巨額の資金を入手するとともに、その広帯域(ケーブルテレビジョン)部門のComcastへの売却の障害を取り除くことができる。
一方、AOL側はそのケーブルテレビジョン加入者の高速インターネット接続が可能となる。
CingularとVoiceStreamの合併交渉
米国第二位の携帯電話事業者であるCingular (ベル系地域電話会社であるSBCとBell Southの2社の携帯電話JV)と、第六位でDT(独テレコム)所有のVoiceStreamの間で合併交渉が行われているとの報道であるが、これも欧州での3G携帯電話免許の取得や過去の巨額の海外投資のため巨額の負債を抱え、財務再建に必死のDTが、新CEOのもと国内事業に専心するため売却を図っていたものである。もっともこの売却が成功すればCingularの加入者数は3,030万となり、第一位事業者であるVerizonの3,030万に並ぶこととなる。
■テレコム不況の嵐、米欧で依然続く
(1) Qwestの苦境ピークへ
新興長距離通信事業者でベル系地域電話会社の一つだったUS Westを買収したQwestの第二四半期赤字は11億ドルに達し、90億ドルと想定される電話帳部門QwestDexの売却交渉も難航しており、破産手続への移行が避けられないのではないかとされている。
(2) 独テレコム、前半期で38億ドルもの巨額赤字。新CEO、国内専心へ方針転換
独テレコム(DT)は、コスト上昇と前CEOの拡張方針の失敗で、1-6月の前期で38.2億ドルもの巨額赤字を計上した。売上高は15%増大したが、損失額はアナリストの予測を上回り、前年同期の10倍以上であった。
6週間前に着任した新暫定CEOのHelmut Sihlerは、Sommer前CEOの方針を覆し、人員削減、投資削減、負債削減のための資産売却の推進に努めるとしている。
米国の携帯電話部門であるVoiceStreamでのパートナーの募集の可能性も明らかにしており、グローバルの巨大事業者をめざした前任者の方針で獲得したコア企業を失うのではとの観測が増大している。新CEOは「われわれのリストラ努力に聖域はない」としている。
DTは、前CEOのSommerのもと、DTは欧州各国で3G携帯電話免許をいくつも取得し、米国でも買収するなど、巨額の投資を野心的に行ってきた。その結果、巨額の負債が経営の重圧となっている。Voice Streem等の評価損等の償却が21億ドル、仏テレコムでの持分の評価損が247百万ドル計上された。
(3) KPN、第二四半期に巨額赤字
オランダの大手事業者でDoCoMoとも提携しているKPNは、第二四半期に92億ドルにものぼる巨額赤字を計上した。海外での携帯電話事業で3G等はかばかしくない事業を整理し、ドイツ(E-Plus)とベルギーでの事業での評価損を償却計上した。
同社は既に6,000名の人員削減を行うなどのリストラの最中である。
こうしたテレコム業界の嵐は、設備投資の大幅削減で関連製造事企業にも深刻な波紋を広げており、ルーセント・テクノロジーズ、アルカテル、エリクソン、コーニング等が軒並み大幅リストラの過程にあるが、最近、Nortelがさらに7,000名の追加人員削減を発表している。