トレンド情報-シリーズ[1998年]

[メガコンペティションは今?]
[第10回]ユーザによる世界の通信事業者の評価

(1998.5)

 コミュニケーションズ・ウィーク・インターナショナル誌が97年の現状について行ったアンケート調査によれば、伝統的国際通信事業者と新規参入事業者のユーザ評価は、中位数それぞれ3.34、3.45と新規参入者がやや上回っている。WTOによる通信自由化とEUの通信ビッグバンへの期待の現れによるものだろう。ただ、アジアのキャリアーのプレゼンスに乏しい調査結果が気にかかる。

ユーザ調査の枠組み
 英国の出版社Emapが発行するコミュニケーションズ・ウィーク・インターナショナル誌のユーザ・アンケート『優勝キャリアー(Winning Carriers)調査』は、同誌とコミュニケーションズ・インターナショナル誌の読者を中心とする標本15,000に対する回収数745からキャリアー関係者を除く回答731をまとめたもの。85カ国の203社を分析したが、ランキングは回答数15以上のキャリアーをリストアップしたとしている。5段階評価の大雑把な問いに対する答えであり、回収率の低い少数標本による結論であるが、2年目であり、一つの手がかりとして意味があろう。
  アジアのキャリアーは、コミュニケーションズ・ウィーク・インターナショナル誌202号(98.4.6.)に発表された伝統的国際通信事業者24社には、シンガポール・テレコム、PLDT、テレストラの3社しかない。一方、コミュニケーションズ・インターナショナル誌98年1月号所載の『高得点者:50大キャリア-』ではNTTを含む13社が分析されている。

優勝キャリアー(Winning Carriers)調査の概要
 ユーザに尋ねた評価項目は、グローバル化(世界のユーザ拠点を結ぶ能力)、提供サービス(音声・データ・インターネットなどサービスの多様性)、ネットワーク品質(ネットワークの運用状態)、料金(課金された料金額とその説明の仕方)、顧客サービス(ユーザ価値の扱い方)および国際性(本国市場外での評価)。評価のウエイト付けとして、「国際性」項目は、総合点への加算では1/4の比重とし、また、新規参入事業者は余り知られていないので、甘めにしている。

 表1の通り、伝統的国際通信事業者でNo.1に評価されたのはMCIである。と言っても総合点3.651は、AT&Tの3.65と紙一重で、前年トップのAT&T3.69より低い。一番リードした項目は料金で、AT&Tの3.09に対して3.51との数値が今年の序列を決定づけた。ともあれ、MCIとWorldcomが合併すればトップクラスのキャリアーとなろう。AT&Tのブランド力は今年も無敵に強く、隣の芝生がよく見えるにしても、MCI ユーザの1/3はAT&Tをベスト・キャリアーとしている。

 C&Wは昨年同様第3位(総合点は3.48−>3.63と上がった)だが、注目されるのは、昨年第2位(3.54)のSingapore Telecomが第5位(3.58)に下がったのに入れ替わり、Telecom Finlandが第4位(3.62)につけたことである。売上高ランクは48位だが、革新的で、提供サービス(4.30)とネットワーク品質(4.25)は最高級である。
 BTは、料金が昨年(3.01)よりさらに低く(2.72)なったため、総合点が昨年より5ランク下がり、チリの国際通信事業者Entelに次ぐ第10位(3.34)になった。
 新規参入国際通信事業者のNo.1は、表2の通り、IBMである。IBMが通信事業者とは 奇異に感じられようが、情報通信サービス禁止の同意判決が1982年に解けてからIBM Global Networkは最大級の国際VAN事業者であり、昨年のユーザ評価でも第2位であつた。総合点は3.88と高いものの、顧客ニーズに合わせてベストなソリューションを実現することを標榜している割りには、顧客サービス評価の3.38は平凡である。

 第2位Worldcomの総合点3.79、第3位SITAの3.78はIBMに接近している。Worldcomは大口ユーザの支持を得て顧客サービスの評価が高く(3.69)、SITAは既存/新規キャリアーを通じてグローバル展開度No.1(4.48)である。WrldcomはMCIの取得で一挙に有名になったが、パソコン通信のトップ企業AOLと共同で97年9月に第4位のCompuServeを買収し、第9位のUunetも96年8月のMFS買収を通じて傘下に収めている。SITAは航空業界の伝統的な国際共同網(SITA Telecom. Holdings NVはベルギー法人)であるが、航空業の競争激化に伴い、業界共同網のSitaと商業的情報通信サービス事業のEquant(旧称Scitor)の連携に変化している。Equant Network Servicesが1996年にAmerican AirlinesからSABREネットワークのアウトソーシングを受けたの が契機となったもので、最近はAir Franceの情報通信アウトソーシングを獲得した。Sita-Equantは今後とも企業通信網獲得による拡大戦略を続けるだろう。

