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清原聖子が伝える「2008年米国大統領選挙戦」
2008年8月掲載

第1回:プロローグ

グローバル研究グループ 清原 聖子

 「次のアメリカ大統領は誰になるのか。」

 世界中でこれだけ注目されるアメリカ大統領選挙も珍しい。今回は本コーナーのプロローグとして、全国党大会を目前に控え、まずは改めて長く続いた予備選挙を振り返り、本コーナーの紹介をしてみたい。

(注1:民主党全国党大会は、8月25−28日まで、コロラド州デンバーで行われ、共和党全国党大会は、9月1日―4日まで、ミネソタ州ミネアポリス・セントポールで行われる。民主・共和それぞれの党大会で、オバマ、マケイン各候補が候補者受諾演説を行う。)

 今回の予備選挙では、人種、ジェンダー、宗教という観点から非常にユニークな顔ぶれが勢ぞろいした。その理由は、1928年の大統領選挙以来、実に80年ぶりに現職の正副大統領が立候補しないオープン・シートの選挙となったことが大きいだろう。長引いた予備選挙の結果、民主党は、ファースト・レディー経験者であり、夫のビル・クリントン元大統領の強力な支持を得て、無敵と思われたヒラリー・クリントン上院議員が、若いバラク・オバマ上院議員に敗れた。オバマ候補は、無党派層や、これまで政治に関心の薄かった若年層の支持を掘り起こし、アフリカ系アメリカ人として、初の大統領候補者指名を勝ち取った。まだ公民権運動のさなかの、1960年代に生まれたオバマ候補が二大政党の大統領候補者指名を獲得したことは、アメリカ政治史上、新しい一歩を踏み出した感がある。一方、共和党も、モルモン教徒のミット・ロムニー氏が立候補したように、本命の保守候補不在のまま、予備選挙が行われた。結局、2000年に共和党予備選挙で現職大統領のジョージ・W・ブッシュ氏に敗れたジョン・マケイン上院議員が指名を獲得したのだが、マケイン候補もまた、民主党のオバマ候補同様、無党派層から高い支持を集めており、党内で真の保守派とは目されていない。ちなみにもしマケイン候補が11月の本選挙で当選すれば、最高齢の大統領となる。

(注2:ここ1ヶ月の、全国的なギャロップ調査の世論調査を見ると、支持率では数ポイントの僅差だがオバマ候補がマケイン候補を安定的に上回っている。他方、州レベルの世論調査では、サウスカロライナ州、ミシシッピ州など南部で、マケイン候補の支持率がオバマ候補よりも10ポイントほど高いものもある。)

 今回の予備選挙で私が最も注目している点は、オバマ候補のインターネットを使った資金調達の巧みさだ。かつて2000年の大統領選挙戦でマケイン候補が、インターネットを用いた資金調達の手法を初めて取り入れたが、今回のオバマ候補はその上を行き、携帯電話でのテキスト・メッセージの送信や、公式候補者ホームページだけでなくFacebookなどのSNSにプロフィール・ページを作成するなど、新しいコミュニケーション・ツールを積極的に選挙運動に取り入れた。そして、個人の小額献金を大量に募ることに成功したのである。オバマ候補の獲得資金総額は6月末までで、約3億4,900万ドル、マケイン候補の獲得資金総額が約1億4,400万ドルであった。また、民主党指名争いが決着した6月1ヶ月で見ると、オバマ候補は、5,400万ドルを獲得しており、その金額はマケイン候補の獲得金額の約2倍に相当する。さらに、両陣営の選挙運動に関する支出額内訳を、オープン・シークレット(opensecrets.org)のデータから比較してみると、オバマ陣営は、マケイン陣営の約7倍の金額をインターネット・メディア(オンライン広告を含む)に、また、放送メディアではマケイン陣営の約9倍の金額を使っている。オバマ陣営がインターネットや放送メディア広告に非常に力を入れていることが推察できる。特に今注目されているのは、オバマ陣営が北京オリンピック期間中に、三大ネットワークの一つのNBCの広告枠を500万ドルで買い取ったことである。これにより、この2週間に全国で2,500万人がオバマ陣営の広告を視聴すると予測されている。インターネットを使って、潤沢な資金の調達に成功したオバマ候補は、これから11月まで、「お金のかかる」全国的なテレビ広告を大量に流すことができるだろう。これがオバマ候補の大きな強みであることは間違いない。こうして見ると、いまや、インターネットや新しいコミュニケーション・ツールは、選挙運動の手法の中でしっかり組み込まれた重要な役割を果たしていると言えるのではなかろうか。

 さて、11月4日の本選挙投票日まで、残り約100日となった。今回の本選挙は、景気後退の影響から、高騰するガソリン料金問題や減税など、有権者にとって経済問題が最も重要な争点になると見られる。そして、イラクから米軍はいつ撤退するのか、撤退しないのか、この問題が、2番目の重要な争点とされている。残念ながら、ネットワーク中立性をめぐる規制の問題や、全国的なブロードバンド普及政策など、通信政策は、大統領選挙で重要な争点にはならない。それゆえ、一般的に、大統領選挙戦報道では、こうした問題にフォーカスを当てて紹介されることは少ない。しかし、これだけオンライン技術を駆使して選挙運動を展開しているオバマ候補が大統領に選出されたなら、インターネット・ビジネスを拡大するため、通信政策において重要な変化が起きることは想像できる。また、マケイン候補は、長年通信政策を担当する上院商業委員会を率いてきたし、通信分野のロビイストや通信会社の重役を選挙アドバイザーとして重視している。いずれの候補も、通信政策に対する関心は高い。

 そこで本コーナーでは、これから2009年1月の次期大統領就任式のころまで数回にわたり、大統領選挙戦を「次期政権の通信政策の展望」に焦点を当てながら、レポートしていきたい。

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