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ICR View
2013年11月5日掲載

ICTで「おもてなし」
〜東京オリンピックで、日本人と外国人の一体感を醸成しよう〜

(株)情報通信総合研究所
マーケティング・ソリューション研究グループ
部長 松田 淳

オリンピックの東京開催が決定した。事前は東京不利と伝えられていた中、見事に東京決定を勝ち取った。関係者の方々の長きに亘るご苦労はもちろんのことながら、直前のチームとして取り組んだプレゼンテーションのアピールが決め手になった、と多くの人の意見を耳にした。私もまさにそう感じた。特に、滝川クリステルの「お・も・て・な・し」が印象的だった。心のこもった“おもてなし”で、ぜひ、日本ならではの良さを世界の人々に体感してほしいものだ。

オリンピック開催中は、様々な国の外国人が大挙して来日する。最近は、小学校での英語教育も注目されるとともに、若者のグローバル志向も強まっているように感じる。“しゃべってコンシェル“を駆使して、CMで放映されているような、外国人とのコミュニケーションが活性化するかもしれない。そうはいっても、外国語、異国文化の壁の存在は否めない。壁の存在を強く感じる人も含めて、多くの日本人が”おもてなし“に参加することに意義がある。”おもてなし“をしているときに、少しでも相手の国、言語に関する情報が目に入れば、異文化コミュニケーションのハードルを下げてくれるはずだ。ICTの力を駆使して、様々な立場、環境の人々が国民レベルでハードルをのりこえ、”おもてなし“にとりくみ、日本のよさをアピールしたいものだ。

今年はウェアラブル端末元年といわれている。異文化ハードルの低減には、ハンズフリーで情報入手可能なそのウェアラブル端末が大きく役立つと期待できる。しかしながら、用途はまだ限られている。機械仕掛けのゴーグルのようなものを身につけ、人間が部品を倉庫の定位置に配置するという最近の事例も見られる。しかし、フィット感はほど遠い。結局、フィット感には影響しない範囲で、特化したところに特化した機能が使われているというのが現状である。たとえば、医療センサー、万歩計、スパイクにセンサーを埋め込んでの順位判定等だ。グーグルグラスが、その自然な形状で話題になった。しかし、機能の充実は、これからという段階だ。ウェアラブル端末を、おもてなし、コミュニケーションに役立てるには、フィット感、サービス等いくつもの課題を乗り越える必要がある。

そのような思いの中、CEATEC JAPAN 2013を見学した。ドコモは将来のウェアラブル端末の実験に向けた研究の一環を紹介していた。てぶらでムービー見るだけインフォ(顔認識、文字認識)、なんでもインタフェース空間インタフェースである。フィット感をはじめ、実用化には相当の時間がかかりそうだが、未来のおもてなしを予感させるものだった。見るだけインフォ(顔認識、文字認識)は、対面している人や情報の付加価値をインテリジェントグラスに表示するというもので、異国語、異文化のハードルを下げる強力なツールとなるのはいうまでもない。ドコモブースでは現在すでに導入されているサイクルシェアリングも出展されていたが、インテリジェントグラスを通して、見るだけインフォで標識や道案内を外国語に翻訳すれば、外国人にも道に迷うことなくサイクルシェアリングを楽しんでもらえる。交通渋滞緩和につながり、肌で日本の風景、景色を楽しんでもらえるという意味では、立派なおもてなしとなろう。

特に興味を持ったものがなんでもインタフェースだった。要は、なんでもディスプレーだ。身の回りの“もの”にタッチパネルディスプレイを再現する。インテリジェントグラスと指輪型の入力端末で認識するというものだ。おもてなしをする日本人、日本に溶け込もうとする外国人双方が、自然にフィットするインテリジェントグラスを装着し、身の回りの“もの”の上で、言語の壁を乗り越えてコミュニケーションをする、そんな時代が来るのかもしれない

この15年間は、デフレが続き、経済は縮み傾向だった。頭脳流出の一方で、ここ数年は学生、社会人の海外留学離れの話もよく耳にした。中国、韓国等の台頭で、日本の存在感は低下傾向にあったことは否めない。しかし、アベノミクスで世界の目が日本に向いてきた。アベノミクス第三の矢の成長戦略を後押しする第四の矢として、東京オリンピックの期待は大きい。2020年に向けて、日本はICTでどうしたいのか。明確なコンセプトを打ち出し、それに向けて、戦略的なICT投資、関連技術の開発、商用化、サービス化を進めていってほしいものだ。

2012年のロンドンオリンピックは、ソーシャルメディアが普及してから初のオリンピックだった。ゆえに、「ソーシャルオリンピック」と呼ばれた。一方で、「モバイル・オリンピック」とも呼ばれた。ロンドン市内に50万箇所のWi-Fiスポットが設置され、多くの人がモバイルでアクセスしたからである。ただ、スマホが普及し、Wi-Fiでつながりやすくなった為、各人がSNSをしよう、選手も生の自分のメッセージを発信しよう、というものであったように思う。多くの人と一緒になって何かを行うという気運までには至らなかった、と個人的には認識している。

2020年の東京オリンピックはどのようになっているのだろうか。ロンドンオリンピックの時よりも、スマートデバイス、Wi-Fiがはるかに高度に充実化されるのは当然として、その先にくるのは何であろうか。私は“日本人と外国人の一体感”だと思う。もちろん、“おもてなし”のコンセプトのもと、戦略的にICTを配備し、利活用することが前提だ。決め手は、フィット感にあふれ、スマートなウェアラブル端末の普及だろう。

最近、新鮮な感動を覚えたCMがある。増上寺に集まった大勢の若者が、スマホを振りかざして増上寺や東京タワーのカラーリングを変えるという某キャリアのCMだ。日本人と外国人の自然なコミュニケーションを通して、このCMのような雰囲気になることが、先に触れた“日本人と外国人の一体感”のイメージである。様々な環境、立場にいる大勢の老若男女の日本人が、ウェアラブル端末を活用して外国語、異国文化の不安を解消し、たどたどしいながらも積極的におもてなしに取り組んでいる様子が目に浮かぶ。外国人自身も、同様にその技術を活用し、自ら日本に溶け込んできてくれるだろう。至るところでコミュニケーションが行われ、そのコミュニケーションの輪が広がっていく。よし、みんなで増上寺に行こう、新国立競技場に行こう、そして一体となって大きなウェーブを起こそう、と日本人と外国人の間で一体感が生まれるイメージだ。

東京オリンピックで、こうした日本人と外国人の一体感が創出されたら、本当にすばらしいことと思う。東京オリンピックは、そういった思いを目標として共有できるビッグイベントであり、ビッグチャンスだ。おもてなしをコンセプトに戦略的にICTを配備し、日本でウェアラブル端末市場を多いに活性化できれば、と思う。日本のすばらしさ、おもてなしの心を広く世界に発信、アピールしていければ、と切に願う。

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