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2008年12月掲載

米国の携帯電話業界で二つの新規合併
−次世代テクノロジー(LTEとWiMAX)の競争も視野−

 FCCが11月4日、携帯電話事業者の合併を2件承認した。
ひとつは、第1位のVerizon Wirrelessによる第5位のALLTELの買収で、もうひとつは、Sprint/NextelとClearwireによるWiMAX事業のJoint Ventureである。

 1990年代の後半には、ベル系地域電話会社の合併が相次ぎ、NYNEXを買収したBell Atlanticがさらに2000年には独立系最大手のGTEをも買収してVerizon Communicationsが誕生した。ベル系地域電話会社のもう一方の旗頭SWBCは、兄弟会社のPacific TelesisとAmeritechを呑み込んでSBCと改称したうえ、2005年に長距離通信会社で元の親会社のAT&Tをも買収して、新AT&Tとなった。2006年には新AT&Tがさらに兄弟会社のBell Southを併合した。その後は、大きな買収、合併案件が途絶えていた。FCCとしても久々の大型合併案件である。

 米国では、固定電話の回線数が減少を続け、2007年末では1億5,840万回線となったのに対し、携帯電話はまだ10%近い増加が続き2億4,920万回線と、固定を大幅に上回っている。それだけに、今回の2件の携帯電話部門での合併は、大きなインパクトをもつ。

 さらに今回の2件の合併は、次世代の4Gといわれる二つの携帯電話テクノロジー間の競争の行方にも絡んでいる。

 米国での電気通信事業者の合併等は、1934年通信法の規定により、無線免許の譲渡/移転と通信線路の延長には、FCCの認可を必要とされており、これがFCCの合併への関与の根拠規定となっている。また、司法省独禁局の審査もおこなわれるが、FCCは主として「合併等が公益にかなうかどうか」の観点から審査する建前である。しかし、両者の重複を指摘する者もある。

(1) Verizon WirrelessによるALLTELの買収

Verizon Wirreless
 Verizonグループは、周知のようにベル系地域電話会社の第2位の大手電気通信事業者で、その携帯電話部門がVerizon Wirrelessであるが、これはVerizon Communicationsと英国のVodafone Group Plc.とのJVである。(持分は、Verizon55%、Vodafone45%)
米国最大の携帯電話事業者で、2007年度の売上高は439億ドル、2008年第2四半期末の顧客数は6,870万に達している。カバー可能な人口は2億6,800万人で、CDMAテクノロジーを用いて、800 MHz cellular および 2 GHz PCS周波数を運用。第2四半期には50の大都市市場のうち49とルーラル地域の333市場で事業を展開している。

ALLTEL
 ALLTELはLittle Rock, Arkansas本拠を置く携帯電話、データ等のサービスを提供する企業で、携帯電話では米国で第5位の大手事業者。現在は投資ファンドのAtlantis Holdingsが保有している。もともとはベル系地域電話会社だったPacific Telesisの携帯電話部門だったが、営業区域は、中小都市とルーラル地域主体ながらほぼ全米をカバーする。2007年度の売上高は88億ドル、2008年第一四半期末の顧客数は、34州で1,300万である。800 MHz cellular および 2 GHz PCSの周波数でCDMA方式を用いている。GSM方式でローミングも行い、その保有する免許周波数は全米で8,340万人をカバーしている。

Verizon WirrelessとALLTELが主張した合併のメリット
 両者は、FCCに対して、この合併のもたらす次のようなメリットを説明した。

  • Verizon Wirrelessは大都市、ALLTELは地方やルーラル地域が重点で、重複が少なく、競争の減退も少ない
  • ALLTELの顧客は、Verizon並みの高度なサービスが受けられるようになるとともに、ルーラル地域やへき地でのサービスが向上する
  • Verizonの顧客も一層広い地域で利用できるようになる
  • Verizonが最近のオークションで取得した700 MHz帯の周波数でALLTELの地域でもLong Term Evolution (メLTEモ)のような次世代新テクノロジーを迅速に展開できる
  • 合併で両社の資産と能力が重畳され、より一層強力な携帯電話での競争事業者が誕生し、競争が促進される。

 合併が承認されれば、Verizon Wirrelessの大都市とALLTELの中小都市とルーラル地域が相互に補完する関係になり、顧客数が8,000万を超える大事業者が誕生することとなる

