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情報通信 ニュースの正鵠
2009年1月掲載

3D映像の時代、いよいよ

 薄型テレビの登場は、家庭におけるテレビの位置付けを変えた。

 従来のブラウン管テレビは薄型化が難しく、画面の幅と同じ程度の奥行きが生じていた。十分な広さを確保することが難しい都会の住宅事情の中では、テレビの設置場所は必然的に部屋の4隅のどこかに限定される。また重量も重く、画面の大型化には限界があった。そのため、一般家庭で利用されるテレビは、せいぜい29型程度であった。

 ところが液晶の登場で、テレビは「四角い箱」から「パネル」になり、省スペースでの設置ができるようになった。もはや部屋の隅にこだわる必要はなく、テーブルの上や本棚の中に納めることも可能である。また軽量化も進み、チューナー部分を切り離すことで、「37型で10kg」というテレビも実現している。重さが10kgを切れば、壁掛けにも十分対応できる。

写真:重さ10kgの37型液晶テレビ(2009CES日立ブース/筆者撮影)
写真:重さ10kgの37型液晶テレビ(2009CES日立ブース/筆者撮影)

 さらに、液晶テレビとプラズマテレビの競争の中で、大画面化も急速に進んだ。とりわけ大画面に適したプラズマでは、150型という一般家庭の部屋にはもはや入りきらないほどの大きさが実現している。

 薄型テレビの登場は、テレビ業界にとって革命的な出来事と言えるだろう。

 それでは、薄型化の次のムーブメントは何だろうか?

 ハイビジョンを超える高精細映像、多原色化による自然な色の再現、秒間フレーム数を増加させることによるよりなめらかな映像。ディスプレイに関するさまざまな技術開発は引続き進められている。

 しかし、それらの変化はどちらかといえば地味だ。液晶テレビの登場でテレビが部屋の隅から解放されたような大きな変化をもたらすものではなく、マイナー・チェンジである。

 そんな中、「テレビを観る」ということの意味を根底から変えてしまうようなインパクトを持つ技術がまだある。それは3D(立体映像)だ。

 1月8日から11日にかけて米国ラスベガスで開催されたCES(国際家電ショー)では、さまざまな家電の最新技術が展示された。大型テレビ、薄型テレビ、高精細、ワイヤレス伝送など、テレビ関連の展示も数多く出展されたが、とりわけ目立っていたのは3D映像であった。ソニー、パナソニック、サムスン、LGエレクトロニクス。大手メーカーはいずれも、3D映像に関する展示を行い多くの観衆を集めていた。

 なかでも、パナソニックが展示していた3Dシアターの映像の完成度は驚くほど高かった。これは専用のメガネをかけて、大型のプラズマ・ディスプレイに映し出されるフルHDの3D映像を楽しむというもの。

 さまざまな3D映像が流れたが、とりわけスポーツ映像と3Dの組み合わせのインパクトは凄い。NFLの試合でランニングバックがこちらに向かって突進してくる。NBAの試合で、目の前の選手がジャンプしてダンクシュートを決める。平板なテレビ画面の中では単なる映像でしかなかった選手達が、そこでは確かな質感を伴って存在する。テレビのこちら側で見ているのではなく、競技場の中に引きずり込まれてしまった感覚。「バーチャル・リアリティ」とはこういうことを言うのだろう。試合を見に行っても、観客はコートに入れないが、カメラでズームすればどこにでも行ける。3D映像なら、会場に足を運んでコートサイドで見る以上の迫力を体感できる可能性があるのだ。

 「スポーツ中継が視聴率を稼げなくなった」と言われて久しい。かつて高視聴率番組の常連であったプロ野球の巨人戦も、最近では地上波で放送されないこともある。サッカーもJリーグ発足当時の熱狂はとっくに過ぎ去り、日本代表戦ですら注目度はさほど高くない。

 しかし、臨場感溢れる3D映像でスポーツ中継が行われるとしたらどうだろう?ダルビッシュの150kmを超える速球をバッター目線で経験できるとしたら。中村俊輔のするどく曲がるフリーキックをゴールキーパーの位置で体感できるとしたら。仕事や飲み会を早目に切り上げてでも、テレビを観たいと思わせるのに十分ではないだろうか。

 スポーツ放送の3D化は、競技ごとの人気にも影響を与えるかもしれない。パナソニックの3Dシアターで観た数多くのスポーツ映像の中で、特に印象深かったのは、一般的には人気種目とは言えない競技の素晴らしさであった。

 例えば陸上競技の100メートルハードル。ピストルの合図で8名の選手が一斉にスタートを切り、1台1台ハードルを越えながらこちらに迫ってくる。その姿を、ゴール側から捉えた3D映像の迫力は、身動きすることを忘れるほどだ。体操では跳馬。一瞬で終わってしまううえ、素人には技の難易度が判り難いので、これまではあまり真剣に観たことがなかった。しかし、眼前で3D体操選手達が繰り広げる、人間業とは思えない跳躍の数々には感嘆のため息をもらすしかなかった。

 3D放送がメインになったら、「陸上短距離の花形はハードル競技」、「体操競技の一番人気は跳馬」になるかもしれない、といったら言い過ぎだろうか。

 白黒テレビがカラーテレビに変わったように、すべてのテレビが3Dテレビになるとは限らない。しかしスポーツやコンサートのライブ中継などは、3D化することによって、文字通り別次元の視聴経験をユーザに提供できる。技術的にはそれは既に実現可能になっているのだ。

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