トレンド情報-シリーズ[1998年]

[韓国の通信政策]
[第3回]韓国政府の政策方針

(1998.5)

 WTO基本通信協商の結果を受け入れる一方、市場の開放に先駆けて国内通信事業者の競争力をつけるために、情報通信部は、現行の電気通信関連法制度の改定を推進しており、外国通信事業者の進出が予想される主要分野を対象に新規事業者の参入を認めている。以下においてWTO基本通信協商妥結後の韓国政府の政策方針を主要分野別に詳しく見ることとする。

ア.法制度の改正及び規制緩和の推進
イ.国内通信市場の競争拡大

ア.法制度の改正及び規制緩和の推進

 韓国がWTO基本通信協商の結果を受け入れるためには、既存の電気通信関連法制を全面的に改正しなければならないのが実状であった。このため、情報通信部は、1997年中に、既存の電気通信基本法、電気通信事業法、電波法等情報通信関連法令を改正した。主要な改正内容は、1.外国人の持分の制限を緩和すること、2.事業者分類体系を再調整すること、3.支配構造を再編すること、4.料金規制緩和、などである。外国人の持分制限の緩和は、表1に示した通り、WTO基本通信協商の結果を反映して推進しており、特別に追加して言及する必要はないが、残りの3点の改編内容については、より詳細な検討が必要であり、以下に述べることとする。

(1)事業者の分類体系の再調整
 韓国の既存の電気通信事業法によると、電気通信事業は、基幹通信事業(電気通信設備を設置し、電信、電話等電気通信サービスを提供する事業)と、付加通信事業(基幹通信事業者から設備を賃借し、基幹通信役務と付加通信サービスを提供する事業)とに区分される。ところが、WTO基本通信協商の合意の結果1999年から市場開放されることになる音声再販売事業、インターネット電話事業、コールバック・サービス等の新規サービスの場合は、これまでの基幹通信事業、及び付加通信事業のうち、いずれの事業としても区分が困難な事業として、1998年以前に、これらのサービスの規制方針を設定する必要があった。

 現行の規制制度を、もう少し具体的に見てみると次のようである。先ず、再販売事業の場合、専用回線を再販売する回線再販売と、公衆網との接続に基づくデータ再販売事業は、すでに1993年に認められていたが、公衆網との接続による音声再販売事業は禁止されてきた。インターネット電話の場合は、現行法に直接的な規制規定はなく、公専公接続による音声再販売事業が禁止されているため、(インターネット網を専用回線として見なすため)サービスの提供が不可能であった。コールバック・サービスも、既存法上、直接的な規制規定はなく、基幹通信事業として区分される国際電話サービスを提供することから禁止されている。

 WTO基本通信協商の結果、このような現行法でカバーできない新しいサービスが提供できるように、情報通信部は、1997年8月に電気通信基本法、及び電気通信事業法の改正を通じてこれら新規事業を規制することができる制度的方針を検討したが、これら新規事業を既存の基幹通信事業者及び付加通信事業者とは別途に「別定通信事業」として区分するようにした(表5を参照)

 別定通信事業を行うためには、情報通信部に登録する必要があり、非常に多くの事業者が参入し、通信市場の秩序を混乱させることを防止するため、財政及び技術的能力、利用者保護等、一定の登録要件を義務付けている(表6を参照)。別定通信事業者の場合、投資規模も小さく、経済力が集中する恐れも小さいため、同一人による株式保有制限を適用せず、料金及び利用約款は、申告制として自由化した。

  • 表5:新しい事業者の分類体系

 今回の事業者分類体系の再調整で特徴的な事項は、構内通信施設の改善を促進させるため、別定通信事業者の事業範囲に「構内通信事業」を含ませた点である。改定された電気通信事業法第4条3項に基づく構内通信事業者は、「構内に電気通信設備を設置し、これを利用して構内において電気通信役務を提供する事業者」として、その役務の提供範囲は、表7の通りである。情報通信部が構内通信事業を活性化しようとする理由は、2015年を目標に推進中である国家超高速情報通信網の構築において、構内通信網の不備が支障要因)として作用しているが、これは既存の電気通信事業法において、構内通信設備を、営利を目的に使用できないよう規制されており、構内通信設備を改善しようとするインセンティブが働かないというためである。あわせて、新たに競争が導入された市内通信事業の、競争活性化のための目的も構内通信事業を許容する背景として作用したと思われる。構内通信事業に進出すると予想される事業者は、建物のオーナー、通信事業者、電気通信工事事業者、通信装備製造業者、SI事業者等である。

