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2002年12月掲載

氷河時代の海外テレコム産業
−この暗い一年を振り返る−

■ 2000年が分水嶺

 今から振り返れば、1990年代後半の右肩あがりのテレコム・ブームに黒雲がさしてきたのは、まさに世紀の変わり目の2000年であった。

 相次ぐ合併/買収、テレコム関連株価の狂騰で、テレコムこそが各国GDPの牽引車だと囃されたのも束の間、2000年に入ると、1990年代終わりごろの買収/合併の余熱が惰性で続くなかで、いくつもの不吉な前兆がきざしだした。

 2月にはまずBTの利益が25%減少、株価も20%と大幅に値下がりした。BTも消費者顧客部門と企業顧客部門に分ける等の大幅な組織改革にのりだした。3月には野心的衛星携帯電話のイリジウムが破産手続に移行した。一方、この月に開始された英国での次世代携帯電話3Gの免許のオークションをめぐり思惑がフィーバーとなって盛り上がり、採算を度外視した落札競争が乱舞した。続いてドイツでも同様なオークションが超過熱し、免許料支払いのための借入金がそれまでの海外投資等に起因する過大負債に上乗せとなり、後の欧州事業者の財務破綻の引き金となった。

 5月にはAT&Tの株価が急落し、同社の将来への悲観論が初めて持ち上がってきた。6月には名門ベル系地域電話会社の一つのUSウエストを買収した振興長距離通信事業者のQwestが12,800人ものレイオフを発表。世間を驚かせた。10月になると業績の低迷から立ち直れないAT&Tが四分割構想を発表。ライバルのMCIワールドコムも、11月に事業部門を再編成し、消費者むけ長距離通信事業とビジネスむけ部門を分離。2種類の部門収益連動株式(トラッキング・ストック)を発行すると発表した。

 これらのリストラはそれぞれ一応前向きの理屈がつけられてはいたが、アナリストたちは苦し紛れの苦肉の策と見抜き、通信業界の潮目が完全に変わったとする見方が定着してきた。

■2001年はテレコム台風/相次ぐ破綻

 2001年からは大西洋の両岸の米国、欧州双方で誰も想像だにしなかった深淵にまっさかさま。事業者もメーカーも、轡を並べて大変な苦境に喘ぎ、ことに米国では破産法の再生手続の保護を求める事業者が相次いだ。

すなわち、

2001. 2  AT&T第4四半期は巨額赤字
4  BT Vallance会長辞任
DT第一四半期巨額赤字
6  Nortel 巨額赤字
Lucent Technologiesの珠玉である光部門、古川電工へ売却へ
7  AT&TとBTの国際JV( Concert)打ち切り・解散の動き
8  Qwest, Global Crossing, Williams Communications, Global Star等の新興事業者が軒並み財務困難に直面。Covadは破産法再生手続へ。
10  AT&T格付けダウン
Nortel, Ericsson記録的赤字
ベル系地域電話会社Bell South 3,000名削減へ。
Sprintも赤字増大。6,000名カットへ。
KPNも4,800名追加カットへ。

■2002年はまさに氷河時代に突入

 こうした地合いでスタートした2002年は、さらに危機的な状況に陥ったといえよう。

 いまや、米国規制当局の競争至上主義で、数々の助成・優遇措置で群生した新興通信事業者はそのほとんどが既に破綻した。中小事業者はいうまでもなく、インターネット・バックボーン事業者として新興経営の模範とまで囃されたGlobal CrossingやMCIを飲み込んだWorldComまでが破綻した。ことにWorldComはAT&Tに次ぐ第二位の超大手事業者であり、わが国でいえば第二電電にあたるから、そのインパクトは大変なものとなった。ことに国防総省の通信インフラをもまかなっているので、FCCと国防総省が連帯して救済措置に走った。

 FCCも、目先のWorldCom等のサービス維持で手一杯で、ナリフリ構わぬ破綻対策に狂奔している。1996年電気通信法の長距離通信と地域通信の枠組まで無視して、救済措置に乗出し、新たな立法措置まで議会に要請している有様である。

