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2010年1月8日掲載

ICT産業政策 ―規制と振興の両立―

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 新年、明けましておめでとうございます。恒例の十干十二支で言うと、2010年は、庚寅(かのえとら)の年に当たります。庚(こう)も寅(いん)も、ともに、新しいものに改まっていく、新しく発生する状態を示しています。新しい動きが顕在化する年回りと言うことです。是非、新しい動きが起こり、変化を遂げていく年にして行きたいと思っています。

 しかし、残念ながら、昨年来の景気動向を見ると、底を打ったとの基調でありながら、耳にする話題は値下げ、デフレの話ばかりで、二番底の懸念が広がる状況となっています。生活実感として、前向きな満足度の高い製品やサービスで消費拡大を期待することは出来ないのでしょうか。

 ただ、民主党新政権の政策の中で、内需に目を向けて個人消費を拡大しようとする動きが見られることは、新しい変化の兆しと言ってよいと思っています。なかでも、個人消費の拡大策として、ICT関連製品/サービスに注目が集まっています。1990年代以降、個人消費が縮小するなか、インターネットや携帯電話の進展、PCやデジタルカメラをはじめとする小型電子機器の普及などにより、ICT消費は2倍以上になるほど大きく成長して来ました。つまり、ここ10数年の間、ICT消費は個人消費を牽引して来た訳です。

 こうしたICT消費拡大のベースは、当然のことながらICT産業の発展に支えられています。ICT産業の範囲は、サービスとしての通信業、放送業をはじめ、ソフトウェアやインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)などの情報サービス業、コンテンツ制作業、情報通信関連製造業、さらに、広告や印刷、映画などの関連サービス業まで、非常に幅広い分野に渉って構成されています。このうち、産業政策としての所轄官庁は、総務省をはじめ、経済産業省、文化庁など多岐に及び、ICT産業政策全般を統括する単一の官庁はなく、政府部内にICT戦略本部が設けられて、その任に当って来ました。ところが、民主党新政権が新たに「通信・放送委員会」を独立行政機関として構想して以来、その機能を巡る論議が活発に行われるにつれて、問題がICT産業の規制と産業振興のあり方にまで及んで議論されはじめているようです。私は、今後の日本の成長戦略にとって重要な柱となるICT産業の振興策が話題となることは、第一歩として、誠に時宜を得たものだと感じています。

 従来、もっぱら規制問題として取り上げられることの多かった通信業や放送業に加えて、広くICT産業を対象とした振興策が議論され、統括する官庁が整備されて推進に当たることが、今、我が国に求められています。これまで、先進各国において、ブロードバンド・インフラの整備に力点が置かれて来たことは事実ですが、ここ1年余りの間に、

  1. フランスでは、「デジタルフランス2012」が発表され、デジタル経済開発担当大臣を置いて、デジタル経済大国を目指している。
  2. 英国では、「デジタル・ブリテン」が発表され、ビジネス・イノベーション・スキル省と文化・メディア・スポーツ省が共同で、デジタル経済における世界的リーダーの地位確立に向けて取り組んでいる。
  3. 韓国では、「IT KOREA 5大戦略」を発表。既存産業とIT融合、ソフトウェア、主力IT(半導体、ディスプレイ、携帯電話)、放送・通信(WiBro、IPTV)、インターネットを五大未来戦略と位置づけている。

など、一国の経済成長戦略の中核に据えて取り組むに至っています。

 通信・放送委員会を巡る我が国の議論において、規制機能と産業振興機能を切り離すことがポイントになっていますが、これまで取り組んで来たネットワーク・インフラの整備を超えて国家ICT戦略を考えると、規制と産業振興の両立を図ることが最重要事項であると考えます。官庁のあり方として、規制機能を分離するのであれば、同時に、産業振興機能の統括がバランス上、必要となります。英仏、韓国の例を見て分かるように、ICT産業は、一国の産業活性化、更には、国際競争力強化の柱と位置づけられています。我が国においても、米国流だけではなく、したたかな欧州流、韓国流に学ぶところが多いのではないでしょうか。既存の役所の縄張りや民間事業者の固定観念を越えた前向きな取り組みを期待したいと思います。

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