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清原聖子が伝える「2008年米国大統領選挙戦」
2008年9月掲載

第2回:ジョン・マケイン共和党大統領候補のテクノロジー政策

グローバル研究グループ 清原 聖子

 アメリカ大統領選挙も両党の全国党大会が行われ、終盤に入った。民主党は8月25日から28日までコロラド州デンバーで党大会を実施し、連日CNNが民主党全国党大会の模様をライブ中継で伝え、全米のメディアは最終日のバラク・オバマ氏の受諾演説に熱い視線を投げかけた。また、その時間帯には、現地に行かなかった若者たちが、各地の大学やバーなどでパーティーを開催し、供に受諾演説の模様をテレビ中継で見て祝う、といったイベントが行われた。その様子は、まるで大きなスポーツの祭典を祝うかのような熱狂振りであった。

 一方、共和党全国党大会は9月1日から4日間、ミネソタ州ミネアポリス・セントポールで行われる。こちらは、急遽メキシコ湾岸地域を襲ったハリケーン「グスタフ」の影響を受け、共和党大統領候補となるジョン・マケイン上院議員の采配により、初日の党大会プログラムは大幅にキャンセルされて始まった。危機管理能力とその手腕を発揮する意図が見られたが、ハリケーンの進路や被害によっては、党大会全体がその後どうなるのか、メディアでは非常に懸念された。幸い、ハリケーンの勢力が弱まり、2日目にはバンドの演奏やリーバーマン上院議員の演説なども行われ、「お祝いムード的なイベント」が本格的に始まった。

 民主党オバマ=バイデン正副大統領コンビと、共和党マケイン=ペイリンコンビとの接戦が報じられ、今後の両党大統領候補による政策討論会など、非常に注目されるところであるが、本コーナー第2回目は、8月14日にようやく発表されたマケイン候補のテクノロジー政策について紹介していきたい。

 マケイン上院議員は元上院商業科学運輸委員会委員長であり、長年通信政策に影響を及ぼす法案に力を注いできた人物である。それにもかかわらず、民主党オバマ候補が2007年11月にグーグル本拠地でテクノロジー政策を発表したことに比べ、マケイン候補がなかなかまとまった形で同分野の政策を発表しなかったことが気になっていた。今回イノベーションに対する投資促進など、全6項目が提案されたが、要点は「減税と余計な規制を差し控える」といった点である。

マケイン候補のテクノロジー政策全6項目

  • イノベーションに対する投資促進
  • 熟練技術労働者の育成
  • オープンで公正な貿易を擁護
  • 知的財産権の改革
  • インターネットと起業家に対する不必要な規制を行わない
  • 市民が完全にネットワークを使える環境にする

 マケイン候補の発表した政策内容を見てみると、「(大企業が国内利益へ投資するのを奨励するため)、キャピタルゲイン課税を低く抑える」「R&Dを重視しており、R&Dに関する還付税の整備」「競争力を高めるため、法人税の減税」「インターネット非課税の継続」さらには、「携帯電話サービスに対する州や地方政府の高い税金に反対」といったように、減税に関わる提案が多い。また、ネットワーク中立性にしても、全米にブロードバンドを普及させる方法についても、連邦政府が介入しないようにするべきだ、という姿勢が一貫して見られ、「小さな政府」を主張する共和党の特徴が明確に示されている。

 ネットワーク中立性について、マケイン候補は、「ネットワークに損害を与えない限り、消費者が望むコンテンツにアクセスする自由、アプリケーションやサービスを利用する自由、また、消費者が望んだ端末に接続する自由、さらに、ブロードバンド・サービス・プロバイダを選択する自由を維持する」としている。その内容は、2004年にマイケル・パウエル元FCC委員長が発表した4つの「インターネットの自由」や、FCCの2005年政策声明に非常によく似ている。それは、マケイン候補の通信政策顧問をパウエル元FCC委員長が務めており、この政策案を書いていることによる。

 マケイン候補は、「ネットワーク中立性のような規範的な規制を信じていない」と述べ、そうした規制よりも、むしろ、消費者の選択肢が豊富であるような、オープンな市場が事業者の不公正な行為に対して、最適な抑止力となると考えているという。ネットワーク中立性について、新たな規制を導入しない、という点がマケイン候補のこの問題に関する考え方の柱と言える。これは、ブロードバンド事業者に、ほとんどのインターネット・トラヒックを同じく扱うよう義務付ける「ネットワーク中立性」規則を支持しているオバマ候補とは、明らかに違う。

 ブロードバンドの全米への普及を重視している点については、マケイン候補もオバマ候補と変わらない。「裕福か貧困か、過疎地か都市部か、高齢者か若者かに関わらず、アメリカ人全てが高速インターネットサービスにアクセスできなければならないと考えている」と述べている。しかし、その方法については、両候補の間で大きな違いがある。マケイン候補の特徴は、連邦政府ではなく、地方政府が積極的な役割を果たすべき、としている点である。同候補は、「大統領として、高速インターネット接続を全米に提供するため、インフラ建設を促進し、民間投資を引き続き奨励する。しかし、市場の失敗や他の障害により、民間業界が要求に応じられないところでは、地方政府が高速インターネットサービスを提供するためのインフラ建設をすることで、我々の将来に投資をすべきだと信じている」と述べた。マケイン候補のブロードバンド政策は、過疎地対策を重視したもので、官民協力のもと、低金利融資や研究開発などを通じて、ブロードバンド・インフラ整備をしていこう、というものである。

 また、FCCが2008年1月に開始した700MHz周波数オークションでは、公共安全ネットワーク用に割当られたDブロックのオークションが失敗に終わったが、マケイン候補は、今回発表したテクノロジー政策の中で、無線周波数のオークションにとりわけ関心を持っていることを明らかにしている。過疎地に高速インターネットサービスの選択肢を提供するため、無線周波数を利用することを奨励する考えだ。政策案の中で、「大統領として、1期目の終わりまでに全国的な公共安全用ネットワークの整備に確実に着手する」と述べている。FCCのケビン・マーチン委員長は今年7月、Dブロックの再入札は2009年、つまり次期政権下で取り組まれることになると見通しを述べたが、マケイン候補は、大統領として、この問題に力を注ぎたい意向を表したと言えるのではないだろうか。

 こうして見ると、テクノロジー政策の中で、マケイン候補が大統領になった場合、明らかに共和党色が現れてくるのが、ネットワーク中立性問題と全国的なブロードバンド整備の問題であろう。規制をかけず、連邦政府の役割を小さくする、という姿勢はブッシュ政権の政策を踏襲している。オバマ候補は、たびたび、「マケイン候補はブッシュ政権と同じ」と批判するが、この分野についてもそれが当てはまりそうである。それもそのはず、ブッシュ大統領が指名したパウエル元FCC委員長がマケイン候補の政策顧問をしているのだから。

 とかくイラク戦争や経済政策問題の影で、テクノロジー政策や通信政策は選挙の争点になりにくいが、11月の本選挙の結果、民主・共和どちらの政党が勝利するかによって、ネットワーク中立性を含め、アメリカのブロードバンド整備の在り方に今後大きな影響が現れることになるだろう。

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