 AT&Tのような伝統的な名門大手長距離通信事業者までが株価格付けがjunkランクに落ち込み、株価もわが国でいう100円割れ寸前で、5株を1株に併合して見かけ上株価の体面を取り繕うという姑息な手段に追い込まれている。

 欧州でも、BT(英)、DT(独)、FT(仏)の御三家で、会長/社長が相次ぎ業績不振や海外投資の巨額損失を問われて引責辞任に追い込まれた。いずれもがそれまでの野心的に展開してきた熱心な海外進出から手を引き、ナリフリ構わぬ資産売却による負債の削減や、国内事業に専心するリストラで、縮小均衡に必死である。AT&Tでも鳴り物入りでヘッドハントされたArmstrong会長が、追われるように近くAT&TのCATV部門を買収したComcastへ転出する。

 事業者が設備投資を極端に絞ったため、当然、機器メーカーへの発注が半分など大幅減となり、かってベル・システムの一翼だったメーカーWestern Electric 以来の名門のLucent Technologiesも破産法適用かと報じられている。Nortelも同様。携帯電話で急伸してきた欧州メーカーのEricssonやAlcatelも大変な苦境である。

■破綻の背景

 今日の苦境を招いた原因としては、つぎのような背景が考えられよう。

  1. 過剰な設備容量----インターネットの急激な普及と通信の高速・広帯域化の見通しを先取りし、各事業者が大幅なインフラ建設/整備に狂奔したため、実需のはるか数十倍もの設備が建設され遊休している。
  2. 財務の悪化---1990年代後半の買収/合併ブームで、買収や債務肩代わり等の資金を一部借入金でまかなったため、過大な有利子負債を負った。米国事業者のみならず、BT,DT,FT等の欧州事業者も分不相応の海外進出に走った。
  3. 採算に合わない次世代携帯電話免許---欧州(英国とドイツ)では3G携帯電話免許のオークションで法外な免許料に競り上がり、過大な有利子負債を負った。
  4. 米国の一部事業者(Global Crossing,WorldCom,Qwest等)が、設備の長期リース契約の会計処理を悪用して、売上高を水増しする不正会計で、投資家の不審を招いた。
  5. 一般経済活動の沈滞
  6. 米国の規制当局の競争至上主義による過当競争 

■今後の快復の見通し

 FCC委員長自体も、これまでの競争至上主義等の政策が今日の苦境を招いた一因と自己批判しており、これからは事業者が破綻しないような視点からの政策をも考究する必要を認めている。

 過酷な料金値下げ競争で採算の悪化した米国の長距離通信事業者間では、休戦の動きがあり、ことに不採算の消費者むけ料金は値上げで収益改善の方向にある。

 米国では破産法の会社更生手続を申請した事業者が、債務の切捨てで身軽になり近く市場に復帰するものも出てくるのではとの見方も出はじめてはいる。

 また、インターネット、ことに高速/広帯域通信が消費者レベルまで普及し始め、設備容量の過剰も近い将来、緩和されてくるとの強気の見方もある。

 しかしながら、米国では、これまで比較的堅実な経営に終始してきたベル系地域電話会社等の地域電話会社でも財務が悪化し、人員削減が相次ぎはじめた。また、これまで順調だった携帯電話部門までが頭打ちで、一部赤字決算がではじめるなど、予断許さない。

米国、欧州ともに事態は深刻であり、一般経済情勢の快復もメドが立たない以上、一朝一夕に業界の快復が達成されるとの見通しは無理であろう。

(以下、一年の出来事-----付表) 

通信業界2002年の主な出来事

年月 電気通信事業者 通信機器メーカー
2001.12  Comcast、AT&Tの広帯域(CATV)部門(AT&T Broadband)の買収に成功。
Qwest、業績予測を下方修正、7,000人を削減へ
Global Crossing、破産の懸念
破産手続中の新興事業者Winstar、IDTが買収へ
Level 3、アジアのネットワークを処分
BT、小売部門中心に13,000人(19%)の人員削減へ
イングランド銀行、通信事業者への貸出の危険性を警告
2001.11.
ルーセント・テクノロジーズの光部門の古河電工への売却完了
アルカテル、さらに1万人の削減
2002.1  Global Crossing 、会社更正法申請 モトローラー、幹部職員20%削減
2  QwestやWorldComにも懸念
AT&T Wireless、第4四半期は赤字
スプリント、第4四半期は赤字
Verizon WirelessとSprint PCS、人員削減
Nextel、損失増大
Globalstar、会社更正法の適用を申請
Williams Comm、損失計上、デフォールトと認識
Level 3、破産法による保護申請は行わないと表明
Net2Phone、従業員を28%削減
Network Plus、会社更正法の適用を申請

