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2014年5月19日掲載

NTTのグローバルビジネスを考える

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ部長
 主席研究員 真崎 秀介

5月13日、NTTは2013年度の決算発表で光回線サービスを開放することを発表しました。それに先立ち、NTTドコモは音声通話完全定額制とデータ通信の容量を家族で分け合う、新たな料金プランの導入を発表しました。また、4月25日のNTTドコモの決算発表では、2009年に2,600億円を超える出資をしたインドのモバイル事業から撤退することを発表しました。しかし、NTTの決算発表では2014年度のNTTグループの海外売上高を28%増の1兆5,300億円と見込んでおり、グローバル事業の拡大は着実に展開されていると言えます。

一方、2月より総務省において「2020年代に向けた情報通信政策の在り方」について検討が開始されました。この検討項目の中では、NTTグループの在り方についても議論される予定です。この議題については、これまでも国内競争の促進か国際競争力を重視するのかなどの観点から検討が行われてきました。今回の総務省の検討は、11月を目途に一定の結論を得る予定ですが、NTTの決算発表に見られる新たな事業展開と日本の情報通信政策の在り方について、改めて考えてみたいと思います。

NTTのグローバルビジネス

過去、NTTグループは再編成直後の2000年初頭、NTTドコモがiモードのグローバル展開を図ることを目的に香港のハチソン社へ出資を行ったのを皮切りに、オランダのKPN社をはじめヨーロッパのキャリに順次出資を行い、最終的にAT&Tワイヤレスには1兆円を超える出資を行いました。また、NTTコミュニケーションズが米国のISP事業者のべリオ(Verio)社を約6,000億円で買収するなど、NTTグループで2兆円を超える出資を行いました。しかし、その前後の世界的なITバブル崩壊の影響もあり、巨額の減損処理による特別損失計上を余儀なくされた経緯があります。

その後の約10年間、NTTは海外投資に慎重な姿勢をとってきましたが、2010年7月にNTT持株会社が南アフリカを拠点とするネットワークインテグレーションを主業とするするディメンションデータ社を2,860億円で買収しました。持株会社が直接、ディメンションデータ社を傘下に置くことにより、NTTグループのグローバル化が加速することになりました。さらに、同年10月には、NTTデータが米国のシステム構築プロバイダーのキーン社(現NTT DATA, Inc.)を1,100億円で買収しました。

NTTが2012年秋に発表した「中期経営戦略」では、グローバル・クラウドサービスを海外事業の基軸に据え、これら買収した企業が主体となってグローバル展開を加速しています。そして、中期財務目標として、2016年度の海外売上高を2兆円、法人売上高の海外比率50%以上の目標を掲げています。
NTTグループのグローバルビジネス展開が進むにつれて、2013年3月現在で海外子会社数は500社を超え、海外人員数も5万人を超えるまでに急増しています。

今後の課題は、NTTグループがディメンションデータ社やNTT DATA, Inc.を含めて、買収した海外資産を活用したグローバルビジネスのシナジーをいかに高めるかです。

1985年のプラザ合意後の急激な円高による国内人件費の高騰により、日本企業は製造業を中心に海外の安価な労働力を求めて海外進出を図りました。とりわけ、タイなど東南アジアを中心に直接投資が急増したため、現地の経済発展を促す結果となりました。その後、2001年にWTO加盟を果たした中国が「世界の工場」として毎年10%を超える経済成長を続けてきました。この間、多くの日本企業が人件費の安価で成長著しい中国へ進出しています。しかし、中国ではここ数年、経済成長の陰りが見え始め、GDP成長率が8%を下回るようになりました。経済成長の鈍化、人件費の高騰と日中間の政治的関係悪化もあり、日本企業は「チャイナ・プラス・ワン」という安全策を取り、タイやベトナム、ミャンマーなど、再び東南アジアに企業進出先を変えてきています。日本企業の海外進出に伴い、企業活動の神経ともいうべき通信インフラとソリューションビジネスが、ボーダレスに展開するようになっているのです。

