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清原聖子が伝える「2008年米国大統領選挙戦」
2008年11月掲載

第4回:民主党オバマ候補の圧勝―Web2.0時代の大統領選挙戦

グローバル研究グループ 清原 聖子

 2008年11月4日(日本時間の11月5日午後)、第44代アメリカ大統領に民主党のバラク・オバマ候補の当選が確定した。私は今でも、オバマ上院議員が大統領選への出馬演説を行った時の映像と、そのインパクトのある演説を鮮明に覚えている。あれは2007年2月10日のことだった。BGM代わりに何気なく夜中にCNNをつけていた時のことだ。突然、まるで教会の牧師の説教を聞いているような、心に響く抑揚の効いた、それでいて落ち着いた演説に、私ははっと目が覚めた。ふと、キーファー・サザーランド主演のFoxテレビドラマ「24」のデビッド・パーマー大統領の演説シーンが頭によぎる。これまで様々なメディアで報じられてきたが、オバマ氏の演説には人を魅了する独特なパワーを感じずにはいられない。

 オバマ氏は、民主党内での大統領候補指名獲得争いでは、本命候補と目されてきた強敵のヒラリー・クリントン候補に競り勝った。だがそれによって、党内の分裂が強く懸念され、本選挙ではクリントン氏の支持者が対立候補の共和党ジョン・マケイン候補に投票するのではないか、と指摘する専門家も少なくなかった。しかし、蓋を開けてみれば、オバマ氏は、共和党が元来強い複数の州でも勝ち、結局選挙人獲得数でダブルスコア*の大差をつけて圧勝した。18ヶ月にも及ぶ長い選挙戦を戦い抜き、ついにオバマ氏はアメリカ史上に残る黒人初の大統領に決定したのである。歴代大統領はすべて白人男性であったこと、そして1960年代半ばまでのアメリカ社会における黒人の置かれた状況を考えれば、これがいかに画期的なことであるかを理解できるだろう。

「ワシントンDC内の選挙関連グッズ販売店前で」(2008年8月下旬、執筆者撮影)
ワシントンDC内の選挙関連グッズ販売店前で
(2008年8月下旬、執筆者撮影)
 オバマ氏の勝利演説集会に参加した人々の表情がテレビ画面に映し出されたのを見ると、人種の壁を超え、非常に多くの若者が、歓喜の涙を流し、その演説に酔いしれている。オバマ氏の勝利の要因は、金融危機が追い風になったことなど、いろいろ考えられるだろうが、演説ににじみ出るオバマ氏自身の魅力が選挙に関心の薄い若年層を惹き付けたことは間違いない。そこで本レポートでは、今回の大統領選挙戦において、若者の選挙への関心を高めることに一役買ったインターネットや携帯電話、そして新しいゲームがどのように使われたのか、振り返ってみたい。

※オバマ候補365:マケイン候補173 (ミズーリ州の集計結果を含む)

■選挙ニュースはインターネットで入手する時代に

 「今回の大統領選挙戦ではインターネットの利用が際立った」といった指摘は、実は2008年の選挙が最初ではない。2004年の大統領選挙戦ではブロガーの活躍が注目された。しかし、2008年の大統領選挙戦では、2004年大統領選挙戦と比べ、明らかに、インターネットが選挙関連ニュースを手に入れるメジャーな情報源に変わりつつある。ピュー・リサーチ・センターが2008年10月31日に発表した調査では、テレビがこうしたニュースを取得する主要な情報源であることに変わりはないが、インターネットで選挙キャンペーンニュースを手に入れていると答えた人が2004年10月に比べ3倍に増えた。なんと、インターネットがいまや選挙キャンペーンニュースのメイン情報源として、新聞のライバルになっている。特に若者の間でその傾向が強い。18歳から29歳の有権者では、選挙関連ニュースのメイン情報源としてインターネットを挙げたものが49%であるのに対し、新聞と答えたのは17%に過ぎなかった。

