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清原聖子が伝える「2008年米国大統領選挙戦」
2008年11月掲載

第5回:民主党オバマ次期政権の通信政策の展望

グローバル研究グループ 清原 聖子

 11月19日、大統領選挙結果の集計が遅れていたミズーリ州で勝敗に決着がついた。結局ミズーリ州の選挙人を獲得したのは、共和党のマケイン候補であったため、マケイン氏の選挙人獲得人数が173に増えた。しかし、2008年の大統領選挙は、2000年の大統領選挙の再来とはならなかった(注:フロリダ州で行われた手作業再集計に加え、連邦最高裁までもつれて決着がついたことを指す)。民主党のオバマ候補のダブルスコアでの勝利は固く、マケイン候補のミズーリ州での勝利は、すでに判明した選挙結果の大勢に影響を及ぼすことはなかった。オバマ次期大統領は2009年1月20日の就任に向けて「政権移行チーム」を発足し、閣僚人事に取り組んでいる。

 オバマ次期大統領は、政権移行チームの専用サイト(change.gov)上で政策綱領として、「インターネットのオープンな競争から得られる便益を保護するため、ネットワーク中立性の原則を強く支持する」ことや、「ユニバーサルサービス基金の改革や全国的な無線周波数の利用、次世代設備、技術、アプリケーションの促進、新たな税や貸付インセンティブなどを組み合わせ、次世代ブロードバンドを整備する」ことなどを表明している。アメリカのメディアでは、通信政策にも関心の高いオバマ次期大統領が、その舵取りを行うことになる連邦通信委員会(FCC)委員長職を誰に託すのか、憶測が広まっている。通信政策に直接関わるポストには、FCC委員長の他に、新たに設置される予定の全米チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)、商務省の全国電気通信情報庁(NTIA)長官などがある。中でも最大の関心ポストはFCC委員長である。オバマ次期大統領の政権移行チームは11月14日、FCCの政権移行審査チームを率いる人物を発表した。チーム・リーダーに、最近までICANNの役員も勤めていたSusan Crawfordミシガン大学教授(専門:通信法とインターネット法)が任命された。また、同チームには、Kevin Werbachペンシルバニア大学ウォートン・スクール准教授(専門:法律研究・企業倫理学)も加えられた。同氏は、クリントン政権期のFCCで新技術政策法律顧問を務めた経験がある。

 これまで何度か、マーチン現FCC委員長は共和党から民主党へ政権交代すれば、それに伴い辞任するのではないか、と関係者の間で噂されてきた。しかし11月に入り、マーチン委員長は、自身の去就についてまったくプランはない、と繰り返し述べている。オバマ次期大統領が政権交代に伴い、民主党FCC委員を委員長に指名したとしても、マーチン委員長は、2011年6月まである残りの任期中、FCC委員として留まることはできる。現在FCC委員はマーチン委員長を含め5人だが、すでに任期が切れ、ブッシュ大統領の再指名を受けながらも、政治的駆け引きから上院の承認がペンディング中である共和党のテイト委員は、年内にFCCを去る可能性が濃厚である。さらに、マーチン委員長がほぼ同時にFCCを去れば、FCC委員はしばらくの間、民主党2名(うち1名委員長)、共和党1名の民主党多数になる。そうなれば、民主党側は新しい政策の実行が容易になるだろう。それを避けるために、マーチン委員長はFCCに留まるかもしれない。

 いずれにしてもオバマ次期大統領は、テイト委員の後任を1名すぐに指名できる目算が高い。そして、おそらくはコップス民主党FCC委員をマーチン委員長に代わり、暫定的な委員長に指名するのではないかと見られている。しかし、長期的にFCC委員長を誰に任せるのか、今のところ憶測の域を出ない。ただ、オバマ次期大統領の政権移行チームには、クリントン元大統領の首席補佐官であったポゼスタ氏が共同議長に入っているなど、クリントン政権で重用された人物が多い。その1人がハント元FCC委員長である。長期的なFCC委員長はハント氏の推す人物になるのだろうか。ハント氏は、同じくクリントン政権時代FCC委員長であったケナード氏とともに、大統領選挙戦中から、オバマ氏の通信政策アドバイザーを務めてきた。

 しかし、2009年2月17日には全米で一斉にアナログ停波が行われ、地上波デジタル化が完了する。これはオバマ政権発足から29日目のことである。現在FCCやNTIAは無事に地上波デジタル化を完了するため、消費者へのアウトリーチ活動に奮闘している。この状況で、はたして即FCCのトップを交代させることが適当なのか。金融危機や景気対策といった点で重要度の高い財務長官などが発表されていく中で、FCC委員長についてオバマ次期大統領が発言するのはいつになるだろう。また、初の試みである全米CTOには誰を起用するつもりだろうか。オバマ次期政権の通信政策を先読みするには、まずはこの2つのポストが誰のものになるのか、その行方に注目する必要がある。

 さて、最後に、大統領選挙と同時に、連邦議会の議員についても一部改選が行われた。その結果、長年通信政策でも重鎮であったアラスカ州の上院議員、スティーブンス氏の落選が決まった。第109議会で上院商業科学運輸委員会委員長を務めたスティーブンス議員は、2006年当時、ネットワーク中立性の法制化に強く反対したことでも知られている。スティーブンス議員がワシントンの議会を去り、そして、民主党が上院で58議席を獲得した(未決の州が現在3州ある)ことで、2009年1月に始まる第111議会において、ネットワーク中立性問題の審議はどのような影響を受けるだろう。景気対策が急務の中で、通信政策にすぐに大きな動きがあるとは思えないが、来年は、FCCだけでなく、連邦議会の動向にどのような変化が起きるか興味深い。

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