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2010年2月15日掲載

「代」を思う科学技術政策を

社会公共システム研究G
常務取締役 高橋 徹
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月を思うものは花を作り、
年を思うものは木を植え、
代を思うものは人を育てる。

 これは、チッソの前身、日本窒素肥料(株)を創立した野口遵氏の言葉として時々引用されることがある。私がこのような先人の言葉を思い出したのは、平成22
年度の概算要求をめぐる事業仕分けで科学技術予算に関する攻防が各種メディアで大きく取り上げられた頃である。あまりにも短期的な成果とコストだけで評価していないだろうか、「花」だけを求めているのではないかと感じたからである。すぐ先の利益が見込めるものであれば、民間企業は国の支援をあてにすることなく競って事業に参入する。国は、「年」を思う木を植える事業、「代」を思う人を育てる事業に力を入れるべきであろう。科学技術立国を目指す以上、国は中長期の視点に立った事業を実施すべきである。

 事業仕分けで大きな話題となったスーパーコンピュータ開発については、仕分け人の判定は凍結されたものの、閣僚折衝の結果、要求額から一部減額されて予算計上されることとなった。また、平成22年度の科学技術関係予算案も対前年度増減率は0.8%増の35,723億円で当初予算ベースでは2年ぶりの増額で、21年度補正予算を加えると5.1%増の37,245億円ということになる。これだけ見ると、新政府も科学技術の振興にも今まで以上に力を入れていると見えるかもしれない。

 しかし、諸外国の動きをみると、それで充分というわけにはいかない。
米国オバマ大統領は科学技術予算を10年間で倍増すると発表している。仏国サルコジ大統領は、フランスでは史上初めて策定する研究・イノベーション国家戦略の遂行にあたり、高等教育・研究拠点の創設など、投資の財源として4兆円規模の国債の発行を発表している。科学技術は経済社会の発展の基礎であり国際競争力の源泉となる、という認識が形成されている。

 このような動きの中で、日本において科学技術立国が可能になるだろうか。そのためには、夢が引き継がれていく新たな研究開発拠点と新たな組織が必要になると思われる。科学技術政策は公共的な政策の側面も持つ。現在の経済状況からすれば、短期的な雇用を生み出す公共事業にもなる研究開発拠点形成を実行することも景気刺激策の一つにもなるはずである。まず建設段階の雇用が発生し、維持運営段階の雇用が創出され、夢を引き継いでいく人材が集い、新しいビジネスが生み出されるような研究開発拠点整備事業があってもよい。整備された拠点では、夢のテーマとなる宇宙開発、海洋開発に関連したものほかに、地球規模の環境、人類永遠の課題となる生命と健康などの分野で基礎から応用までの研究開発が行われ、そこでは国産のスパコンが下支えとなっている姿を夢見てはどうだろうか。

 現在、政府において検討中の第4期科学技術基本計画には、将来への投資という観点のプロジェクトが盛り込まれることを期待するものである。

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