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2002年10月掲載

テレコム大不況でも比較的元気な米国の地域電話会社
−NTT東/西とは大違い。その背景−

 世界中でテレコム不況が蔓延し、ことに米国と欧州では大手事業者までが軒並み危機的な状況に追い込まれ、トップが相次ぎ引責辞任に追い込まれている。欧州ではBT(英国)を先駆けに、DT(独)、FT(仏)のすべてのトップが交代を余儀なくされた。米国でも破産手続に移行したGlobal CrossingやWorldComはもとより、AT&Tでも更迭があった。

 米国では、テレコム台風は大変な被害をもたらしたが、中小事業者や新興事業者の行詰りのニュースがいまだに後を絶たない。各事業者の四半期決算は大幅減益ばかりで、大手でも要員削減の上乗せなどリストラが続いており、不況はいまだ収束の見通しが見えていない。

 しかしそのなかで比較的無風状態で手堅い業績を続けているグループがある。米国の地域電話会社、ことに大手の「ベル系地域電話会社」がそれである。4社のベル系地域電話会社のうち3社は手堅く黒字を続けている。また最近は、ベル系地域電話会社がこれまで禁止されていた長距離通信事業へ進出するFCC認可が次第に認められ、ようやく20州に達した。新たな収益源の新天地が開けようとしている。さらに最近のWorldComの経営行詰りでも、サービスの中断を防ぐため、FCC等の政策当局は、「市内市場を十分にライバルに開放しないかぎりベル系地域電話会社には長距離通信事業への進出は認めない」という1996年電気通信法の建前を崩してまで、経営状態の安定しているベル系地域電話会社に救済を求めるのではないかという見方が広がっている。

 わが国ではベル系地域電話会社にあたるNTT東日本がやっとギリギリの黒字、NTT西日本は大幅な赤字と格闘している。この違いの背景には何があるのか、検討してみよう。

■ベル系地域電話会社とは

 ここで「ベル系地域電話会社」というのは、1984年のAT&T分割で誕生した7社の地域電話会社(持株会社)とその傘下の子会社(おおむね州単位)である。1996年電気通信法施行以降、この7社が合併し、現在は4社に集約されている。Pactel、Ameritech、はSBCに吸収され、NynexはBell Atlanticに吸収された。Bell Atlanticはその後さらに非ベル系列のいわゆる独立系最大手だったGTEを吸収しVerizonと改名している。また、新興長距離通信会社のQwestがベル系地域電話会社の一つだったUS Westを買収した。Bell Southは7社当時から変わらず、したがって現在は「ベル系地域電話会社」は持株4社とその傘下の子会社群をさす。

■ベル系地域電話会社の最近の業績

 次表はベル系地域電話会社4社の2002年第二四半期(4月-6月)の業績の前年同期との比較である。

ベル系地域電話会社の2002年第二四半期の業績

会社名 2002/第二四半期 (百万ドル) 2001/第二四半期(百万ドル) 増減率
SBC 事業収入 10,843 11,477 - 5.5%
事業支出 8,586 8,400 2.2
利益 1,845 2,071 -10.9
Verizon 事業収入 16,835 17,139 - 1.8
事業支出 12,789 12,958 - 1.3
利益 2,095 2,101 - 0
Bell South 事業収入 7,235 7,351 - 1.6
事業支出 5,345 5,347 - 0
利益 996 1,085 - 8.2
Qwest 事業収入 4,319 5,222 - 17.3
事業支出 3,059 3,193 - 4.2
利益 - 210(損失) 128 --

 Qwestは前述のように本来は新興の長距離通信事業者で、WorldComと同様にインターネット・バックボーン事業や買収等で急成長し、旧ベル系地域電話会社の一つだったUS Westを買収した。したがってベル系地域電話会社のなかでも異色である。Global CrossingやWorldComとのスワップ取引もあり、売上高を作為的に水増ししたのではないかとの疑惑でSEC、FCC等の緊急検査を受けており、とくに会社更生手続に移行したWorldCom関係の不良債権の償却などの一時的要因もあり、経営が懸念されている。株価もjunk(紙屑)レベルに急落しており、破産の懸念がもたれている。

