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情報通信 ニュースの正鵠
2009年3月掲載

世界不況の震源地となった米国において通信事業者の2008年度業績はどうだったのか?

 2008年は米国の金融危機が引き金となり、世界的に景気が悪化した。金融・不動産・自動車業界などでは、多くの企業が予想よりもはるかに悪い業績を発表し、破たんした企業も少なくない。本コラムを読まれている方の中には「ところで通信事業者の業績はどうなんだろう?」と気になっている人も多いであろう。

そこで今回は、世界的な不況をもたらすきっかけを作った米国において、通信事業者がどのような2008年度業績を発表したのか見ておきたい。

米国の主要通信事業者の2008年度業績

 大手通信事業者6社に加え、ケーブルTV業界の上位2社、衛星放送事業者2社の2008年度業績を上表にまとめてみた。利益の指標は複数あるが、ここでは本業の利益を表す営業利益の数値を拾っている。

 これを見ると、スプリント・ネクステル、クウェスト、エンバークを除く7社が増収、スプリント・ネクステル、TWCを除く8社が増益となっていることがわかる。景気の悪化にも関わらず2008年度の各社業績は悪くない、というか、むしろ良かったのである。やはり通信サービスやペイTVサービスなどの、加入料ビジネス・モデルは、不況に強いということができる。

 次に各社の状況を事業者のタイプ別にもう少し詳しく見ておこう。

1.AT&Tとベライゾン(総合通信事業者)

 通年で見ると両社の業績は似たような結果となった。すなわち、固定音声事業の減収を携帯電話の2桁の成長で補い、増収・増益となっている。両社は、携帯電話、固定電話、ブロードバンド、法人向けサービスのいずれにおいても米国のトップ企業の一つである上、IPTVサービスも順調に加入数を増やしている(年末時点で、ベライゾンのFiOS TVが191万、AT&TのU-verse TVが104万加入に達した)。

2.スプリント・ネクステルとTモバイルUSA(携帯電話事業者)

 2006年に固定ローカル事業をスピンオフしたスプリント・ネクステルは、TモバイルUSAと同様、携帯電話をコアビジネスとしている。スプリント・ネクステルの携帯電話加入数は、2007年末の5,380万から4,930万へと、この1年間で450万も減少した。全米規模の携帯ネットワーク事業者4社の中で、加入者数が純減となったのは同社だけで、昨年に続き一人負け状態が続いている。スプリント・ネクステル不調の要因については、「サービスの評判が悪い」「他社と比べて積極的に選ぶ理由がない」「後発事業者であり信用度の低い顧客が多い」など、さまざまな指摘がされている。一方のTモバイルUSAは二桁の増収・増益となったが、プリペイド事業の比率が高まっており、今後の利益率低下が懸念されている。

3.クウェストとエンバーク(固定通信事業者)

 携帯電話ネットワークを持たない固定通信事業者の両社は減収だが、1年間で約1割の人員を減らすなどのコスト削減努力を続けており、いずれも増益。しかし成長戦略を描くことは出来ておらず、業界内でのプレゼンスは低下気味。エンバークの方は、センチュリーテルという事業者に買収される予定。

4.コムキャストとTWC(ケーブルTV事業者)

 IPTVや衛星放送との競争により、基本ケーブル加入数は両社ともに減少した。しかし、より高額なプランへの移行やVOD(ビデオ・オン・デマンド)の利用増などで、テレビ事業の売上は増加。ブロードバンドや電話サービスなど、通信サービス系も引き続き伸びており、全体として増収であった。TWCの方は117億ドルの赤字となっているが、これはケーブル・フランチャイズ免許などについて減損処理費用を148億ドル計上したためであり、これらの特殊要因を除けば増益。

5.ディレクTVとディッシュ(衛星放送事業者)

 競争の影響で加入数が微減となったディッシュも含めて増収・増益。両社ともに顧客単価(ARPU)が5%以上伸びている(ディレクTVは2007年の月額79.05ドルから83.90ドルに、ディッシュは2007年の65.83ドルから69.27ドルへ)。

 ということで、米国の主要通信事業者やペイTV事業者の業績は、スプリント・ネクステルを除けば、まずまずであった。しかしながら、これまで成長を支えてきた携帯電話やブロードバンドの成長が鈍化していること、景気悪化の影響が本格化しつつあること、そして競争がさらに激化していることなど、今後の各社の業績を悪化させる複数の要因も見て取ることができる。

米国の主要通信事業者の2008年度業績は、世界的な不況という経済環境を考えると予想外に良いものとなったが、今後の見通しについては少なからぬ懸念材料が包含されていることに注意すべきであろう。

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