3  苦境、テレコム産業全体に波及
テレコム大不況の後にくるもの(:大手事業者の独占強化、インフラ容量の不足、高料金、テクノロジー・イノベーションの逼塞)
ルーセント・テクノロジーズの格付2段落ち
4  MCI WorldComの長距離収入の落込みで格付け引下げ
AT&T、株式を併合
BT新ビジョン、国内事業に絞込み、堅実な財務に腐心
ルーセント・テクノロジーズ、さらに5,000名をカットへ
5  Qwest、営業区域14州で長距離通信事業進出を申請へ  
Qwestの格付、junkに格下げ
AT&Tの格付、junk債すれすれまで引き下げ
ベルサウス、5,000人の削減へ
グローバル・クロッシングのアジア資産売却交渉、物別れ
SBC、5,000人の削減へ 
WorldComの格付、2社がjunkランクに引き下げ  
WorldComのCEO、突如辞任
BT傘下のIgnite、2,000人を削減
mm02(BTの携帯電話部門)の株価、上場半年で1/2に落込む
DT、9%の人員削減へ
KPN-Qwest、破産法適用を申請 
Vodafone、巨額の買収資産評価損を計上へ
ノーテル、赤字へ転落、格付けも「ジャンク債」に引き下げ
モトローラー2002年は黒字なし
6  Nextelの子会社、破産法適用の申請
MCI-WorldCom破綻
国防長官、Worldcomの破綻も防衛に不安なしと言明
IDT、WorldcomのMCI部分の買収構想を発表
XO Communications、破産法申請

7  Adelphia、破産法申請
FCC委員長、WorldComの救済先でベル系地域電話会社も除外せず
AT&T社長が会長とCEOに(会長は引責辞任へ)
AT&TとComcastの株主、合併を承認
スプリント、第二四半期赤字
Nextel、初の利益計上
Comcast、第二四半期2億ドルの赤字計上。投資損失のため。
Verizon、第二四半期は損失計上、通年も弱気の業績見込み
Bell Southの第二四半期利益、67%ダウン
Global Crossing資産売却オークション期日を再度延期
WorldComのインターネット・サービス中止の懸念、議会も対処
FCCと再生手続中の三事業者トップ、サービス中止のないことを議会で確約
格付2社、CorningをJunkランクに
Qualcomm、1,400万ドルの赤字計上
Ericssonの苦境続く
Nokiaの利益、46%アップ
8  FCC委員長、電気通信業界の景気回復のための六つ
重要措置を提案、三分野での立法措置を要請
FCC、WorldComの顧客に平静な対応を呼びかけ
CingularとVoice-Stream、合併交渉か
SEC、電気通信事業者間でのスワップ取引を違法と判定
Qwest、第二四半期大幅赤字
独テレコム、前半期で38億ドルもの巨額赤字。新CEO、
国内専心へ方針転換

9  KPN、第二四半期に巨額赤字
FCC、電気通信業界の景気回復措置を論議する公開会議を企画
Alcatel、10,000名の人員削減へ
10  AT&T、株価低落対策としての株式併合のため5株未満の零細株主を整理
Qwest、巨額の臨時損失を計上、2000/2001年度の売上高も減修正
Qwest、第三四半期の赤字214百万ドルに拡大
Comcast、AT&T広帯域部門との合併を控え、対策に懸命
AT&Tワイヤレス、第三四半期赤字に。ただし売上高は16%増加
Lucent Technologies、さらに1万名の削減発表。破産の懸念も。株価引き上げのため株式併合を目指す。
Corning、売上高45%減。要員削減さらに2,200上積み
11  Bell South、半数の従業員が1週間の無給休暇、人件費削減で会社に貢献 
FCC、ComcastによるAT&TのCATV部門の買収を認可。合併完了。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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