 スウエーデンの第2キャリアーTele2の第5位(3.58)は既存事業者Telia(3.27)よりも、また、オーストラリアの第3キャリアーAAPTの第7位(3.28)は既存事業者Telstra(3.25)と先行参入者Optus(3.23)よりも、それぞれ評価が高い。Telstraの低評価は主に料金(2.35)と顧客サービス(2.71) による。AAPTは97年7月の自由化時に長距離・国際通信に参入したが、ニューズ社・フェアファックス社資本で80年代初期に創業したデータ サービス企業AAP Information Servicesを中心(51%)に、ニュージーランドの新規参入長距離事業者Clear Communicationsの主要株主トッド社とSingapore Telecomが加わった(持株各24.5%)もので、既に市場シェア3〜4%を得ている。

 CWC(Cable&Wireless Communications)の第11位(3.17)はC&W本体に比べると低い評価であるが、伸び悩む英国の第2キャリアーであるマーキュリーとBell Canada系・NYNEX系ケーブルTV2社ならびに独立系ケーブルTVのVideotronの、中堅ないし弱小4社を強化する合併だから妥当なところだろう。

 第8位のGlobal Telecomはインターネット・サービス・プロバイダーまたはコールバック業者のように思われ、第12位のFinnetはフィンランドの通信事業グループのようである。いずれにせよ、ユーザから評価される理由が分からない。

優良通信事業者のランク
 コミュニケーションズ・インターナショナル誌98年1月号所載の「高得点者:50大キャリアー」は、世界の通信事業者について1996年業績に基づきトップ50社をランク付けしており、そのうち上位25社を整理したのが表3である。

 順位は、ネットワーク生産性(一加入回線当たり収入年額、単位US$)、経済貢献率(GDP成長率と収入増加率の比率)、労働生産性(従業員一人当り収入年額、単位1000US$)を合成した収入指数と、ネットワーク近代化率(ディジタル化率)、信頼性(100回線当たり障害数)、ネットワーク効率(従業員一人当り回線数)を合成した技術効率を平均した複合指数によっている。指数は専門家3名のパネルによりデルファイ式で作成したとしているが、詳細は明らかではない。加入者の有無により、NTTやベル系地方持株会社を含み、AT&TやC&Wを含んでいない。

 トップは驚いたことにGTEとオランダ旧PTTの同順で、第2位NTT、香港テレコム、スプリント、イスラエル旧PTTと続いている。ベル系が総じて高順位で、経済貢献率のトップはテレフォニカ、生産性のトップはスプリントとなると、グローバル化とかニュービジネスと言っても、結局は市内は独占的、国内長距離で頑張り携帯電話も伸ばしているのが今の優良会社と言うことになる。同誌の分析は、NTTの高順位は相互接続料金 が不当に高いから、また、ヨーロッパ系が技術効率に強くアメリカ系が収入指数に強 いとしているが、それほど有意には思えない。既にSBC(11位)がPacific Telesis(18位)を買収し、Bell Atlantic(17位)のNynex(20位)買収も承認済みなので、こうしたランキングにもメガコンペティションの影響は出始めていることに留意すべきであろう。表1,2と表3を比べると、現時点ユーザ満足と企業性は両立してないと感じる。

(注) 26位以下はTelstra, Belgacom, Telmex, Telecom(アルゼンチン), Telefonica(同左), DeutscheTelekom, Telebras(フラジル), Korea Telecom, Portugal Telecom, Telekom Malaysia, DGT(中国), Telekom(南ア), OTE(ギリシア), Telekomインドネシア), TOT(タイ), MTNL(インド), SPT Telecom(チェコ), Turk Telekom(トルコ), CANTV(ベネズエラ), DOT(インド), ARENTO(エジプト), TCI(イラン), Telekom Polska(ポーランド), BTC(ブルガリア), Ukrainian Telecom

(関西大学総合情報学部教授 高橋洋文)

(入稿:1998.4)

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