FCCの判断
 FCCは11月4日、次のようなプレスレリーズをだした。

「FCCは本日、条件付きで、ALLTELの子会社(複数)とパートナーシップ(複数)が保有する諸免許および諸認可を、Atlantis Holdings から Verizon Wirelessへ譲渡することを承認した。この取引によりVerizonは、より一層効率的で、また真に一層全国的な無線サービスをその顧客に提供することができるようになる。
申請されたVerizon WirrelessによるALLTELの買収を審査する過程でFCCは、移動電話および広帯域サービスの市場の状況を検討し、これらの事業者は、以下に述べられる諸条件に従えば、公益に適うことを立証した。
5市場において競争面で起こりうる弊害の危険性をケース・バイ・ケースで分析した結果に基づき、FCCは2社のうちの1社については、これらの市場でその保有する諸免許とネットワーク資産を他社に売却を義務づけることとした。FCCはまた、申請された取引に関して、Verizon Wirrelessが100の市場において自発的な売却を行うことを承認の条件とした。このような条件として課された自発的な売却は、そのほかの売却とあわせて、個々の市場で競争が阻害され消費者に弊害をもたらす程度に達する事業集中を防止することとなろう。」

(2) Sprint/NextelとClearwireのJV

Sprint/Nextel
 Kansa州に本拠を構える電気通信持株会社で、その子会社群は、携帯電話およびデータ・サービス, 移動および 固定のデータおよび広帯域サービスならびに高速インターネット・アクセス, Wi-Fi, IP方式での通信サービスなど広範なサービスを展開しているが、経営面で苦戦が続いている。最近は携帯電話などに重点を絞っており、WiMAXに社運を賭けるように見受けられる。移動無線サービスでは、1.9 GHz broadband PCSおよび 800 /900 MHz SMR spectrumを利用し、360 の都市部市場 (349 の大市場の中341市場を含む)でCDMAネットワークを運用している。また、広帯域 PCS 周波数 および iDENィ ネットワークを用いて355都市部市場 (349 の大市場の中336市場を含む)も運用。最近は、従来からの第一世代(pre-WiMAX)固定無線広帯域サービスを近く打ち切り、一部の都市で移動広帯域WiMAXネットワークの展開を開始した。2008年9月にBaltimore,Marylandでサービスを開始、続いて年内にワシントンDCとChicagoでの開始を目指している。同社はまた、VoIPサービスや、全国光ファイバ網で有線長距離通信サービスも提供している。

Clearwire
2003年10月の創立で、固定および移動無線広帯域インターネットサービスを2.5GHz帯の自身免許のBRSおよびリースされたEBS周波数で提供している。顧客数は、郊外やルーラル地域で394,000。Motorola製の非直視(non-line-of-sight )(NLOS) 、Orthogonal Frequency Division Multiplexing (OFDM) Expedience technologies機器で2004年8月にサービス開始。同社は欧州でもGhent and Brussels, Belgium, Dublin, Ireland and Seville, Spain,などで無線広帯域サービスを提供している。最近米国では、Atlanta, Las Vegas等で
固定無線網を移動WiMAXネットワークにより高度化を図りつつあり、PortlandでWiMAXの商用サービスを2008年第4四半期に計画している。

FCCの判断
 FCCは、承認について11月4日のプレスレリーズで次のように述べている。
「 FCCは本日、条件付きで、Sprint/NextelとClearwire両社の保有する諸免許のNew Clearwire社への譲渡を承認した。この合併は、全国ベースでのWiMAX方式のネットワークの建設を容易にするものであり、競争を促進するとともに、消費者の商用無線機器とアプリケーションおよび新しい革新的な無線サービスの選択肢を拡充することが期待できる。
申請の検討に際して、FCCは、様々なサービスの市場を検討した結果、両社のこの取引が公益にかなうとともに、どの市場においても競争面での弊害を生じないものと結論した。」

合併のメリットを重視したFCC

 Verizon/ALLTELの合併については、双方が巨大なため、とくに両社のネットワーク等が重複していた地域での競争の減退が懸念され、独禁局での審理は難航したが、両社が100市場における周波数、資産、要員の外部への切り出しを自発的な形で約束したため、承認にこぎつけた。FCCは、これまでサービス・レベルで劣っていたALLTELの地域の顧客が、技術、サービス水準の高いVerizon Wirrelessにより改善されること、また、次世代のLTEテクノロジーのALLTEL地域への早期普及が見込めるとして、この合併が公益にかなうものと認定した。

 Sprint/Nextel/ClearwireのJVについてFCCは、もう一つの次世代テクノロジーであるWiMAXの実用化につながる点を評価した。Clearwireの株主も11月20日にJVにgoサインを出した。しかし、Sprint/Nextel自体がかねてから経営状況に不安があり、11月にSK Telecomにパートナーシップを断られるなど、他社による買収の標的と見られている。新興事業者のClearwireは経営基盤に不安があり、CEO のBen Wolffも、「悪化する経済情勢下で資金調達などの重い課題を乗り越えねばならない。さらにロジスティック、テクノロジー、配送などの課題もある」[Network World /IDG News Service (2008/11/5)]
と述べている点も気にかかる。

 FCCとしては、Verizon WirrelessやAT&T Wirelessが開発、実用化に力を入れている次世代テクノロジーのLTE(Long Term Evolution)とライバル関係にあるWiMAXをも育成して、競争させることを狙っているといえよう。

寄稿 木村 寛治
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