 注:情報通信部によると、構内通信設備の故障が通信障害の45.4%を占める。

  • 表6:別定通信事業者登録基準
  • 表7:構内通信事業者の業務及び規制制度

(1)支配構造の改編
 1998年以降、外国人及び同一人による株式保有の限度が大幅に拡大され、M&Aが認められる見通しであり、全国基幹通信網を保有する基幹通信事業者の経営安定が大きな関心として浮かび上がってきた。これに従い、政府は国家基幹通信網を担う有線電話網の安定的運営と公益性を確保し、効率的経営ができるよう韓国通信、DACOM、オンセ通信、ハナロ通信等基幹通信事業者の支配構造の改編を推進している。その主要な内容は全国規模の基幹通信事業者の場合、所有、経営の分離が確保されている場合のみ、M&Aを認めることとし、経済力が特定の企業に集中しないようにするということである。このため、政府は改正された電気通信事業法第16条「全国を事業区域とする電話サービスを提供する基幹通信事業者(全国電話事業者)」により、理事会の過半数以上を非常任理事として構成するよう義務づけ、非常任理事は、経営の公益性、専門性、透明性を確保することができるよう、各界の専門家すなわち弁護士、銀行家、経営者、消費者などの代表から構成されるようにした。合せて、全国電話事業者の場合、株主総会の効率的運営のため、株式の所有比率の順序に基づき上位13人以内の株主と大統領令が定める少額株主代表1人、従業員株主組合の代表1人でなる株主協議会を構成しなければならない。

 株主協議会は、代表理事及び非常任理事の選任推薦、解任建議、代表理事と経営目標の契約の締結、株主総会案件に対する意見提出、その他株主利益に関連する事項に対する審議等を担当し、会社経営に対する透明性を高める役割を持つ。

(2)電気通信料金の規制緩和
 現行の電気通信事業法に基づく電話料金(市内、市外、国際電話、移動電話、無線呼出)の利用約款は、情報通信部の認可を原則としており、例外的に申告制を適用していた。しかし、今後、WTO基本通信協商の合意に従い、国内通信市場が全面的に競争体制に転換され、独占体制下に成立した料金規制は、競争の活性化に否定的な影響を与えると考えられるため、その自由化を行ってきた。このため情報通信部は1998年1月1日から、韓国通信の市内電話料金とSKテレコムの移動電話料金を除くすべての料金を申告制に転換した。従って、これまで認可対象であった市外電話、国際電話、無線呼出サービスの料金規制が緩和され、事業者の料金設定における自律性が大きくなった。一方、情報通信部は認可対象サービスである市内電話及びSKテレコムの移動電話料金は、競争体制が活性化すると予想される2000年から申告制に転換する計画であることを明らかにした。

イ.国内通信市場の競争拡大

(1)既存サービス分野
 情報通信部は、WTO基本通信協商妥結以降、「先ず国内のキャリア間での競争、その後で外国資本との競争」の原則に従い、1998年の市場開放以前に国内通信市場の競争を拡大するために、1997年6月に既存の通信サービスを対象に13の新規事業者を選定した(表8を参照)。対象サービスは、市内電話、市外電話、周波数共用通信(TRS)、国内回線賃貸事業、国際回線賃貸事業などである。

 既存サービス分野に対する新規事業者選定の意義は、何よりも100年にわたって維持されてきた市内電話事業に競争体制が導入された点と、これまで複占体制を維持してきた市外電話市場に第3の事業者が参入することとなり、本格的な競争が可能になった点である。今回の新規事業者選定により、韓国の電気通信市場は、1991年の国際電話事業の競争導入、1994年の移動電話事業の競争導入、1995年の市外電話事業への競争導入、1996年のPCS事業への競争導入に続き、ついに市内電話部門まで競争体制を導入したことにより、既存サービスの全分野に競争導入を果たし、一段落したことになる。一方、今回、新規に選定した市内電話分野のハナロ通信と市外電話分野のオンセ通信は、それぞれ1999年始めからサービスを開始する予定である。

(2)新規サービス分野
 情報通信部は、既存サービスに対する新規事業者の選定以外に、別定通信サービス及び衛星携帯電話サービス等を新規サービス分野の事業者の許可も国内外の事業環境を考慮し、段階別に推進する方針である。

 まず、インターネット電話、公衆網接続による音声再販売、コールバック・サービス等、別定通信事業は、1999年から市場が開放される点を勘案し、国内事業者を対象に、1998年1月から事業許可を与えている。1998年2月末現在、音声再販売事業に3事業者、インターネット電話事業に5事業者が登録し、この他にも多数の国内事業者が別定通信事業に参入しようと準備中である(表9を参照)

 衛星携帯通信(GMPCS)の場合は、1997年11月には、「グローバル・スター・コーリア」(仮称)に対しても仮許可を与えた(表10参照)。仮許可を受けた事業者は、事業準備を完了させた後、本許可を受けて事業を開始することができるが、本許可は、事業準備が完了した1998年6月に認可される見通しである。情報通信部は、GMPCSに必要な周波数帯域としてアップストリーム1610〜1626.5MHz、ダウンストリーム2483.5〜2500MHzを定めている。あわせて、次世代移動通信(IMT-2000)は、国際動向や技術開発の推移を注視して1998年以降に許可方針を決定する計画である。

  • 表8:基幹通信事業者の現況及び1997年新規事業者選定結果
  • 表9:別定通信事業者登録現況(1998年2月現在)
  • 表10:仮許可を獲得したGMPCS事業者現況

(海外調査部 鈴木泰次、邊在琥)
e-mail:suzuki-t@icr.co.jp

(入稿:1998.4)

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