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2010年3月11日掲載

バンクーバー冬季オリンピックに見る「選択と集中」

グローバル研究G
常務取締役 真崎 秀介
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 2月末に世界中の注目を集めたバンクーバー冬季オリンピックの幕が下りた。日本のメダルは銀3、銅2と前回のトリノの金1を数では上回った。しかし、金6、銀6、銅2の韓国、金5、銀2、銅4の中国とは圧倒的な差がついた。特に韓国は金の数では世界の5番目、メダル数では世界7番目と日本の人口の半分の人口数を考えると大健闘である。また、出場選手数は日本の94名に対し、半分以下の46名であった。韓国は夏のオリンピックの女子アーチェリーのように、今回もショートトラックやスピードスケートなどメダルが狙える種目を「選択」し、施設整備、選手育成などにリソースを「集中」している。これに対し日本は参加することに意義があるという総花的な取り組みに思える。日韓のオリンピックへの取り組みの違いは産業、経済にも共通する点がある。今や韓国企業のグローバル進出、プレゼンスの向上は目を見張るものがあり、自動車産業では「現代」、薄型テレビの2009年の世界シェアは1位がサムスン電子、LG電子が2位に浮上した。携帯電話もサムスン、LGが世界で大きくシェアを伸ばしている。日本の有力紙でも「世界に躍進する韓国企業に学ぼう」という社説が見られるようになった。

 韓国の人口は4,900万人と日本の4割であり、少子化のスピードも日本を上回ると言われており、韓国の企業は国内にとどまっていては生き残れないという危機感が強いと言われる。このため、積極的にグローバル化を進めたサムスン、LGの連結売上高に占める海外比率はともに85%(2008年)に達している。サムスンでは幹部の英語力の高さは言うまでもなく、社内放送も英語にするというニュースが飛び込んできた。

日米貿易を超える日韓中トライアングル

 しかし、日韓中の貿易収支構造を見てくると別の側面が見えてくる。2008年の日韓中の貿易トライアングルにおいて日本の対韓国輸出額は約6兆円、輸入額は3兆円で意外にも日本の3兆円の黒字になっている。また、韓国と中国の貿易関係は韓国から中国への輸出額が10兆円、輸入が6兆6千億円で3.4兆円の対中貿易黒字になっている。これは、日本の品質の高い素材、部品を韓国企業が輸入し、中間材料として中国に輸出して完成品として組み立てるというトライアングルができているのではなかと分析される。日本から韓国への輸出で好調なものは例えば自動車分野では工作機械メーカーに供給するCNC(コンピューターによる数値制御)装置、半導体製造装置、液晶パネル製造装置などがあげられる。今後とも日中韓のこのトライアングルが機能し、アジアの成長を取り込めると、日本にとっても成長戦略を語れる可能性は残されている。

ICT産業の国際競争力の強化

 総務省のタスクフォースのひとつとして「ICT産業の国際競争力強化」が検討されている。国際競争力の強化のポイントは得意とする分野への「選択と集中」、それにグローバル化への取り組みである。
日本の携帯電話事業については日本の携帯マーケット、世界でのシェアを考えるとメーカー数が多過ぎると言われている。その他の産業分野でも、既に将来の縮小する日本のマーケットを見据えて統合・再編が始まっており、同時に今後の成長が見込めるアジアなどへの産業シフトが進んでいる。

 日本の携帯メーカーの世界シェアは縮小の一途であるが、他方、携帯電話の部品でみるとバッテリ、プリント配線、ディスプレイなどでは日本の部品メーカーが依然として世界的に大きなシェアを占めている。先に述べた日韓の貿易収支構造においても韓国のサムスン、LGなどが世界的シェアを伸ばすとともにこれら日本の部品の輸出量が伸びるという構造になっているとすれば、日本の強みを生かす「選択」は日本のメーカーの統合・再編を進めるとともに、これら部品メーカーへの財政、政策支援によるリソースの「集中」が一つの選択肢であると思われる。

 経営が悪化する日本の中小企業への支援が議論されているが、手を拱いていると韓国、中国企業によるこれらの優秀な技術とマネジメントを持つ部品メーカーが丸ごと買収されてしまうという事態が生じかねない。タスクフォースの議論では是非、この点を取り上げてもらいたいと考えている。

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