 候補者側も情報発信のコミュニケーション・ツールに、インターネットや携帯電話を積極的に使っている。2008年の大統領選挙戦では、オバマ候補も、クリントン候補も、マケイン候補も、選挙用の公式ホームページのほかに、SNSのFacebookの中にプロフィール・ページを持っていた。また、電子メールによるニュース配信は2000年の大統領選挙戦でも用いられたが、今回特にオバマ陣営は、携帯電話のテキスト・メッセージを使い、選挙キャンペーンに関する重要ニュースを定期的に登録者に送信した点が、選挙キャンペーンの新しい手法として大いに注目された。オバマ候補の公式ホームページにアクセスすると、携帯電話の待受け画面にオバマ候補の写真をダウンロードすることもできるし、着メロに、オバマ氏の演説をリズミカルな音楽に変えたバージョンをダウンロードすることもできる。さらには、オバマ候補が8月に副大統領候補にジョー・バイデン上院議員を指名したという速報は、CNNでも三大ネットワークでもなく、支援者に携帯電話からテキスト・メッセージで送られた。こうした携帯電話を使った情報発信の新しいスタイルが功を奏し、世論調査では、若年層の有権者は、マケイン候補よりもオバマ候補を2対1で好んでいる結果が表れたといわれている。

■Xbox Live上でも有権者登録ができる!

 日本では、選挙権を持つ年齢に達すれば、自動的に選挙の葉書が送られてくるが、アメリカでは有権者登録を自分でしておかなければならない。多くの若者が有権者登録をしていない理由の一つは、その手続きが面倒だから、ということもある。そこで、候補者や非営利団体は携帯電話やビデオゲーム、MySpaceやFacebookなど、あの手この手を使って、有権者登録を呼びかけた。

 Rock the Voteという若年層をターゲットに有権者登録を勧める全米最大の団体がある。この団体は30歳以下の若年層の有権者登録を広めるため、有名人や通信会社、エンターテイメント企業と提携している。たとえば、歌手のSheryl Crowのニュー・アルバムも3人の友達に有権者登録させれば、Rock the Voteのホームページ上で、無料でダウンロードできる。また、2008年大統領選挙戦の期間限定で、Rock the VoteはAT&Tと提携し、若者が携帯電話にポップミュージックや有名人の着メロなど様々なモバイル・コンテンツをダウンロードできるようにすることで、彼らに有権者登録を勧める、というキャンペーンも行った。さらには、マイクロソフトとも提携して、2008年8月の民主党全国党大会初日(8月25日)以後、同社のXbox360の持ち主は、Xbox Live上で、有権者登録のリクエストや大統領候補者との独占的な意見交換会で発言することも可能にした。Xbox Liveはテレビに接続している最大のオンライン・ソーシャル・ネットワークで、加入者は26カ国、計1,200万に上る。仮にXbox Liveが一つの州だとするならば、全米で第7位の大きさとなり、選挙人は20人に相当するほどだという。つまり、その規模と、若年層へのリーチの可能性ということから、Rock the VoteがXboxのようなエンターテイメント・パートナーと提携したことは有権者登録を促す取り組みの上で、注目に値するものだった。

◆◇◆

 こうして振り返ると、2008年の大統領選挙戦では、インターネットや携帯電話など、新しいコミュニケーション・ツールをうまく利用して、若年層の掘り起こしに成功した点が評価できる。今では有権者は選挙結果を三大ネットワークやケーブルテレビで見るだけではない。携帯電話に送られてくるテキスト・メッセージもチェックするだろうし、出口調査の結果を早速ウェブでブラウジングするかもしれない。また、候補者陣営が配信するビデオも見るだろう。2004年には、2008年の大統領選挙戦で使われたYouTubeはまだ存在しなかったし、Facebookもポピュラーではなかった。

 つまり、明らかに、今回の選挙はこれまでとは違う新しいメディア環境の中で行われたのである。ウェーク・フォレスト大学で政治コミュニケーションを教えるAllan Louden教授が、「ウェブの影響が永続的なものかどうか誰にもわからないが、政治の世界を変えたことは間違いない」と述べているように、テクノロジーが進化し、選挙ニュースの情報流通が多様化したことが今回の大統領選挙戦に与えた影響は、かなり大きなものに違いないだろう。

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