 このようにQwest以外のベル系地域電話会社3社は、最近のテレコム不況で前年同期に比し業績が低迷し始めているが、まずまずの業績を維持している。

■ベル系地域電話会社の事業別ウエイト

 次表はVerizonの2002年前半6か月の事業別の構成比である。
この資料からわかるように、「テレコム」(固定電話等の伝統的事業)のウエイトは2/3程度まで落ち込み、「携帯電話事業」や「情報サービス」のウエイトが成長してきている。SBCとBell Southは、その携帯電話事業をCingularというJV(SBC 60%/Bell South40%)でおこなっている。

Verizonの2002年上半期(1-6月)の事業別ウエイト

(注)「事業利益」には、このほか「その他事業」2%がある。
事業別 事業収入 事業利益
テレコム 63% 64%
国内携帯電話 27% 21%
情報サービス 5% 10%
国際事業 3% 3%
総額 330億ドル 80億ドル

■手堅い経営の背景

長距離通信事業者が新興のGlobal Crossing、WorldCom、Qwestのみならず、古手のAT&TやSprintまでが軒並み経営不振で苦境に喘いでいるなか、ベル系地域電話会社がまずまずの業績を維持している背景としては次が挙げられよう。

  1. 1996年電気通信法やFCCの「市内での競争の推進」政策にもかかわらず、リセール事業者や長距離通信事業者の市内市場への進出は思った以上に遅れていること。(9月18日にBell Southが長距離通信への進出認可をFCCから取得したが、そのFCC資料でも、営業区域の5州での競争的市内事業者の市場シェアは、1996年電気通信法施行から6年も経過しているのに、いまだ10%程度に低迷。)

  2. アクセス・チャージ制度が早くから完備され、長距離通信事業者から多額の接続料を取得しているほか、加入者からも毎月定額のアクセス・チャージを収納していること。(アクセス・チャージ収入は事業収入の半分程度に登っている。)

  3. ユニバーサル・サービス制度も完備し、僻地、都市部低所得地域、等の赤字補填が手厚く行われていること。(ユニバーサル・サービス基金を通じ、長距離通信事業者の収入の一定割合が毎月、地域事業者に繰り込まれている。)

  4. 各種のDSL等の新サービスに地域電話会社が積極的に乗出し、新たな収入源を開拓していること。(米国ではケーブルテレビジョンがひろく普及し、高速通信で最大のシェアを占めているので、電話会社のDSLサービスの実数はさほど大きくはない。それでも例えばSBCは2002年6月末で170万加入)

  5. 1996年電気通信法により門戸が開かれた長距離(LATA間)通信事業への進出も20州で認可され、ようやく軌道に乗りだしたこと。[次項参照](市内/長距離/国際通信の一貫提供の強みで、認可されたベル系地域電話会社は従来の長距離通信事業者の顧客を相当奪いはじめている。例えばSBCの場合、既にその営業区域のうち6州で長距離通信事業への進出認可を取得し、2002年6月末現在560万加入の長距離通信顧客を獲得した。ちなみに固定電話加入者数は5,325万加入であり、その10%以上を囲い込んでいることになる。)

■ベル系地域電話会社の長距離通信事業への進出、ようやく軌道に乗る

 1984年のAT&T分割で誕生した7社のベル系地域電話会社(持株会社。その傘下で複数の運営子会社が実際の市内/近距離市外サービスの提供にあたる。)は、親会社だったAT&Tが長距離通信事業者となったため、LATA(全米を約500の地域に区分)をまたがる長距離通信の取扱いを禁じられ、LATA内の近距離市外サービスと市内サービスに限定されてきた。

 しかし、1996年電気通信法は、この禁止の原則は引継いだ(ただし、自社の営業区域以外では長距離通信の競争促進のため自由とした。)が、市内市場をライバル事業者に十分に開放したと認定されたベル系地域電話会社は、自己の営業区域から発信する長距離通信事業についても参入を認められることとなった。

■ベル系地域電話会社にも不安材料

 一方、AT&T、MCI、スプリント等の長距離通信事業者は、料金値下げ競争で体力を消耗し財務も悪化して最近は休戦状態にあり、長距離通信料金はむしろ値上げに向かっているが、ベル系地域電話会社が長距離通信市場に本格的に参入してくれば、市内サービスと組合わせたサービス提供で競争力があるので、一層の苦境にたつ。ビジネス向けの長距離通信事業に絞込み、利用度数の低い消費者むけの長距離通信事業をお荷物と考える傾向すら出てきた。

