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2013年3月6日掲載

ICTによる成長戦略の実現−ICT投資比率を高める

(株)情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之
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平田

いよいよ三本の矢の本命、成長戦略を巡る議論が活発になって来ました。政府内では、経済財政諮問会議や産業競争力会議での検討が始まっていますし、TPP交渉開始に関する論議においても国内産業の競争力強化による成長戦略が語られているところです。また、総務省では、総務大臣が主宰する「ICT成長戦略会議」が2月22日に開始され、社会実装、新産業創出、研究開発の3つの戦略について検討が進められています。日本の再生、経済成長にとって、金融政策、財政政策に続く最も重要な政策となる成長戦略が素早く、見える形で具体的に示されることを期待しています。

当社情報通信総合研究所では、この度2月27日に2012年〜2015年度経済見通しを改定し発表しました。これは、2012年10月〜12月期のGDP1次速報を受けたものですが、今回は併せて、設備投資に占めるICT投資の割合が高まった際のGDP成長率に与える影響を試算し、次の通り公表しています。

  • 実質経済成長率:2012年度 1.0%、2013年度 2.2%、2014年度 ▲0.1%、2015年度 1.7%
  • 2013〜2015年度にかけて、ICT投資が加速した場合の実質GDP成長率の押し上げ効果は、3年間の累積で最大1.2%、6.7兆円程度

我が国では、ICT投資が設備投資全体に占める割合(ICT投資比率)は、直近2011年度では23%と低いレベルに止まっている現状にあります。このICT投資比率が、1980年度以降のトレンド(年当たり0.59%の増加)の2倍で推移することでICT投資が増加し、その増加分だけ設備投資が押し上げられると想定したケースが前述の実質GDP成長率押し上げ効果の数値です。具体的な数値で言うと、次のようになります。(詳細は、2月27日当社発表の「2012〜2015年度経済見通し」をご覧下さい。)

年度 ICT投資増分 実質GDP増分 乗数効果
2013 1.081兆円 1.306兆円 1.208
2014 2.230兆円 3.663兆円 1.643

2015 3.397兆円 6.679兆円 1.966

この数値はシミュレーションの前提のとおり、毎年約1兆円ずつICT投資が増加することを想定していますので、現実的なのかどうかの指摘があるかと思いますが、その点に関し次の2点を申し上げておきます。第一に、ICT投資比率が大きく高まったのは1995〜2000年度の間であり、この時期にインターネットやモバイル通信サービスが普及して、さまざまなイノベーションが起こっています。第二に、日本のICT投資比率は直近でも23%程度ですが、比較可能なデータである2007年時点でみても、アメリカ49%、イギリス45%、ドイツ33%、オーストラリア54%、日本21%であり、他の先進国から大きく遅れをとっていることが分かります。その上、日本がこれらの国からICT投資比率で大きく遅れるようになった時期は1990年頃からであり、まさに失われた20年、日本経済の低迷期と重なっています。さらに、2000年代になると、その差がますます拡大してしまい、設備投資に占めるICT投資の割合は2倍の拡差がついているのが実状なのです。これでは他国に追いつくどころか、より一層離されるばかりです。

つまり、日本再生、日本経済の成長のためには、この20年間の歴史に学んで、すべての産業において(決して、ICT産業ではなく)、ICT投資を加速して比率を高め、設備投資全体を増加させることが効果的だと言えます。特に、アメリカを見るとそのことがよく分かります。1990年代後半と2005年以降にICT投資比率が急増しており、今日のICTサービスを中核としたアメリカ経済の基調を形成しています。

そこで日本を見てみると、本当に寂しい限りです。ICTの利活用が久しく唱え続けられていますが、いまだ23%程度のICT投資比率でしかありません。アメリカやイギリスでは1990年代末には既に30%に到達しており、遅れていたドイツでも2006年に30%に達しています。日本は10〜15年の遅れがあるのです。このICT投資比率は毎年のフローの数値ですので、10〜15年間に累積する投資額は巨大なものとなり、経済成長に与える影響は計り知れません。急ぎICT投資の加速が求められる由縁です。今回発表したシミュレーションでも、ICT投資の加速を強気で織り込んだシナリオでさえ、2015年度に27%強のICT投資比率に達するに過ぎません。50%レベルに達しているアメリカの水準になるには、あと何年位かかるのか気の遠くなることです。各分野におけるICT設備の累積、即ち、社会の情報資本ストックが企業業務を効率化して企業利益を増加させ、これがさらに企業の設備投資全体を押し上げることになります。まさに成長戦略となるパスと言えます。その場合の乗数効果も3年間の累積の後には、約2倍の水準となるのでICT投資の経済成長への貢献度合には大きなものがあります。

ICT投資の加速と言うと、ともすればICT産業の促進と誤解されそうですが、ポイントはすべての産業分野、公共分野においてICT投資を促進することなのです。ICT製品・サービスの推進だけに捕らわれず、全分野・全領域においてICTの利活用が求められています。その意味で、総務省のICT成長戦略会議における検討項目(社会実装、新産業創出、研究開発)の中で、ICTの利活用を促進させる方策が取り上げられることを期待したいと思います。さらに、政府の産業競争力会議においては、個別産業の選別を成長戦略とするのではなく、全体として各産業や公共分野でICT投資が加速する方策の具現化を望みます。どの産業が成長するのかは、結局、市場が選別することなので、必要なことはICT投資が加速されるよう基盤整備と規制改革を図ることです。例えば、国民ID番号の推進や情報連携基盤の整備促進、公共部門のオープンデータ化、また、ICT投資の税制優制措置などを早急に図るべきです。国土強靭化計画でも単純なコンクリート化の道ではなく、センサーネットワークの全国的な整備などの“新しい公共”を目指してはどうかと考えます(注)。

(注)当社発行の情報誌「InfoComモバイル通信ニューズレター」1月号掲載、巻頭“論”(新しい公共−イノベーション、新産業の創出)参照

さらに、これまでにも何回も議論されながら、なかなか実現していない項目も早急に解決を図る時です。医療分野のレセプトオンライン化の徹底、コンテンツ流通を進める著作権法の見直し、電波オークション制度の導入など既に検討項目は尽きているものが多くあります。ICT産業の柱となる放送法や通信法の規制の弾力化や制度改革も、失われた20年の間残されて来ました。ICT分野の基盤整備と規制改革、投資促進策が一体となって進むことを願っています。
近年、モバイル、クラウドコンピューティング、ビッグデータ等の技術の広がりがICT投資の増加をもたらしつつあります。この勢いをさらに進めて、ICT投資比率を高めることで実質GDP成長率を2%以上に押し上げることが出来ると信じています。

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