「NTTの在り方」再検証

総務省において、今年の2月より情報通信審議会の「2020−ICT基盤政策特別部会」に基本政策委員会が設置され、「2020年代に向けた情報通信政策の在り方」について検討が開始されました。その検討項目の一つに「NTTの在り方」があります。この議論は、2011年の民主党政権下で「光の道」構想実現に向けた制度整備が行われた後、3年を目途に包括的検証を行うとしていた流れを受けたものですが、その間に政権交代もあり、議題や論点は単なる光基盤整備を越えた未来志向のものになっています。例えば、NTTの固定通信サービスと携帯サービスのセット割引を認めるかどうかなど、NTTグループのみが制限されていたサービス提供面の非対称規制を緩和するかどうかの議論であり、ユーザーの利便性向上にも影響する政策議論になります。

4月に行われたNTTを含む事業者ヒアリングでは、依然としてNTTの独占性を危惧する意見が競争事業者などから提起されていますが、3年前に民主党政権下で議論が行われた当時とは、大きく状況が変化しています。当時は「光ブロードバンド」を普及させるために、NTTから構造的に分離された光アクセス事業者を設立すべきとの主張がありました。しかし、その後、スマートフォン、タブレットの急速な普及にみられるように、移動通信サービスが主流になり、光ブロードバンドの普及は伸び悩んでいます。

こうした中、NTTは今回の決算発表において、光回線サービスを卸売の形でより開放すると発表しました(光コラボレーションモデル)。これまでNTT東西会社が利用者に「フレッツ光」のサービス名で利用者に直接販売してきましたが、今回の光回線サービスの卸売開放により、NTTを含む多彩な事業者(ISPなど)が、独自ブランドで携帯電話と固定通信の「セット割引」を提供することが予想されます。

また、今回の情報通信政策は「2020年代に向けた」というタイトルにも表れているように、東京オリンピック/パラリンピックやその後に向けた通信ネットワークの在り方、サービスを強く意識したものになっています。爆発的に増えるトラフィックにどう対応するか、激増するサイバー攻撃にどう対処するか課題は山積です。

ICTの国際競争力強化に向けて

これまでの情報通信政策は、主として国内競争促進の観点からなされてきましたが、ICTを取り巻く環境はここ数年で大きく変化しました。一つにはスマートフォン、タブレットの普及による通信トラフィックの増大、グーグルやフェイスブック、LINEなど、SNSやメッセージ・サービスの急拡大です。これらのOTTプレーヤーが新たなビジネスモデルを確立し、通信キャリアは従来のエコシステムからはじき出され、通信ネットワークはダムパイプ化(土管化)する懸念が生じました。

通信キャリアは、新たなエコシステムの構築を目指して、OTTプレーヤーとの競業と協業を模索していますが、まだ次世代への道筋を模索している段階です。

今後の通信政策の立案にあたっては、今まで述べてきたように、日本の通信キャリアの置かれているグローバル競争の視点から、さらに、多様なプレーヤーとの競業と協業の視点から検討がなされるべきものと考えます。

今後、日本国内のマーケットは少子高齢化の影響によるに縮退が予測され、成長を目指す日本企業にとって海外進出は増々加速するものと思われます。このようなニーズに応える形でNTTコミュニケーションズが、またICTソリューションにニーズに応える形でNTTデータが海外拠点展開を図っています。これまでNTTグループのメインクライアントは主として日系企業でしたが、次第にMNC(マルチナショナルカンパニー)にもクライアントが拡大しています。
しかし、グローバル市場においてはNTTグループは「One of Them」に過ぎず、競争相手もこれまでのように欧米の主要キャリアだけでなく、クラウド事業ではグーグルやアマゾンなど多様なプレーヤーとのし熾烈な競争になっています。

日本のICT分野の国際競争力向上が産業力強化の課題となっていますが、上述のグローバル市場のトレンドを認識し、また東京オリンピック/パラリンピックやその後の通信ネットワークをどう構築するか、それ以降の社会を見据えたうえで、多角的な視点から前向きの議論を期待したいところです。

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