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風見鶏―”オールド”リサーチャーの耳目
2013年12月5日掲載

ICT経済動向と消費税率の引上げ
−売上の反動減が通信業の利益に影響?−

(株)情報通信総合研究所
相談役 平田正之

いよいよ2013年も年末、寒さが身に沁みる季節になりました。

12月というと、日本で電話サービスが開始されたのが、1890(明治23)年12月16日のことでした。それから今年で123年になります。サービスの開始は東京市内と横浜市内で役所などの公的機関を含めて僅か197の契約から始まりました。いまや電話サービスは固定電話だけでなく携帯電話が主流となり、さらには最近ではインターネットを利用する音声通信も多くみられるようになっています。データ通信、映像通信の比重が高くなっているとはいえ、まだまだ音声によるコミュニケーションサービスは私達の生活に必要不可欠のものであることには変わりありません。ただ、この12月16日の電話サービス開始を記念する活動やイベント、またその歴史を振り返る機会が失われてしまっていることに寂しさを覚えます。10月23日の「電信電話記念日」も同様ですが、通信サービスに関係する者として、サービスに関する記念的な行事こそ、国民・利用者に通信サービスについて改めて考えてもらえるよい機会だと思います。この点、10月14日の「鉄道の日」が他山の石になると感じています。

さて、本題に戻って年末ですのでICTサービスの来年を考えてみることにします。専門家に聞く2014年ヒット予想(2013.11.18日経産業新聞)では、第4位に小型高精細タブレットが入っており、また新市場創造への期待度ランキングでは第3位にウェアラブル端末が挙げられていて、ICTサービスへの注目度には引き続き高いものがあります。タブレットやウェアラブル端末からは目が離せません。特にウェアラブル端末を利用した新しいアプリケーションやサービスが数多く登場してくることでしょう。

ただ本欄では、少し後向きではありますが来年4月の消費税率の引上げがもたらすICT産業への影響について指摘しておくことにします。当社情報通信総合研究所では、四半期毎に「ICT経済報告」を公表していますが、その蓄積した分析データを用いて当社内の研究活動として消費税率引上げが国内ICT産業に及ぼす影響を推計しています。それによると、2012年の市場規模約51兆円に対し、2013年度でプラス595億円〜プラス992億円(0.12%〜0.20%の増加)、2014年度でマイナス402億円〜マイナス3078億円(0.08%〜0.61%の減少)となっています。これは消費税率引上げの影響が最も大きいと考えられるパソコンやテレビ、スマートフォンやタブレットなどの耐久消費財の駆け込み需要とその反動減を算定したものです。

全体の影響額及び増減はあまり大きな数値ではありませんが、ICT産業内の分類でみると少し様子が違って見えます。通信業では2013年度+0.07%〜+0.12%、2014年度▲0.05%〜▲0.37%なのに対し、通信機械・ビデオ機器等ではそれぞれ+0.5%〜+0.85%、▲0.35%〜▲2.6%と大きな増減を示し、さらにパソコン・サーバー等ではそれぞれ+0.81%〜+1.35%、▲0.55%〜▲4.18%とより大幅な駆け込み需要増とその反動減が見込まれています。

その一方で、需要増減の変動が比較的小さいと見込まれる通信業ですが、全体的に事業運営時の固定費が高いうえ、特に固定通信系の利益率が極めて低い水準にあるので、2014年度の需要反動減に対して何らかの施策的な取り組みが必要となるのではないかと考えます。即ち、NTT東西の2013年度の業績予想では、営業利益率でNTT東3.6%、NTT西1.3%となっており、来年度の利益率に与えるインパクトは小さくありません。その上、推計されている影響額は、ICTマス市場でのサービスへの影響は軽微として推計対象外にしているのに対し、耐久財のうちのICT財とICT法人市場の原材料製造業及び運輸・電力等の中間サービス業の影響を見込んだものなので、法人からの収入が比較的大きい固定系の通信サービスへの影響は小さくないと想定されます。

こうした想定を踏まえると、通信事業者はまずは消費税率引上げ前のパソコンやテレビ等の駆け込み需要拡大期に光回線等の通信サービスの拡大を図ることが課題となります。もちろん、スマートフォンやタブレット端末でも同じこと、ユーザーの獲得競争が激しくなることでしょう。2014年度の反動減を考慮するとこの年末・年始、年度末のフレッツサービス等のFTTH、iPhoneやタブレット端末等の販売競合に備える取り組みが注目されます。

前回1997年4月の消費税5%への引上げ時に比べて、今回の引上げの影響はいわゆるアベノミクスによる大胆な金融・財政政策の効果から最近のマクロ経済動向が上向いており、かつ総額5兆円規模の対策が予定されていることから、1998年度にみられたような急激な景気の悪化を生じないと思われます。問題は影響が一時的にせよ反動減として現われることであり、それが利益率の低い固定系の通信事業者に集約的に現出する懸念が払拭できないことにあります。ICT経済全般からみると、消費税率引上げ後の経済対策として通信インフラ整備や通信需要につながる公共事業の増加を引き続き期待したいし、また前回1997年の時と違ってスマートフォンやタブレット端末の普及、高速ブロードバンドの浸透、クラウドサービスの拡大などICT投資が進みやすいコストサイドの環境は格段に整備されているので、消費税率引上げを契機にICT投資が加速することを願っています。日本では設備投資全体に占めるICT投資の比率が先進各国に比べて格段に低い実情にあります。ここにも失われた20年の結果が見られますのでICT投資が再生の契機になると思います。

(参考)【報道発表】ICT経済、6四半期ぶりにプラス成長−復調したICT財生産と好調のICTサービス−(2013年12月5日発表)

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