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2009年3月掲載

景気対策にガッチリ、米国は広帯域インフラ整備

「米国の回復と再投資に関する2009年法」(The American Recovery and Reinvestment Act of 2009)が2009年2月17日に大統領の署名で成立した。100年に一度といわれている今回の厳しい景気の落ち込みをなんとか歯止めしようと、米国民の熱い期待をバックに発足したばかりのObama政権が取り組んだ政策である。

■「広帯域イニシャチブ」の発足

 この法律により助成される対象には、「広帯域サービス普及促進プロジェクト」が含まれている。このために、政府には商務省、農務省、FCCの3者を横断した「広帯域イニシャチブ」Recovery Act Broadband Initiatives (Broadband Initiatives)が急きょ設けられた。
このイニシャチブは、「広帯域サービスがまだない地域、広帯域サービスがまだ十分ではない地域、ルーラル地域での広帯域サービスの普及を促進するとともに、雇用の創出や公益の大幅な増進に役立つような戦略的な法人への助成」を狙っている。

 FCC以外では、全国電気通信情報庁[The National Telecommunications and Information Administration]、農務省はルーラル地域開発室[Office of Rural Development]が窓口となる。その第一回の公開会合が3月10日に開催されることとなっている。

■迅速な立ち上げ

 新大統領の就任式を控え、人事や様々な措置に追われていた新政権の準備の中で、超大型の景気対策が計画されたが、その中に通信関係のプロジェクトを盛り込む関係者の動きは実に素早かった。その過程を時系列で追ってみよう。

(1) Obama次期大統領、広帯域の普及促進を表明
[Broadcasting & Cable (2008/12/7)]
Obama次期大統領は自身の政権の間に、広帯域の促進を約束した。米国の広帯域普及が世界各国のうちで15位なのを指摘して、「子供はだれでもがオンラインを取得できるチャンスがなければならず、私が大統領になったらそうなるだろう」と述べた。

(2) Obama新大統領でIT分野は楽観的な見通し
[National Journal (2008/12/2)]
Obama新大統領がIT分野の必要性を認識していることを材料に、新政府でのIT分野は、e-government(電子政府)、医療関係IT、教育等への助成の恩恵を受けると見る業界関係者が多い。

(3) FCCのAdelstein委員、Obama新大統領の広帯域戦略の実行案を発表
[Xchange (2008/12/31) ]
Obama新大統領は、新たに全国の広帯域普及戦略を描きつつあるが、FCCの民主党系の委員で次期委員長候補の一人とも取りざたされているAdelstein氏はその実施のためのアイディアを公表した。コンセンサスとして官民共同のパートナーシップの必要性が強調され始めているとしている。[Xchange (2008/12/31)]

(4) Obama新大統領の広帯域普及助成策へのコンセンサス形成。ただし具体的方策では異論も
[ワシントン・ポスト (2009/1/13)]
民主党議員の間でObama新大統領の広帯域普及助成策へのコンセンサスは形成されつつあるが、ただし具体的方策には異論。次期下院電気通信小委員長となるRep. Rick Boucher, D-Va.は自身のアイデアがあるとしている。

(5) Obama新大統領の通信問題顧問、「新政権はユニバーサル広帯域アクセスをしっかり助成する方針だが、経済再建の目的から、助成資金は目的を絞り込み、雇用創造にタイムリーに使用されねばならない」
[ワシントン・ポスト (2009/1/14)]
新大統領の通信問題顧問のBlair Levinは、「新政権はユニバーサル広帯域アクセスと緊急用全国無線ネットワークをしっかり助成する方針だが、経済再建の目的から、助成資金は目的を絞り込み、雇用創造にタイムリーに使用されねばならない」とした。

(6) 民主党新政権、広帯域普及促進に360億ドルを計上か
[ウオールストリート・ジャーナル および Telephony Online (2009/1/15)]
下院の民主党議員とObama新政権は、8,250億ドルの経済振興提案の中に360億ドルの広帯域サービス普及促進予算を計上する。60億ドルは助成金で、300億ドルは融資である。有線と無線の双方のネットワークの広帯域の速度アップに充てられる。

(7) Obama大統領の経済振興計画でテクノロジー企業潤う
[BusinessWeek/GigaOM (2009/1/23)]
Obama大統領の8,250億ドルの経済振興計画で、広帯域テクノロジーは60億ドル、smart gridは32百万ドルが割り当てられることとなり、大小いろいろな企業が手を上げつつある。General Electric や IBMといった有名企業にだけでなく、新無線事業者のBroadcom やAtherosなども動き出している。

(8) 業界は、新Obama政権の広帯域助成は少額すぎると批判
[Exchange (2009/1/28)]
Obama政権の経済振興パッケージの「広帯域普及促進」に充てられる60-90億ドルでは足りないとの批判が業界から出ている。440-1,000億ドルが必要との見方。

(9) 州の規制当局代表、ワシントンで「景気対策の広帯域助成の使途決定は州に」とロビー
InformationWeek (2009/2/3)
「景気対策で広帯域助成にあてられる資金の使途決定権を、ぜひ州の規制当局に委ねてほしい」とのNational Association of Regulatory Utility Commissionersの陳情団が2月15日にワシントンに集まる。「州が一番よく実情を知っており、効果的な使い方ができる」とする。

(10) 商務省全国電気通信情報庁(NTIA)の新次官
ウオールストリート・ジャーナル/Dow Jones News wires (2009/2/13)
Obama政権は、前Sprint/Nextelの政府対応部長だったAnna GomezをNational Telecommunications and Information Administrationの次官に任命した。通信政策のほか66.5億ドルの経済振興基金の無線事業への支出も担当する。

(11) Obama政権の経済振興策のうち72億ドルは広帯域普及促進
Wireless Week、CNET (2009/2/17)
Obama政権の経済振興策のうち72億ドルは広帯域普及促進に充てられるが、そのうち47億ドルは商務省が所管し、残余はルーラル地域対策として農務省が所管する。

(12) NTIA、景気対策での広帯域助成金の配布の検討会
Broadcasting & Cable (2009/2/24)
商務省の全国電気通信情報庁(NTIA)は、景気対策の一環である広帯域助成金の配布に関する検討会を事業者と開始する。

■広帯域サービスの遅れ挽回の背景

 このように景気対策の一環として「広帯域サービスの改善」が盛り込まれるのには、それなりの背景がある。

 数年前のOECDの調査では、米国の広帯域サービスの普及は15位と、アジアや欧州諸国よりはるかに後れを取っていた。FCCでさえ「高速通信」の定義をつい最近まで、「200kbps以上」としていた始末であった。

 こうした現状に危機感をもったCopps FCC委員長代行が昨年ワシントン・ポスト紙に内部告発ともいえる痛烈な批判を寄せ、FCCも最近、大幅な定義改訂を余儀なくされた。民主党は、Gore元副大統領が、いわゆる「デジタル・デバイド」を避けるべく、インターネットを学校の全教室に引き込むため、ユニバーサル・サービス制度に「学校・図書館助成」という新たなカテゴリーを設けたりしており、年収に関係なく子どもたちが新しい情報通信に触れられる政策を推進してきた伝統がある。今回の景気対策に広帯域サービスを盛り込むのもいわば自然の成り行きであった。

 迅速な対応を必要とする景気対策だが、単なるバラマキや公共事業に終わることなく、将来を見据えて着実な情報通信インフラの整備にも目を配る米国の政策能力は注目に値しよう。

寄稿 木村 寛治
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