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2013年2月1日掲載

Wi-Fiが「第三のアクセス」へ
〜「オフロード」から「オンバリュー」へ〜

(株)情報通信総合研究所 常務取締役
グローバル研究グループ部長
主席研究員 真崎 秀介
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Wi-Fi(Wireless  Fidelity)が「第三のアクセス」へ

昨年11月、NTTが中期経営戦略を発表し、Wi-Fiを固定、移動に加え「第三のアクセス」と位置づけました。NTTはこれまでブロードバンド普及に向けて
光回線と次世代モバイル高速通信規格LTEの設備拡張に取り組んできましたが、Wi-Fiについても本格的に取り組んでいくことを打ち出しました。
Wi-Fiについてはこれまでスマートフォンやタブレット端末の急速な普及によるモバイルトラヒックの爆発的な増加のため、モバイルネットワークではこのトラフィックを処理できず、溢れたトラフィックを固定回線に流すオフロード対策として注目を浴びてきました。

今回、NTTがWi-Fiを「第三のアクセス」と位置づけたのは単なるオフロード対策だけでなく、新たな付加価値を創造しようとしているように思われます。
その背景と狙いについて考えてみたいと思います。

オフロードとしてのWi-Fi

日本では昨年初めからスマートフォン/タブレットが急速に普及し、それに伴いトラヒックが急増し、従来の3Gモバイルネットワーク設備ではトラヒック処理の限界を超え、通信障害が発生するようになっています。

このため日本では急増するトラヒックのオフロード機能としてWi-Fi設置が注目を集めてきました。従来の携帯電話に較べ、スマートフォン/タブレットはWi-Fi接続機能を標準搭載していることもあり、各キャリアは急増するトラヒックを固定回線にオフロードするため、多くの利用が見込める場所から順次Wi-Fi設備を急拡大してきています。また、地方自治体になかにはICT振興を目指してWi-Fi設備を独自に設置、運用しているところも増えてきています。
現在、日本国内ではWi-Fiのアクセスポイントは都市部を中心に100万近くあり、利用者数も1,000万人を超え、毎年400万人以上のペースで拡大を続けてきています。

一方、昨年より国内各キャリアは競ってサービスの高速化、大容量化を目指し、LTEのサービスエリア拡大を図っています。Wi-Fiの最高通信速度は600メガビットとLTEの速度を上回るものの、電波干渉の問題もあり利用範囲が通常20〜30メートルの限定されているため、特定の場所での利用に限られたモバイルサービスの補完サービスと考えられてきました。

しかし、ここにきて単なるトラフィックのオフロードという補完的な機能からWi-Fiが持つ新たな機能に着目したサービス創造、「オフロード」から「オンバリュー」の見方が出てきました。

「オフロード」から「オンバリュー」へ

昨年のバルセロナで開催された“モバイルワールドコングレス”では各国の通信キャリアから「ダムパイプからスマートパイプへ」という提言がなされました。この背景には、スマートフォン/タブレットの急速な普及により、通信キャリはモバイルトラヒックの急増のため設備の拡張は余儀なくされるものの、それに見合う収益が得られないという状況から何とか脱したいという思いがありました。

通信キャリアが「ダムパイプ」化したのはグーグルなどのOTT(オーバー・ザ・トップ)プレイヤーがプラットフォームからコンテンツまで垂直統合のビジネスモデルを確立し、通信キャリアはアクセスラインのみの提供に追いやられた結果でした。

OTTプレイヤーの優位性は配信、課金のプラットフォームを握り、アプリ/コンテンツを提供することによりユーザIDを獲得し、広告モデルあるいはECによるリアル販売で収益を上げるというエコシステムを確立していることにあります。

通信キャリアはこのエコシステムからはじき出されており、新たにこの競争に参画することは極めて困難ですが、今後の生き残りをかけてスマートパイプへの転換を急ぐ必要があります。その可能性の一つがWi-Fiを「第三のアクセス」と位置づけた新たな「オンバリュー」への取り組みです。

スマートフォン/タブレットのアプリケーションはその数が膨大になり、ユーザは必要なアプリケーションを見つけ出したり、使いこなすのが困難になってきています。その中で新たなWi-Fiの使い方としてJIT(ジャスト・イン・タイム)の考え方が出てきました。つまり、Wi-Fi利用の特定のエリアに入った場合に必要なアプリが自動的に配信され、ユーザは必要に応じてそのエリア内のサービスが受けられるというものです。その場所を離れれば、自動的にそのアプリケーションは消滅するので、ユーザには使い勝手の良いアプリケーションのみのサービスが受けられるというものです。

その一例としてO2O(オンラインTOオフライン)に関する阪神・阪急の実証実験があります。ショッピングモールに設置されたWi-Fi設備を利用し、屋内にも関わらずユーザに正確な位置情報を提供するだけでなく、クーポンのプッシュ配信やNFCを活用したスタンプカード等で、集客力を高める試みがなされています。将来は顧客情報などビッグデータ活用によるマーケティングに繋げる狙いもありそうです。

今後の課題

今後、通信キャリアの主戦場は従来のような通信収入ではなく、課金・認証・ 配信などプラットフォームを中心としたエコシステムに移行すると思われます。そのなかで重要になるのはこれまで通信キャリアの資産であった電話番号やメールアドレスに加え、ユーザIDをいかに獲得するかです。

Wi-Fiは「第三のアクセス」としてプラットフォームへの入り口としての可能性を秘めていると思われます。Wi-Fiへの接続は端末フリー、OSフリーを想定しているため、多くのユーザのID獲得が可能となります。将来的にはWi-Fiがクラウドサービスと結びつき、他企業・事業者との協業でバリューチェーンを構築できるか、ビジネスモデルをどう描けるかが成功の鍵を握りそうです。

Wi-Fiを「第三のアクセス」として新たなインフラとするためにはWi-Fiの電波干渉やセキュリティなどの技術的課題や個人情報の保護の問題、モバイルネットワークや固定通信などとのネットワークベストミックス、ネットワーク全体のコントロールなど課題は山積していますが、通信キャリアの「ダムパイプからスマートパイプ」への取り組みとして注目される動きだと思われます。

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