 ただ、ベル系地域電話会社がその市内市場を競争事業者に十分に解放したかどうかに関する州当局やFCCの審査はこれまで相当に厳しく、FCCはこれまで5件の申請を「市内開放不充分」として却下してきた。「FCCの審査が厳しすぎ、折角1996年電気通信法が認めたベル系地域電話会社の長距離通信への進出が一向に進まない」との批判が高まったこともある。また、ベル系地域電話会社の長距離通信事業の自由化については、議会で有力議員が、音声以外のデータ通信等については、即時全面解禁を内容とする法案を上程している。これは、ベル系地域電話会社側のロビー活動もさることながら、とくに都市部以外や僻地では、インターネット通信や広帯域通信等の迅速な普及のためにはベル系地域電話会社の力を借りざるを得ない事情もあるからである。

 もっともこの1-2年、FCCの認可も次第に進み、9月にもFCCはBell Southにその営業区域の5州から発信する長距離通信事業を認可した。今回の認可により20州で認可が下りたこととなる。現在FCCが審査中の懸案は6州ある。なお、FCCは申請が提出されてから90日以内に審査を完了しなければならないこととされている。申請後にFCCと折衝し、撤回したものが16州ある。(これまでの州別の審査状況は、資料参照。)

ベル系地域電話会社の長距離通信進出申請のFCCによる認可状況

申請事業者 状況 申請月日 処理
California SBC 審査中 09/20/02 期限12/19/02
FL, TN BellSouth 審査中 09/20/02 期限12/19/02
Virginia Verizon 審査中 08/01/02 10/30/02
MT, UT, WA, & WY QWEST 撤回 07/12/02 09/10/02
NH, DE Verizon 審査中 06/27/02 期限09/25/02
AL, KY, MS, NC, SC BellSouth 認可済み 06/20/02 09/18/02
CO, ID, IA, NE, & ND QWEST 撤回 06/13/02 09/10/02
New Jersey Verizon 認可済み 03/26/02 06/24/02
Maine Verizon 認可済み 3/21/02 6/19/02
Georgia/Louisiana BellSouth 認可済み 2/14/02 5/15/02
Vermont Verizon 認可済み 1/17/02 4/17/02
New Jersey Verizon 撤回 12/20/01 3/20/02
Rhode Island Verizon 認可済み 11/26/01 2/24/02
Georgia/Louisiana Bellsouth 撤回 10/02/01 12/20/01
Arkansas/Missouri SBC 認可済み 08/20/01 11/16/01
Pennsylvania Verizon 認可済み 6/21/01 9/19/01
Connecticut Verizon 認可済み 4/23/01 7/20/01
Missouri SBC 撤回 4/4/01 6/7/01
Massachusetts Verizon 認可済み 1/16/01 4/16/01
Kansas/Oklahoma SBC 認可済み 10/26/00 1/22/01
Massachusetts Verizon 撤回 9/22/00 12/18/00
Texas SBC 認可済み 4/5/00 6/30/00
Texas SBC 撤回 1/10/00 4/05/00
New York Verizon 認可済み 9/29/99 12/22/99
Louisiana BellSouth 却下 7/9/98 10/13/98
Louisiana BellSouth 却下 11/6/97 2/4/98
South Carolina BellSouth 却下 9/30/97 12/24/97
Michigan Ameritech 却下 5/21/97 8/19/97
Oklahoma SBC 却下 4/11/97 6/26/97
Michigan Ameritech 撤回 1/02/97 2/11/97

 このようにほぼ順調な業績でしのいできたベル系地域電話会社にも、このところ業績不安の影が忍び寄りつつある。

 9月26日、SBCは設備投資の削減とともに要員を11,000名も削減すると発表し、大きな波紋を呼んでいる。同社はその原因を長引くテレコム不況とライバル事業者の不当な競争に帰している。同社の従業員数は、2001年6月には216千名だったものが2002年6月には186千名に減っている。そのうえさらに今回の削減である。他のベル系地域電話会社も軒並み要員削減に乗出している。Qwestは2000年のUS West買収直後にUS Westを中心に厳しい要員削減を行い、業界を驚かしたが、その当時は他のベル系地域電話会社は減員は行っていなかった。携帯電話やインターネット・メールにトラヒックをとられ、固定電話は退潮にある。

 Qwest以外のベル系地域電話会社3社の株価も、今年初めには40-50ドル台だったものが最近は20ドル近辺まで大幅に値下がりしている。地域電話会社もテレコム台風の被害をうけるのか-----今後の推移は注目に値する。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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